やはり最近の比企谷八幡の女の子事情はまちがっている。 作:八橋夏目
最近、奉仕部の備品改め、比企谷君がよく女の子と一緒にいるのをよく見かける。
特に私には興味がないことだけれど、気づけば彼が視界の中にいるのだから、いやでも目にしてしまう。
彼は密かに人気があるようで、彼のクラスでは由比ヶ浜さんを筆頭に様々な人たちが彼のことを気にかけている。その中でも由比ヶ浜さんと川崎さんと、あと海老名さんもかしら。彼女たちの中の彼はクラスの男子、というよりは一人の男となっているようで、時折彼女たちが比企谷君にアプローチをかけている。彼はそのことに"気づいている"のか"気づいていない"のかはっきりとしない態度でいるため、彼女たちも面倒な男に好意を寄せてしまったみたいで大変そうだわ。彼女たち以外にもそういう女の子はたくさんいるのだけれど、私には彼のなにがいいのか全く理解できないわ。
そうね、彼の一日を少し見てみましょうか。
朝、彼は妹の小町さんと登校してくるわ。学年が違うため自ずと昇降口で別れることになるのだけれど、それまでの二人はとにかくベタベタとしている。小町さんが何かと彼の腕に抱きついては、胸を押し当てているようで、さすがにそれには気づいている比企谷君も顔を赤くしていたわ。それでも振り解こうとしないのが彼らしいのだけれど。羨ましいわね。
教室に着くとまず彼に声をかけるのが由比ヶ浜さん。彼女は比企谷君よりも毎日先に来て、彼が教室に来るのを三浦さんたちと待っているわ。三浦さんたちもそんな彼女の行動が毎日続けば、習慣化しているようで「いってらっしゃい」と見送る始末。そんな彼女の後ろ姿を海老名さんが見ているのだけれど、彼女が行動するのはまだあとのこと。なにやら順番があるようで、女社会というものも面倒だと思う。
由比ヶ浜さんはとにかく彼によく抱きつく。小町さんとはまた違って、胸に彼の腕を挟んでしまうのだ。しかもそれを無意識でやっているのだから、食えない子よね。一色さんの方がよっぽど可愛く見えてくるわ。
で、そんな由比ヶ浜さんに抱きつかれた彼は、まず豊満な胸の感触を楽しむように、腕の方に気を回している。なぜわかるのかと言われれば、彼がその間の会話をいつも聞いていないからだ。適当に流しているため頭にも残らない。残らないのは胸の方に集中しているからってわけ。
まあ、朝は大体こんな感じなのだけれど、休み時間がまたすごい。新学期になってから彼は川崎さんの隣の席になったようでよく二人で会話をしている。彼女の場合は結構恥ずかしがり屋なため、肌の接触はないが、その分昼休みになる彼とおかずの交換をしていたりするわ。それで高評価をもらうとまた別の日に作ってきて、彼の胃袋を掴みにかかっているの。そんなことしているのは彼女だけだから、比企谷君にとってはそれがまた新鮮なのかもしれない。
ただ、昼休みは毎日川崎さんが彼を独占しているわけはない。違う日には海老名さんがここで彼と接触を図っている。彼がベストプレイスと呼んでいる渡り廊下のところを捕捉し、二人きりの状況に持ち込んでいる。彼女の趣味は比企谷君の趣味と合致するところがあり、会話がよく弾んでいる。あのコミュ障の彼があれだけつらつらと話しているのは、千葉のことについて語っている時か、彼の持論を語っている時にしか見たことがない。そういうところを見るとなんだか悔しくなってくるのだから人間って不思議よね。
放課後になると戸塚君が彼と妖しい関係を築いてから部活へと行く。そして、その後にようやく由比ヶ浜さんと二人で肩を寄せ合いながら、奉仕部へとやってくるわ。
え? 一色さん?
彼女はここからよ。学年も違えば生徒会の仕事で忙しくしている彼女は生徒会を出汁に彼を連れて行くのよ。断ろうと思えば断れることなのだけれど、彼女の場合は言葉の一つ一つ、行動の一つ一つが武器になってしまうのだから結局従わざるを得ない状況になってしまう(主に私や由比ヶ浜さんがだけど)。二人きりの生徒会室でなにをしているのかは知らないけど、彼女が暇を持て余して部室に来る時は彼とのスキンシップが尋常じゃない。見る角度によっては一方的にキスをしているかのようにも見えるのよ。そして、それを見た由比ヶ浜さんが対抗心を燃やして彼の腕に抱きついて、小町さんも悪ノリして彼に抱きついて………………。
と思いきや、ある日そんな行動をした後の三人が部屋からいなくなった時間ができたの。
だから、私もーーー。
と、まあ、こんな感じに比企谷君はどうしようもない女たらしであることはわかってもらえたかしら。
思い出したら腹が立ってきたわね。今度はどうしてあげようかしら、ふふふっ。