やはり最近の比企谷八幡の女の子事情はまちがっている。   作:八橋夏目

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姫菜のターン

 はろはろー。

 サキサキのいう赤縁眼鏡の姫菜さんだよー。

 取り敢えず、これ聴いてねー。

 

 

 

『……………ちょ、あの、海老名さん?』

『なにかな、ヒキタニ君』

『あっ…………その、えと…………』

『んー?』

『俺の太ももを撫で回すのはやめてもらえませんかね、ちょ、マジで!』

『いやです、とエビナはあなたの太ももを撫でる力を強めながら拒否します』

『ちょ、おまっ!? そこは?! つか、なんでどこぞのクローン体みたいな口調になってんだよ』

『ええー、いいんじゃん。減るもんじゃないんだし』

『減るからっ!? 思いっきり俺の精神がすり減ってるからっ!?』

『またまたー。ヒキタニ君もこういうの好きでしょ?』

『だ、だから、その手を離ぁぁぁぁあああああっ!? な、なにしやがる!? さすがにそれは洒落になんねーって!』

『だめだよー、そんな大声出しちゃ。誰かに聞かれたいんだったら、話は別だけど』

『うっ、………ならその手をどうにかしてくださいお願いします』

『おおー、意外と威勢がいいね』

『潔いの間違いでしょ』

『ん?』

『ん?』

『あ、そうだったね、こっちも見せないとだめだよね。もう、ヒキタニ君はマニアックなんだからー』

『はっ? って、ちょっと待て!? なんでそこでスカートをめくる!?』

『え? だってヒキタニ君はこういうのが好きでしょ?』

『さっきと同じニュアンスで言ってきてるけど、それ絶対意味合い違うだろ』

『ほれほれー。なんなら触ってみそ』

『からかうのはやめてくださいお願いします何でもしますから許してください!』

 

 

 と、ここまでだね。

 ねえ、このヒキタニ君かわいくない? かわいいよね!?

 普段、女の子に囲まれてるヒキタニ君がこんないたずらで顔を真っ赤にして焦った声を出すなんてかわいいよね。あーもー、最近のヒキタニ君は単体だけでもいいわ。

 これもアレだね。結衣たちがヒキタニ君に抱きつくようになってくれたおかげだね。

 

 

 

 事の初めは春休みに入る前の三月の中頃。

 その日、結衣の我慢がとうとう解かれた。

 休み時間になるとヒキタニ君に抱きついて、彼の腕を豊満な胸に挟み、顔を腕にすりすりと擦り付け始めた。いきなりの事でみんな何事かと思ったよ。もちろんヒキタニ君もね。けど、それは毎日のように続き、今ではクラスの風景の一部となっている。

 でまあ、それがきっかけとなってヒキタニ君はいろんな女の子から抱きつかれるようになったんだよねー。私が知ってるだけでもいろはちゃんとヒキタニ君の妹ちゃんがよく抱きついてる。いろはちゃんは言葉巧みに否定してるけど、みんなのヒキタニ君への好き好きオーラが増していっている。

 だからまあ、いいかなって。

 私もこれに乗じて参加しようかなって。

 

 

 

 彼は私に一度、嘘だけど告白してきている。戸部っちの告白を躱すための手段だったのは分かってる。それも私がお願いしたから。こんな手段で来るとは思わなかったけど、戸部っちの告白だけは避けたかったから。告白されたら私は彼を振るしか選択はない。それでは今の居場所は壊れてしまう。そう思ったから、なんでも分かっちゃう彼にお願いした。あんなの、誰にも理解できないはずなのに。彼は理解していた。

 

 

 ああー、今でもあの告白が頭から離れないってのはちょっとヤバいよねー。それと駅で話した時の事も鮮明に覚えている。いやー、私としたことがやっちゃったかなー。高校生のうちは恋をしないようにしてたのになー。

 それがあんな嘘の告白で心が動いちゃう私ってどうなんだろ。アニメや漫画じゃよくある展開だけど、それを私が実行する事になろうとは…………。

 それも全部ヒキタニ君が悪いんだよねー。誰も理解してくれなかった事を理解していたり、少ない言葉で私のピンチを察して助けてくれたり。方法はまあ結衣たちからしたら申し訳ないものだったけど、それでも嬉しいと感じてる私がいるんだから、私も酷い人間だよね。

 

 

 だからさー、この感情は後の一年半は隠し通そうと思ってたのに、まさかあんなのを目の前で見せつけられたらねー。しかもヒキタニ君もヒキタニ君で全く嫌がらないし。いや、最初は嫌がってたけどさー。毎日続くと彼の悪い癖が出てきて、すぐに諦めモードになっちゃったからね。うん、もうこれはヒキタニ君が悪いって事でいいよね。

 なので、私はついに三年になったばかりの四月のある日の昼休みに動いたわけですよ。基本一人でお昼を取るヒキタニ君を追って奇襲をかけた。まずは適当な会話から始めたけど、思いの外話が弾んじゃった。だから、毎日でも一緒にいたいって思っちゃったんだけど、現実はそうもいかないんだよね。三年になってからのヒキタニ君の席の隣にはサキサキがいる。そうサキサキが!

 あの子もなんやかんやでヒキタニ君のこと好きだから、これを機におかずの交換とかをやってヒキタニ君の胃袋を掴みにかかってるわけですよ。なんかヒキタニ君の方も三年になってから妹ちゃんがついでにお弁当を作ってくれるようになり、家庭の味比べに和んじゃってる始末。だから、私はサキサキと交渉しました。一日交代でヒキタニ君と過ごしましょう、と。まあ、サキサキはあれで押しに弱いからね。赤くなるサキサキもかわいいからちょっと意地悪したくなっちゃうのは仕方ないよね。

 

 

 で、その密会とも言えるお昼の時間の一部始終が最初に聞いてもらったやつってわけ。

 実はあれには続きがあるんだよー。

 聴く? 聴きたいよね?

 

 

『へー、何でもしてくれるんだ』

『え? あ、その、俺に出来る範囲ではの話ですけど』

『何でも、してくれるんだよね?』

『あ、ちょ、その、近すぎやしませんかね、海老名さん』

『してくれるんだよね?』

『あ、はい………ヨロコンデサセテイタダキマス』

『じゃあ、そのまま動かないでね』

『え? あの、海老名さん? って、ちょ、なんで正面から抱きついてきてるんですか!?』

『ああー、これかー。………すぅー…………はぁー…………あああッッ!? や、これ、結構くるかも……あっ、………すご、い………』

『由比ヶ浜じゃあるまいし、そんなに匂い嗅ぐなよ。それと変な声を出すのもやめてくれ』

『ねぇ、ヒキタニ君。………抱きしめて』

『え? あの、それは………さすがにまずいんじゃないでしょうか?』

『なん、でも………はぁ、はぁ………してくれるん、でしょ?』

『はぁ…………。一回、だけですよ』

『ふわっ!? これ、いいかも………はぁはぁ、もっと………もっと、強くして』

『……………』

『あっ、あっああああああッッ!? だめぇ、これ……はぁ……ヤバいくらい………はぁはぁ、きもち、いいっ?!』

『……………』

『ふわぁぁぁああああああああああッッッ!?!? ちょ、ああっ、ヒキタニくんんっ!? それ、だめっ、動かしちゃっ、だめっ! あし………ぁあんっ、うごかしちゃ、ひぐぅ………、あああそれだめぇぇぇぇぇぇえええええええええええッッッ!?』

 

 

 今じゃ、結構というかどっぷりハマっちゃたんだよね、これ………。

 だって、きもちいいだもん。

 しかもこの時のヒキタニ君の目が冷たくてゾクゾクしちゃう。

 あと、彼の匂いも私を狂わせるから。

 うん、全部あの匂いが悪いんだよ。


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