やはり最近の比企谷八幡の女の子事情はまちがっている。   作:八橋夏目

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沙希のターン

 三年になってから私は比企谷の隣の席になった。その時にようやく私の名前を間違わなくなった。意外と今まで席が近くなるということすらなかったから、どこか新鮮さも感じられる。これで気分良く新学期を迎えられて受験モードに入ることができる。

 最初はそう思っていた。

 

 

 二ヶ月経った梅雨空の季節。

 比企谷との関係はいたって良好だ。

 お昼にはおかずの交換をしたり、休みの日にはけーちゃんと三人で遊んだりもしている。ゴールデンウィーク前に一度、公園で比企谷とバッタリ出会い、それからけーちゃんの遊び相手になったりしてくれている。何気にあいつは小さい子の面倒見は人一倍良く、けーちゃんは最初っから比企谷に懐いている。そりゃもう、こっちが嫉妬する具合には。どちらに対してなのかはわからないけど。

 だけど、それはどうやらあたしが特別だからってわけじゃない。あたしの他にもクラス内じゃ由比ヶ浜とかがその例に上がる。学年が上がってからはしょっちゅう抱きついてるし、あたしが横にいても構わずベタベタしている。比企谷も比企谷で彼女の胸にご執着のようで、嫌がるそぶりを見せない。以前だったら嫌がりそうなもんなのに………。他に近い席のやつで言えばあいつの後ろを陣取る相模。一見何の関わりも持っていなさそうな二人であるが、去年の文化祭後でにはかわいそうなお姫様と最低の男として学校中に噂が広がっていた。次第に収束したものの、あたしは今でもそのことを覚えている。まあ、どうせあいつがまたやらかしたんだろうけど、見ていていい気分じゃなかった。だけど、当の本人は特に気にしてるそぶりを見せないので、あたしはその話には触れないようにしていた。

 なのに、学年が上がり席が近くなったことで、相模に変化が起きた。目の前で由比ヶ浜とイチャイチャしてようが気にしなさそうなあいつが、ある日消しゴムを投げてきた。それが二ヶ月くらいは続き、今では比企谷の背中や脇腹に攻撃を仕掛けている。端から見ているとただ気がある男子にちょっかい出してるようにしか見えない。そんな二人というか三人というか、を見ていてなんかモヤっとした蟠り? みたいなのがちくっと胸を刺す。別に由比ヶ浜のように抱きつきたいわけでもない。だからと言って相模みたいにちょっかいを出そうとも思わない。なんというか、そう、やっとできた話し相手が取られた気分……………みたいな?

 ああ、話し相手と言ったら、もう一人危険なのがいる。

 海老名姫菜。

 このクラスの、果てには学校一のトップカーストに属する赤縁眼鏡女子。ひょんなことからあたしは彼女に気に入られてしまい、たまに話しかけてくる。主に比企谷と葉山のカップリングがいいよねー、とかいうあたしには理解し難い内容だけど。それでもまあ、こんなあたしにも話かけてくるような女子である。

 だが、あたしの知らないところで比企谷は彼女までもを落としていた。本当にいつそんなイベントがあったんだろう。

 彼女はあたしと交代でお昼に比企谷に会いに行っている。いわゆる密会というやつだ。たぶん、雪ノ下あたりは知ってそうだけど。あれもあれで怖い。朝から比企谷を見張るようにそっと陰に潜んでいるのだ。通報しようか迷ったくらいだ。そんな彼女が知らないわけないよね…………。

 で、話を戻すと海老名は比企谷がこよなく愛するベストプレイスと呼んでいる場所に行ってはいろいろ話したり触ったりしているらしい。なんでそれを逐一あたしに報告してくるのかは疑問だけど、ちょっとやりすぎじゃないかと思うようなこともやっている。比企谷に抱きついて匂いを嗅いで胸に顔を埋めているんだって。それがまた落ち着くのなんのと言っていたが、ある意味由比ヶ浜よりアウトかもしれない。由比ヶ浜は公衆の面前で抱きついているため、なんとか周囲の目によって抑えられているが、海老名の方は人目のないところで一体どこまでしているのやら……………。あ、べ別に羨ましいとかそういうんじゃないからな。

 とにかく!

 今の比企谷にはどこかモヤモヤしたものを感じるのだ。なんか手が触れたりするだけで体が急に暑くなってくるし、おかずの出来栄えを比企谷に褒めてもらえると素直に嬉しい。会話がなくても二人でお昼を食べている時の空気は心地いいのだ。

 でもそれがあたしだけじゃないってのはなんか…………こう、ムカつく。比企谷のくせに生意気というか、………うん、やっぱりムカつく。

 そもそもなんで比企谷はあんなに女の子に囲まれるようになったんだろうか。やっぱり文化祭の時みたいなふざけた言動が後々に響いてきているんだろうか……………。あれ? でもまずそういうのってあいつが誰彼構わず言うことはないはず………………っ!?

 

 え? なに? まさか、そういうことじゃないよね?

 

 

 この目の前の男はハーレムなんてものを築こうとかしてないよね?

 

 

 あ、でもそれだったら、いろいろと納得はいく…………ね。こいつの妹の小町も最近では兄を見る目から男を見る目に変わってきているし。あれもよく抱きついてるし、そういやいつだったかクリスマスパーティーで主役をしていた女の子を昇降口で見かけた気がするし。

 え? マジ?

 さすがにそれはヤバくない?

 あ、でも年下には優しいし……………ロリコン?

 あの生徒会長にも甘いって話だし。

 え? じゃあ、けーちゃんもいつか狙われる…………というかもう…………?

 うそ……………うそ……………妹に? 取られる? 妹を? 取られる?

 

 

 あああああああああああああああああああああああああああああっ!?

 

 

 もうわけわかんない!?

 とりあえず、何かが取られていくことは分かったから、もうこの話はなしっ!

 妹は絶対に渡さないし、比企谷も誰も渡さないんだから!

 

「おーい、川崎。お前、今ものすごい顔になってんぞ」

 

 ひっ?!

 こ、こここのバカッ!?

 いいいいいきなり話しかけてこないでよ!

 ちょ、なんで頭触って?!

 あ、また…………………うぅ………。

 

「前にけーちゃんが『さーちゃんはあたまをなでられたことすくないからたまにははーちゃんがやってあげてね』って言っててな。そんなお前を見てたら、俺の百八あるお兄ちゃんスキルがオートで発動しただけだ」

 

 なんて顔を赤くしてそっぽを向きながら言ってきた。

 なんなのよ、あんた。

 その適度に刺激を与えてくる感じ、ほんっとムカつく。

 ああ、なんかもうどうでもいいや、思ってしまうあたしにもムカつく。

 

 

 ずるいんだよ!

 このバカ、ボケナス、八幡!

 ふふっ。

 


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