聖杯戦争に召喚士として参戦するようです   作:鉢巻

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第2話 猛れクソサモナー

ランサーとの激闘から一夜明け、俺はいつも通りの日常に戻っていた。

壊れたはずの校舎はまるで何事もなかったかのように元通りになっていた。これも運営の力なのか?彼らの職人技術が気になる所である。

退屈な授業がようやく終わり、特に部活にも所属していない俺は帰る支度を整えていた。

そんな時だった。教室の入り口の方から誰かが俺の名前を呼ぶ声がした。顔を向けると、そこには赤茶色の髪をした青年の姿があった。

 

「よう龍二、ちょっとだけいいか?」

 

なぜ今更きたし、衛宮士郎。

 

 

 

 

「その腕どうしたんだ?怪我か?」

 

「ああ、昨日派手にすっ転んじまってな。めっさ血出た」

 

「うわぁ、痛そう…」

 

ああ、すっげぇ痛いさ。周りの目がね。だってパッと見中二病感丸出しだもん。

俺が士郎に呼ばれた理由は、ちょっとした雑務を手伝ってほしいとの事だった。明日の授業で使うテキスト、プリント、etc.etc…地味に量があるのでそれなりに疲れる仕事だ。

ちなみに、この世界での俺と士郎の関係は良好である。休みの日は一成を加えた三人でどこかに遊びに行くほどだ。

 

「うーっし、終わり終わり。さて、帰るか」

 

夕焼けの光が差し込む教室でグーンと背伸びをする。結構時間がかかってしまった。教室には俺と士郎以外誰もいなし、窓から外を見下ろせば、部活をしていた生徒達も見当たらなかった。さっさと鍵を閉めて帰ろう。

 

「悪かったな、こんな事に付き合わせちまって」

 

「ジュース1本で手を打ってやる」

 

「分かったよ」

 

交渉成立。何て良いビジネスなんだ。

 

「…なあ」

 

ん?どうしたんだい士郎、そんな真剣な顔をして。何かあったのかい?

 

「その右手、本当に怪我なのか?できれば、その…包帯を取って見せてくれないか?」

 

マジでシリアスな展開キタ――(゚∀゚)――!!

急すぎんでしょ士郎さん。せめてもう後1日くらい間見ようよ。何て言ってる余裕ないな、どうしよう。

選択肢1、何も言わず逃走。ダメだな、怪しすぎる。選択肢2、誤魔化す。ダメだ、言い訳が思いつかん。選択肢3、ちくわ大明神。これだな。

 

「ちくわ大明神」

 

「いきなり何言ってんだお前」

 

何⁉ちくわ大明神が通じなかっただと⁉貴様まさかきりたんぽの一派の者か⁉

 

「なあ、頼む。一度包帯を取るだけでいいんだ。それ以上は何もしない。約束する」

 

そういうのが一番怪しいんだってば士郎さん。しかしマズイ、ほんとにマズイ。どれくらいマズイかというと塩と砂糖を間違えて握ってしまったおにぎりぐらいマズイ。

 

「言い訳したって無駄よ、樫早龍二君」

 

おいマジか、梅干しまで入ってやがったぞ。勘弁してくれよ。赤い悪魔、遠坂凛閣下のご登場だ。

 

「昨夜のランサーとの戦い、一部始終を見させてもらったわ。アナタが聖杯戦争の参加者だって事は分かってる」

 

「遠坂、ここは俺に任せてくれって言っただろ…!」

 

「アンタがいつまでもウジウジして話が進まないから出てきてあげたんじゃない。もういいから、衛宮君は引っ込んでて」

 

うわしかも何か機嫌悪そうだし。ていうか、この二人がもう一緒にいるって事は士郎はセイバーの召喚に成功したのか。

 

「そうか、見られてたか。それで何だ、早速俺と戦るのか?」

 

「アナタはどうしたいのかしら。それによって私達の対応は変わってくるわ」

 

「なら1つ、言わせてもらっていいかな?」

 

ええ、どうぞ。遠坂はにっこり了承した。いや間違えた、にっごりだった。

取り敢えずここでは敵意がない事を伝えればいいだろう。この2人が俺をどうしたいかは知らんが、まあどうにでもなるだろう。

よーし言うぞ。3、2、1、ドン‼壁が爆発した‼

 

「い、一体何なの⁉」

 

「遠坂!龍二!大丈夫か⁉」

 

大丈夫じゃないです、思いっきり吹っ飛びました。そして腰を思いっきり打ちました。超痛い。

しかしなんでいきなり壁が爆発したんだ。そう持って目を向けた先にいたのは―――。

 

「―――――■■■■■■■■■■■■■■‼‼‼‼‼‼」

 

2m以上はある黒い巨体から発せられる殺意の波動。理性を放棄し、狂戦士へとなり果てた英雄の姿が、そこにあった。

 

「バーサーカー⁉何でまたこんな時に…!」

 

ですよね遠坂さん、俺もそう思いました。空気読めないったらありゃしないよねホント。昨日のランサーといい聖杯戦争開始直後から原作崩壊しまくりだよね。

 

「何でって事は無いでしょ?もう聖杯戦争は始まってるのよ」

 

そう言って、バーサーカーの隣から白い少女が現れた。誰かは聞かなくても分かるわな。バーサーカー、それもヘラクレスのマスターと言ったら一人しかいない。

 

「昨日ぶりね、士郎」

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。最小最強の魔術師のご登場だ。

 

「ほら、呼んでるぞお兄ちゃん」

 

「お兄ちゃんって、俺の事か⁉」

 

「俺が思うに多分ありゃ義理の妹だな。お前の叔父さんの娘とかそのあたりじゃないか?」

 

「あら、よく知ってるのね。イレギュラーさん。でも残念、すぐに忘れてもらう事にするわ」

 

あらあら何だかよくない雰囲気。やっぱ、こういうよその家の事情に首を突っ込んだら碌な目に合わないな。

 

「――――やっちゃえ、バーサーカー」

 

「■■■■■■■■■■■■ッ‼‼‼‼‼」

 

呻りを上げる狂戦士。こりゃあ俺も覚悟決めた方がよさそうだな。

 

「衛宮君、目を伏せて!」

 

遠坂の言葉が言い終わると同時に閃光が辺りを覆い尽くした。

 

「目が、目があああぁぁぁぁァァァ‼」

 

「何やってんだ龍二!目を伏せろって言われただろ!」

 

お前にな!俺は対象外だよ!

 

「仕方ない、俺がおぶってやる。とにかくここから離れるぞ」

 

「何やってんの衛宮君⁉そいつは敵よ、放っておきなさいよ!」

 

「できるかそんな事!龍二は俺の親友だ!」

 

衛宮君めっちゃいい人やん!アンタの好感度うなぎ上りやで!

 

「ッ!仕方ないわね。アーチャー、お願い!」

 

『やれやれ、人使いの荒いマスターだ』

 

直後に鋼がぶつかり合う音が聞こえ始めた。どうやら戦いが始まったようだ。

そして俺達三人は逃走を始める。目が見えないのでどこに向かってる分からないわけだが、取り敢えず下に向かっているのだろう。階段の段差を降りる振動が士郎を通して伝わってきた。

 

「…なあ、龍二」

 

息を切らしながら士郎が話し掛けてくる。言っとくけど背負われてるだけで変な事してるわけじゃないんだからね?

 

「一つだけ教えてくれ。お前は、俺達の敵なのか?」

 

……まあ、そうなるよな。

その問いに答える前に、俺は士郎の肩にかけた腕を交差させて首を絞める形に持っていく。

「ア、 アンタ…!」と遠坂が叫ぶが、そんな事は気にしなかった。

 

「俺が敵かどうか。それはお前が決めろ、衛宮士郎。俺が敵だと言うならば、俺はここでお前の首を折る。目が見えなくとも簡単だ。腕にちょいと力を込めればいいだけの事だからな」

 

「なら、今お前がそれをしないって事は、少なくともお前は俺の事を敵として見ていないって事だな」

 

……あっさり答えやがった。さすが主人公、一度信じた事はどこまでも信じ通すってか。

 

「――――■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ‼」

 

解読不能の雄叫びと共に、建物が崩壊する音がした。霞む目をこじ開けてみれば黒い巨体が見える。

 

「アイツ、校舎を滅茶苦茶にする気か⁉」

 

天井に空いた大穴を見上げながら士郎が言った。でぇじょうぶだ、運営がいればみんな元通りになる。

 

「アーチャー、無事なの⁉」

 

「当たり前だろう。だが、さすが大英雄ヘラクレス。一筋縄ではいかんな」

 

さすがのアーチャーも、12の命を持つヘラクレス相手では快勝とはいかないか。

 

「…なあ、士郎」

 

衛宮士郎、お前は俺を信じる事を選んだ。

 

「何だ、龍二」

 

「援軍が欲しいか?」

 

本来的である俺を、見捨てずに救う事を選んだ。

 

「そりゃ欲しいが…って、お前まさか⁉」

 

ならば、俺もそれに答えよう。

 

「俺も、いや俺達も、共に戦おう」

 

右手の令呪が光を放つ。あの時のように床に魔法陣が描かれ、そして爆ぜる。

 

「何をしようと無駄よ、バーサーカー!」

 

呻りを上げて迫りくる狂戦士。だがその巨体は、数歩進んだ所で元の方向へと押し戻された。

 

「⁉ 何やってるのよバーサーカー!」

 

何が起こったのか、俺には見えていた。殴ったのだ。殴って押し返したのだ、バーサーカーのあの巨体を。

 

「もう大丈夫だ、少年少女。なぜなら…」

 

とある世界で最強のヒーローの称号を持つ、彼が。

 

「私が、時空を超えて来た‼‼」

 

 

 

 

バーサーカーに負けず劣らずの巨体、勝利のVサインのように逆立った前髪、そして、この場に立ち込める暗雲を吹き飛ばすかのような『笑顔』。

最強にして最高のヒーロー、オールマイトの姿がそこにあった。

 

「どういうことなの樫早君、アンタのサーヴァントってあの剣士じゃなかったの⁉」

 

「いろいろと事情があるんだよ。それより遠坂さん、言っておく事がある。俺は敵じゃない。アンタが俺を闇討ちでもしようするなら話は別だが、少なくとも今は敵対するつもりはない。いいな」

 

「敵じゃないって…!いきなりそんな事言われても信用できるわけないでしょ!」

 

「遠坂、龍二は大丈夫だ。そもそもこいつは、嘘が付けるほど器用じゃない。それに、俺の親友だ」

 

全く、貶すか褒めるかどっちかにしろよ衛宮君。まあそれより、今は目先の敵に集中だ。

 

「なるほど、そういう感じなのね。今回のサーヴァントは、私のバーサーカーと同じパワータイプの英霊かしら」

 

この子、俺の正体分かってるのか?だとしても関係ないが。

 

「遠坂さん、アーチャーを下げてくれ」

 

「アナタ、さっきから随分上から目線じゃない?」

 

「俺はここであいつを倒す事で、アンタ達の味方だと証明する。その為に、アンタはアンタのサーヴァントを下げてくれ」

 

「……仕方ないわね。アーチャー」

 

アーチャーの姿が光になって消える。よし、これで―――

 

「やりやすくなった、だな。樫早少年」

 

うわびっくりした!オールマイトが俺に話しかけてきた。ちょっぴり感動だよ。

 

「全く、後に引けない演出してくれるじゃない。でもそういうの、嫌いじゃないよ‼」

 

そう言うと、オールマイトは目にも止まらぬ速さでバーサーカーに接近する。

 

「TEXAS…SMASH‼」

 

パンチ1発、たったそれだけで暴風が吹き荒れる。体感してみるとマジですげぇな、衝撃がビリビリ響いてきやがる。

だが、そんな一撃を受けても、

 

「全っ然効いてないな‼」

 

「当たり前じゃない。その程度の攻撃じゃ、バーサーカーには傷一つ付ける事もできないわ」

 

バーサーカーがオールマイトを叩き割ろうと斧を振るう。オールマイトは持ち前のスピードでそれを躱すと、再び拳を叩き込む。だが、やはり先程の攻撃のように、大きなダメージは見受けられない。

 

(マズイな、悪い方の予感が的中しやがった)

 

バーサーカーの宝具『十二の試練』。ヘラクレスが生前に成した偉業を昇華させ、宝具と化した物だ。これによってバーサーカーは11の命のストックを得ている。だがそれだけではない。バーサーカーは1度殺した方法では2度と殺せない。

オールマイトの宝具、もとい個性は『ワン・フォー・オール』。聖火の如く引き継がれてきた力の結晶。引き継ぐ者によれば、他の個性と重ね合わせて使う事も可能だそうだが、オールマイトが持っているのはこの個性だけ。つまり、武器として扱える物が自身の体1つだけなのだ。それだけで、あのヘラクレスを12回も殺せるか?それもそれぞれ違う方法で。

 

(ただでさえ攻撃の無力化なんて滅茶苦茶な能力持ってんのに、チートすぎだろ…!)

 

今更になってかっこつけた事を後悔してきた。やっぱり、遠坂にも手伝って貰った方がいいか?

手に汗が滲む。心臓がざわつく。視線が落ちる。見えるのは、粉々になった机。

 

「おいおい、何て顔してるんだよ。樫早少年」

 

声のした方へ顔を向ける。そこには、こんな状況でも全く笑顔を絶やさないオールマイトの姿があった。

 

「まだ勝負は始まったばかりじゃないか。なのにもう勝利を諦めてどうする。そんな程度だったのか、君の覚悟は⁉」

 

拳を振るいながら、オールマイトは語り続ける。

 

「悪いが私はてんで諦めちゃいないぞ!しかし、それでも君の心が折れてしまっていると言うなら、それは仕方ない。だが、諦める前に!私を使うくらいしてみろよ!君は、私のマスターなんだろ‼」

 

…何って分かりやすい挑発なんだよ。でも、その通りだよな。何勝手にへこんでたんだよ俺は…。ありがとうオールマイト、おかげで吹っ切れたぜ。

 

「勝ってくれオールマイト!アンタの…最高のヒーローの姿を、俺に見せてくれ!」

 

「もちろんさ樫早少年‼その為に、私は来たんだ‼」

 

オールマイトの拳がバーサーカーの脇腹を捉える。黒い巨体が揺らぎ、膝を付いた。

 

「ようやく本調子だ…さあ、第2ラウンドを始めようか‼」

 

シン、と空気が静まる。睨み合う2つの巨体。時計の針が12を指すと同時に、二つの巨体が――衝突した。

 

「おおおおおおおぉぉぉぉォォォォッ‼」

 

「■■■■■■■■■■■■■■ッッ‼」

 

拳と拳がぶつかり、その衝撃であらゆる物が粉砕される。教室を土煙の旋風で巻き込みながら、二人は拳を振るい続けた。

 

「む、無駄よ!そんなただのパンチが、バーサーカーに通じるわけ――――」

 

「無駄かどうかなんて、やってみなくちゃ分からないだろ‼お嬢さん‼」

 

1発1発が100%以上の一撃を振るいながら、オールマイトが1歩前進する。さらに1歩、2歩、3歩と。

 

「うそ…あのバーサーカーを……」

 

「力で、押してる……」

 

士郎と遠坂が感嘆の声を漏らす。正直、俺だって驚いてるよ。でもこれが、オールマイトなんだ。

 

「私の力が及ばないと言うなら‼今ここで、君の力を越えて見せよう‼」

 

血を吐こうと、全身に痣が浮かぼうと、彼は進み続ける。

 

「ヒーローとは、常にピンチをぶち壊していくもの!バーサーカーよ、こんな言葉を知ってるか!⁉」

 

なぜなら彼は、

 

「更に向こうへ‼」

 

ヒーロー、だからだ。

 

「Plus Ultra‼‼‼」

 

オールマイトの放った渾身の一撃が、バーサーカーを吹き飛ばす。バーサーカーは雲を突き抜け、茜色の空へと消えていった。

 

 

 

 

「そんな…バーサーカーが、負けるなんて…」

 

ペタン、とイリヤがその場にへたり込む。余程バーサーカーを信頼していたのだろう。驚愕している様子が見て取れる。

 

「……いいや。どうやら後一歩、倒しきれなかったようだ。さすが神話の英雄、強敵だった…」

 

それを言ったのはオールマイトだった。なるほどな、イリヤの令呪は消えていない。つまり、バーサーカーはまだ生きている。

 

「……ねえ、この子どうする?」

 

次に口を開いたのは遠坂だった。その言葉に疑問を持った士郎は「どういう事だ?」と問いかける。

 

「あれだけ派手に吹っ飛ばされたんだから、バーサーカーが戻ってくるには時間がかかる。なら、その間にこの子を始末しちゃえば…」

 

「おい遠坂!お前それつまり、この子を殺すって言ってんのか⁉」

 

「私達だって殺されかけたじゃない。それに今回も、樫早君がいなかったら、きっと私達殺されてたわ」

 

お、お、何だい遠坂さん。急にデレ発言かい?そんな事を考えてたらすごい勢いで睨まれた。ごめんなさい。

 

「……好きにすれば。今更みっともなく足掻くつもりなんてないわ。殺したいなら殺しなさい」

 

そう言ったのは意外にもイリヤだった。

 

「樫早君、決定権はアナタにあるわ。アナタが決めてちょうだい」

 

ああ、そうなると思ったよ。激闘の後、沈んだ空気、不安げな親友、真剣なヒロイン、そして俯く少女。何ともありがちなシリアス展開だ。本来なら俺はここで主人公級の然るべき対応をしなくてはならないのだろう。

だが、悪いな。

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず、皆で飯食おっか」

 

 

『………は?』

 

そんな幻想は、この俺がぶち殺す。

 

「焼肉しようぜ焼肉。祝勝会とか慰労会とかそんな意味も込めて。あ、俺肉買ってくるから誰か野菜買ってきて。あとタレも」

 

「ちょ、いきなり何ふざけた事言ってんのよ!今真剣な話してるのよ⁉」

 

「だったら白刃取りかますわ。ついでに二指真空波もしてやるわ」

 

「あ、野菜ならうちにあるぞ。ついでにタレも」

 

「ちょっと衛宮君まで…!」

 

「よーし、んじゃ士郎の家で焼肉だー。あ、イリヤちゃんバーサーカーも呼んでくれよ。ただし、暴れるのは厳禁だけど」

 

「え?え?」

 

「HAHAHA‼いいね樫早少年!昨日の敵は今日の友、最高に青春してるじゃない!」

 

「ちょっとアンタ、これ冗談で言ってるのよね⁉それともどこかで頭打っておかしくなったの⁉」

 

「冗談じゃないし俺は正常だよ。それに、何より平和の象徴の前だ。仮にやろうとしても、簡単にはやらせてくれないだろうよ」

 

「ぶっちゃけ、君達がこの子を本気で殺そうとしていたのなら、全力で止めに入ってたよ。でもよかった、皆が優しい子で。オジサンちょっと安心!」

 

「オールマイト、できればアンタにもきて欲しいんだけど、時間は…」

 

「悪いが、気持ちだけ受け取っておく事にするよ。私はもう、行かなければならない」

 

オールマイトの体が透け始める。別れを惜しむ時間もないとは、融通が利かない力だ。せめて最後にサインを―――

 

「してある―――‼Tシャツに!」

 

「ではさらばだ少年少女!その慈愛の心を、いつまでも心に刻んでおいてくれよ‼そんじゃあ、おつかれさまでした‼」

 

オールマイトはそう言い残すと、夕焼けの中に消えていった。全く、最後までぶれない人だったよ。

 

ちなみにこの後、宣言通り衛宮邸で滅茶苦茶肉食った。

 

 

 

 

夜。衛宮邸の屋根に佇む人影があった。

赤い外套を纏った赤褐色の男――アーチャーである。

 

「……祝勝会に参加しなくていいのか」

 

彼は空に向かって語り掛ける。すると、どこからともなく筋骨隆々の男が現れた。

 

「少し君と、話がしたくてね」

 

男――オールマイトは、快活な笑みを浮かべながらそう言った。

 

「…この聖杯戦争とは、実に不思議なものだと思わないか?聖杯という願望器をかけて、歴史を越えて様々な戦士が集まり戦うわけだが…この戦いには、かつて失った物まで持ち込める。私のこの力も、その一つだ」

 

だが…とオールマイトは言葉を続ける。

 

「ここでは過去に得た物は取り戻せても、過去その物を無かった事にするなんて事はできない」

 

「…いきなり何を言い出すかと思えば、とんだ狂言だったな。さっさと自分の世界に帰るがいい。そこには、お前を待っている者達がいるのだろう?」

 

皮肉気にそう言い捨てると、アーチャーは夜の闇へと溶けていった。

一人残されたオールマイトは、月を見上げ呟く。

 

「それは、君も同じだろう。アーチャー、いや、衛宮青年よ」

 

月の光が照らす下、屋根の上には、誰も残っていなかった。

 




閲覧ありがとうございます!

ぶっちゃけ言うとこの展開を書くだけに始めたようなもんなんだよね!この小説!
やりたい話ができたので後は衰えていくだけ…のつもりはないです。いつか完結させるつもりではいます。今後ともよろしくお願いします。それでは、Plus Ultra‼


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