おはようこんにちわこんばんは。今この瞬間君にとってどれが適切な挨拶だったか。まあそんな事はどうでもいい事だ。
俺の名前は樫早龍二、転生者である。俺が転生したのは日本にある冬木市、つまりFateの世界である。正直それを知った時は半分絶望した。なぜなら、俺はFateに関する知識がほとんどないからである。分かる事と言えば大体の主要人物とそのストーリー、最近リメイクされたアニメをさらっと見た程度の知識である。
どうせ転生するなら艦これの世界がよかった。提督になっていろんな娘にhshsしたい。もしくは艦娘になってhshsしたい。
まあそんな童貞感丸出しの妄想はさておき、ここで皆にクイズだ。問1、俺は何をしているでしょう。
制限時間は3秒。3…2…1…0、はい時間切れ。答えは走ってます。それも全力で。
問2、なぜ俺は走っているでしょう。答えは簡単、逃げないと殺されるから。正直クイズ出してる余裕なんかないんですよマジで。
ああクソ、足音がだんだん大きくなってきた。なんかもう叫んでやりたい気分だ。ていうか叫ぶ。
「なんっっで俺がランサーの最初の標的なんだ⁉主人公どこ行ったんだよバカヤロォォ‼」
叫び声が夜の校舎に響く。何とも言えない、虚しい気分だった。
*
死んだ理由は今でも覚えている。事故死である。交差点に飛び出した子供を庇ってトラックに轢かれた。二次創作では定番の死に方だった。
転生した俺はとある孤児院で育った。先生達から盗み聞きした話によれば、どうやら俺は捨て子だったようだ。段ボールに入れられて門の前にポンと置き去りにされていたらしい。猫か俺は。
それから俺は夢の中で神様に出会う事も無く、魔術師と会合する事も無くすくすくと成長。高校生になると同時に一人立ちし、この冬木市にやってきた。
この街にきたのはただの偶然だった。人生二度目となる高校入試がとてつもなく面倒で、サイコロ鉛筆で適当に選んだ先がここだったのだ。ちなみに俺はこの時初めてここがFateの世界である事を知った。
高校を別の場所に変えようかと思ったが、せっかく転生したので少しは物語に介入してみようと思い、進学。入学式で衛宮士郎や遠坂凛を見た時は正直テンション上がった。
しかし、物語に介入したと言ってもやる事は何もなかった。なぜなら、俺は転生者ではあるが一般人なのだ。魔術に関する知識など欠片も無いド素人。過激な露出をした高身長ポニテール魔術師に殴られても文句は言えないような状態である。
そしてある日、せめて自分の身だけでも守れるようにと一念発起、猛特訓を開始した。
腕立て伏せ腹筋スクワットを100回、そしてランニング10km。そこに図書館で見つけた魔術書らしき物を使って、なんとか身体能力強化は身に付けた。さすがにサイタマ程の力は身に付かなかったが、それでも常人とは一線を画す力を身に付ける事ができた。
そして入学から1年経ち、とうとう第五次聖杯戦争が起こる年になった。
当然俺も行動を起こした。満月の夜、掻き集めた媒体を使って召喚の儀式を行った。
儀式は順調だった。薄暗い屋根裏部屋が徐々に魔法陣の光で満たされ、ある一定の時間が経つと光は静かに治まった。
儀式は成功―――したかに見えたのだが、本来出現するはずのサーヴァントの姿はどこにもなかった。令呪だけは確かにあった。右手の甲から肘にかけて、少々厳つくアニメで見たより複雑な紋様だったが。
俺はとてつもない脱力感に襲われ、その場に仰向けに転がった。なんだよ、やっぱり俺じゃダメなのかよ。何の為に転生したんだよ全く。
と、ここで俺は唐突に思い出した。
(やっべ携帯電話学校に忘れてた)
明日、もし学校の先生にでも見つかったら反省文物だ。俺は急いで携帯を取りに、夜の街へと駆け出した。
―――――――――――そして、話は冒頭へと巻き戻る。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイ!追いつかれたら間違いなく殺される!いや待て、事情を話したら案外見逃して――)
「逃げ足だけは一丁前だな、小僧。だが悪いな、見られたからには死んでもらうしかねぇ」
やっぱり殺されるんかい!ちくしょう、ここは本当は衛宮の場面だったていうのに。衛宮がランサーに殺されかけて、それを遠坂が助けて物語は始まって行くって寸法だろうが!何でモブの俺が標的になってんだよこん畜生が!
「鬼ごっこも飽きてきたな、そろそろ終わりにしようや!」
「―――ッああ、そうだね。俺もそう思ってたところだよ!」
こうなりゃ一か八かだ。体を反転させてランサーに向き直り、両の足と腕に魔力を集中させる。
「均一に5%、フルカウルってな!取り敢えず喰らっとけや!」
渾身のSMASH。ヒロアカの緑谷程ではないが、それでも岩を粉砕するくらいの威力はある。その拳は見事にランサーの胴体に突き刺さった。だが、
「何だ、お前魔術師だったのか」
マジかよ…全然効いてねぇじゃねぇか。賭けは失敗、こりゃ逃げるしかないわ。
魔力を足に集中させ一気に距離を取った後、俺は再びランサーに背を向けて走り出す。
その直後、ダンッ!と強く地面を蹴った音がした。次の瞬間俺に背中に鈍い衝撃が走る。ランサーが一気に加速して飛び蹴りを喰らわしたのだ。
「――――――ァッ‼」
俺の体がゴムボールのように弾んで宙を舞う。手放しそうになる意識を魔術回路を使って無理矢理覚醒させ、何とか受け身を取って逃走を再開する。
「おいおいまだ逃げるのかい、飽きないねェ。…だが」
再び衝撃が走る。今度は成す術も無く床に激突し、そのままうつ伏せに倒れ込んだ。
「生憎俺は暇じゃねぇんだ。……悪いな。恨むなら、こんな場面に遭遇しちまった自分の運命を恨んでくれ」
ランサーの言葉が終わると同時に、左胸が異常な熱を帯びた。目を向ければ、俺の胸には深紅の槍が、赤黒い雫を垂らしながら深々と突き刺さっていた。
体が徐々に冷たくなっていく。俺はこの感覚を知っている。何もない闇に引きずり込まれるような感覚――死だ。
(結局俺はまた、何もできず――――)
第2の人生も、あっけない幕引きだった。重くなった瞼につられ、俺は目を閉じた。
――――――――――――――ふざけんじゃねえぞ。
冷たくなった体が、再び熱を帯びる。
(一回死んで生き返って、そんでまたすぐに死ぬのか?ふざけんな‼そんな理不尽誰が受け入れるかってんだ!自分の運命を恨めだと?俺をこんな目にあわせたのはテメェだろうが!それをあたかも自分は悪くないように述べやがって…舐めた事言ってんじゃねぇぞ青タイツがァ!)
頭の中にその言葉が流れ込んでくる。俺はそれをそのまま、己の口で紡ぐ。
『集え、集え、集え。その名を語られ、紡がれし者共よ。我は輪廻の転生者。汝らを使役し、導く者なり』
ランサーは追撃してこない。様子を見ているのか?なら好都合だ。
『我が望みは汝の望み、汝の望みは我が望み。この意に応えると言うならば、次元を超え、時を超え、今ここにその伝説を体現せよ!』
かざした右手が眩い光を発する。やがて床に魔法陣が描かれ始める。
「―――ッ!させるかッ!」
生憎だなランサー、もう遅いんだよ。
光が満ち、爆散する。そして、光の中から現れたその者は、迫りくるランサーの魔槍を弾き飛ばした。
「成功…だ」
痛みを堪えながら俺は現れたサーヴァントに目を向け、そして驚愕した。
全身緑の装束、長い耳と鮮やかな金髪、そして何より目についたのは彼が両手に持っている武器だった。
右手に持つのは輝く盾、左手に持つのは神々しい剣。そしてその両方には3つの三角形で成された紋様が飾られていた。
「マジ……かよ…」
聞かずとも俺はその名を知っていた。
現れた青年の名は、リンク。転生前の世界にあった、ゼルダの伝説というゲームに登場する勇者だった。
*
「何だ貴様は。一体どこの英雄だ」
ランサーの問いにリンクは答えない。ただ黙ってランサーと向き合っている。
ちょっとくらい喋ってやれよと思ったがそんな事はこの際どうでもいい。それよりなぜあのリンクが?これは聖杯戦争だろ、過去どころか未来にも存在しない奴が何で…?
『その様子だと、なーんにも分かってないようね』
今度は何だ?急にどこからともなく女の子の声が。もしかしてゼルダ姫か⁉
『残念、ゼルダじゃないわよ。答えは私、今アンタの目の前にいるでしょ』
目の前…?っとうわびっくりした!確かにいるけど、何だこれ?妙に光っててパタパタ羽ばたいてる…。
「……新種のハエッスか?」
言った瞬間もの凄い勢いでぶつかってきた。しかも顔面に。痛い、凄く痛い。
『誰がハエよ失礼しちゃうわね!私はナビィ、リンクの相棒の妖精よ!』
あーそう言えばいたようないなかったような…ってすんませんちゃんといました、ど忘れしていただけですからそんな構えないで下さい。
『全く。それよりアンタ、さっさとこれ飲みなさい。いい加減そろそろ死んじゃうわよ』
ナビィに黄色の液体の入った瓶を渡された。何だこれ、ほのかに暖かい。取り敢えず飲むか。
瓶を開けて中の液体を一気に喉へ流し込む。ライフと魔力が全快した!
「ってええ⁉マジかこれ!しかもうまっ!」
『当ったり前でしょ。リンクのおばあちゃん特製のスープよ』
リンクのばあちゃん一体何者…?ってそれどころじゃなかった、リンクは⁉
「…」
「無駄なお喋りはしないってか?」
うわぉ最高に悪い顔してるよランサー。対してリンクは無言だし。大丈夫なのかなこれ?
『大丈夫に決まってるでしょ。何たってリンクは勇者なのよ?』
さっきからちょいちょい心読んでくるなこの子、妖精か?…あ、妖精だ。
「でも、相手は神話に出てくる英雄だぞ。しかも一撃必殺のとんでもない技持ってるし」
「オイなんだ小僧、俺の事知ってんのか?だったら、尚更生きて返すわけにはいかなくなったな」
墓穴掘っちまったァ!俺の今日の運勢最悪だよ畜生!
次の瞬間、ギィンッ!と金属のぶつかる音が響いた。リンクがランサーに斬りかかったのだ。
「ほぉ、鋭い…」
「…」
そして、勇者と英雄の戦いが始まった。
ぶつかりあう槍と剣、金属音と共に飛ぶ火花。両者共に一歩も引かない。引けばそこにあるのは死のみだからだ。
一際大きな音を立て、二人は互いに距離を空ける。そして再び、駆ける。正面からのぶつかり合いだ。
『アンタは早く逃げなさい。ここはリンクが足止めしてるから』
「いやでも…俺もマスターなんだから、一人おめおめと逃げるわけには…」
『どうせ今回1回こっきりなんだから、誰も気にしないわよ!ほら、私が案内してあげるから!』
「ッハイ!」
自分でも気持ちのいい返事をして俺は走り出す。この妖精鬼教官かよ……ん?待てよ、今こいつ何て言った?
「なぁ、1回こっきりって、どういう事だ?」
『やっぱり分かってなかったのね…仕方ないわ。1回しか言わないからよく聞きなさい』
さっきからやけに1回って言葉が出てくるな。どうでもいいけど。
『私達は確かにアンタのサーヴァントとしてここに呼ばれたわ。でもね、私達が出てくるのは今回限り。次にアンタが呼ぶのは、私達じゃない別の誰かになるのよ』
…What?いきなりハイリア語か?よく分かんなかったぜ。
『アンタはこの世界にとってイレギュラー。本来なら、聖杯戦争には関わるはずもなかった人間。そんなアンタは8人目のマスターとして召喚を行ったものだから、聖杯も混乱した』
なるほどなるほど、それで?
『聖杯もそんなイレギュラーに構う余裕はなかったのかしら。聖杯はサーヴァントを呼ぶ役目をアンタ自身に委ねた。アンタが自分の力でサーヴァントを引き寄せ、現界させる。つまり、アンタは俗に言う召喚士になったのよ』
「マジで⁉でも、それでお前達が呼ばれる理由にはならないだろ。言っていいかわからないが、俺が転生前の世界ではお前達はゲームの登場人物だった。実在するはずの無い人間だったんだぞ」
『アンタ…今自分のいる世界、分かってる?』
自分のいる世界?…………あ。
『そういう事よ。ちなみに、アンタが私達を呼べるのは、一度次元の壁を越えた事があるから。それともう一つ付け加えとくなら、神様の特典じゃない?かなりいい加減で運任せだけど』
なるほど…。ここにきて、粋な計らいじゃねぇの神様。でもまだ1回きりの謎が解けてないぞ。
『サーヴァントを呼び寄せるのが聖杯じゃなくてアンタだから、繋がりが不十分になってるのよ。だから私達は今回の戦いが終わったら消える。次に出てくるのは顔も知らないどこかの誰か。分かった?』
イエスマム、よく分かりました。
そうこうしてるうちに校庭に出た。少し前までランサーと戦っていた遠坂陣はいないようだ。よかった、さすがにリンクも2対1はきついだろうからな…。
と、ここで何かが爆ぜる音が。校舎3階の方へ目を向ければ、そこには身を空に投げ出したリンクの姿があった。
「逃がすかよ!」
崩れつつある教室の中で、ランサーが槍を投擲しようと構えを取る。危機感を察したリンクは風のブーメランを投げる。が、すでに遅い。ランサーが放った槍がブーメランを突き抜け、リンクへ衝突した。
『リンク!』
ナビィの叫びも虚しく、リンクの体は落下する。
「おい、大丈夫か⁉」
グランドに落ちたリンクに駆け寄る。だが、リンクは手を払って「近付くな!」とジェスチャーをとった。
その直後、爆発。ミサイル顔負けの勢いでランサーがリンクに突撃したのだ。
舞い上がった砂埃の中から、二つの影が飛び出す。リンクがランサーから距離を取りながら炎と氷の二色の矢を放つが、ランサーはそれを軽々と叩き落とすと距離を一気に詰め、神速の突きでリンクの心臓を狙う。当然リンクはそれを許そうとしない。槍の軌道を見切って突きを躱し、そのまま剣撃へと繋げる。
「デヤァァァァッ‼」
叫び声と共に放たれる回転切り。それに弾かれたランサーは、バックステップで勢いを殺しながら距離を取った。
「中々やるな。剣技はアーチャーと互角。いや、それ以上か」
ランサーがゆらりと立ち上がる。まずいな、この雰囲気。おそらく打つつもりだ、あの技を。
「ならば…これも受けきれるか?」
ランサーの魔力が一気に膨れ上がった。やっぱり打つ気だこいつ!
「逃げるぞリンク!あればっかりは防げない、あいつの目の届かない所まで後退するんだ!」
俺は必死にリンクに呼びかけた。だが彼は――
「ほう、向かってくるか。ならばこの一撃、受けてみよ‼」
動かなかった。迷いのない、真っすぐな瞳でランサーの姿を捉えていた。
なぜ彼は引かないのか、俺は尋ねる前に分かってしまった。
――――勇気とは一体何か
何物も恐れず、猛々しく立ち向かう意志の事か。いや、違う。誰も知らない未知の世界へ踏み込む事か?違う。
勇気とは、決して折れる事のない、前へ進む意志の事なのだ。どんな絶望も振り払い、どんな恐怖にも屈する事もない、強い意志。
そしてそれを持つ者はこう呼ばれる。
――――――――――――――――――勇者、と。
「刺し穿つ死棘の槍‼‼」
放たれる致命の一撃。迫りくる魔槍に向かって、リンクはただ一度手を振り払う。次の瞬間、リンクの手の甲から、光を帯びて輝くトライフォースが飛び出した。
「何ッ⁉」
トライフォースは結界を作り出し、ランサーの動きを完全に封じる。必中の槍も、その行動自体を停止させられれば意味がない。
「ハアアァァァァァァッッ‼」
結界に閉じ込めたランサーに、リンクは斬撃の雨を浴びせる。そして最後に、全ての力を込めた一振りで、結界ごとランサーを空の彼方へ吹き飛ばした。
「勝った…ランサーに、リンクが勝っちまったよ!」
『だから大丈夫って言ったでしょ。心配性ねアンタは』
「そう言うお前だって『リンク!』って心配そうに叫んでたじゃん」
『身に覚えがないわね。妖精違いじゃない?』
「この世界に今妖精はお前しかいねーよ」
俺とナビィのやり取りを見てリンクは気まずそうにポリポリと頬を掻いていた。いや別に意図的にハブッてるわけじゃないからね、むしろウェルカムだからね?
「……あれ、リンク。何か体透けてない?
一瞬見間違いかと思ったがそうではなかった。確かにリンクの体が透けてきている。足の方からスーッと、定番な幽霊のような感じで。
『とうとう時間がきたみたいね』
「時間?…てもう⁉戦いが終わってすぐじゃねぇか⁉」
『あら、感動的な別れでもしたかったのかしら。残念ね、現実はこんなもんよ』
「いやいや、それでももうちょっと…。せめてお茶くらい飲んで行けよ!」
と言ったらなぜかナビィが頭突きしてきた。解せぬ。
『私達だってそんなに暇じゃないのよ!これから復活したガノンを倒しに行かなきゃいけないし、アンタにいつまでも構ってる余裕はないのよ!』
とか言いつつ本心では…っていうのは定番だぜ妖精さんよ。
「龍二」
不意に聞こえた青年の声。しかもめちゃ美声、一体誰だ?
「頑張れ。君ならきっと、この戦いを勝ち抜ける。俺はそう信じてるよ」
その言葉が終わると同時に、二人の体は光の粒になって消えていった。
すると突然、何とも言えない虚無感が押し寄せてきた。ああ、そうか。ほんの一時間にも満たない時間だったが、それでももう会えない思うと、寂しいもんだな。
出会いと別れ、今後俺はそれを幾度なく繰り返す。それが俺の、聖杯戦争だ。
閲覧ありがとうございます!
ナビィは完全に解説役に回してしまいました。元々のキャラとかも分からないのでかなり性格改変されてるかと思います。
今後、衝動的にバトル物が書きたくなったらちょくちょく投稿していくつもりです。その分文章が雑になってますがご了承下さい。