The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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真のヒロインがやって来る!その名は、アルベド!


5,守護者の心

「どういう意味でしょうか、リュウマ様?」

 

 微笑みを崩さないまま、アルベドが聞き返してきた。まぁ、そりゃぁそうだよな。いくら上位者が言っても本心を話すようなタイプじゃないわな。

 

「そのままの意味だよ、アルベド。俺ややまいこ、茶釜さんにいい感情を持ってないだろうって言ってるんだよ」

 

 大袈裟に肩を竦め、俺は口の端を曲げてアルベドを見る。仮面のような笑顔を張り付けたアルベドからは、感情のうねりなどは感じられない。しかし、こいつが俺や茶釜さん、やまいこさんに悪感情を持つのは間違いない。

 分からないのは、なんで俺にもその悪感情を向けてくるのかって事だ。そこも引っ掛かる、引っ掛かるから俺はここで突っ込んだ、突っ込んだんだが……。なんでワールドアイテム持ち歩いてるんだこいつは……。

 

「……なぜ、悪感情を持っていると思われたのですか?」

「そいつは簡単だ」

 

 指を一本立て、アルベドに向かってビシッと突きつける。キョトンとした表情のアルベドである。可愛い。これでもう少し……。

 

「お前、結構表情に出てるぞ」

「……え?」

「分からないか?例えてやろう。例えば第六階層でモモンガさんに名前を呼ばれた瞬間、表情が溶けていた」

「……ええっ!? 」

「アウラとマーレがモモンガさんに話しかけたら目がつり上がった」

「え、ええ……」

「極めつけはあれだ、デミウルゴスとモモンガさんが会話している最中の目は、もはや尋常じゃなかったぞ」

「ええと、それは……」

「そして、茶釜さんとやまいこだな。こっちの二人に関しては憎悪と言ってもいい感情を持っているように思うが?」

 

 この言葉が出た瞬間の目は、俺をしてゾッとするような目だった。殺意、そう呼んでも構わないようなドロッとした感情が、一瞬、ほんの一瞬だが吹き出し、俺の背筋に氷の針を幾本も突き刺してきた。

 ヤバイな、こいつは。いざとなればこの場でアルベドを切り殺す覚悟を決めた俺の前で、アルベドは全ての感情を押し込めた。

 

「勘違いではございませんか?」

「んな訳ねぇ。さっきの殺意は、かなりゾッとしたぞ?なぁ、アルベド。なんであの二人にそこまでの殺意を抱く?お前らの言う至高の四十二人だぞ?忠義を尽くすべき相手じゃないのか?」

「……ええ、その通りですわリュウマ様。ですが、私にも意思があります。その辺りは分かりますか?」

「無論だ。お前たちに意思が無ければこんな話しはしてない」

「そうですか……リュウマ様には最大限の感謝を。しかし、不敬を承知で申させていただくのならば、なぜ、最後まで我々を見捨てずに残られたお二人がここを一時期でも捨てて出ていかれた方々の肩を持つのか、私には理解できません」

「……」

「もちろん、戻っていただけたのならそれはそれで嬉しいのですよ?これは嘘ではありません。お二人が戻ってこられて、モモンガ様は大変嬉しそうでした。ですが、それでも私は許せないのです。このナザリックを、全てのシモベを捨ててお隠れになった者の事が。…モモンガ様を悲しませた奴等が!どの面下げてここへ戻ってきている!!そう叫びたいのを必死に抑え込んでいたのですが、まさか見破られているとは……」

 

 いや、押さえ込めてないし漏れ出てるし。しかし、と、俺は考える。彼らの立場に立って考えれば、この怒りも理解できないことはない。俺たちはリアルがある。そのリアルとは生活の事だ。プレイヤーにしてみればこの世界は仮想現実で、現実ではない。リアルの息抜き、もしくはガス抜き、もしくはリアルで感じられない夢とか理想とかそういうものを夢見る空間であり、全てに替えても何て言う物ではなかったはずだ。もちろん大事にしてない訳じゃないが、優先度の違いだな。こっちに重きを置いているモモンガさんの方が、世間から見れば異常なんだ。

 だけど、それはこっちの都合にすぎない。もし、この世界が仮想現実だった時代、こいつらに明確な意思があったとしよう。いや、違うな。恐らく希薄な意思があったはずだ。至高の四十二人に仕えるべく作られた者が、仕えるべき相手を次々となくせば、最初は嘆き悲しみ慟哭するだろう。しかし、それが積み重なれば、その思いは恨みへと変わる。簡単な話だ。また、アルベドは恐らく最もモモンガさんを見ている。モモンガさんが皆から引退を告げられる度に落ち込み嘆いていたのを近くで見ているのだ。嘆きが怒りに、怒りが恨みに変わるには十分だったんじゃないか?もちろん、想像にすぎない。だが、限りなく答えに近いような気がする。

 

「なるほどな。よく分かった」

「そうでございますか……ではリュウマ様」

 

 アルベドが俺の顔をじっと見返してくる。金色の瞳が俺の目を真っ直ぐに射抜き、そのまま下へと下がる。アルベドが頭を下げていた。

 

「処罰は、なんなりと。その太刀で首を跳ねるならそれもどうぞ」

「!? 待て、なぜそうなる!?」

「私はシモベの分際で至高の方々を侮辱致しました。守護者統括の地位にありながら、今だ恨みを忘れられません。ならば、死を持ってお詫びする以外方法はありません。その為にもリュウマ様は完全武装でここにおられるのではありませんか?」

 

 重いな!!恨み辛みなんて誰でも持ってるだろう!え~と、何て言えばいい、何て言えば……ティンと来た!

 

「アルベド、お前の思いは分かった」

「ならば、さぁ刑の執行を…」

「よかろう、ならばアルベドよ、俺の一存で刑を決めよう」

 

 アルベドが唾を飲む音がここまで聞こえてきた。

 

「アルベド、貴様の刑だが…簡単だ、これからもナザリックのため、いや、モモンガさんのためにその力を存分に振るえ。それを持って貴様の刑とする」

「!? お、お待ちくださいリュウマ様! 私はあなた様方に不敬の念を抱いております!その様なものを……!」

「アルベドよ、貴様が持つその感情、俺やモモンガさんだって多かれ少なかれ持っている。いや、誰だって持って当たり前なのだ。それに対して罰を与えるなど、あってはならぬことだ、そうではないか?」

「しかし、それは…」

「アルベドよ、全てを許そう、等とは言わない。まずは折を見て茶釜さんとやまいこに全ての思いをぶつけるのだ。大丈夫、二人とも分かってくれる。それから、死ぬことは償いではない、逃げだ。少なくとも俺はそう考える。ならば、お前はお前の能力全てを使ってアインズ·ウール·ゴウン、ひいてはモモンガさんに仕えよ。それが貴様に対する罰だ。分かったな」

「承知、致しました……寛大なご配慮、感謝いたします……」

 

 えっ!?泣いた!?なんでだ!?

 

「お、おい、アルベド?どうした、何があった?」

「いえ……申し訳ございません、偉大なるお方の慈愛に触れ、思わず……」

「んっむぅ、そ、そうなの?とにかく、お前が気に病むことはない。むしろ、なにか悩みはぶちまけたい事があるのなら、いつでも言ってこい。俺じゃなくても、茶釜さんもやまいこさんも、きっと相談に乗ってくれる」

「はい、承知致しました、リュウマ様」

 

 なるほど、花が綻ぶようなとはこういうときに使う言葉だったのか。そう思えるほどの笑顔を浮かべたアルベドは、男なら一瞬で心奪われるほど美しかった。あともう少し……。

 

「…ん?アルベドよ、もう一つ質問していいか?」

 

 そう言えば、一つ聞き忘れたことがあったのを思い出した。これ重要。いや、さっきまでのも大概重要だったけど。

 

「はい、なんでもお聞きください。もう、隠すようなことなどございませんので」

「いや、茶釜さんとやまいこにああいう感情をぶつける理由は分かったんだが……なんで俺にもぶつけて来たんだ?」

 

 俺、モモンガさんと最後まで一緒にいたよな?

 

「え~、それは…お答えせねばなりませんか?」

「? まぁ、答えてくれた方が嬉しいが? 」

「嫉妬、でしょうか?」

「……なに?」

「いえ、事の発端は、とあるメイドが図書館で……このような本を見つけたことが」

 

 胸の谷間から、何やらハードカバーの分厚い本を取り出すアルベド。どうやって入ってたんだ、これ。四次元ポケットならぬ四次元OPPAIか。

 差し出された本を受け取り、開く。骨がいた。すごい豪奢なローブを羽織ってる。モモンガさんか?んで、誰だこのすさまじい少女漫画風の鎧武者は。俺か、俺なんだろうな……。

 いや、同人誌やん、BLやん、なんで俺とモモンガさんやねん、誰だこんなもん書いたの……。て言うか誰得だ、骨と鬼の絡みとか。

 

「最初はこれを楽しんで読んでいたのですが……リュウマ様がモモンガ様から寵愛を受けているかと思うと……」

「ねぇよ!!」

 

 思わず突っ込んでしまった。しかし、当然だろう!?俺、DTだけどホモじゃねぇし!餡ころもっちもちさんとBL談義に花を咲かせてたっちさんにドン引きされた事もあるけど、ホモじゃねぇし!

 

「そう、なのですか?」

 

 

 なんで不思議そうに言うの?俺、そんな目で見られてたの?やめて、メイドの前を歩けなくなる。

 

「そうだ。これは、あ~、たぶん餡ころもっちもちさんが書いて置いておいたもんじゃないかと思うが、決して事実ではない。分かるか?事実じゃないんだ」

「安心しましたリュウマ様、モモンガ様もそちらの趣味があると言う訳では無いんですね?」

「ああ、そりゃそうだ。むしろ、あの人はおっぱ……ゲフンゲフン胸の大きい娘が好みのはずだ」

「まことでございますか!?」

「お、おう。……なぁ、アルベド」

 

 目の前で嬉しそうに可愛らしく跳び跳ねるアルベドを見て、ああ、やっぱりね、っと納得が行った。

 

「モモンガさんを愛してるんだな、お前」

「もちろんですわ、リュウマ様。あのお方は、私が愛を注ぐ唯一の人……あ、いえ、リュウマ様に愛を注いでいないわけではなくてですね」

「分かってる分かってる。そうかそうか」

 

 少し厄介な事になったかな?いや、これは……面白いことになってきた……!

 

「そうか、ならばアルベド、お前と茶釜さんはライバルだな」

「やはり、そうでしたか……くふふ、しかし、これで私の勝ちは揺らがないわ…!私の方が!断然!胸が大きいのですから!」

「いや、茶釜さんは胸とかそういう問題じゃないと思うが……しかし、悪いことをしたな」

「はい?ええと、どういう意味で?」

「今、モモンガさんと茶釜さんが、夜空デート中」

 

 綺麗な顔が一瞬でムンクに!絶望とはここまで顔を崩すのか、恐ろしい、気を付けよう。

 

「ど、どどどどど、どういうことでございますか!?返答によってはドタマカチワリましてございますよ!?」

 

 カクカクシカジカシカクイパンツハスポンジボブ

 

「な、何てことなの」

「急いでいくといいぞアルベド」

「ええ、ええ!もちろんですわリュウマ様!それでは失礼いたしますリュウマ様!!」

 

 スカートの裾を大きく乱すことなくアルベドが走り出す。と、思ったら、唐突に立ち止まりこちらを振り向いて一礼。

 

「どうした?」

「リュウマ様の配慮、感謝いたします。胸の支えが取れたようです。これからも、色々と相談に乗ってくださいましね?」

 

 そこまで言って今度こそアルベドは駆け出していった。『抜け駆けなどさせんぞおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………!』と、聞こえてきたが、とりあえず気にしない。

 色々分かったこともあるが、とりあえず早いところセバス達に合流しよう。

 上で修羅場が発生するかもしれないが、それもまた一興。

 俺は少し晴れやかな気持ちで、モモンガさんの部屋に足を向けるのだった。

 

 

 

 あ、同人誌、回収忘れた。

 




素早く出来上がったぜ、フ~。

荒いけどね。

次回はモモンガさんと茶釜さんのターン。

……やっぱりあんまり話が進まないね、しょうがないね(笑)

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