The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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 かわいい茶釜さんを書きたい。でも書いているうちに変になる……!


4,疑心暗鬼

 円卓の間に戻ってきた僕たちは困惑を圧し殺せないでいた。それと言うのもNPCの忠誠心が高すぎるのだ。

 忠誠心が高いのは問題ないと思う。だけど、高すぎると言うのは如何なものか。それは価値観の固定化、ひいては思考の停滞に繋がるのではないかと、僕自身は考える。

 とは言え、今、僕が考えることはそれじゃない。

 まず最初に分かったことは、このナザリックが全く見知らぬ場所へ転移してしまっていると言うこと。毒の沼地ではなく草原の中に転移している。

 これに関してはモモンガさんが直ぐに隠蔽工作をするようにマーレ君に指示を出していた。さすモモ、僕には考えもつかない。

 他にも色々あるとは思う。例えばこの世界に関しても。

 今はナザリックの中にいるから比較的安全だけど、ここから外に出て100%安全とは限らないし、もしかしたら僕達よりも強く、簡単に命を奪いに来るような奴等がいるかもしれない。

 僕達はレベル100。今の姿の僕なら80かその辺りの強さだけど、これだってゲームの中の強さに過ぎない。ゲームの中の強さと現実での強さは=じゃないかもしれない、その辺りは要検証だと思う。

 それから、この世界にはもしかしたら知的生物がいないと言う可能性だってある。

 ……いや、可能性だけを列挙していってもしょうがない。

 

「……い……や…いこ」

 

 しかし可能性をあげずに行動するのも馬鹿のやることだ。

 

「…まいこちゃ……いこちゃんって…」

 

 やっぱりここはモモンガさんや茶釜さんに相談するべきじゃないかな?リュウマさんは、まぁ、いいんじゃないかな?リアル脳筋だろうし。

 

「やまいこさん!どうしたんですか!なにかありましたか!?」

「……ん?モモンガさん?何かあったの?」

 

 気がつけばモモンガさんが僕の顔を覗きこんでた。他の二人も心配そうに僕の方を見ている。なんだろう、何か可笑しな事があったんだろうか?

 

「何かあったの?じゃねぇよ…なにボーッとしてんだよ、やまいこさんよぉ」

 

 むっ……ボーッとしているとは失礼な。

 

「ボーッとしていた訳じゃないよ、リュウマ君。少し可能性について検討していただけだよ」

「可能性、ですか?……ふむ、聞かせていただいても?」

「うん。……えーと、まずこの世界に知的生物がいるかどうか、と言う可能性」

「あ~、その可能性もありますね。ふむ、知的生物がいない可能性か……その可能性を考えると、捜索隊を組むのがいいかな?」

「あ、それ、俺がやりたい」

「リュウマさんがですか?いや、戦闘力は申し分ないですけど……危険ですよ?」

「問題ないだろう?ここで引き下がったら切り込み隊長の名が廃る」

「まぁ、編成は後から考えましょう…やまいこさん、なにか他に考えていた事とかは?」

「うん。まぁ、これはこれから要検証って所だと思うし、モモンガさんも考えていることだとは思うけど、僕たちの戦闘能力がこの世界でどれくらいのレベルなのか?」

 

 実は自分的にはこれを一番に調べたいんだけどね、と付け加えておく。

 未知の世界で力がなければ殺される、もしくは食い物にされる。幸い、このナザリックの中は比較的安全だから問題ない。だけど、これから外へ向かうのならこれは最優先で知っておくべき事柄であると、僕は思ってる。

 

「そう……ですね…そうすると、どうすればいいかなぁ?気楽に実験できるような場所があればいいんだけど」

「それにだったらさ、リュウマを中心にして遠征隊を組んで外へ探索に向かわせるって言うのが一番だと思うんだけど」

「茶釜さん、それは外の危険度がどれくらいか分かってないから許可しかねますよ?ああ、でも外の危険度を調べるには遠征隊を組んで調査させないと駄目か。でもその場合はやっぱりプレアデスやリュウマさんや守護者を行かせるのは危険だし……」

「僕は多少の危険を承知の上で遠征隊を組むことを提案するよ。危険だけど見返りは大きい。魔法が使える子に魔封じの水晶で〈転移門〉を封じたのを持たせておけば、いざと言う時にも逃げやすいと思うし」

「だとすると、人員は選ばないと駄目だな。俺は近接戦闘は出来るが遠距離は心許ない。魔法も駄目だな」

「それに関してはプレアデスから何人か……ソリュシャンとナーベラルとかでどうかな?」

「いいですね、それとシモベを何人か、でしょうか?」

「俺的には最低限の奴でいいと思うんだが……なんなら ナーベラルだけでも全く問題ないと思う」

「理由は?」

「なにかあったときに最低限の犠牲ですむだろ?ついでに言えば、だ。ナーベラルが伝言を使ってこっちに情報を送っておけば、次から対処がしやすくなる」

「何を言ってるんですか!」

 

 なんの気負いもなく自分が犠牲になる可能性を口にしたリュウマさんに、モモンガさんが怒鳴った。隣にいた茶釜さんが身を震わせるほどの怒鳴り声だったが、僕も同じ気分だった。

 

「自分が犠牲になるような事を言わないでください!」

「そうだよ、リュウマ。そう言う前提条件の話をしている訳じゃないんだよ、僕らは」

「俺だって犠牲になるつもりはないが、そう言う可能性だってあるってことを言いたかっただけでな?ついでに言えば、いつかはやらなくちゃいけないことじゃないのか?その場合だって、犠牲者が出ないとは限らない。最悪、守護者達が全幅の信頼を置く俺らの内の誰かが倒れたと見れば、全員が注意して行動するようになると思うんだが……睨むなよ、あくまでなにか最悪の事が起こった時の話だって」

 

 僕とモモンガさんに睨まれているのを見て、リュウマさん……リュウマはおどけたように肩をすくめた。けど、まぁ言っていることは正しい部分が多い。多いんだけど……。

 

「とにかく、しばらくはナザリックの防衛の強化と周辺の探索等を中心に活動していこうと思いますけど、なにか質問はありますか?」

 

 皆の顔を見回しながら、モモンガさんがそう言ったが、誰からも意見が上がらない。一つ頷き、その日はそこで解散することに。

 ちょうど良いから、僕は僕で行動を開始する。ちょっとあって話したい人もいるから、ね。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 会議と言うか相談会の日から概ね三日が経った。

 あの後やまいこさんはユリ·アルファに会いに行ったらしい。良いことだ。

 そして、俺ことモモンガは九階層の廊下にて、後ろにパンドラズ·アクター、セバス、茶釜さん、リュウマさんをつれて自室へ戻っている。何でこうなった?

 愚考すると、最初の一日はzorozoroとついてくる儀仗兵たちに威圧感を感じ、二日目に堪えきれなくなってそいつらを下げたらセバスとパンドラズ·アクターがついてくることになって、三日目では「暇だから」と言う理由でリュウマさんが、「モモンガさんを守るのは私だ!」と言う宣言の元、茶釜さんがついてくることになった。そして今に至る。

 チラッと後ろに目をやればセバスとリュウマさんがなんか話してて、パンドラと茶釜さんがやっぱり話してる。なのにこっちに即座に反応して、

 

「いかがなさいました、モモンガ様」

「モモンガ様、なんなりとこの、パンドラズ!アク!ター!にお申し付けください!」

「モモンさん、疲れた?お部屋行ったらマッサージでもしようか?それでぇ、よかったらぁ、その、そ、添い……」

「肉の棒、その辺にしときな」

 

 パンドラ、やめてそのオーバーアクション、心へし折れかねないから……そう思っていると、なぜかリュウマさんがこっちを見ながら真剣な顔で悩み、大きく頷いた後、ツカツカ歩み寄ってビシッと親指を立てた。

 

「任せろってモモンガさん」

「…えっ?」

「おい、セバス」

「はっ!何用でございましょうか?」

「これよりモモンガさんと茶釜さんが表層部へ視察へと赴く。しかし、お前達がついて行く必要はない」

「はっ…いや、しかし…」

「良い、言ってみよ。どんなことを言おうと構わん。その言葉もまた忠誠の証だからな」

 

 いい淀み、悩むように顔を歪めるセバス。パンドラは特に何も言ってないが、気配から察するになにか考えているようだなぁ。これが重いんだよ。もうちょっと気楽に接してくれればいいのに。

 

「では僭越ながら、私、パンドラズ・アクターの方から申させていただきます!」

「ああ、言ってくれ」

「至高のお方であり、我らが頂点に立たれるモモンガ様とぶくぶく茶釜様が、供の一人も連れず視察に向かわれるには如何なものかと思います」

「左様でございます。もし、何らかの危険があった場合、お守りすることが出来ませぬ。どうか、我らを連れていってはいただけませんか?」

 

 真剣そのものの表情でまっすぐ見られ、リュウマさんは一旦たじろいだようだ。分かりますよ、それ。俺もそうですもん。

 

「ふむ、仕方がない。二人とも、ちょっと耳を貸せ。ああ、それと、ちょっとあっちへ行くぞ。モモンガさん、茶釜さん、ちょっと待っててくれよ」

 

 頷くが早いか、リュウマさんは二人をつれて廊下の向こうの曲がり角へ姿を消した。なんだろう、なにしてるんだろう。

 

「茶釜さん」

「なに、モモンさん?」

「何を話してるんでしょうかね?」

「なんだろう?」

 

 触手をくねらせ、茶釜さんも悩んでくれてる。と、思ったら唐突にその触手をピンと伸ばして茶釜さんが硬直した。

 

「どうしました茶釜さん」

「えっ!?あー、いやー、なんでもないですよ?」

 

 これは、なにかを知っている、間違いなく。アインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明、ぷにっと萌えさんも言ってた。人は隠し事をするとき必ず動きが怪しくなるって。……今思えば、当たり前じゃないかな、ぷにっと萌えさん?

 

「本当ですかぁ?隠し事はダメですよぉ茶釜さん」

「か、隠し事なんてありませんよ!絶対!確実に!間違いなく!」

「本当ですかぁ?」

「本当です!間違い有りません!私が保証します!ドーナッツの中央くらい秘密なんて有りません!」

 

 もう少し問い詰めようとしてたら、廊下の向こうから『なんと!』『Ist es wahr,!?』と言う声が聞こえてきた。二人で固まって見ていると、二人をつれたリュウマさんがニコニコしながら戻ってきた。後ろに続く二人もナンだか妙に気合いが入ってる。なんだろう?ちょっと嫌な予感がする。

 

「お待たせぇ。そいじゃ、行ってきなよ」

「え?」

「モモンガ様、ぶくぶく茶釜様、私が要らぬことを申し、お引き留めして申し訳ございません。どうぞ、ごゆるりと視察なさってくださいませ」

「我が主モモンガ様、Wir brauchen euer Gebet fur dein Gluck」

「え?あ…う、うむ、済まんな二人とも」

「いいえ、こちらこそ申し訳ございませんモモンガ様。そして、ぶくぶく茶釜様」

「は、はい」

「私は、ぶくぶく茶釜様を応援しております。頑張ってくださいませ」

「え?ええっ!?」

「ぶくぶく茶釜様、このパンドラズ·アクター、あなた様が幸せになることを祈っております」

「ふぁっ!?」

 

 おおー、何だか知らないけど茶釜さんが狼狽えてるな。なんか体の色もピンクが濃くなってきたような気がするけど、なんだろう?

 

「モモンガさんモモンガさん」

「なんですリュウマさん」

「ついでに外も見てくるといい。メイドに聞いたら綺麗な星空が広がってるらしいからな」

「あ、はい。ところで、どうやって二人を説得したんです?」

 

 俺が尋ねると、リュウマさんは二人の方を見てニヤリと、悪戯小僧のように笑った。

 

「企業秘密って事で」

「ええー、そう言わずにおし「それはそうとモモンガさん」なんです?」

「星空を見るときは空を飛んで回りに何もないような状態で見るといいらしい」

「へぇ~、そうなんですか?あ、でもブループラネットさんが山の上で見る景色が最高だった、みたいな話をしてましたね!映像で見ただけだけど、とも言ってましたけど」

「へー…じゃねぇ、そうそう。だから、二人で夜空を見てきなよ。あ、その時は茶釜さんを抱いていけよ?」

「はぁ!?なに言ってるんですか!?怒られますよ!?それに〈集団飛行〉もありますし!」

「ふーん、あーあ、二人を説得するの疲れたぁ。なんか謝礼をもらわないとなぁ」

「むっ」

 

 この人は!けどまぁ、確かに助かったのも事実か。罰ゲーム的なノリなんだろうリュウマさんにしたら。これがウルベルトさんやるし★ふぁーさんだったらもっとえげつないこと言われるだろうしな。

 

「分かりましたよ」

「おおー分かってくれたか、モモンガさん。じゃぁ、行ってらっしゃい、いい息抜きを!」

 

 言うが早いか、リュウマさんは二人を引き連れて廊下の奥へと消えていった。セバスとパンドラズ·アクターも俺たちに頭を下げながら向こうへ消えていった。なんだったんだろう?

 

「……茶釜さん?」

「!ひゃ、ひゃい!?なんでせうかモモンさん!!?」

「あ、いえ、その、行きましょうか、第一階層へ」

「あ、で、デスネーデスネー」

 

 なんで言葉尻が固くなるんだろうか?訳が分からないと思いながら、俺は指輪を起動させ、第一階層へと飛んだのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 行ったみたいだな。気配で察知した俺は、そう思いながら踵を返す。

 

「リュウマ様、どこへ行かれますか?」

 

 その俺の背中に、セバスが声をかけてくる。

 

「いや、ちょいと自分の部屋に忘れ物をしたから取りに行くだけさ。あー、ついてこなくていい。すぐモモンガさんの部屋へ行くからそっちで待機しててくれ」

「しかし……」

「悪い悪い。ちょっと考えたいこともあるんだ。なっ?頼むよ、セバス、パンドラ」

 

 ウインクしながらそう言うと、セバスとパンドラは顔を見合わせ、深々と頭を垂れてくれた。良くできた家臣って言うのはこう言うのを言うんだろうな。

 

「かしこまりました、それではお待ちしております」

「あいよ」

 

 二人と別れ、俺は歩き始める。無論、忘れ物なんて無い。だが、俺は事前に調べておいたこの階層にいるはずの人物にあって話を聞かなくちゃならない。

 数分も歩かないうちに、お目当ての人物が向こうから現れた。純白のドレスを身に纏い、歩く姿は女神のよう、微笑みを浮かべたその顔は慈母のそれ、左右のこめかみから生えた角も、その美しさを引き立たせるためのアクセントのようだ。アルベド、彼女は俺を見つけると微笑みを浮かべたまま軽く頭を下げた。が、俺には見えた。ほんの一瞬だけだが、アルベドが忌々しそうな苦虫を噛み潰したような顔をしたのを。

 

「よぉ、アルベド、元気か?」

 

 横を通りすぎようとしたアルベドに声をかけると、歩みを止め、こちらを向き直ったアルベドが慈母の笑顔のまま答えた。

 

「はい、元気でやらせていただいておりますわ。リュウマ様も息災で?」

「ああ、見たまま元気だ。ところでアルベド」

「申し訳ございませんリュウマ様、私、モモンガ様の元へ急ぎたいので、お話は後程で構いませんか?」

「ああ、別に長くはかかりはせんよ。質問をしたいだけだ。短時間ですむ」

「そうですか?では、なんでしょうかリュウマ様」

 

 こいつ、本当に一瞬だけとんでもない顔をするなぁ。まぁ、いいか。

 

「質問はただ一つだ、正直に答えろ」

「はい、承知致しました、なんなりと」

 

 俺は、軽く息を吸い込み、確信をもってその言葉を口にした。

 

「お前、モモンガさん以外にいい感情を持ってないな」

 




 ビックリするほど超難産!

 八時間ほど書いては消し書いては消しを繰り返しました。

 次はもっと早く書きたいと思います。

 相も変わらず山なし落ちなしですね!(´・_・`)

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