The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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前回まであらすじ

ぷにっと萌え帰還。頭の悪そうな作戦を考える。

今回予告

デート回。






36,その頃の人達4

 明美と再会して三日が経った。重要事項であるナザリックの情報は明美から得ることは出来なかったが、まぁ、それはいい。幸いなことにこの悪魔の体には無限……では無かろうが、それなりに多くの時間があるだろうからのんびり探すことにしよう。どうせ、あっちも探してくれてるだろうからな。運が良ければ意外と早く再会できるかもしれない。慌てる乞食はなんとやらだな。

 フォーサイトの仕事に関しては、邪教の巣を叩いたことで大幅な増額があったため、全員、それなりに懐が暖かくなっているところなので、事後処理後の二日程度は休みにする予定だそうだ。俺も色々見て回りたかったからありがたい話だ。と、言うわけでもないが、俺は現在帝都の通りの一つ、“歌う林檎亭”から一番近い通りにある市場に来ている。市場と言ってもあれだ、野菜や食料品ではなくワーカーや一応いる冒険者、剣闘士が利用するマジックアイテム等を販売しているそんな露天市だ。ごみごみとしているが野蛮な活気に溢れたなかなかエネルギッシュな場所なので、俺は結構気に入っている。ただ、一つ二つ気になることもある。ここの治安は比較的いいんだが、こう言う悪党一歩手前の連中が大人しく買い物だけをしているって言うのはどういうことなんだか。と、言うことで、買い物に付き合えと言った同行者に話を聞いてみよう。

 

「おい、エグレーナ」

「何が抉れてるのか、言ってもらおうかしらおぉん?」

 

 イミーナがものすごい勢いで振り向くと半目で俺を睨みつつそう言う。こう言う反応が面白いからからかいたくなるんだが、まぁいい、それは横に置いておこう。

 

「この辺、まぁ治安がいいとは言わないが、少なくとも大きな事件なんかが起こってないのはどういう理由だ?やっぱあれか、元締めみたいなのがいるのか?」

「あんた、変わったことを気にすんのね。まぁ、察しの通り、ここには元締めがいるわ。闘技場の現チャンピオンで歴代最強と名高い“武王”そのプロモーターが現在の元締めね。武王を頂くような奴に睨まれたくないでしょ?そんなわけで、ここでは大きな犯罪が起こりにくい、と」

 

 俺の質問に律儀にそう答えた後、俺が声をかけるまで見ていた品物に再び視線を注ぐイミーナ。気になったのでイミーナの頭の上からその物品を覗くと、どうやら矢筒らしい。恐らくマジックアイテムの類いだと思われるが具体的にどういう物かは見ただけでは分からんので、無詠唱化した《 道具上位鑑定/オール·アプレイザル·マジックアイテム 》を発動させ鑑定すると、間違いなくマジックアイテムだと言うことが分かった。ちなみに、付与されている魔法は、矢格納数増大( 300 )、特定属性付与( 火 )と言うもの。正直びみょー。早い話が矢を三百本まで格納できる上にMPを消費することで矢に火属性を付与できる、と言うマジックアイテムらしい。びみょー。低レベル帯なら役に立つのかもしれないがな。

 

「そのマジックアイテム、欲しいのか?」

「んー?まぁねぇ……射手であるアタシは矢がつきたらお仕舞いだから、矢が多く持てるって言うのは魅力ね」

 

 値段は金貨200枚か……そこそこすんな。確か、前回の報酬もろもろ合わせて一人金貨40枚だったか。もし俺の分を合わせても足りねぇな。俺がそんなことを考えていると、イミーナが大きくため息をついて振り返った。

 

「ま、かなり値が張るものだし、買えない買えない。先立つものがないのはきついねぇ」

「あぁ、そうだな」

 

 俺は上の空で答えつつ、無限の背負い袋の中身を漁る。それなりにマジックアイテムが詰まっているが、それと交換していいようなもんってぇと……これか。俺が引っ張り出したのは、いつだったか雑魚がドロップした指輪、〈 岩石の指輪/リング·オブ·ロック 〉。防御力が上がるっつぅ微妙も微妙な指輪だが、レア素材探してるとき無茶苦茶ドロップしたから余ってんだよな。こいつを二つ三つと交換なら大丈夫か?……そう言えば、何で俺はあの当時の無限の背負い袋を持ってるんだ?

 

「なぁイミーナ。これ、どんくらいになるよ?」

 

 俺が差し出した指輪を手に取り、イミーナは眉間に皺を寄せる。難しい顔のまま歩き出したイミーナの後をついて行くと、イミーナは少し奥まったところにある露天ではなく普通……あ、普通じゃねぇわ。明らかに怪しい店へと向かって行く。悪い魔法使いでも出てきそうな家の窓をイミーナが手早く正確にリズムにのって叩くと、窓が小さく開いて中から枯れ枝のような腕が延びて出てくる。その手のひらの上に指輪をのせると手が引っ込み、中からごそごそと動く音が聞こえそして次に扉が小さく開くと、指輪と羊皮紙の切れ端が外へ投げ出された。素早くイミーナがそれを拾い上げ、同時に金貨を三枚、扉の隙間にねじ込むのだった。

 

「……なんだ、ここは」

「鑑定屋、と言えばいいのかしらね。ここの店主、道具を鑑定できるって言うタレントの持ち主らしいんだけど、その能力を利用されまくったせいで人間不信になってここに引きこもってるらしいのよ。けど、その鑑定眼確かだし、値段も良心的、鑑定結果には嘘がない。だから、ここでひっそりとやれている、と言うわけね」

「ふぅん……それで、その指輪の値段はどれくらいだ?」

「この指輪の値段は金貨……三十枚!?なにこれたっか!!」

「ふぅん、そんなもんか……じゃ、マジックアイテム買ってもらえるところはどこだ?」

「はぁっ!?売るのこの指輪!」

 

 俺は肩を竦めてそれを返事とした。その様子に、イミーナはなぜかため息をついて観念したように歩き出す。なんだ、この指輪欲しいのか。後で全員分、くれてやろうか。生存確率は上がるだろ。

 案内してもらった店でとりあえず七つほど指輪を処分する。それを見ていたイミーナの顔がそれはそれは面白かった。思わずドッペルゲンガーかよ!と突っ込みたかったほどだ。ま、そりゃぁいい。とにかく予定の値段に到達したので、折角だからイミーナにあれを買ってやろう。イミーナがなにか言うよりも早く人混みを掻き分け、件の店へと到達、イミーナが到着するよりも早く商談を終わらせる。

 

「うっし。これで良し……後は、アルシェになにか……ロバーデイクとヘッケランは次回だなぁ」

 

 明美にもずいぶんアイテムやらなんやらをくれてやったっけか。一応契約でついていってる身だ。これくらいのサービスをしても構うまい。最近はこいつらにもずいぶん愛着がわいてきたことだしな。そんなことを考えているとイミーナが追い付いてきたので、先ほど買った矢筒を放って渡すと、一瞬硬直したあと、急に慌て出した。どうしたってんだ?首を捻りつつ杖を物色していると、尻を誰かに蹴りあげられた。後ろを振り返ると、イミーナが顔を真っ赤にし、手に矢筒を持ったままプルプル震えていた。なんだってんだ。

 

「どうしたイミーナ。腹でも壊したか?」

「んなわけあるか!!ってかどういうつもりよこんな高価なものを寄越すなんて!」

「……欲しがってただろうが。だから買ってやったと言うのに」

「買ってなんて言ってないでしょうが!」

「……いいから、持っておけ。なんかあってお前らに死なれたら寝覚めが悪い。それを持って死亡する確率が減るなら、安いもんだ。俺の古巣の情報を得るまで力を貸すってのは、こう言うのも含まれてるんだよ」

 

 大して強くもない俺の言葉だったが、しかしイミーナは何度か口をパクパクと動かしたあと、天を見上げ地を見下ろし、くるくるとその場で回った後、大きくこれ見よがしに大きくため息をついて顔をあげた。いつも通りの目付きの悪いハーフエルフが笑っていた。

 

「じゃぁ、いただいておくけど、この借りはじわじわ返していくわね」

「返さなくていいぞ……と言っても聞くまい。期待せずして待ってるわ」

「本当にあんた、変な奴」

 

 苦笑しながら憎まれ口を叩きイミーナは俺の横に立った。その顔は、まぁ、笑ってる。それならば良し、だな。そう言えば、ちょっと気になることが幾つかあるんだが、聞いても問題はないかな?イミーナの方を見るとウキウキした様子でプレゼントした矢筒を背中に背負っていた。いつの間にベルトを通したのか?まぁマジックアイテムだから、それくらいはなんとかなるか。

 

「おい、ビニュー」

「もはや名前に原型がない!……で?なによ?今なら大抵の事は許してやるわよ?」

「それはどうもありがとう。アルシェの事なんだが、いつまであの貧相な装備でいるつもりなんだ?」

 

イミーナが顔をしかめる。俺の言葉を不快に思ったと言う感じではなく、どうもなにかを考えているようだ。むしろ、アルシェの心配かそれとも。

 

「ワタシも思うところはあるけど、こればっかりはあの子の都合でしょ?」

「まぁ、そらぁそうだが……このまんまじゃ、あいつ死ぬぞ?」

「あぁー、これははっきりと言うわね」

「実力相応の装備、実力を上乗せする武具を持つのは当然だ。自分の持つ能力、武具、知識、んでもって、仲間の力。これらが揃って初めて苦境を打破できる、大物を狩ることが出来る。違うか?」

「そうね」

「だろう?今のところはいい。だが、本当に強い奴と戦えば、あいつから切り崩される。そうすればどうなる?今度はお前らの番だ。それであいつだけが生き残りでもしたら……って、なんだよ、おい」

 

 こっちが真剣な話をしてるっつぅのに、イミーナはなぜか口許をおさえ笑い始めやがった。なんだ、なにがおかしいってぇんだ。

 

「いやいや、フフッ……前から思ってたけど、あんたってさぁ」

「なんだ?俺がどうかしたか?」

「実に、悪魔らしくないって言うか何て言うか」

「……あー……」

 

 ストンと、納得の行く言葉だった。確かに、今の俺は、体は悪魔の物だが、反して心はどうかと言うとそれがどうとも言えそうにない。ただ、一人になったときは恐らく悪魔的な、誰かといるときは人間に近いような、そう言う状態のような……人間的ともとれるし悪魔的ともとれる。そもそも、俺はどうしてこのアバターの姿なんだ?適当に作ったアバターでログインしたはずなのに。それに、なぜ、ここまで、あいつらがいると確信してる?

 と、ここまで考えて、俺は誰かが俺のローブの裾を引っ張っているのに気がつく。少し視線を下にやれば、イミーナが裾を引っ張っていた。しかし、イミーナの目は俺とどこかを行ったり来たりしている。釣られてそっちへ目線だけ動かすと、あぁ、あいつか。金色の長い髪、その黄金で出来たような前髪で顔の半分を隠した美女が、こちらをジィッと見ている。露天の柱の影に隠れて。……誰なんだあいつ。イミーナの知り合いか?少なくとも、この帝都で俺の知り合いはフォーサイトの面々だけだ。……ん?あれ?俺、実はすごく寂しい奴か?

 

「ねぇ……誰?あの人」

「……え……お前の知り合いじゃないの?」

「……え?あんたの知り合い……あ、ごめん。友達いないんだっけ?心ないことを言った。表面上は謝っておく」

「知ってるか?悪魔でも人並みに傷つく」

「で?誰なのあの人。どっかで見たことあるような……無いような……」

「若年性健忘無乳症か?合併症は大変だな。いい医者がいたら紹介するぞ?」

「合併しすぎでしょうが!?後、この胸は病気じゃねぇ!」

「じゃぁ、尻の方か?」

「眉間に矢を叩き込んだろか!?」

「それで?思い出せたか?」

「人をおちょくっておいてそれ!?出てくるかタワケ!」

 

 いやぁ、やっぱいじると楽しいなこいつ。ま、なんにせよ。

 

「もしかしたら、俺たちじゃない奴を見てるのかも知れねぇ。一旦ここから離れるか」

「どう見てもアタシらを見てるような。ってか、アタシ睨まれてない?」

 

 言われてみれば、すげぇ目付きがおっかねぇ。

 

「ワーカーは恨みを買いやすいらしいからな……御愁傷様」

「いや、アタシを守れよ」

「いよいよヤバイかなと思ったら助ける。それまでは頑張って」

 

 まぁ、すぐに仕掛けてくるような気配もないし、大丈夫だろ。そう言いつつイミーナに歩くよう促すと、渋々イミーナも、一番安全だろう“歌う林檎亭”へ向かって歩き出そうとする。それを止めたのは、心底明るいこんな声だった。

 

「HEYHEYHEY、そこのハーフエルフのお姉さんお姉様巫女さん仏さんワーカーさん。少し待っておくれでないかな?連れの人に僕は用があるんだ。ついでに、そこのすごく目付きの悪いお連れさんの彼女とかだったらついてきてクレメンスはーどひっと!」

 

 いきなり現れた見知った顔のエルフの顔面に向かって《 魔法の矢/エネルギーボルト 》を叩き込んだわけだが……思った以上に頑丈だから大丈夫。百人乗ってもなんとやらだな。象が踏んでも壊れないの方がいいか。

 呆気にとられているイミーナや回りの人間の視線が集まるなか、そのエルフ、明美は倒立に近い形で天に向かって足を伸ばすと、それを降り下ろす勢いで素早く立ち上がった。周囲からどよめきや拍手が上がる。なんでだ。

 

「いっっったぁぁぁぁ……ひ、酷いウルベルトさん!乙女の顔に魔法をいきなり叩きつけるなんて!鬼!外道!悪魔!好き!付き合ってください!」

「次は《 火球/ファイヤーボール 》、行っとくか?」

「お、乙女が一大決心をして告白したのにその反応はなくないですか!?そんなんだから女の子にモテないんですよ!」

「知ってたか?俺が意外とガラスのハートだって」

「ハートと言えば、意外と熊の心臓って美味しいんですよ?こりっこりの筋肉噛み締めてるぅって感じ?」

「話をそらすなや」

「あ、レイナースさん、なに隠れてるんです?早くこっちに来てくださいよ。ウルベルトさんにお礼を言うんじゃなかったの?あ、分かった照れてるんだ。大丈夫だよウルベルトさん絶対へたれリバ攻めだから。あ、けど、へたれ受けもいいよね、萌える。けどへたれ受けはモモンガさんだと思うんだけど、ウルベルトさん、どう思う?」

「いいだろう、まずは話をしようか?」

「お、いいですねぇ。思い出話ですか夢を語りますかそれともそれともコイバナですかぁ?きゃ~~~~~~~ぁこれはたまりません。お姉ちゃんってば全然そう言う話しないから、コイバナとか飢えてるんですよ。あ、と言うことはお隣のお姉さんはやっぱり彼女ですか?もう~、すぐ彼女を作ってるなんて、この女ったらしめ!」

「昔っから思ってたが、実はお前話をする気がないんだな?」

「まっさか~?お互い久し振りだから緊張をほぐすためのいっつあじょーくですよ~。も~、真面目さん」

 

 相変わらずムカッとさせてくれる。会話の主導権を握る演技も含まれてるとは言え、イラッとさせるのが得意な奴だなおい。

 

「んで?何の用だ?この間、別れたときの件か?」

「そうそうそれもある。けど、一番はやっぱり、彼女かなぁ?」

 

 そう言いつつ、明美は先ほどレイナースと呼んだ女を指差した。なんと言うか、ゴスロリ?そんな感じの服を着込んだ美女だ。てか、マジで誰よ?

 顎をしゃくって先を促すと、明美は周囲を見回した後、朗らかに笑いつつ言う。

 

「まぁ、話をするような状況じゃないし、場所変えようウルベルトさん」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 結局“歌う林檎亭”にやって来た俺達は、二階の個室を借りてそこへ入って話をすることになった。その前に一悶着……要は俺が町中で魔法をぶっぱなしたのが原因で衛兵が飛んできたのだが、レイナースとか言う女の執り成しによって事なきを得た、と言うことがあった。その時に、あの女の名前を聞いたイミーナが目を剥いていたが、その反応から見ると、なかなかの権力者かねぇ?

 

「おい、ビニューナ」

「誰を呼んでるのか分かっちゃう自分が悲しいわ……で?なに?」

「その、レイナースってのは、どこのどなたさんだよ」

「少しは勉強しなさいよ……あぁ、あんたに物を教える奴なんてアタシやアルシェくらいしかいないか」

「少しは分かって欲しい、俺だって人並みに傷つく」

「ワタシも胸の事を色々言われると傷つく、分かれクソ悪魔」

「お~っほほ~。お口が悪いのはどこのどいつかな?」

「人の身体的特徴を皮肉ってくるド悪魔だと思うけど?」

「さもありなん」

「納得すんな」

「反省はしてる後悔はしてない」

「だと思った……で?」

 

 で?と、言われても、一体なんの話をしようとしていたんだっけか?……あ~、そうだそうだ。

 

「そうそう。なんかお前、あのレイナースとか言う女の事、知ってるみたいだが?」

「……まぁ、知ってるけど?なに?やっぱ、美人で巨乳の方がいいわけ?」

「何でそんな話になる。微乳には微乳の良さが、巨乳には巨乳の良さがある。どっちが良いかは決められんな」

「……ん?誉められてる?貶されてる?」

「酷い風評被害だ。俺は全力で誉めたと言うのに」

「からかい八割だろう、お前。まぁ、とにかくレイナースなら知ってるわよ?帝国四騎士の一人、“重爆”の異名を持つ女騎士ね。あ、帝国四騎士って言うのは皇帝直属の騎士四名の事。それ以外はいまいちよく分かんないけど」

「ふんふん、なるほどつまり帝国のお偉いさんっつぅわけか」

「いえいえ、ワタクシ等取るに足らない武辺者ですわ」

 

 うおっ!?声に出さないまでも、俺とイミーナは驚きのあまり後ろへ飛びすさっていた。声の主はその様子を愉快そうに笑みを浮かべてみているんだが……なんだろう。背筋がゾクッとするような笑みなんだが……見れば、イミーナも不安そうな様子で俺の後ろへ隠れていく。うわっ……また寒気が……なんだってんだよ、おい。

 

「あー、えーと?レイナース、で、いいのか?」

「はい。なんでしょうかウルベルト様……ところで、レイナースと呼ばれるのは大変嬉しいのですが、出来ることならお前、何でしたら犬、メス豚、お好きなようにお呼びいただければ、と」

「呼ばねえよ!なんだいきなり変態扱いか!?」

「さすがのアタシもこれは引く。ウル?色々考えた方がいいわよ?」

「俺にそんな趣味はないわ!?おい明美!なんだこりゃ!?」

「呼ばれて飛び出て説明しよう!」

「よしっ!」

「実は僕はこの国の偉い人のお抱え密偵なんだよ!」

「そんなことは聞いてねぇ!!」

「すまっしゅっ!?」

 

 しまった思わずぶん殴っちまった。思った以上に威力があったらしく、きりもみ回転しながら吹っ飛んだ明美は壁を突き破り隣の部屋へダイブイン。やべぇ、修理費どうするか……。

 

「ね、ねぇ?ウル、あの子大丈夫?あんたがぶん殴ったら、いくらなんでもただじゃ済まないんじゃない?」

「そいつは……」

「それは大丈夫ですよ貧乳さん。アケミはあなたや私よりも強いんですよ?まぁ、多少痛いくらいで起き上がってきますわ貧乳さん」

「貧乳貧乳うっさいわ!なんなのこの女凄いムカつくんだけど!?」

「そんなん俺に怒鳴られても……あと貧乳は事実だろ?」

「そうですよ貧相ボディさん」

「若干どころか大幅に酷くなった!?ちょっとウル!この女何よ!?」

「知らんがな」

「ワタクシはレイナース·ロックブルス。ウルベルト様の傍に仕える者……」

「そんな許可した覚えはないんですがねぇ?」

「いてててて……いてててててて……いてててて」

 

 お!混迷の状況で明美復活!いいか悪いかは置いておいて、俺は大慌てで、隣の部屋から這い出してきた明美の襟首をひっつかむと部屋の隅へ行き小声で話しかける。

 

「で!?何がどうなってんのかきちっと説明しろや」

「まぁまぁ、慌てない慌てない。えーっと、どっから話そうか?」

「……話、長いのか?」

 

 正直、この空間に長居したくないんだが……。

 

「んー?聞く箇所からにもよるかなぁ?僕がこの世界に現れたところから話始めると日が落ちても終わらないと思うよ?正直そこから話したい。もう、同郷の人と話すことなんてないだろうなぁって思ってたから嬉しくって嬉しくって」

「その辺は後日な?んじゃぁ……」

 

 話を聞いてやりたいところだが、色々立て込んでるからなぁ。そうだなぁ、最初は……。

 

「お前、この国の偉い人間の密偵つってたが、どう言うことだ?」

「お?そこに食いつきますかさすがウルベルトさん。まぁ、ぶっちゃけると皇帝陛下の密偵的な事をやってるんだ。んでぇ、前から皇帝陛下に話してたアインズ·ウール·ゴウンのメンバーであるウルベルトさんを発見したから報告したのね?そしたら会ってみたいから連れてきてくれってさ」

「この国のトップがねぇ?お前、俺らの事、どんな風に話したわけ?」

 

 声は返ってこない。返ってくるのは『も~、わかってるくせにぃ』とでも言いたげな笑顔だけだ。つまるところ、前々から他人に俺たちを説明するときにしてた『悪だけど善人だらけのギルド』とか言う説明でもしてたんだろう。正直、悪人の集まりではないわな。とは言え、善人だらけってこともないんだが。いい意味でも悪い意味でも“大人”の集まりだったからなぁ。いや、“子供”の時間が多かったっけ?

 

「はぁ~……で?お前は俺を連れていきたいのか?」

 

 俺の言葉に、ここに来ては非常に珍しく、明美が真剣な顔をして、その細い顎に手を添える。そして、言った言葉は意外なものだった、と言えばそうなのかもしれない。

 

「うん……正直言うと、悩んでる。ウルベルトさんの立ち位置が分からないからね。ここまで行動を見る限り、どっちかと言うと人間よりの感性だからね……とは言え、それがいつまで続くか分からないから、判断つきかねる、って言うのが、僕の意見かな?」

「……つまり、お前は俺を見極めに来てたってわけか?レイナースを囮にして?」

「あ、それは違うかな。真面目な話、僕はこの世界に一人で転移してきた訳じゃないんだ」

 

 真剣な表情でそう告げる明美。恐らく、俺の眉間にはシワがよっているだろう。それ以上に、明美の顔には苦虫を噛み潰したような表情が浮かんでいるが。顎をしゃくって続きを促すと、明美は一つ頷いて続ける。

 

「知り合ったのは、この世界に来てから三日目。異形種だったその子は、最初は普通だった。一緒にいる理由もなくて、僕は一旦その子から離れた。んで、一月後、村が一つ襲われているのを発見した僕は、情報収集のために隠密しながら観察してたんだけど、そこで暴れてたのが……」

「件の異形種の奴だった、と。ふむ、つまり、何が言いたい?」

「精神は肉体に引っ張られる。だから、ウルベルトさんがいつまで今のままでいられるか分からないから、結論は出せないと、まぁ、そんな感じかな」

 

 なるほど、と一応納得したように頷いて見せて、俺は考える。そいつに何があったのかは分からんし、顔も名前も知らん奴が死のうが生きようがどうでもいい。とは言え、俺もそうなる可能性があるのなら、明美は皇帝に俺を近づけたくないだろう。俺がそっちの立場だったらそーする。誰だってそーする。しかし、精神は肉体に引っ張られる、か。なんともはや。今の俺の状態も、どっちとも言えないような状態だからな。いや?もしかしたら現実の俺よりもかなり変質してる可能性もある?

 さて、明美の心配を抜きにして、皇帝が俺に会いたいと言ってるんだったな。どうするかな?権力者のコネはあって困るものじゃ無し、ナザリックを探すのならその辺りの視点があった方がいいだろう。まぁ、俺を飼い殺しにしてなんかあったら利用するように考えているのかもしれないが、それはそれ、ギブアンドテイクってやつだな。しかし。そこまで考えて、俺はイミーナの方へ目線を向けると、イミーナとレイナースが楽しそうにお喋りをしていた。仲良き事は美しきかな。フォーサイトとの契約の真っ最中なんだよな、俺。大体、俺が宮仕えみたいなことが出来るとは思えない。権力嫌い、と言う訳じゃないが、ああいう雰囲気は好きになれないんだよな。とは言え、だ。

 

「まぁ、一度会ってみるか?」

「あ~、やっぱりねぇ~」

「なんだ?なにか問題があるか?」

「ううん……まぁ、行けば分かるか。いざとなればおじいちゃんを殴ってでも止めよう……」

 

 ?なんの話か良く分からんが、とにかく会えるらしい。と、なると、残りの問題は二つか……。

 

「なぁ、明美」

「ほいほい、なんですかウルベルトさん。明美ちゃんが何でもお答えしますよ」

「俺、今現在、ワーカーと契約を(無理矢理)結んで同行してるんだが、そいつらも連れていっていいか?」

「別室で待つことになると思うけど、いい?」

「構わねぇだろ。ついでに、あいつらに実入りのいい仕事をさせてやりたいからな」

「フォーサイトだったよね?まぁ、任せられる仕事も、あるっちゃぁあるね。危険度は高いけど」

 

 危険はどんなことにでも付き物だ。それくらいなら俺を交えれば余裕綽々だろ。さて、最後の一つだが……俺の勘違いじゃないよな?

 

「それと、もう一個なんだが……」

「あ、レイナースの事?」

「ずいぶん察しのよろしいことで」

「そりゃぁねぇ」

「愉快そうに笑っているところあれだが……何で俺にこんなに好意らしきものを振り撒いてくるんだ?」

「あ、それ?そしてそこ?いやぁねぇ?最初は呪いを解くためのアイテムをくれたからお礼を言いに行ったらしいんだけど、なに?あれ、いわゆる一目惚れってヤツらしいよ」

 

 なんだそりゃ?表情から何を考えているのか分かったんだろう。明美は肩を竦め、やれやれとため息をついた。

 

「カースドナイトの呪いがとけて、今度は恋の呪いにかかりましたとさ」

「訳がわからんぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





仕事して自動車学校に行ってたら、なんか全然書く暇がありませんでした。あ、まだ免許はとれてないです。路上、マジ怖い((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

次回、ウルベルト皇帝に会う。

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