The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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皆さん、覚えておいでだろうか。じつはこの作品はオーバーロードの二次創作だったんだよ!
前回までのを書いていて、なんだか分からなくなりかけた私ですが、これでオーバーロードの二次創作だと言うことを思い出しました。





33,惨状と参上

「リュウマ様、少々お時間はございますか?」

 

 あの長い長い話が終わってナザリックへ帰ってきてちょっとした頃、久しぶりにアルベドの方から声をかけてきてくれた。普段はモモンガさんを茶釜さんと奪い合ってるからなぁ……。いや、けしかけたのは俺だけどね。

 

「ああ、問題ないよ?てぇか、さっきの話、つまりなにも分からないって事だよな?」

「話の取っ掛かりと言う話だったと思いますけど?」

 

 どう言うこと?恐らくモロに顔に出てたんだろう。アルベドが物凄く微妙な顔をした。

 

「リュウマ様って、至高のお一人、なんですよねぇ?本当にぃ?」

「残念ながらその通りだ。ちなみにおつむの方は残念極まりないと、るし★ふぁーに言われてた」

 

 中卒だもんなぁ、土木系の。

 アルベドが、その細い指を綺麗な顎に押し当て何事かを考えている。いや、分かる、分かりますよ。アホでも分かる説明を考えてたんでしょう?知ってるから、その、なんだ、分かりやすく教えてほしい。できれば簡潔に。

 

「まぁ、簡単に言いますと、『まだまだよく分からないことが多いけど、今のところこの世界にあるワールドアイテムが干渉するからたっち·みーを追放できないんだと言う仮説だからこれから頑張ろうぜ!』ですかねぇ?ニュアンス的に」

 

 なるほど、簡潔で分かりやすい。そう言えば。

 

「ところで、俺になんかご用?一応、明日カルネ村を見に行く準備をして寝る予定なんだけど?」

 

 三日は空けたからなぁ。なんか変わったことが起きてるかもしれないし。なんかルプーが悪さしてないか心配だし。

 

「ああ、そうでした。申し訳ございません。実は、私の妹が会いたいと申しておりまして……お暇なときに会いに行ってあげてもらえませんか?」

 

 アルベドの妹、確か第八階層のルベド、だったか?そう言えば見たこと無い。どんな子かって聞いても皆口をつぐむし……あれ?そう言えば何で俺の事を知ってるんだろ?まぁいいか。暇なときに会いに行こう。

 

「了解。それじゃ暇なときに会いに行くよ」

「よろしくお願いします」

 

 深々と頭を下げ、アルベドは廊下の向こうに歩いていった。いい尻をしている。あ、そう言えば、カルネ村に冒険者達が来てたなぁ。まだカルネ村にいるかな?いるなら色々冒険者の事を聞いておいた方がいいよなぁ。まぁ、まだモモンガさんが冒険者として冒険したいと思ってるなら、だけど。

 そんなことを考えつつ、俺はとりあえず必要になりそうな物を倉庫から引っ張り出しに向かったのであった。

 あ、そう言えば、あいつ元気かな?せっかく創造したんだから、のんびりしてくれてるといいけど。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 三日振りに帰ってきたエ·ランテルの町。通りを見回せば閑散としながらも、酔った冒険者や普通の酔漢がそこここにいる、人間しかいないいつもの町だ。漆黒の剣のメンバーと雇い主であるンフィーレアはその光景にホッとしながら《 永続光/コンティニュアルライト 》の街灯が灯る道を、バレアレ家の店へと向かっていた。

 実のところ村について一悶着あった後薬草を採取に向かおうとしたのだが、必要となる薬草は事前に採取、加工がなされており、残り二日間予定外の薬草の採取をすることになったのだが。

 

「いんやぁ、なんだったんだろうなぁあの“銃”って武器は」

 

 この短い旅の間にいくつかの疑問を話題にしたりもしたのだが、やはりそれが頻繁に上ってくるのだった。所持者のシズと言う少女はそれこそ変幻自在に筒のような物を操り、時おり現れるモンスターを駆逐していた。轟音、モンスターの頭がはぜ割れる。数回しか目にしなかったが、正直恐怖しか感じなかった。

 

「魔法の類いじゃないことは間違いないみたいだけど……」

 

 ルクルットの言葉を受け、ニニャがそう呟くと、同じく魔法を使えるダインとンフィーレアも頷き、思案するようにンフィーレアがその言葉の後を引き継いだ。

 

「恐らくですけど、錬金術の類いで作った薬品を、あの筒の中で爆発させつぶてを飛ばしているんじゃないでしょうか?」

「本当であるかンフィーレア殿!?」

「ええ、どこかで嗅いだような、金属が焼けるような臭いが白煙の中から匂いました。ただ……それがなんの臭いだったか……」

 

 ンフィーレアは頭を捻る。かつて祖母と何かの実験で使った事がある物の臭いだったような気はするのだが。

 なにか、記憶の欠片が一つの像を結ぼうとしていると、そのンフィーレアの肩を誰かがポンポンと叩いた。その方向に顔を向けると、漆黒の剣のリーダーであるペテルが微笑みながらいた。ずいぶん深く考え込んでいたらしいことに気づき、ンフィーレアは恥じ入るように笑って問い返す。

 

「どうしたんですかペテルさん?」

「ええ、それなんですけど……ブリタさんが仕事の最中に勝手に離脱したでしょう?その件をギルドに報告しなければならないと思うんですよ……契約違反ですし、それに……」

「カルネ村の件であるな!」

「ああ、それな。さすがにゴブリンやらがウロウロしてるってのはちょっとなぁ……」

 

 それは、と言いそうになるがンフィーレアは逡巡する。エンリは問題ないと言っていたが、どうにもやはりあのリュウマと言う人は信用できない。何を考えてあの村を発展させようとしているのか、否、それよりも何よりもあの“銃”だ。あんなものを量産しようとしていると、しかもそれを村人が使えるようにしているとエンリは言っていた。それのどこに問題がないのか。人間大のモンスターの頭を容易く砕くような武器。そんなものを量産しようと言うのだ。絶対になにか企んでいるとしか思えない。

 ある意味企んでいるんだが、ンフィーレアのそれの思考の大部分は不信と嫉妬から来ている事には気づかないし気付けるほど人生経験を積んでいるわけではない、と言うのが悪い方向に拍車をかけている。

 

「けど、俺たち、ろくに仕事してないんだよな」

 

 ポツリとルクルットが呟いた。そう、カルネ村で採取を主に行ったのは、あのやたら強いエンリとか言う子に付き従っているゴブリンだったし、道中出てきたモンスターはシズと言う女の子が全て始末していた。帰り道にはどう言うわけかモンスターの類いは一切出ず、非常に楽に帰ってこれたのだ。だから、ぶっちゃけてしまうと護衛らしい護衛や採取手伝いらしい採取も出来ていない。冒険者としてはあんまりな結果に終わってると、全員思ってたりもするらしい。

 小さく溜め息をついたペテルは、

 

「じゃぁ、あれだ。俺とダイン、ルクルットはンフィーレアさんについて行って荷物を下ろすのを手伝おう。それくらいやらないと報酬も気持ち良くもらえないからな。ニニャは、ギルドの方に行って報告を頼む」

「え?僕が行くの?」

「ルクルットに行かせると帰り道でどこへ行くか分からないし、俺とダインは力仕事向き、そうなったら、報告に向いた能力のニニャが行くのが一番だろ?」

「そーそー、非力なニニャが加わったんじゃ倍も時間がかかるってもんだぜ」

 

 実際問題、ニニャはパーティの中では最も非力だ。その分卓越した魔術の才能があるのだが。ルクルットの言いたいことを素早く察知し、ニニャは小さくため息と微笑みを浮かべ一つ頷いた。

 

「分かったよ。それじゃ……んー、こっちの方が遅くなるかもしれないから宿で待ってるよ?」

「ああ、そうしてくれ。それじゃ、また後で」

 

 そう言いつつペテル、ルクルット、ダインはンフィーレア伴って店の方へと歩き出し、ニニャもまた反対方向へ向かって歩き出した。

 

「ようし、行ったな」

 

 ニニャの姿が完全に見えなくなったところでルクルットがそう呟くと、ペテル、ダインがホッと息を吐いた。

 

「ふぅ、大人しく行ってくれて良かったな」

「まったくである!一番疲労がたまっているのはニニャであるから、先に宿に戻ってもらいたい所である!」

「ああでも言わないと、あいつ、意地でもついてきて色々やるからなぁ」

 

 三人のやり取りを見て、ンフィーレアは不思議に思う。なんと言うかこの人達は必要以上にニニャさんを気にかけているように思えるのだが。

 

「ええと、皆さん、ずいぶんニニャさんを気にかけていらっしゃるようですけど、なにか理由でも?」

「え!?あ~、え~っと……ペテル、任せる!」

「そうですねぇ……まぁ色々理由はあるんですが……まぁ、企業秘密ってことで」

「うむ!本人もバレてないつもりであるし、そこは喋るわけにはいかないのである!」

 

 良く分からないが、冒険者は色々あると言うことを常連さんが言ってたのを思いだし、ンフィーレアはとりあえず疑問は横においておくことにした。その間にも、自らの家がすぐそこまで迫っていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 話を少し戻し、ンフィーレア達とニニャが別れたのを少し離れた家の屋根から見ている人影があった。しばらくキョロキョロと両方を交互に見、そして額をペチンと叩いた。

 

「あちゃー、別れちゃったっすねぇ。さぁて、どっちが冒険者ギルドとやらに行くんすかねぇ」

 

 二房の赤い三つ編みの髪を揺らして、美女な呟く。そして。

 

「んなこと言っても、馬車と一緒に移動してない奴がそうに決まってるよね~。さぁさぁ、リュウマ様の計画がばれないよう、説得をしに行かないとダメっすよね~。そんでもって、リュウマ様に誉めてもらうっすよ~」

 

 その場で軽く踊り出した褐色の肌の美女、ルプスレギナ·ベータは夜の町のなお暗い路地裏に飛び降りるのだった。

 だが、ルプスレギナも気付いていない。その場にもう一人、動く影があるのを。ルプスレギナの立っていた場所、その虚空がゆらりと揺らめく。それは、音もなくルプスレギナの後を追って屋根を飛び降りた。音も、気配もなく。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 家の裏手に馬車を入れて、裏口のドアを開ける。室内は既に灯りが点っており、嗅ぎなれた薬草の臭いが鼻孔一杯に広がる。それを胸一杯に吸い込みながら、ンフィーレアは不思議に思う。この時間、祖母なら起きているはずだ。高齢ではあるが目も耳も達者な祖母が、ドアを開ける音に気づかない訳はないのに。

 

「おばぁちゃん、どこかに出ていったのかな?」

「ンフィーレア殿、これらはどこへおけばいいのであるか!?」

「あ、こちらへお願いします!」

 

 薬草の保管場所を指示し、一緒に額に汗して大量の荷物を運び終え、全員、額の汗を拭う。

 

「お疲れ様です。今、冷たい果実水を用意しますね」

「そいつはありがたいぜ」

 

 額の汗を袖で拭っていたルクルットが、嬉しそうに声をあげ、残る二人もそれに同意するように頷いて見せる。

 

「では、こちらです」

 

 そう言って、ンフィーレアは母屋に三人を案内する。

 母屋の扉を開け、中に招き入れるとルクルットがものすごい顔をした。比較的分かりやすく言うと、漢方薬等を煮詰めたような物凄い臭いが充満していたからだ。さすがのダインも、この臭いには顔をしかめてしまった。しかし、ンフィーレアだけは反応が違った。

 

「おかしいな……」

「どうしたんです、ンフィーレアさん」

「ええ、この臭いは薬草を煮詰めた臭い、なんですけど、これだけ濃密って言うことは煮詰めすぎているんです。おばぁちゃんがそんな失敗をするわけ無いのに」

「あらぁ~?やっぱりばれちゃった?」

 

 そんな声と同時に机の陰から女が出てきた。可愛らしい猫のような容姿だが、なぜか不吉なものを孕んだようなそんな気配を纏っている。

 

「いんや~、遅すぎるよー。遅すぎて遅すぎて、お姉さん待ちくたびれちゃったぞ?」

「あ、あの……どなたですか?」

 

 その言葉に、ペテルが誰よりも早く反応し、背中の盾を真っ直ぐ構えながらンフィーレアの前に立つ。それに触発されて、ダイン、ルクルットもそれぞれの得物を手に前に出る。最初はペテル、そしてルクルット、ダインは気づいたのだ。その女の発する気配が、あのカルネ村で出会った大魔獣、森の賢王に近しく、それよりもおぞましい何かであると言うことを。

 

「あー、初めましてだねー、ンフィーレア君。最初は君をさらうだけで済ませるつもりだったんだけどねぇ~、あんまり遅いからもぉ、心配で心配で」

 

 輝くように笑いつつ、下卑た楽しさを隠そうともしようとせず、女は軽い足取りで近くにあった椅子に歩み寄る。踊るような手つきでその背もたれを優しく撫で、そして力をかけてその椅子を引き倒した。果たしてその椅子から転がり落ちたのは、一人の老婆の、死体。額に穴を空けられた老婆の表情は驚愕に固まっており、流れ出した血が半分ほどしか固まっていないのを見ると、さほど時間は経っていないようだ。

 その老婆の顔を見たンフィーレアは、固まった。驚愕、不信、理解、驚愕と表情がコロコロと変わって行くなか、女は笑顔のまま話を続けていた。

 

「も~、君のお婆ちゃんを殺しちゃうくらい心配したんだからね~。さぁさぁ、お姉さんと一緒に行ってアンデッドの大群を召喚しようか?」

「お、お前、お前がおばぁちゃんを!」

「ん~、なぁにぃ?お婆ちゃんを?殺した?そうだよ~?暇で暇でしょうがなかったからぁ、カジッちゃんが止めるけど我慢しきれなくってぇ?あ、ごめんね~?怒ったぁ?けど、それは全然帰ってこない君が悪いんだよ?」

「ルクルット!ンフィーレアさんを連れて逃げろ!ここは俺たちが食い止める!」

 

 吹き出した悪意に身震いを感じながら、ペテルはそれでも叫んだ。だが、しかしルクルットは動かない。なぜだ。そう思いながら半面をそちらに向けると、ルクルットは短剣を構えたまま入り口、今は出口を睨み付けていた。精一杯の虚勢を口許の笑みにして。

 

「そいつはちょいと無理ってなもんだぜ、ペテルよぉ」

「ゾンビであるか!?」

 

 そちらに目を向けたダインがそう叫ぶ。出口には、数体のゾンビを引き連れた血色の悪い男が立っていた。その男が女を睨み付けながら言う。

 

「遊びすぎだクレマンティーヌ。それにワシが止めておると言うのにリイジー·バレアレまで殺しおってからに……」

「カジッちゃん、メンゴ。けどほらぁ、その日の内に目的の子が手に入ったから、いいじゃんいいじゃん」

 

 挟撃された形になった漆黒の剣の面々が渋い顔のまま武器を構えるのを、狂喜さえ感じさせる笑みを浮かべたクレマンティーヌが舐めるように見る。

 

「んじゃぁ、事前の打ち合わせ通り、音が漏れないようにしてくれてるんだから、ちょっと楽しみましょうか?」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 道を歩いていると、唐突にとてつもない力でニニャは路地裏に引き込まれた。そのまま、一瞬足が浮くほど体が振られ、固い何かに背中を叩きつけられた。骨が軋み肺から空気が絞り出されるほどに衝撃に白目を剥きかけるが、気力を振り絞って耐える。次に、頬に当たる固い何か。自分が倒れていることを認識すると同時、それが地面であることを同時に認識する。

 

「あー、申し訳ないっすよ。そんなに強くしたつもりは無かったんすけどねぇ」

 

 言葉ほど謝罪の意思がこもっていない言葉が降ってくる。そちらに顔を向けると、そこには褐色肌の赤い三つ編みの髪が特徴的な美女が立っていた。その顔には満面の、邪気の欠片も感じさせない笑み。見覚えのある顔だった。確か名前は。

 

「ルプス、レギナ、さん?」

「おおー、覚えててくれたんすね、嬉しいっすよ」

 

 途切れ途切れの言葉をうまく聞き付けてくれたようでホッとしたのもつかの間、ニニャの頭にはいくつもの疑問が浮かぶ。だが、それよりも早くルプスレギナの言葉が飛ぶのが早かった。

 

「いんやー、ちょっと聞きたいこととか色々あったんすよぉ。んでぇ、答えてくれると嬉しいんすけど、どうっすか?」

「何を、聞きたいんですか?」

 

 大分息が整ってきた。ニニャはそれを確かめつつ、しかし苦しそうな演技をやめないままそう聞き返す。返ってきたのは、予想外の言葉。

 

「聞きたいことは一つっすね。冒険者ギルドに、どこまで報告するんですか?」

「え?」

「ん?聞こえないってことはないっすよね?」

「なんで、そんなことを教えなくちゃ……」

「残念、望んだ答えじゃなかったっす。罰ゲーム♪」

 

 脚が掴まれた。そう思った瞬間、再度ニニャの体は宙に浮いて、再度壁に叩きつけられていた。先程よりも力が強かったのか、決定的にどこかの骨が折れた音がしたが、その部位を特定しようにも全身が痛い。それどころか、下半身の感覚が薄い。頭の冷静な部分がそう分析するなか、体は肺の底から空気を絞り出され、背骨が折れたのか下半身が完全に弛緩し様々な液体がニニャのローブを濡らしている。

 

「ありゃ、またまた加減間違えたっすね。尿とか漏れてるっすよ~、はーずかしぃーい」

 

 言葉と同時に何か暖かいものが全身をつつみこんだと思うと同時、全身を襲っていた苦痛は嘘のように引いていった。何をされたか一瞬分からなかったが、理解した瞬間、背筋に氷が入ったような寒気を感じた。それを知ってか知らずか、ルプスレギナはにこにこ笑いながらあっさりとネタばらしをする。

 

「あ、回復魔法かけてあげたっすよ。これで、どれだけ痛め付けてもだーいじょーV!」

「わ、ぼ、僕がギルドに報告しようとしているのは、カルネ村の現状と、銃と言う武器について、です!」

「お?やっぱりそうなんすねぇ……じつはお願いがあるんすよ、君に」

 

 変わらぬ笑顔のまま、ルプスレギナはニニャの耳に手をかけ、続ける。

 

「銃のこと、それとカルネ村の現状について、報告するのやめてもらえません?あ、大丈夫大丈夫、言わなくても大丈夫。きっとこう聞きたいんでしょ?なんで報告しちゃいけないの、って、ね?簡単っすよぉ、私のご主人様のお一人であるリュウマ様が、今のところ外への情報の流出は避けたいって言ったからっす」

「な、なんで?」

「さあ?知らないっす。でも、そんなことどうでもいいじゃないっすか。ご主人様が隠したいんなら全力で隠すのが従者の使命っすよ?さて、返答は?」

 

 やばい。ニニャは本能的にそう思った。この女もまずいが、あれをなんとか隠そうとしているこの女の言うご主人様とやらもまずい。何が狙いかは分からないが、この場をなんとか切り抜けて報告しに行かないと。

 悲壮な決意を固めニニャはルプスレギナの顔を見る。相変わらずのにこにこ顔だ。そこに邪気の欠片も感じられないのが空恐ろしい。唾を飲み込み、唇を舌で湿らせ、ニニャはゆっくりと答える。

 

「わ、分かった。報告、しない」

「あ、嘘っすね」

 

 ゴキリッとどこかで鳴った。女の右手は自分の耳、じゃぁ、左手はどこか。答えは自分の右肩。そして右腕は力なく垂れ下がっている。

 

「ダメっすよ、ダメダメ。嘘をついてもすぅぐ分かるっす。さあ、これ以上痛め付けられたく無かったら、約束するっすよ」

 

 にこやかにそう言うルプスレギナの言葉は、ニニャに届いていない。あくまで肩の骨を外されただけならば神経を圧迫することがほぼないためそこまで痛くない。だが、今はその外れた肩の関節にルプスレギナの指が侵入し神経を何度も何度も掻き乱している。その激痛たるや、もはや言葉も出せず脳内に白いスパークが飛び交うほどだ。

 しかし、そこに救いの声がかかるとはニニャはおろかルプスレギナも思ってもいなかった。

 それは本当に音も気配もなく現れ、艶やかで美しい女性的な低い声で告げた。

 

「お止めなさい、ルプスレギナ·ベータ殿。それ以上やれば、再びリュウマ様に不興を買いますよ?」

「だ、誰っすか!?てか、どこにいるんすか!?」

「おや、そう言えば幽体化と透明化を解除していませんでしたね。これは失礼」

 

 その言葉と同時に、それはルプスレギナとニニャのすぐ側に忽然と現れた。その姿に、ニニャのみならずルプスレギナも息を飲む。

 

「お初にお目にかかります。私、リュウマ様に創造されました者、通称徘徊メイド、ケラスス·エドエンシス·ヨシノと申します。以後お見知りおきを。お気楽にケラちゃんとお呼びください」

 

 そこには、メイド服を着た、鮫がいた。深々とお辞儀をする頭は鮫、袖に通っているのは腕ではなくタコの物を思わせる触腕、そこから幾つかの装甲を取り付けたプレアデスの制服に良く似たメイド服を着込み、短めのスカートから覗くのは六本のタコの物に酷似した触手。それを使って器用に直立する鮫がいた。間違えようなどないほどの、鮫である。

 

「つぅか、ちょっと待つっす!リュウマ様に?創造された!?」

「ええ、そうですよルプスレギナ·ベータ様」

「ああん?ちょっと、聞いてないっすよ!?いや、そんなことより、そんなのがなんでここに!?」

 

 その問いに、ケラちゃんは顎の下で触手を動かす。表情が分かりづらいので良く分からないが、考え込んでいるのか、それとも。

 

「ルプスレギナ様が勝手に出ていかれるのを見て、霊体化して追いかけてきましたが?リュウマ様よりルプスレギナ様を見張るようにと言われておりましたので……それより」

 

 そう言いつつ、鮫の顔がニニャを見た。感情とか一切感じさせない鮫の顔。何を考えているのかさっぱり読めない。

 

「この者を連れ帰りましょう。リュウマ様から直々にお話を聞けば、きっと理解するはず」

 

 そう言うが早いか、触手がニニャの首を掴み締め上げた。一瞬で意識はどろどろと溶け、ニニャは深い闇の中に落ちていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 






この場を借りて炬燵猫鍋氏さんにお礼とお詫びを。
ケラススの名前を考えていただきありがとうございます。こんな感じで使わせていただきました。本当はオーレオールのポジだったんですけどねぇ。

ではまた次回です。

次はちょっと遅くなるかなぁ?

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