The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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 今回の語りはアウラと茶釜さん。

 アウラ、可愛いですよね?
 


3,アウラとぶくぶく茶釜

 遅いなー遅いなー、モモンガ様とリュウマ様、遅いなー。

 私ことアウラ·ベラ·フィオーラは待ちくたびれて痺れを切らしそうになっていた。と、言うか既に切らしている。けど、しょうがないと思うんだよねぇ。あんまりじっとしているのは得意じゃないし、弟のマーレを弄って待つのもどうかと思うし。

 仕方がないからこの円形闘技場の中を走って暇を潰そうとしたとき、闘技場の中央に黒々とした影が落ち、それが伸び上がると扉のような形へと変貌した。あれは、確か〈転移門〉だったはず。転移阻害があるナザリック地下大墳墓にもっとも確実な転移方法でやって来るなど、どこの誰だろう。

 まぁ、誰でもいいか。お気に入りの僕である〈フェンリル〉のフェンに命令を下しながら、背中に背負った弓を手に取り構える。

 だけど、次の瞬間〈転移門〉を潜って出てきたお方に、あたしは一瞬の硬直の後、ばれないように見つからないように大慌てで弓を背中に背負い直した。

 〈転移門〉から出てこられたのは、あたし達の最高指導者であり、慈悲深く、深い配慮に優れたお方、モモンガ様だった。うん、危ない危ない、今のをアルベドに見られてたら、あたし、今ごろ殺されてた。

 白磁のようなお体に神器級の漆黒のローブを身に付けられたモモンガ様はやっぱりかっこいい。まさにあたし達の頂点に立たれるお方だと思う。

 そんなことを考えていると、もう一人〈転移門〉から出てこられた。リュウマ様だ。何時ものように深紅の具足を身に纏ったその姿は正に戦の鬼。 …鬼神、だっけ?うん、間違いないね、額から一本、深紅の角が生えてるから。あんな格好いい角は、お気に入りのシモベの一匹、モノロスに匹敵するか凌駕するね!いや、至高のお方、勇猛さと優しさを兼ね備えたリュウマ様は間違いなくモノロスを超えてる!ビーストテイマーのあたしの見立てだから間違いない!

 あ、もう一人出てきた。あれは…… やまいこ様!?嘘、至高のお方のお一人がこのナザリックに帰ってきてる。なんて何て言うこと!?あまりの衝撃に声を出せないあたしは、それでもこの眼はやまいこ様をロックオンし続けている。流れるような黒髪は腰まで届きそうで夜の闇を煮詰めたような美しさ、端正なお顔には知性を示す眼鏡をかける。それでいて、半魔巨人にしてはやや低い背丈(それでも鬼神のリュウマ様やモモンガ様よりはかなり大きい)からあふれでる力強さは隠しきれない。あれでヒーラーも行えると言うのはすさまじいの一言に尽きると思う。

 ん~?まてよ、やまいこ様がいると言うことは、もしかして……そこまで考えが及んだと同時に、あたしが脳裏に思い描いたお方が〈転移門〉から姿を現したのだ。涙が溢れて止まらなくなり、歓喜が全身を包んだ。あのお方は、あのお方は!!

 

「ぶくぶく茶釜様ーーーーーーーーーーーー!!」

 

 体は自然と貴賓席から飛び出し、ぶくぶく茶釜様の元へと自由落下を始めていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 視線を感じた私は、前に立つやまいこちゃんの逞しい背中から視線が飛んできているだろう場所へと顔?(いや、どこが顔かなんて分からないんだけど)向けると同時に、「ぶくぶく茶釜様ーーーーーーーーーーーー!!」へぶっ!

 

「うおっ!?な、なんだ!?」

「敵か!?やまいこ、パンドラズ·アクター!モモンガさんを護れ!」

「了解」

「承知いたしました!」

 

 モモンさんが驚きの声をあげると同時に、リュウマさんが刀を抜き放ちつつ、カバーに入ったやまいこちゃんとパンドラズ·アクター、モモンガさんよりも前に立つ。さすがの反応だけど、それは私の役目で、ついでにそんなに心配はないよ。

 

「……ぶくぶく茶釜様~~……お帰りに…お帰りに…なられたのですね…」

 

 私の体の上に乗っているのは、私が産み出したNPCアウラだ。あ~、やっぱりそうか、この子も自意識を持って生きてるんだよね、そりゃそうか。それに思い至らなかった私が悪い。

 ひとまず私の体にしがみついているアウラの頭をナデナデした後、ゆっくりと地面に下ろしてもう一回頭を撫でる。

 

「……ただいま、アウラ」

「……お帰りなさいませ!ぶくぶく茶釜様!」

 

 溢れる涙を拭って向日葵のような笑顔で笑って喜んでるアウラ。けど、ごめんね、私、あんた達のこと、すっかり忘れてたよ。モモンさんしか見えてなかったから、ってのは言い訳か。うん、気を取り直して。

 

「大丈夫だよモモンさん。この第六階層の階層守護者、アウラだってば……で、アウラ、マーレは?」

「あ、すいませんぶくぶく茶釜様!ええと……あ、いた!」

 

 アウラの見ている方へと顔を向けると、いたいた、かぁいいかぁいいマーレが。なんでかこっちを見て目を見開いてるんだけど?お、貴賓席から飛び降りて、こけた。ふふ、かぁいいねぇ。うちの弟はクソ過ぎてどうしようもないからなぁ。昔は可愛かったのに。

 

「ぶく…ぶくぶく茶釜様ーーー!おか、おかえ、りな、さい」

「ほらほら、マーレも泣かないの」

 

 泣きながら小走りで走りよってきたマーレを触手で抱き抱え、あまってる触手で頭を撫でて落ち着かせ、モモンさんの方に二人を向き直らせる。

 

「も、申し訳ございません、モモンガ様… 」

「も、もうしわけございません… 」

「なに、構わないとも二人とも、久しぶりの再会だ、本当はもっとゆっくりお茶でも飲みながらゆっくりとさせたかったのだが、な」

「いえ、ぶくぶく茶釜様が戻られて頭を撫でてもらっただけで十分です!」

「ぼ、僕も同じです」

 

 うわぁ、かぁいいなぁ、もう。こんな子達を忘れる私は本当にオタンチンだと思う。

 

 一通り挨拶を終えた後、モモンさんは何でここに来たかって言う説明を始めた。まぁ、ようは能力すべてが使えるかどうかを調べに来たんだけど。

 まず手始めに、モモンさんが魔法の発動の確認をしてる。何体かのかかしを〈火球〉の爆裂でまとめて吹き飛ばす。爆風が私たちを叩きマーレのスカートがめくれあがるのを慌てて触手で押さえてあげる。隣にたってたリュウマさんが舌打ちをしたような気がした。うん、きっと気のせいじゃない。アトデオボエテロ。

 その後、アウラのパッシブスキルの状態異常系が自分達に聞くかどうかを確認する。うん、全状態異常無効はきっちり発動してるっぽい。

 その後、アウラが〈スタッフ·オブ·アインズ·ウール·ゴウン〉に興味を示したので、モモンさんが〈根源の火精霊〉を召喚して二人に戦ってみるかと尋ねたならば、なんとリュウマさんまでそれに加わるといい始めた。

 

「リュウマさん、大丈夫ですか?」

「まぁ、問題ないだろう。二人とも、俺も一緒に戦って大丈夫か?」

「問題なしですよリュウマ様」

「ぼ、僕も大丈夫ですよ、はい、問題ありません」

「そうか、ありがとうな」

 

 そうして目の前で戦いが始まった。

 たしか、リュウマさんは鬼神の侍だったはず。その辺が曖昧なのでモモンさんに聞いてみよう。うん、別にやまいこちゃんを無視してるわけではない。そう、モモンさんの方が詳しいはずなんだ、ずっと一緒にプレイしてるんだから。

 

「モモンさんモモンさん」

「ん?なんです茶釜さん」

 

 むはぁ!振り返ったモモンさんの顔、かっけぇ!

 あんまりにもかっけぇモモンさんにドキドキしながら、とりあえずリュウマさんの能力について尋ねると、

 

「リュウマさんは連撃系の剣士ですよ」

「あー、単発の威力は低いけど連続でスキルを使って無理矢理ダメージを叩き出すんでしたっけ?たしか、特殊なイベントで手に入れたクラスで無理矢理連続スキル使用を可能にしてるって話ですけど…」

「そうですそうです、たっち·みーさん曰く、全てのスキルによる攻撃を当てた場合、ワールドチャンピオンでも耐えきるのが難しいとかなんとか」

 

 まぁ、すべてを当てるのはロマンだからねとも言ってましたが。うん、それは分かる。大体においてワールドチャンピオンという職業の座に着けるような人は、大概たっちさん位の実力者だ。それにまともに攻撃を当てるのは、まぁ、正直無理ゲーだと思う。たっちさんに至っては超位魔法すらシールドで弾き無傷で生還すると言う離れ業をやってのけるのだ。

 

「リュウマさんは確か五十の攻撃を重ねることが出来るらしいですよ?」

「たっちさんに通じるビジョンが浮かばないんだけどモモンさん?」

「たっちさんとリュウマさんの勝負では、リュウマさんの勝率は二割を割り込んでるって話ですからね」

 

 モモンさんとのんびり話をしている間にも、三人の戦闘は非常にスムーズに進んでいる。マーレから各種強化支援を受けたリュウマさんとアウラの攻撃が着実に〈根源の火精霊〉にダメージを重ねていく。これが本当の戦闘かと思ってみていると、リュウマさんが刀を鞘に納め、空間から眼にも止まらぬ早さで青龍偃月刀を引き抜きながら振り抜き即座に空間に仕舞いこみながら空いた右腕で別の武器を取り出す。

 

「出ましたね、マルチウェポン。あれで一通りスキルを繰り出して連携し続ける」

「……いや、あれはただの中二病じゃ……? 」

 

 そんなことを言っている間にアウラの攻撃が〈根源の火精霊〉の頭を掻き消し、戦闘は終了していた。

 

「さすがに余裕ですね」

「80レベル程度じゃ相手にならなかったね」

 

 アウラとマーレが誇らしげにこっちを見て、大輪の花のような笑顔でVサインをしているのを誇らしく思いながら、アイテムボックスから〈無限の水差し〉とコップを持ち出し、二人に差し出してあげる。

 恐縮する二人を宥めてお水を飲ませ、ふとリュウマさんの方を見ると、何かに納得していないように、青龍偃月刀を構えては振っている。聞けば、意識と動きに微妙にずれがあるような気がするんだそうだ。なるほど、分からない。

 そうこうしている内に、次々とこの円形闘技場に各階層守護者達が集結し始め、リュウマさんの周りの空気が張り詰め始めたのを感じた私は、やまいこちゃんの方に目を向けると、やまいこちゃんも同じように緊張をみなぎらせていた。

 何で二人がそんな風に緊張しているのか、私はすぐにピンと来なかった。

 だけど、すぐその答えに行き着いた。二人は、ここにいるNPC達を未だ信用してないのだ。そして、何かあったら直ぐさまモモンさんを庇えるように動くつもりなのだ。

 二人とも比較的慎重なのは知っていた。だけども、私は、なんとも言い様のない気分だった。

 いや、たぶん、その気持ちがなんなのか知っている。知っているけど、私はあえてそれを押さえ込んだ。

 二人に抱いた気持ちは、小さい、本当に小さいけども、それはたぶん、侮蔑と言う感情だと思ったから、私はあえて、自分の気持ちを見て見ぬふりをするのだった。




 ……おかしい、あんまり話が進んでない……

 次回は少し駆け足になって話を進める予定です。

 ……まぁ、予定は未定と言いますけど。

 ちなみにリュウマの外見イメージはFEif白夜王国の長男です。

 感想で突っ込みを入れていただいたのでここに書きますが、やまいこさんの外見はかなーり改変しております。ご了承くださいませ。

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