The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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ここから数話は別の人たち視点になります。
マルチザッピング的な?
時間軸的にはリュウマVSたっち·みー戦開始前から二日以内の話になります。





28,その頃の人たち2

 バハルス帝国皇帝執務室にて、ジルクニフは帝国四騎士の内の二人、“雷光”バジウッド·ベシュメルと“激風”ニンブル·アーク·デイル·アノック、そして帝国の切り札であり皇帝の懐刀フールーダ·パラダインを交え、会議、のようなものを行っていた。早い話が息抜きである。

 

「んで?皇帝陛下はどのような御用で俺たちを呼びつけたんですかい?」

 

 いつものようにバジウッドが無遠慮な態度でそう言うと、隣にたっていたニンブルがその小脇を小突いて注意する。が、それは完全に無視してバジウッドはニヤニヤと笑っている。それに対してジルクニフもニヤリと笑って手を振って答えた。

 

「まぁ、世間話だな。それと、もう一つ。“雷光”殿が連れてきたあのエルフの娘さん……あー、名前はなんと言ったかな?」

「惚けないでくださいよ皇帝陛下。実際は覚えているくせに」

「遊びに付き合ってくれ、バジウッド。そうでなくとも色々と頭を悩ますようなことが多いんだからな」

「それはいかんなジルクニフ。そろそろ正式な嫁をもらってはどうだ?ワシ個人としては、かの黄金の姫をめとれば、王国の事で頭を悩まさなくてもいいと思うが」

「爺、言いたいことは分かるが、かの姫は俺の手に余る。可愛い顔をしているが、実際は頭脳の化け物だ。手紙でのやり取りだけだが、恐らくこちらの手の内を全て読みきってしまっているぞ?……そうだな、妻ではなく片腕としてなら欲しい人材だな」

 

 どこか遠くを見るような目でそう言ったジルクニフを目を丸くしてみるバジウッドとニンブル。人を誉めるときは誉めるが、右腕にとまで言わせた人物に行き合ったことの無い二人は、恐る恐ると言った感じでジルクニフに尋ねる。

 

「皇帝陛下、それは、そのぉ……マジですか?」

「うん?どっちがだ?」

「右腕に、と言うのもあれですが……」

「こっちの考えや行動を読みきってるっつぅ所ですよ」

「あぁ……もちろん、両方とも本当だ」

「しかし、不思議な話だとは思わんかねジル。黄金の姫は、まるで自国を売るような真似を、書面とは言えしている。狙いはなんだ?よもや、自らの国の崩壊を望んでいるのか?」

 

 フールーダの言葉に帝国騎士二人は首を捻るばかりであったが、ジルクニフは違った。口許の笑みを強くし小さく首肯して見せる。まるで、それこそが狙いだとでも言わんばかりであった。

 

「ふむ……なるほどな。王国の崩壊ではなく、王国の貴族の崩壊を狙っている、そういうことか」

「さすが爺だな。恐らく、いや、間違いなくそれが狙いだと思うが……どうも一人で考えているんじゃないような気もするが……今のところこちらに害がない為に、情報だけは有効活用させてもらおう。話を戻すか。それで、バジウッド、明美からの連絡は?」

「今のところ、ねぇな。まぁ、比較的長期になるって言ってたから向こうに動きがねぇんじゃねぇかと」

「邪教、であったか?まぁ、かの娘なら問題ないだろう?」

「うむ。一応、前衛役として“重爆”が赴いているから問題はないだろう。しかし、報告がないとそれはそれで暇なのだ。どうせなら早く帰ってきて話し相手になってもらいたいぞ、まったく」

 

 ジルクニフがそうぼやくのを、その場にいた全員は苦笑と共に迎え入れていた。下手をすれば、この皇帝陛下が最も信頼しているのは、あの純真そうなエルフの娘なのかもしれないのが分かったからだ。あの、帝国四騎士どころか、フールーダすらも上回る、あの。

 

 

 

 

 

「やばいやばいやばい!!イミーナぁぁあ!!まだあの野郎共ついてきてるかぁぁぁああ!!?」

 

 森の中を疾走しながらヘッケランが、少し遅れて走るイミーナに向かってそう叫ぶように問いかける。返答は短いが簡潔だ。

 

「ったりまえでしょ!?数三十!!」

「ちぃ!ロバー、その娘は!?」

「意識は混濁してますが命に別状なし!」

「アルシェ!魔力は大丈夫か!?」

「問題ない!」

 

 五人が森の中を疾走するように、その後ろから武装した三十人の人間が走ってきていた。それぞれ、手に手に様々な武器を持つが、共通するのは古ぼけたような黒のローブで全身を覆っていること、口々に何か呪文のようなものを叫ぶようにしていると言った所だった。

 最後尾をついて走っているウルベルトは、前を走るロバーデイクの背中に背負われた少女とそれを助けようと提案したアルシェを見つつ、なぜ、自らに危険が降りかかるようなことをしたのか首を捻り、一度首を横に振った。この考え方は悪魔のものだ。今、理由を考えるのであるならば人間として物事を考えるべきだと認識する。普段は、これを意識せずに切り替えているが、どうもこういう状況だとその切り替えが巧くいかないことがある。これは、恐らく精神が肉体に引っ張られているためだろう。故に、意識して人間と悪魔の考え方を切り替えるようにしているのだ。

 恐らく、と言う枕詞がつくが、アルシェには肉親、弟か妹が居るのではないかと推測する。以前やまいこが、妹がPKされたと聞いたときの怒りっぷりに、感情の方向性は違うもののどこかよく似ているのがその判断理由だが、どうも当たらずしも遠からずと言ったところのような気がする。

 そこまで考えたところで、牽制の意味も込めて背後に《 魔法の矢/マジックアロー 》を放つ。尾を引く光弾が十発ほど飛び、運の悪いローブの男数人をまとめて吹き飛ばす。ピクリともしないところを見ると、この程度の魔法で即死する程度の輩なら、この面子が囲まれて問題なさそうだが、とは思うが口にはしない。

 

「ウル!?まだ魔法撃てるか!?」

 

 ヘッケランの言葉に、ウルベルトは鼻で笑って答えてやる。とは言え、後ろを見れば人数がさらに増えているようだ。見れば、それなりに身分の高そうな飾りの多い豪奢なローブを着込んだ輩や貴族風の格好をした輩までが加わっている。いよいよ持ってこの面子の足だと逃げ切れそうにない。特にロバーデイク。無論、その体格から見ての通り体力はある方だが装備が重い上、人間一人、少女を背負っているとなれば健脚も鈍ろうと言うものだ。

 最初、この少女が生け贄めいたものにされそうなのを助けたいと言ったのはアルシェだった。最初はヘッケランもイミーナも、ロバーデイクさえも止めていたが、最後はその言葉と行動に渋々手を貸していた。あの時止めることも出来たのだが、あくまで外様、こいつらの行動方針には口を出さないようにしていたのが仇になった形だ。無論、この判断に異を唱えるつもりはない。ウルベルトと言う強力すぎる戦力が加わって気が大きくなっていたのだろうと言う事も分からなくもない。

 小さくウルベルトはため息をついた。つまるところ、これは自分と言う過剰戦力が居たからこそ起きた事であり、原因は自分だと言うことだ。本人たちは認めないだろうが、そう思うことにした。そう自分を誤魔化さないと、とてもこれからやろうとしていることへの言い訳はできないと思ったからだ。

 

「お前ら、先に行ってろ。俺が押さえてやる」

「はぁ!?」

「ウルベルトさん、危険ですよ!?幹部クラスが一人混じっていますし、共に逃げた方が!?」

「問題ない。俺を誰だと思ってやがる。世界的災厄、ウルベルト·アレイン·オードル。歩き回る災厄だ。ぞれに……」

 

 そこまで言ってウルベルトは完全に足を止め、背後から追ってくる連中に向き直る。

 

「幹部クラスが混じってるなら好都合だ俺の欲しい情報が手に入るかもしれないからな」

「なら俺たちも残って……!!」

「不要だ。むしろ足手まといだ……おい、ナイムネーナ」

「誰がナイムネじゃ!!じゃ、なくて、何よ!」

「お前が先導してとっとと森を抜けて最寄りの神殿に急行しろ。三日たって戻らなかったら俺のことは忘れろ。いいな?」

 

 グッと言葉を詰まらせたイミーナは、しかし次の瞬間には身を翻し駆け出していた。心配そうにしばらくウルベルトを見ていた一行であったがイミーナの声に導かれるように森の中を走っていった。

 背中越しの気配で全員がかけていったのを確認し、ウルベルトは首を左右に捻り首を鳴らす。そして、幻影の顔をニヤァと歪め口を押さえる。

 

(いかんなぁ……単純な殺戮を楽しむようじゃ本当の悪とは言えんぞ)

 

 もはや狂乱と言ってもいいような足取りと雄叫びを上げる集団を前にして、ウルベルトはそんなことを考えつつ腕を差し上げ人差し指を一団に向ける。あまり強力な魔法だと幹部が死んでしまうかもしれない。程よい魔法と考えつつ、ウルベルトは魔法を紡ぐ。

 

「我が滅びの雷の前に崩れ果てろ……!!〈 魔法三重化·雷撃/トリプレットマジック·ライトニング 〉!!」

 

 ウルベルト指先から迸る三条の雷は、直線上にいた数十人の人間を巻き込んだ。もし、この世界の魔法使いの能力で放った魔法であるならば、運が良ければ即死は免れたかもしれない。しかし、ウルベルトのワールドディザスターはMPの消費を上げる代わりにその威力を絶大に上昇させると言う側面を持つ。その為、結果は言うまでもないことだ。生きているものなど居ない。普通のやつならば、だが。

 黒こげの死体となって転がる人間に愉悦の感情を顔に浮かべるウルベルトであったが、すぐさまその顔を引っ込め、焼死体の中に立つローブ姿の男を見た。最強化を行っていない為、対抗手段さえあれば抵抗は可能だが、こいつは完全に抵抗できているわけではないようだ。と、すると……。

 

「〈 電気属性防御/プロテクションエナジー·エレクトリシティ 〉か?いや、それもあるが素で魔法への耐性を持ち合わせているのか。なるほどなるほど。お前が幹部で間違いないようだな?」

「くそがぁぁぁあああああああ!生け贄をさらった上で、この、この俺にこのような真似をぉぉぉぉおおおおお!許さん!許さんぞゴミ虫があああぁぁぁあああ!!」

 

 音程の狂ったような叫びを上げる男に、ウルベルトは冷ややかな視線とあわせてその怒りを鼻で笑い飛ばす。

 

「笑わせる。なにがこの俺にぃ、だ。それと、人をゴミ虫呼ばわりする貴様こそ、社会の底辺を這いずり回る死肉食らいよりも下賎なウジ虫以下のゴミだろうが。社会の役に立たず、悪を悪としてなすことも出来ず、上の命令に従うだけのクズが俺にどのような口を利くつもりだ?」

 

 痛烈な言葉を浴びせられた男は、しかし地の底から響くような笑い声を上げる。気でも狂ったかと訝しむウルベルトの前で、男は体を覆うローブに手をかける。

 

「よくぞほざいたな盗人めが!このズーラーノーンの高弟が一人、トムヤ·ムクンが、貴様を地獄に送ってくれる!」

「……美味そうな名前だな。それで?どんな手品を見せてくれるんだトムヤムクン」

「ククッ、ならば見せてやろう!我が師より賜った力なぁ!」

 

 そう言うと同時に、トムヤがローブを脱ぎ捨てる。その下から現れたのは鍛え抜かれた鋼のような筋肉を纏う体。その体には、少なくともウルベルトの知識にはない複雑な紋様が刻み込まれ、それが脈打つように明滅している。

 顎を擦ってその紋様を解析していると、トムヤの右腕に刻まれた紋様が激しく発光し、掌が肥大化し、爪が鋭く伸びる。その光景を訝しく見ながら、ウルベルトは一つ答えを頭の中に閃く。

 

「〈 悪魔の諸相:鋭利な断爪 〉?お前の種族は人間だよな?なぜ、その特殊技術が使える?」

「ほぉ……?その名を知るとはよほど名の知れた冒険者、いや、ワーカーであるらしいな。くくく、これぞ我が師の秘術、悪魔の肉体を人の肉でもって再現する秘術よ。見よ!この切れ味を!」

 

 80センチ程に鋭く延びた異形の爪を振るい、トムヤは手近にあった木の幹を両断し、振りかかってきた本体をさらに寸断して見せた。そして、なんと言うか、ウルベルト的にはぶん殴りたくなるようなどや顔でこちらを一瞥、左腕の紋様も輝かせ、左腕にも同じものを出現させる。

 

「ふむ……少々その技術には興味が湧いたな。さて、どうするか……?」

「何をゴチャゴチャ言っている!隙だらけだぞ賊が!」

 

 言うが早いかとはこの事か。感想はただそれだけだった。今まで見た中では最も早いだろう。しかし、ウルベルトには遅すぎる。左右から襲いかかる爪を掌で受け止め纏めて握る。念のため〈 上位硬化/グレーターハードニング 〉をかけるべきか迷ったが、爪は皮膚を切り裂くことも出来ず掌の中で微動だにしていない。

 

「なっ……!?」

「うむ、上位物理無効化か。この世界では使えるな」

「な、なぜ切り裂けない!?何をした貴様!?」

「うん?見ての通りその鋭い爪を真っ向から受け止めただけだが?では、反撃だ……と、言いたいところだが、どうするか?貴様の身に刻まれた技術、興味深いぞ」

 

 押そうが引こうがびくともしない自慢の爪、それを押さえ込む相手の手を見ていたトムヤは我が目を疑う。腕の輪郭が徐々にぶれ始め、霧のように何かが霧散すると、鋭すぎる刃を生やした獣のような腕がそして、そこに現れた。我が目を疑いながら顔をあげた先には、邪悪に歪んだ黒山羊の姿が。

 

「ひっ……!」

「うん?何を怯えている?お前がからだに宿した種族と同じ種族だぞ?怯えることなどあるまい?」

 

 黒山羊の顔が歪む。笑っていると理解した瞬間、背筋に氷の柱を打ち込まれたように体が震えた。

 

「まぁ、聞きたいこと、知りたいことが山ほどある。じっくりと聞いていこうか?」

 

 

 十数分後。トムヤ·ムクンは物言わぬ骸へと変わっていた。念のため、複数の記憶系の魔法や情報系魔法を使って尋問した末、精神が壊れてしまった為、仕方なく止めを刺した、と言う方が正しい。しかし、とウルベルトは思い直す。結局のところ、自分が欲しい情報を何一つこいつは持ち合わせていなかった。いや、フォーサイトの面子が欲しがるであろう邪教集団、確か、ズーラーノーンとか言う奴等のところに集まっている貴族連中の名前は入手出来たのだが、残念すぎることにナザリックやアインズ·ウール·ゴウンに関してはなんの情報も得られなかった。とは言え、断片的ながらプレイヤーらしきモノの情報を得ることが出来たのは一歩前進。ウジ虫も役に立つものだ、そう思いながらシルクハットと仮面を取りだし身に付ける。

 と、その自分の顔のすぐ数ミリ横を、何かが通りすぎた。地面に目をやると、矢じりだけが地面からこんにちは。狙撃された?そう思うが早いか、考えるよりも先に防御魔法を数種類即座に展開していた。掠めた頬が焼けつくように痛い。恐らく、聖属性付与された攻撃だが、上位物理無効や複数種類の飛び道具対策の施されている自分にダメージを与える存在。よもや。そう思い、手出しを控える。無論、どこにいるかも分からないのに無駄に魔法を使えないと言うのもあるが。

 今度は、構える自分の足元に矢が突き立つ。そこへ目をやり、ウルベルトは一瞬、我が目を疑った。

 木の枝に立つのは、年若い娘だった。鮮やかな勿忘草色の美しく流れるような長い髪に榛色の、ドングリのような大きめの目、起伏が中々素晴らしい体を覆うのは龍鱗の胴当てに短めのスカート。残念ながらその下はスパッツを履いているらしい。手に持つ弓は、所謂和弓と言うあれだ。

 

「おいおい、マジか」

 

 思わず呟くウルベルトに、エルフの少女はやや警戒を緩めながら声をかけてくる。

 

「お尋ねします、悪魔の人!あなたは、プレイヤーですか!?」

 

 悪魔の人、この問いかけに懐かしいものを感じながら、ウルベルトは昔々、まだまだ駆け出しだったあの娘にやった名乗りをしてやることにした。

 

「その通りである!聞け我が名を!恐れよ!我こそ歩く大災厄にしてアインズ·ウール·ゴウン最強の魔法詠唱者、恐怖と絶望の担い手、ウルベルト·アレイン·オードルである!」

 

 大仰な身ぶりと手振りで宣言すると同時に、ウルベルトは深々と頭を垂れる。相手の顔など見なくても分かる。

 高いところから軽い物が風を巻きながら降り立ったのを感じ、ウルベルトは顔を上げる。そこには、笑顔のエルフがいた。だから、頭をポンポンと叩き、ウルベルトは優しく声をかけた。

 

「久しぶりだな明美。元気だったか?」

「お久しぶりですウルベルトさん。元気でしたよ?」

 

 ウルベルトと明美、二人は本当に嬉しそうに微笑みあっていた。

 

 

 数メートル後方に、あまりの圧力を受けて気絶した哀れなレイナースが助け起こされたのは数分後であった。

 

 

 

 

 

 

 




年末は本当にゴタゴタしますね。
次回はなるべく早くしたいですけどねぇ、どうなることやら。

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