The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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遅くなり、大変大変申し訳ない。

ちなみに、今回の話は途中でぶっちぎってます。長いので。

今まで注釈を入れてなかったけど、このお話全体は書籍九巻までの情報を元に書かれております。
ただ、十巻の内容や十一巻の内容も入ることもありますので、ご注意を。





24,その頃の人達 1

 帝都アーウィンタールの骨董市場。その名とは裏腹に、ここに並ぶ店々には様々な魔法の品が置いてある。それこそ実用品から用途の分からないものまで様々だ。

 その骨董市場の中、肩口にバラの飾りのついた豪奢なローブを纏う男が一人。黒髪のかなり目付きの悪い男が、並んでいる品々を興味深そうに一つ一つ丁寧に見ている。時に手にとって、時に店主から説明を受けて一々納得したように頷く様は学者を思わせる。

 

「『口だけの賢者』ねぇ」

 

 センプーキと呼ばれるマジックアイテムを手に取りながら、男は店主の説明にそう呟いた。

 

「そうさ、兄さん。まぁ、そいつが出したアイデアを形にしたって言うだけのもんだが……今なら安くしとくよ?」

「……あいにく持ち合わせがねえな。今度寄ったときにでも買うわ」

「へぇ~、変わってるねぇ兄さん。そんなもんを欲しがる奴なんてのは初めてだ」

 

 感心したように言う店の親父に向かって軽く肩を竦めて見せ、男は軽い足取りで歩き去って行く。その後、しばらくの間、男は店を見て回っていたが、その男に向かって色々と身体的に可哀想な女性が、その後ろに人の良さそうな大男を引き連れて、怒り肩でまっすぐ向かってくるのを見て、口許を皮肉げに歪めて片手を上げた。

 

「よう、ヒンニューナ、どうしたそんなに怒って」

「誰が貧乳だ!イミーナだボケ!」

 

 怒鳴りと共に繰り出された拳は、真っ直ぐ目付きの悪い男の腹に吸い込まれた。大の男ですら蹲るほどの拳を腹に受けた男は、、しかし平然として、殴った拳を押さえて呻くイミーナを心配そうに見ている。どこか、申し訳なさそうでもある。

 

「……大丈夫か?」

「……どんな腹筋してんのよ」

 

 痛む拳を押さえ、イミーナは涙目でその男、ウルベルト·アレイン·オードルを睨み付けた。しかし、正直どんな腹筋をしているかと言われても、恐らく悪魔的な腹筋をしてるんだろ?と答えるしかなく、そしてつい先日これを言ってしこたま怒られたので、取り合えず肩を竦めておく。

 

「んで、ロバーデイク、一体全体何がどうしたって言うんだ?ビニューダがこんなに怒ってるなんてよ」

「誰が微乳じゃ!?」

 

 頭に軽い衝撃。見れば手近にあった木の棒で殴られたらしい。幸いダメージは圧倒的なレベル差によって無い、つまり無視が可能と言うことだ。

 

「怒ってるのは、ウル、貴方がイミーナのむ……ち……身体的特徴でからかって遊ぶからだと思いますよ?……痛くないんですか?」

 

 目の前でガンガン頭をぶん殴られているのに平然としている彼を心配しての言葉ではあったが、ついでに周囲からの奇異な目線が痛いと言う理由もあり、ロバーデイクはそう聞いたのだったが、答えは平然としたものだった。

 

「問題ないぞ。ちっぱいの攻撃なんぞ痛くも痒くもない」

「だぁれぇがぁ、ちっぱいじゃスカターーーーーン!」

 

「ふむふむ、仕事か。で?内容はどんな感じなんだ?」

 

 木の棒がへし折れこん棒に切り替わり、それで向こう脛をしこたまぶん殴られてイミーナが落ち着いたところで、ロバーデイクの場所を変えようと言う提案を受け入れて、大通りまで出た後、屋台で果実水を買いながら、ウルベルトは話が通じそうなロバーデイクにそう聞いた。イミーナは息が切れて果実水をイッキ飲みしているところだ。

 

「まだ詳しい話は聞いてませんけど、今回は帝都から大きく離れるような仕事ではないようですね」

「帝都近辺での仕事か。危険度はどれくらいだ?」

「さあ?報酬もそこそこですから、受けるのは吝かじゃないと思う、ヘッケランは言ってましたが」

「まぁ、ワーカーだもんな。ヘッケランが受けたんなら、そこまで危険じゃないか」

「……ウルは、ついてくるんですか?」

「あ?邪魔か?俺は」

 

 ジロッと睨むようにロバーデイクを見ると、慌てたように両手と首を振ってその言葉を否定する。少々怯えすぎだろうと、ウルベルトは思った。この一週間近く、友好的に接してきたし、悪魔の姿のままじゃ目立つだろうからわざわざ幻術で人間に見えるようにしていると言うのに、失礼な話だ、と勝手に憤るウルベルト。

 

「いえいえ。情報収集も終わってないようなのに、こっちを手伝って大丈夫かと思いましてね?」

「ああ、そう言うことか。まぁ、色々収穫があって面白いが、今のところ古巣の情報は手に入らない。時間をかけてやっていくつもりだから、気にするなよ」

「それも、仲間からのアドバイスですかね?」

「『急いては事を仕損じる、何事も慎重に大胆に足場を固めながら行うのが成功への近道ですよウルベルト』……俺たちの軍師の言葉だな。まぁ、要は気長にやれってことだろうけどな」

 

 リアルじゃ、それで失敗したからなぁ。最終日にギリギリ間に合って良かったやら悪かったやら。そんなことを考えながら、ウルベルトは果実水を口に含む。柑橘系の爽やかな香りが鼻から抜けるのを楽しみつつ、からかって楽しむ相手、イミーナを見ると、いつのまに買ってきたのか腸詰めをこんがりと焼いたものをハムハムと頬張っているところだった。前から思っていたが、これだけ細いのにこいつはよく食う。健啖家だ。なんで肉がつくところへ肉がつかないんだ、と失礼なことを考えていると、イミーナが元々きつめの目付きを更にきつくしてウルベルトを睨んできた。

 

「何よ?」

「美味そうだと思ってね。まぁ、よく食べよく太るといい。どこに吸収されてるのか知らんけど」

「刺のある言い方ねぇ、そんなんじゃ女の子にモテないわよ?」

「……重々承知してるよ」

 

 少々どころではないほど気落ちした声を聞きイミーナが笑うのをきっかけに、三人は歩き出す。目指すは活動拠点である“歌う林檎亭”である。

 歩くこと十分、見慣れ始めたいつもの店に入ると、何人かの荒くれ者共が三人を睨み付けるように見たが、ウルベルトを視界に収めた瞬間、残像を残す勢いで顔をそらした。この店で恐れられる男、ウルベルト。初日に少しだけ遊んでやっただけだと言うのに、酷い奴等だ。

 構わず奥へ進むイミーナの後ろをついて行くと、いつも通りの席で、ヘッケランが武器や道具を点検していた。しかし、こちらに気づくと顔を上げて笑顔と共に手を振って、整備用の道具を袋に仕舞い込み始めた。

 

「ヘッケラン、仕事だって?」

「そうなんだよ、聞いてくれよウル」

 

 嬉しそうにうきうきとしたヘッケランの口調に、よっぽど報酬が高い仕事だったんだろうと思いつつ、ウルベルトは椅子に深く腰を掛ける。その隣にロバーデイク、ヘッケランの隣にイミーナが座ったのを確認し、ウルベルトは一同の顔を見回し首を捻った。

 

「アルシェがいないが、どうした?」

「あんたが嫌いだから来ないんじゃないの?」

「……やめろよイミーナ……マジで嫌われてそうで軽くへこむからよ……」

 

 肩を落としてため息をつく。この一週間近くでこの面子とは比較的友好に接してきたお陰か、それなりに仲良くなったが、あのアルシェとは、なぜだかいまいち仲良くなれてない。むしろ、いまだに警戒されている節がある。チーム内での役割が被る上に能力的にこっちが高いのが悪いのか、はたまた……。

 

「俺が悪魔だから警戒されてるのか……」

「それは普通に警戒します」

「……そうなのか……悪魔、かっこよくない?」

 

 おずおずと切り出せば、目に飛び込んでくるのはロバーデイクの苦笑顔。イミーナも鼻で笑いヘッケランは肩を竦める。

 

「さて、アルシェが来てから話そうと思ってたけど、先に依頼の内容を話しておくぜ」

 

 あからさますぎるほど肩を落としたウルベルトを無視しながら、ヘッケランは努めて明るい口調で両手を打ち合わせた。小気味のいい音と同時に、イミーナとロバーデイクもそちらへ注目する。ウルベルトも、一応気を取り直して耳だけはそちらへ向ける。一応仲間扱いだが、彼自身思うところもあり、彼らの行動方針には極力口を出さないようにしているのだ。

 

「今回の依頼は、簡単に言えば現地調査なんだが、拘束期間はそれなり、その分報酬もかなり期待できるって依頼だぜ?」

「ええと、ヘッケラン、具体的にどのような調査の依頼なんですかね?まさか野性動物の調査とか、言わないですよね?」

「そんな依頼、受けねぇよ。なんでも、元貴族の連中がはまってる宗教があるらしいんだが、邪教の類いらしい。んで、そこに出入りしてる元お貴族様を一人残らず調べ上げて報告するってのが今回の依頼だな。調査の期間がいまいち分からないからか、一日辺りの金も中々のモンだ。具体的には、これくらい」

 

 そう言いながら周囲を見回した後、ヘッケランはこっそり指を五本立てた。

 

「金?銀?銀だったら、かける10くらいかしら?だとしたら受ける価値はないわね」

 

 イミーナの突っ込みに、ヘッケランは勝ち誇った笑いを浮かべ首を振る。

 

「金でこれ。少なくとも十日は拘束される計算らしいぜ?」

「一人頭ですかね?それともチーム全体で?」

「一人頭だ。ついでに危険手当ても出るらしい」

 

 胡散臭い。イミーナとロバーデイクが思ったことはそれだ。秘密厳守、危険もそれなりにあるだろう事は予想できるが、それにしても報酬が高すぎる。無論、ワーカーに回ってくるような仕事ならば、それ相応の裏があり、伝えられてないような情報だってあるだろう。そして、その裏をとってくるのを忘れないのが、このヘッケランと言う男である。

 

「まぁ、俺も最初は怪しいと思ったんだけどなぁ。そこの邪教の裏をとって納得したぜ。どうも、ズーラーノーンじゃないかって話だ」

「……ズーラーノーン?なんだそりゃ?」

「秘密結社、と言うところ。内情は不明だけど、それこそあらゆるところで活動してると言う話」

 

 答えが後ろから返ってきた。そのまま視線を後ろに向けると、相変わらずの仏頂面でアルシェが立っていた。イミーナに勧められるまま、ウルベルトから距離を置いてその椅子に腰をかけるアルシェを見ながらウルベルトは表情に出さないように小さくため息をつく。嫌われていると言うよりは、どちらかと言えば警戒されていると言ったところか。まぁ、初対面で嘔吐させたんだ、当然と言えば当然かもしれない。

 

「あぁっと、そのズーラーノーンとやらは、ぶっちゃけやべぇのか?」

「うーん、そうだな。ぶっちゃけると、狂信者って怖いだろ?全体的にはそんな感じだな。だが、その幹部クラスは冗談抜きでヤバイらしい。俺たちじゃ、恐らくどうにもならないだろうな」

 

 ヘッケランの言葉に、そこにいた全員が軽く頷いたのを見て、ウルベルトも軽く頷いて思考する。もしかしたら、そいつらなら、ナザリックの情報、もしくはその断片でも持ってるんじゃないか?……望みは薄いか?

 結局、フォーサイトの面々はこの仕事を受けることにしたようだ。特に、どういう理由かは分からないが、アルシェがノリノリだったのが気にかかるが、とにもかくにも一行は、一週間分の食料などの買い出しに走ることになるのだった。

 ロバーデイク、アルシェと共に食料の買い出しに出たウルベルトは、ズーラーノーンの事を二人に聞いては見るものの、なんと言うか分かったことは、『よく分からないが悪い組織』と言うことだけであった。まぁ、その信者や幹部連中が不死になりたいからと所属しているのは確かのようだ。

 

「あぁ、そうそう。ウル、聞きましたか?」

 

 話が一段落したところで、ロバーデイクがそう言った。なんの話かわからずに首をかしげると、同じようにアルシェも首をかしげていた。

 

「えっと、なんの話だロバーデイク」

「ビーストマンの話ですよ。アルシェも聞いてないんですか?」

「聞いてない。ちょっと、忙しかったから」

「俺は小耳に挟んだな。なんだっけか?どっかでワーカーのどこぞの誰ぞがビーストマンの群れに遭遇したんだったか?」

「ええ、ええ、それですそれです。その話を聞いたあと、ヘッケランと情報を集めたのですが、少なくとも500匹ほどのビーストマンの群れだったと、そのワーカーは言ってましたねぇ」

 

 数を聞いてアルシェが息を飲むが、その隣のウルベルトはピンと来てないらしく、軽く首を捻ってアルシェに質問をぶつけた。

 

「なぁ、アルシェ。ビーストマンの難度って、どれくらいだ?」

「え……?確か、難度は30だった、はず」

「それはごく一般的なビーストマンで、中には英雄級に匹敵する難度90を数えるような個体もいますね」

 

 確か、難度は元のレベルかける3だったか?つまりレベル10が500匹?雑魚じゃん。そこまで考えてウルベルトは頭を振った。自分基準で考えてはいけないのだと。この世界の人間は弱い。一般人で1レベルかほんのちょっと程度のレベルならば、基本10レベルのモンスターはもはや脅威以外の何者でもないだろう。

 

「まさか、その群れがこっちに迫ってるとか、そういう事態じゃないよな?」

「ええ。なんでも竜王国の方へ向かっていったそうですよ?」

「じゃぁ、問題ないだろ」

「もしかしたら、竜王国からヘルプが入ってお金儲けのチャンスかと思ったんですけど、入らないってことは滅んだのか退けたのか……」

「もしくは、ガセだった、って話かもしれない」

 

 アルシェの言葉に、ロバーデイクは苦笑を浮かべながら首を横に振ってそれを否定する。

 

「嘘じゃないんですよ、アルシェ。事実、どうも帝国の部隊の一つが遭遇して戦闘を行い、壊滅状態に陥ったようですので」

「……国をあげた大騒動じゃないか?皇帝は動いてないのか?」

「動いている気配は無いですね。様子見か、それとも……」

「まぁ、ワーカーには関係ないか。とにかく、食料品とか買い込もうぜ」

 

 そう言って話を切り、ウルベルトは二人を伴って買い出しに向かうのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 カルネ村にリュウマが戻ってきたのは、正午ももうすぐと言った時間だった。すっかり遅くなったもんだと思いながら、本日連れてきた二人を向き直ると、なぜか緊張した様子で姿勢を正す二人。一人は、女性の体に犬の頭のついた異形種、ペストーニャ·S·ワンコ、そしてもう一人は、なぜか漆黒のイブニングドレスを身にまとった妖艶な雰囲気の美女である。

 二人に向き直ったリュウマは、努めて朗らかに語りかける。

 

「いやぁ、悪いな二人とも。忙しいのにわざわざ来てもらって」

「いえいえ、リュウマ様のお役に立てるのであれば、こんなに嬉しいことはございません……わん」

「わ、私も、卑賤な下僕の身でありながら、お声をかけていただけるなど、感謝と感激に耐えませんわ」

 

 うわぁ、忠誠心尋常じゃねぇ。ちょっとだけ、美女の方の言葉にドン引きしながら言葉を続ける。

 

「じゃぁ、二人に仕事の詳細を説明するとだな。ペスには村人の診療を頼みたい。疫病とか困るし。特に子供に重点を置いて頼む。あー、PTSDとかも、可能性はあると思う。やまいこが言ってた」

「承知いたしました……わん。治療と診療でございますね。問題ありません……わん」

 

 その言葉にひとつ頷いて、今度は美女の方に目をやる、と一瞬ビクッとした。デミウルゴスはどんなことを言ったんだろう、自分の配下に。

 

「あぁ、そんなに固くなるなよ、嫉妬の魔将」

「いえ、いえいえ至高のお方に無礼があってはなりません!これは、当たり前なのです!」

「え?俺は、よっぽどじゃない限り処罰しないから、大丈夫だぞ?まぁ、いいや、本当はよくないけど。確か、嫉妬の魔将は召喚系が得意、だったよな?」

「は、はい!無論、至高の方々には遠く及びませんが、それなりに行使できると言う自負はございます!きっとお役に立って見せます!」

「え、うん、ありがと。あぁ、それで、嫉妬の魔将……呼びづらいな、なんか名前つけていい?」

「へう!?」

 

 妙な言葉と同時に目が見開かれ、嫉妬の魔将が固まった。何がどうしたと言うのか。

 

「ど、どしたん?」

「お、恐れ多いことでございます!私のような下僕に名前など……!」

「……個別の名前がないと困るだろう?ペス、なんかいい名前はないか?」

 

 話を振られたペストーニャは、顎の下に指を添え、少し考えた後にっこりと(本人的には)微笑んだ

 

「そうですわね、アンジュ、などいかがでございましょう……わん」

「ん、いい感じだな。じゃぁ、今日からお前はアンジュな」

「は、はい……拝命させていただきます……!」

 

 一々重い返答に軽くため息をつきながら、リュウマはやってもらいたいことを伝える。

 

「アンジュには少女を一人鍛えてもらいたいんだ」

「少女でございますか?よもや、リュウマ様の寵愛を賜っているエンリと言う村娘でございますか?」

「え?どんな噂なのそれ……?あ、いい、聞かなくてもわかるけど、別にそういう関係じゃないからな?で、だな。アンジュに頼みたいのは、まぁ件のエンリの妹のネムの方なんだ」

「と、申されますと?」

「うむ、どうもこのネム、召喚系魔法が使える、らしい。感覚で話されるからよく分からないんだが、どうもそっちの才能があったらしい。で、鍛えようと思ったが知っての通り、俺は近接戦士職、やまいこはヒーラーじゃんで、そっちの知識がゼロ。そこで召喚系魔法が得意なお前に来てもらったんだが……子供は好きか?」

「それなりに好きですわ。と、申しますか、我々悪魔は基本的に人間が好きですの。無論、その嗜好はそれぞれですが、私は、人間に嫉妬するほど好きですわ」

「悪魔はネジ曲がっとるのぉ……そろそろカルネ村見えてきたな。じゃぁ、ついたら村人に紹介した後、仕事にとりかかってもらうか」

「承知いたしました……わん」

「この命に替えましても」

 

 二人をつれて村に入った後は、リュウマが想像した以上にスムーズに事が進んだ。村人たちはあっさりと二人を受け入れたのだ。とは言え、これには、まず、リュウマが連れてきたと言う点と、嫉妬の魔将ことアンジュの容姿が大いに関係しているのだが、リュウマにはいまいち分からない。

 ネムに関しては、アンジュ曰く、すでにサモナーを習得しているらしく、これからその能力を伸ばす訓練に入るらしい。ネムもアンジュにわりとなついているようではあるし、アンジュもネムが気に入ったようなのでこれはこれで問題ないと思いつつ、先に来ていたルプスレギナと、ハムスケに乗って移動するシズと共に、本日も硝石作りのスタートであった。

 

 硝石を作りはじめて小一時間ほどしたところで、ジュゲムがリュウマの元へと走ってきた。

 

「どうした、ジュゲム……だっけか?」

「へぇ、ジュゲムです。リュウマの兄さん、村に馬車がやって来てます。数は一台、荷台に五人、御者席に一人。荷台に乗ってる奴等は武装してますな。どうなさいます?」

「エンリはなんだって?」

「一応傷つけることなく、まずは話し合いで、と言う手はずになってますが……」

「んじゃ、俺が行くわ。なんかあっても制圧できるし。今日の門番は……ハムスケか」

 

 

「なんだか、村の様子が違うような?」

 

 遠くに見えるカルネ村を視界に収めて、ンフィーレアが呟くと、軽薄そうな細身の男、ルクルットがその横に立ち、目を細めてその光景を見た。

 

「なんか、すっげぇゴツい、丸太かな?丸太で作られた壁が見えるんだが……村なのかあれ?要塞って言った方がまだしっくり来るぜ」

「ええ!?いや、しかし、あそこは普通の村のはずですし……」

「もしかしたら、なにかあったのかもしれないである!」

 

 話に入り込んできたのは口回りにボサボサの髭を生やした大男、ダインであった。

 

「ダイン、あまり不安になるようなことを言わない方がいいですよ?」

 

 それを嗜めたのは、中性的な顔立ちの魔術師、ニニャだった。

 

「おっと、これは失礼したである」

「とにかく、急いだ方が良さそうだな」

 

 そう確認するように言ったのは、二十歳そこそこの戦士風の男、ペテル。

 

「ルクルット、周囲の警戒を頼む。ニニャ、ダインはいつでも戦闘できるように準備を、ブリタさんは、ンフィーレアさんから離れず、護衛をお願いします」

「了解。後、さん付けはいらないよ、ペテル」

 

 答えたのは赤毛の女戦士、ブリタ。勝ち気な笑顔を浮かべながら、片手に小型盾、片手に幅広の剣を持ち、御者台に立って、構えをとる。

 そのまま一行は何事もなくカルネ村の前まで到着した。そして、絶望したのだった。

 

「そこで止まるでござる。この村に何用でござるか」

 

 カルネ村の巨大な木製の門の前には、一匹の強大な魔獣が立ちふさがっていた。

 

 

おまけ

 

「ウルベルト、ちょっと聞きたい」

 

 お茶を飲んでいると、アルシェが唐突にそう切り出してきた。久しくこの少女から話しかけられていなかったウルベルトは、少々嬉しく思いながら先を促すように一つ頷いた。

 

「その姿って、その、種族的な能力で変身してるの?それとも、魔法?」

「ああ、この姿な?これは《 完全幻覚/パーフェクトイリュージョン 》と言う魔法で作った幻覚だ。視覚、触覚、嗅覚を騙すことが出来る幻影を作り出す魔法だな」

 

 ゲームでは嗅覚なんか実装されてなかったしな、と言う言葉を飲み込んで説明すると、アルシェは感心したように何度も頷いて、手元に持っていた羊皮紙をまとめたメモ帳に書き込んで行く。

 

「勉強熱心だな」

「知らない魔法を知りたくなるのは、魔法詠唱者にとっては当たり前だと思うけど?……これがあれば、色々出来そう。ウルベルト、その魔法は何位階なの?」

 

 問われ、ウルベルトは顎に手をやり考える。そして思い出したように手を打った。

 

「第八位階だな」

 

 アルシェの顔に、絶望が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 






次回はもうちょっと早くあげたいな、と思います。

ではでは次回です。

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