The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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遅くなりまして申し訳ない。
最新刊の11巻を読んで……ません!!
どこにも置いてねぇぇぇえええ!!
あと、雀蜂に刺されました。さすがに死を覚悟したんですけど問題なく投稿できました。

あ、強引かつ捏造全開ですのでご注意を。





23,英雄の鼓舞

「あ、本当に茶釜さんだったんですか?」

 

 馬車に揺られ、向かいに座る丸顔美少女を見ながら、たっち·みーはなんと言うかどうとでも取れるような声音でそう言った。むしろ、そろそろ三十路を迎えそうな女性が、見知ったピンクの肉棒じゃなくて、ツインテールにピンク基調のドレス風鎧に身を包み、嬉しそうに友人の隣に座っているのを見て、どういう感想を述べろと言うのか。

 

「そうなんだよぉ、たっちさん。なぜか人化スキルで変身するとこうなっちゃうんだ」

 

 なんでそんなに甘ったるく喋るんですか?思わず口にしそうになった言葉を飲み込み、今度はモモンガの左側に座る完全武装の人物に視線を送ると、その相手は優雅に頷き返してきた。言われてみれば、その動作の細かいところは、女性の柔らかい動きだと思った。まぁ、肌の露出が一切無いので不気味以外の何者でもないが。

 

「そして、こちらがアルベドですか……モモンガさん、なんでアルベドと茶釜さんの二人と腕を組んでるんですか?」

「いや、それは部下とのスキンシッ……」

「失礼いたしましたたっち·みー様。私ことアルベドは、モモンガ様の妻に、つ·ま!になるので、こうやってスキンシップをいたしておりますの」

「え?いや、アルベド、ちょっとま……」

「まだ決まった訳じゃないでしょアルベド!その座、私は渡すつもりはないわよ!」

「ちょっ、茶釜さん?おちつい……」

「あらあら、茶釜さん、もう既に私は助走段階ですのよ?まだスタートラインに立っただけのあなたに、何が出来ますの?」

「ふっふーん、甘い、甘いわねアルベド。むしろ激甘過ぎてヘドが出るわよ」

「どういう意味かしら、茶釜さん?……はっ!まさか、既にモモンガ様と!?」

「ふふ、そうよ、私とモモンさんは、一晩、同じベッドで“寝た”のよ!!」

「!!!???」

 

 背景に荒波でも見えそうな勢いでそう捲し立てた茶釜の前で、驚愕に顔を歪め、たのは兜で見えないが、雰囲気だけは驚愕したような感じでショックを受け項垂れるアルベド。それを尻目に、たっちはモモンガをジーッと見つめた。

 

「あ、いやいや、違うんですよたっちさん!夜寝てる内に茶釜さんがベッドの中に潜り込んできて朝まで一緒に寝たと言うだけの話でして!」

「モモンガさん、男女七歳にして席を同じゅうせず、と言う言葉がありましてね?いや、成人しているもの同士ですし、あまり細々と言うのもあれですので、一言……責任はとりましょうね?」

「だから、なにもしてませんってばたっちさん!ちょっと、窓の外には何もありませんってば!」

「さぁ、モモンガさん、本題に入りましょうか?」

 

 どこか懐かしいやり取りを、笑いと共に一旦横に置き、たっち·みーは横に向けていた顔をモモンガの方へと向けた。それを受けたモモンガも、居住まいを正し、たっち·みーの顔を見る。

 

「このビーストマンの大進行、私は少々不自然な感じがします。“仕組まれた”と言えばいいんでしょうか?その辺り、モモンガさんはなにかご存じではないですか?」

 

 確認するように問うたっち·みーの言葉を真正面から受け止め、モモンガは小さくため息をつく。それを見ながらたっち·みーは思う。どうやって息を吐いてるんだろう。骨の中に空洞があって、そこから空気を押し出しているんだろうか?そうだとすると、骨が脆くなるんじゃないだろうか?これは、毎日牛乳を飲んでもらわないといけないかもしれないな、と。

 心の底からどうでもいいことを考えているたっち·みーの前で、モモンガは乾いた笑いをあげた。

 

「たっちさんにはバレますか……ええ、今回、我々が仕込みを行いました。理由の一つとしては、女王陛下の前で言ったように、我々の国を作るためです。もちろん、ナザリック地下大墳墓があるので本来なら国を必要とはしないのですけど、これから転移してくる可能性のあるメンバーへの目印としての意味合いがあります」

「……ちょっと待ってください。私以外に転移してきているメンバーが居るんですか?」

「んーと、現在ナザリックで確認できているメンバーは、モモンさん、私、やまいこちゃん、リュウマ、愚弟かなぁ?転移して来ている可能性のある面子の残りは、ウルベルトさんだねぇ」

 

 質問に答えた茶釜が、のんびり指を折りながらそう言った。少々甘え声なのを無視し、たっち·みーは考える。あの日、いったい何人が自分と同じ考えでログインしていたのか、と。

 と、そこでふと疑問に思い、二人に尋ねる。

 

「なぜ、ウルベルトが転移して来ていると分かったんです?」

「それに関しては、まだまだ調査中ですが、とある物が三人分無くなっていたんですよ、たっちさん。それと同時にペロロンチーノが合流、ついでニグレドの魔法でたっちさんを発見、そうなると、後はウルベルトさん以外残ってないから、と言う推測ですね」

「とある物?なんです、それは?」

 

 不意に、たっち·みーの言葉に剣呑なものが混じる。殺気よりも怒気と言った物の方が強いが、アルベドが小さく腰を浮かし、茶釜が足元の置いておいた盾を持ち上げるには十分なものだった。モモンガですら物理的な圧力を感じるような怒気は、しかし、次の瞬間には霧散し、たっち·みーは額を押さえて手を振った。

 

「ああ、三人とも申し訳ない。やはり、少々感情的になってるらしいですね、私」

「異形化の影響でしょうかね……?ええと、その辺りは後々という事でいいでしょうか、たっちさん」

 

 どこか腰の引けたような声に、たっち·みーは心の中でモモンガに謝りながら小さく頷いた。

 

「ふぅ……こんな狭い中でたっちさんと戦うなんて、ゾッとしますよ」

 

 冗談のようにそう言って、モモンガは流れてもいない汗をぬぐう真似をして言葉を続ける。

 

「とりあえず、その辺りは置いておいて、まずはこれからの作戦の説明をしたいと思いますけど、大丈夫ですか?」

「私は問題ないですし、二人も問題ないのなら、大丈夫です」

「では……今回呼び寄せたビーストマンの混合部隊はデミウルゴスの考えたロジックにしたがって動いています。とは言え、それはごく単純な、竜王国を襲え、というものです。我々は、40レベル台の下僕を十体連れた部隊の幾つかでこれを迎撃、殲滅します」

「部隊指揮官は誰がつくんですか?」

「やまいこさん、コキュートスですね。俺と、ペロロンチーノ、茶釜さん、そしてセバスは遊撃と言うか単体で戦闘をするとしてあります」

「……あれ?リュウマ君はどうしたんです?」

 

 ふと疑問に思いそう聞くと、アルベド、茶釜と顔を見合わせ、ため息をついた。なんだ、どうしたと言うんだ。まさか、彼に何かあったのか。

 

「なにか問題が?」

「いや~、問題はないんだけど、性格的な問題だね、これは」

「リュウマ様は一方的な虐殺をお嫌いになっているとのことですので、勝手ながら、私とデミウルゴスの連名により、本作戦から離れていただきました。現在は、ナザリックが最初に接触、保護した村にて、発展の陣頭指揮とこの世界の人間のレベルアップの実験を行っております」

 

 なるほど、とたっち·みーは頷いた。彼と出会ったのは集団に追い回されているときだったからなぁ、と少しだけ昔の事を思い出す。もしかしたら、そのトラウマもあるんじゃないか?ケアが必要だな。この時たっち·みーはやっぱり微妙にずれたことを考えていた。

 

「ああ、そう言えば、砦より向こうの疎らに存在している村の人達はどうするんですか?」

「一応、下僕を一斉に解き放ってさらってくるような手筈にはなっているんですが。アルベド?」

「はい。とりあえず運搬能力のある下僕と隠密能力のある下僕を向かわせております。今回の作戦において重要なのは、この国の人間の信頼を少しでも得ることでしたので、なるべく穏便な方法で拐うようにしておりますわ」

 

 なるほどと納得し、たっち·みーはアルベドに軽く頷き返し、広めの馬車の窓から外を伺うと、この数日ですっかり見慣れた砦が目に入ってきた。石造りの堅固な砦であり、そう易々と陥落しないであろうその砦は、現在この遠い位置に居て分かるほど人がいるようだった。かなりの数の兵士が詰めているとは言え、あの数は異常じゃないかと思って首を捻っていると、モモンガと茶釜も同じように窓を覗き込み、同じように首を捻ったのだった。

 

 一行が砦に到着し、最初に目に入ったのは、重厚な鎧を身に纏った歴戦の兵士っぽいおっさんと、執事服を身に纏ったナイスミドルが、何やら会話をしている光景であり、素晴らしく背の高い女性が、よく似た顔立ちのメイドと共にスープを難民のような人々に振る舞っている光景であり、ライトブルーに輝く甲殻を惜しげもなく晒しながら、兵士に遠巻きにされている蟲王の姿であり、幼女とその母親に粉をかけようとしているバードマンの姿であった。

 

「ちょっと愚弟をぶっ飛ばしてくるわ」

 

 そう言って茶釜が駆け出すのを、誰が止められただろうか。あのたっち·みーですら止められないほどの怒気を放ち、茶釜はペロロンチーノに向かって駆け出していた。

 輝くバードマンが悲鳴と共に宙へ打ち上げられるのと、物見櫓に立っていた兵士が悲鳴のような報告を叫ぶのは、果たしてどちらが早かったか。

 

「ビ、ビーストマン襲来!迎撃準備ぃぃぃぃいいいいい!」

「さぁ、たっちさん、国作りの初めですよ」

 

 悲鳴のような報告と怒号が辺り中から響き、兵士達が忙しく動き回り始めるなか、モモンガの落ち着いたいっそ優しげな声は、静かに響き渡った。

 

 

 地の果てを埋め尽くすような数のビーストマンが大地を駆ける。その目は血走り口角から泡を吹き出しながら、しかし止まることなく明確な意思をもっているかのように、竜王国の防衛の要へと一直線に駆ける。

 対する人類もまた、弓に矢をつがえ明確な敵意をもって砦にこもる。しかし、それと同時に絶望も同量にその場にはあった。

 本来、人間とビーストマンとの戦力差は10対1と言われている。無論、ビーストマンが10で人間が1だ。その戦力差をなんとか埋めていたのが戦術であり戦略であったのだが、それでもたかが百に満たないビーストマンの襲撃でも多大な被害が出ていたのだ。そこに、軽く見積もっても四千以上の大群が現れたのだ。その絶望はいかほどか。

 誰かが息を飲む音がはっきりと耳に届く。長弓の射程まで後、ほんの少し。緊張が最大まで高まる。獣臭い息がここまで届くような幻覚さえ感じるなか、衛兵隊長の手が振り下ろされ、弓の弦から指が離れるその瞬間。

 先頭を走っていたビーストマンが光の爆発に巻き込まれ、そのまま消滅してしまった。爆風が兵士の顔を叩くなか、呑気な声が聞こえてくる。

 

「お~、弾けて消えたなぁ。ああ~、ここにシャルティアがいたら、『さすがペロロンチーノ様でありんす!抱き締めて!ア○○の中まで!』って展開で俺も人目も憚らずロリ○○ルに白濁を注ぎ込むんだけどなぁ」

「おい、愚弟!後でバスケやろうな!?ボールはお前だがな!」

 

 悲鳴をあげる輝くバードマンが、弓に矢をつがえる動作をすると、太陽の輝きにも似た光の塊が発生、次の瞬間とてつもない速度でそれが空を駆け、今度は敵の中央辺りで再び光の爆発が起きた。

 それとほぼ同時、誰かが悲鳴をあげた。兵士達がそちらへ目を向けると闇を凝り固めたような門が砦の前に出現し、そこから巨人が姿を表した所であった。その両腕には刺のついた凶悪な形状のガントレットが装着されていた。その背後からは、見事な装飾を施された武具で身を固めた骸骨が静かに続き、その巨人の横には先程までスープを配っていた見目麗しいと言う形容が霞むほどの美女が立っていた。

 砦の門が開け放たれる。そこから現れ出でたのはライトブルーの甲殻を持つ蟲の王。その四本の腕にそれぞれ武器を持ちゆっくりとした動作で巨人の元へ歩んで行く。こちらにも同じように黒髪の清楚な東洋系の美女がメイド服を着て付き従っていた。その背後にはどこから現れたのか異形の虫が十匹ほど付き従っていた。

 

「やまいこ様、コキュートス、参上致シマシタ」

「ご苦労様、コキュートス。ナーベラルも、お疲れさま」

「まだ疲れてなどおりません、やまいこ様。ただ、ガガンボに囲まれていると思うと虫酸が走りましたけど」

「ナーベラル、口を慎みなさい。ぼ……私たちは、ここの人間に友好的に接するのが仕事なのよ?」

 

 戦場に降り立ったとは思えないような空気の中、彼らにビーストマンの群れが殺到する。牙を、爪を振りかざし飛びかかるビーストマンであったが、しかし、それよりも早く直線に延びる雷が十匹ほどを焼き滅ぼし、ユリの鉄拳が次々とビーストマンの体を吹き飛ばして行く。その合間を、完全武装の骸骨が、鋭い鎌や爪、針などを持った人間ほどの大きさの虫が次々とビーストマンを血祭りに上げて行く。

 上空に待機するペロロンチーノは、雲霞のごとく迫り来るビーストマンの群れの中へ次々とゲイボウを撃ち込み、それによって散ったビーストマンへと、やまいこがその鉄拳を振りかざし突進しては腕の一振りでビーストマンを血煙に変えて行く。その横を守るように、コキュートスが四本の腕で器用に武器を操り、時に斬り、時に刺し、時に潰し、時に裂く、武芸者が憧れるような動きでこちらもビーストマンを次々と潰して行く。

 しかし、それでも数の多さは圧倒的であった。無論、この面子が負けることはない。敵の真っ只中にあって尚健在どころか、手の届く範囲にいるものは悉くが血煙に沈んで行くのだ。だが、それでも尚6000の数は圧倒的だった。ペロロンチーノの爆撃、ナーベラルの魔法、コキュートスの剣技にやまいことユリの拳を受けて尚、その死地から抜け出て来るビーストマンの数は増えて行く。

 砦にビーストマンの一団が猛烈な勢いで接近する。呆けていた兵士たちに緊張が走るが、しかし、唐突にそのビーストマンの動きが止まり、そのまま力なく崩れ落ちる。

 

「ふむ、〈 不可視の死の手/インヴィジブル·デスハンド 〉程度のダメージで死ぬのか……弱いな」

 

 兵士の間から現れたモモンガが静かに、何かを確かめるように、嘲るように言って砦から飛び降りた。それより半瞬遅れて、全身鎧を身に纏った戦士も地面に降り立ち、その右腕に握る病んだような緑色の燐光を放つバルディッシュを振るい、近づくビーストマンを両断する。

 

「ご苦労、アルベド」

「勿体なきお言葉」

 

 そう答えると、アルベドはモモンガの前に立ち、盾を構え向かってくるビーストマンを前進しながら盾で弾き飛ばす。巨人の手で殴られたかのように気持ちいいほど粉々に打ち砕かれ臓物を撒き散らすビーストマンを突破するように現れたのは、目も覚めるようなピンク色の鎧を身に纏った美少女、ぶくぶく茶釜。左手に自分がすっぽりと隠れるような巨大盾を持ち、右手には武骨極まりない自分の体よりも大きいハンマーを振りかざし、突撃しながらそれを縦横無尽に振り回し周囲に群がるビーストマンを打ち砕いて行く。

 

「ひょぉぉぉおお!普通の近接職って楽しいぃぃぃいいい!」

「あー、やべぇ……姉ちゃんにハンマー、悪夢じゃん」

 

 ぶくぶく茶釜が楽しげな声とペロロンチーノの絶望的な呟きが交差するなか、たっち·みーは門の内側で事の成り行きを見守っていた。そしてしきりに首を捻っている。どうも全員能力を抑えて戦っているらしいが、その意図が読めないのだ。無論、力を抑えて戦おうとも、ただの一匹たりとも防壁に辿り着くことなど出来はしてないし、砦の兵士に危害が及んでいる様子もない。

 

(力を見せつけている?しかし、だとするなら最初から全力で当たるのが一番力を見せつける事になるはずだが……)

「たっち·みー様。如何なさいましたか?」

 

 振り返れば、そこには鋼の表情と不動の体勢で立つセバスがいた。一つ頷き返し、たっち·みーは片手で門の外を指し示すと、思っていたことを口にする。

 

「なぜ、誰も本気を出して戦わないんだ?皆が本気になれば、6000程度、ほんの一捻りだと言うのに」

「仰ることももっともでございます、たっち·みー様」

 

 深く首肯し、セバスはその顔に笑顔を浮かべ、そのまま壁の上の光景に頭を巡らせた。釣られてたっち·みーもセバスと同じように頭を巡らせると、そこには眼下で繰り広げられる有り得ない光景に固まる兵士たちの姿があった。

 

「モモンガ様は仰いませんでしたが、私はこう考えます。モモンガ様は、人間を試されているのではないでしょうか?」

「試す?」

「はい。無論、真意は分かりかねますが、わざわざ異形種の最たる形の一人であるコキュートス様や、本来のお姿のやまいこ様を戦場に出したのは、自分達が人間の輪の中に入ることが出来るのかどうか、試金石としてお試しになっているのではないか、私はそう考えます」

 

 そこまで言って、セバスはたっち·みーの顔を見た。少々の微笑みを浮かべて、セバスは言葉を続ける。

 

「そして、もう一つ、皆様は待っておられるのですよ」

「待つ?なにをだ?」

 

 その言葉に、セバス無言で手を差し出し、今度こそ微笑みを浮かべて言葉を紡いだ。

 

「たっち·みー様、我が主、あなた様が参戦するのを、ですよ」

 

 

 戦況は、常にこちらに有利ではあったが、さすがに数が多すぎると、モモンガは辟易とした気分で、手近にいたビーストマンを蹴り飛ばしつつ思った。

 全力で戦えば、それこそコキュートス一人を投入すれば事が済む戦闘ではあったが、いくつかの実験も兼ねての戦闘であるため、手加減をしての戦闘となっている。そして、その実験の最たる物は、“この世界の人間は、異形種と手を取り合って戦闘ができるか”と言うものであった。残念ながらこちらに関しては、どうも今一つの成果だな、そう思いながら〈 雷撃/ライトニング 〉で敵数体を消し炭に変える。

 事実として、人間の兵士は一人たりとてこの戦いに手を出してはいない。手控えていると言うのではなく、本当に純然に、この戦いに見いって恐れ戦いているためだ。もし、もう少し手加減して少しでも苦戦する素振りを見せれば人間の兵士達が参戦していただろうが、モモンガや他の面子には分からないところであろう。

 

(実験は失敗かぁ……コキュートスには悪いことをしたな。後でなにか褒美を、そう、ボーナス的な物をあげるとしよう。不快な思いをさせたかもしれないしな)

 

 そんなことを考えながら戦闘をしていたせいか、はたまた故意か、モモンガの(やる気のない)魔法を潜り抜けたビーストマンが城門に迫る。今度こそ、兵士達が至近距離のビーストマン向かって矢を放つが、ビーストマンは口角から泡を引き出すような狂乱状態でありながらも、向かい来る複数の矢を俊敏な動作で避け、城壁に爪を駆け一気に駆け上がろうと全身に力を込める。

 閃光が走る。遅れて、ビーストマンの腕、足、ついで首が宙に舞った。

 城壁に立つ兵士達は、最初に何が起きたか分からず、ついでそこに白銀の聖騎士が立ち、その手に聖剣を携えているのを見た瞬間、全てを理解して歓声をあげた。それを一身に受けながら、たっち·みーは剣を持つ腕を振り上げる。

 

「兵士諸君!私はたっち·みー!知っているものもいるだろうし、今さら挨拶などをしても意味がない!」

 

 そう口火を斬りながら、たっち·みーは剣を降り下ろし、その切っ先をビーストマンの群れへ向けて言葉を続ける。

 

「今、現在、この砦は、いや、この国は!今までにないほどの危機を迎えている!しかし、我々が防壁となり君たちを守ろう!だが!!」

 

 剣を振り上げ決断的に振り下ろし、たっち·みーは城壁の上へと顔を向け、空いている左手で兜を脱いだ。それを見た誰かが息を飲むが、たっち·みーは構わず言葉を続ける。

 

「君たちはそれでいいのか!?この国を守ると誓った兵士が、外様の、私や私の仲間だけに敵の殲滅を任せてもいいのか!?彼らの多くが異形種だから助けない!?ならば私も異形種だ!だがそんなことは関係ない!我々は弱き者に手を差し伸べるだけだ!我々は、共に戦える!手を取り合えるのだ!もし、我々と共に戦い!手を取り合い!この国の平和を守る気概があるのならば!きっとこの国に平和をもたらすことが出来るだろう!いや、出来る!」

 

 兜を被り直し、たっち·みーは剣と盾を構え、兵士たちに背を向け、そのままモモンガの方へと駆け出した。しかし、一度だけ足を止めると半面だけを兵士に向けて、静かに、しかし、なぜかよく響く声で一言だけ残したのだった。

 

「待っています、友よ」

 

 

 

-おまけ- 作戦の真っ最中の頃のカルネ村

 

 村の広場にて、リュウマとシズ、エンリとネム姉妹、ゴブリンズからカイジャリが集まって、口元を白い布で覆いながら、土を大桶に入れてその上澄み液を取り出す、と言う作業を繰り返していた。

 

「あの、シズさん、ちょいとよろしいですかね?」

「なに?リュウマお兄ちゃん」

「……」

 

 すっかりその呼び名が定着しつつあるリュウマは、しかし悪い気はしないなぁ、とかなんとか思いつつ、掬った上澄み液を別の桶に移しながら気を取り直し疑問を口にする。

 

「えぇと、俺が頼んだのは、村の防衛力の強化のためにガンナーを導入したいなぁって話であって、土間や厠の土を集めて上澄み液を集める仕事をしたいわけではないのですけども……」

「リュウマお兄ちゃん……ガンナーの道……一日にしてならず……だよ?」

「アッハイ。いえ、そうじゃなくて、俺たちは何をしてるんだ、これ?」

 

 リュウマの疑問に首を捻ったシズは、一同の顔を見回して手をポンと打った。

 

「なるほど……深い……」

「浅いよ」

「ナイス……突っ込み……さすがリュウマお兄ちゃん」

「ありがとう、そして早く教えてくれると助かる件」

「これから……銃本体は鍛冶長が……作ってくれる……でも、火薬はそうはいかない」

「……ああ、これ、硝酸カルシウム水溶液を取り出してたのか」

 

 得心がいったとばかりに頷くリュウマに対して、エンリ達は困惑の表情を広げる一方であった。

 

 今日もカルネ村は平和です。

 

 

 





ちょっと投稿ペースが落ちますねぇ。
主に仕事のせいで。


では次回です。

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