The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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遅くなりまして申し訳ない。




19,ペロロンチーノは変態紳士

 いや、別に良いんだけどさ。

 目の前で繰り広げられるバカップルのイチャコラを見せられて、俺は怒りを通り越して呆れるしかなかった。

 ちなみに、イチャコラしてるのはナザリックに連れ帰って、モモンガさんに挨拶と連絡を終わらせたペロロンチーノとシャルティアだ。さっきから椅子に座って膝にシャルティアを乗せて、フルーツを食べたり紅茶を飲んだりしてる。口移しでな!

 

「んんー、シャルティア、美味しいよ」

「本当でありんすか?ふふ、もっと食べてくんなまし♪そして、夜はぁ……」

「分かってるさ、シャルティア、マイスウィート」

 

 うぜぇ。果てしないほどうぜぇ。

 

「リュウマさん、さっきの話、どういうことでしょうね?」

 

 二人のイチャコラを尻目に、モモンガさんが俺にそう話しかけてきた。

 さっきの話って言うと、あれか。ペロロンチーノがログインした時、現在のアバターじゃなかったって言う話か。

 

「不思議な話だよな、あれ。しかも、インしたら見知らぬ森の中にいて、フル装備状態だった。なおかつスキルも以前同様使えたとか、意味わかんね」

「……仮説ですが、聞いてもらえます?」

 

 うん、モモンガさんのそう言う仮説とか戦略とかを素早く組み立てれるところは尊敬に値するなぁ。

 

「ああ、お願いしようかな。なんかの突破口になるかもしれないしな」

「ええ。仮説と言ってもあれなんですけど。精神が入れ物に引っ張られたんじゃないか、そう俺は思ってます」

「えーと、あれだな。要は、ペロロンチーノと言う中身が、長年使ってたアバターのデータから作られた化身の中に入った、って考えでおk?」

「概ね、そんな感じです」

「けど、それなら色々納得が行くなぁ。俺ややまいこ、茶釜さんは化身こそ作られてたけど、データがそのまま残っててこっちへやって来た。ペロロンチーノはそのデータがない状態でこっちへやって来た。で、仮初めの肉体だった精神がこちらへ来て、本来の肉体のデータから作られた化身を発見し、そこに入った。ふむ、なかなか考察のしがいがある仮説だねぇ」

 

 その化身がフル装備状態だったんだから、端からフル装備状態なのも頷けるな。と、なると、だ。

 

「たっちさんやウルベルトも同じ状態だって事になるのかねぇ?」

「この仮説通りなら、そうですね」

「捜索はどうなってんの?」

「今、ニグレドに、魔法を使って、たっちさんを探してもらってますよ」

「ウルベルトは?」

「ウルベルトさんの場合、俺よりも強力な対情報系魔法を展開してるから、下手に藪をつつく事もないかと思って後回しにしてます」

 

 ああ、第九位階魔法をカウンターで叩き込むようにしてるんだっけ。情報系魔法で覗き見した奴等が血祭りに上げられてたのをせせら笑ってたっけな、あの人。

 

「とりあえず情報待ちだなぁ、モモンガさん」

「そうですね。正直、今すぐ飛び出したい気分で一杯ですけどね」

 

 苦笑の気配を滲ませ冗談めかして言ってるけど、下手すりゃこの人、マジですっ飛んでいってもおかしくないんだよな。むしろ、たっちさんが見つかったら、マジで飛んでいきかねないからな、気を付けとかないと。一応、アルベドと茶釜さんに頼んどこうかね。

 

「けど、今回の一件で、他のメンバーが転移してきたら、すぐに分かるかも知れないってことが分かりましたからね。少々気が楽になりましたよ」

「見つかりそうにない奴が二人いるんですけどねぇ」

「?誰です?」

「ヘロヘロさんと、ぷにっと萌えさん」

 

 さっきまでの仮説が真実なら、化身が消えるのは、昔のアバターが無くなっているメンバーに限定される。あの時点でアカウントを消してなかったメンバーは、ここに残っている面子とヘロヘロさん、んでもってぷにっと萌えさんか。ヘロヘロさんとぷにっと萌えさんがもし転移してたら、見つけるのは少々難しいように思えるが、果たして。

 

「あー、ヘロヘロさんですかぁ。確かに、人間の町とかに潜んでいるような気はしませんね。むしろ、人間の町や亜人の町に潜り込んでそうなのがぷにっと萌えさんですよねぇ」

「むしろ、どっかの軍の指揮官とかやってそうだなぁ」

 

 あの人の戦術とか戦略とかおっかない。『相手からアイテムを盗むよりも手っ取り早く殺ってしまった方が早いですよ?』とはあの人の言だっけか。言うことがいちいちおっかなかったりするんだよな。

 

「モモンガ様リュウマ様、なんのお話をされてらっしゃいますか?」

「おお、アルベド。なに、もしかしたら他のメンバーも戻ってくるかもしれないと言う話を、な」

「そうなのですか!?とと、申し訳ございません、声を荒げてしまいまして」

「ふふ、そうか、アルベドも皆が戻ってきてくれたら嬉しいか」

 

 顔を赤らめて頭を下げるアルベドを見て、モモンガさんが嬉しそうにそう言った。なんか、お爺ちゃんみたいだな。

 

「ええ、もちろん嬉しゅうございますよ。ただ……」

「ん?どうしたアルベド」

「いえ、その、言いにくいのですが、なんと言うか私の創造主であるタブラ·スマラグディナ様は、あまり帰ってきてほしくないような……」

「ふむ?そう言う設定がされてたとか、そう言うことではないのだな?」

「ええ、はい。そう言うことではなくて、うーん、なんと申しますか、心情的な物でございますね」

「ふむ……前に何かの本で読んだのだが、オイデスカコンプレックスというやつかもしれないな?」

 

 ?いったいいきなり何を言い出したんだこの人は。オイデスカ?甥ですかコンプレックス?分からん。アルベドも頭の上に?マークを大量に飛ばしてるんだが。それを見てとったモモンガさんは、首を捻って語り始めた。あっ……(察し)

 

「本来の使い方では、子供が親を憎むようになる心の動きなんかを総称してそう呼ぶらしいのだ」

「まぁ……そのような言葉が」

 

 ちょっ、待ってモモンガさn……。

 

「うむ、そうなのだ。タブラさんも、言ってみればお前たち三姉妹の父親。それを嫌いになるのもまた必然だろう。だがな、アルベド。私はそれでもタブラさんに帰ってきてほしいと思ってる。お前も、それを望んでくれないか?」

「はい、分かりましたモモンガ様。タブラ·スマラグディナ様がご帰還の暁には、ちゃんとお話しすることを誓いますわ」

「そうかそうか」

 

 満足そうに頷くモモンガさんと、その言葉に感動したのか、目の端に涙を浮かべるアルベド。きれいに話が纏まっていい雰囲気なのだが……。

 

「オイディプスコンプレックスな?」

「……え?」

「ついでに言うと、アルベドの場合だとエレクトラコンプレックスか?ともかく、モモンガさん、オイディプスコンプレックスな」

 

 そう指摘すると、モモンガさんが一瞬硬直した後、骨の顔面を両手で覆ってしゃがみこむ。

 

「……素で間違えた……」

「……まぁ、言いたいことは伝わったと思うから、いいんでない?」

 

 ちなみに、二つのコンプレックスの内容としては、同性の親を憎み、異性の親を愛するなんやかやを精神分析の人が定義したあれなんで、何処まで信用したものかは不明。俺もあんまり詳しくないし。

 そんな俺たちのやり取りを微笑みながら見ていたアルベドが、急に顔を引き締め、こめかみに指を当てて中空を睨み付けた。非常事態かと俺とモモンガさんが身構える前で、アルベドが真剣な顔で俺たちを見る。

 

「モモンガ様、リュウマ様。お一人、発見されました」

「たっちさんか!?」

「はい、たっち·みー様です。すぐに姉のところへ向かいましょう……ところで」

 

 そう言って、アルベドがあっちの方に顔を向けて、なんとも言えない表情をした。釣られるように、モモンガさんと俺もそちらへ顔を向け、恐らくなんとも言えない顔になっていただろうと思う。

 そこには、四つん這いになって尻を高く突き上げ、白蝋じみた美貌を朱に染め上げ荒い息を吐くシャルティアと、高く突き上げられた尻を丁寧に撫で回しご満悦な顔で紅茶を飲む変態バードマンと言う、変態カップルの姿があった。

 

「あれ、どうしましょうか」

「……茶釜さんに、任せるか」

「右に同じく」

 

 

 ナザリック第五階層氷河に佇むやたらメルヘンな館の前に、俺達は立っていた。途中で合流したやまいこによると、現在茶釜さんがペロロンチーノとシャルティアをお説教中らしい。後から合流するそうな。

 とにかく急ぎニグレドの所まで行くと、意外な人物があまりの寒さに震えていた。

 

「ニグンじゃないか。大丈夫か?」

「な、ななななんんんんのこれしきききき」

 

 あ、これはあかんパターンや。俺は無限の背負い袋からマントを一つ取り出してニグンに着せてやった。冷気防御が付与されたマントなんだが、結局それ以外の能力を持たないマントなんで、使い道がなかったから、丁度いいのでこいつにくれてやろう。そう言ったら感動された。涙を浮かべて感謝された。女じゃないのが残念だ。

 

「なぜニグンがここに?」

「はっ!スルシャーナ様、お答えします」

「いや、私はスルシャーナじゃないと何度言えば分かるのだ。私はモモンガだ」

「こ、これは失礼をいたしました、モモンガ様。お答えしますと、この大陸の地理に詳しいのが私であるためです」

「ほう……では、この映像に映し出されているのはどこなのだ?」

「恐らく、いえ、間違いなく竜王国でしょう。我々陽光聖典が定期的に派遣されている国ですので、覚えがございます」

 

 そう言っている間にも、映像が切り替わりそして一人の聖騎士の姿を映しだす。

 

「たっちさんだな、間違いなく」

 

 向かい来る虎頭のビーストマンを高速の剣捌きで切り捨てるのを見て、確信したようにモモンガさんが呟き、俺たちが頷いた。それは圧巻の戦い方だった。一歩も動くことなく、近づいてきたビーストマンの首を次々とはねて行く。恐らく、ニグンにはその動作は見えておらず、騎士に近づいたビーストマンの首が勝手に飛んでいるように見えてるんじゃないか?

 さて、俺としては今さらたっちさんの強さが云々何てのにはそれほど興味がない。強いなんて事は嫌ってほど知ってるんだ。むしろ、気になるのはたっちさんの後ろにいる人間達だな。たっちさんは、どうもこの人間を守っているようだ。まぁ、正義の味方らしいと言えばらしいのだが。

 

「ニグレド、あそこの人間はどれくらいいるんだ?」

「そうですね……160人弱、と言ったところだと思われますわ、リュウマ様」

 

 160人弱、か。まぁ、たっちさんなら問題なく守りきれる量だが。

 

「迎えに行くぞ」

 

 モモンガさんが、冷静に聞こえるような声で言った。

 

「待って、モモンガさん。行くのは吝かじゃないけど、とりあえず色々決めてから行こうよ」

「色々って、何を決めるんですかやまいこさん」

 

 その言葉に、やまいこは珍しくイタズラを思い付いたような表情で笑った。

 

「久しぶりの再会、ドラマチックにしたいじゃない?それに、アルベドとデミウルゴスが考えてた計画の一部に、これは使えるシチュエーションだからね。全力で利用しようじゃない」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

-sideウルベルト-

 

 助けた初心者っぽい奴等から色々聞いたが、どうも俺の知ってるユグドラシルでは無さそうだと言うことが分かった。分かったからなんだって言うんだ。

 これはあれか。異世界転生系のパターンか。くっそくだらねぇ。そうは思うが、どうもそれが当たりっぽいなぁ、現在の状況は。ならもうちょっと若いときに転生させてくれよ。

 

「ふぅむ、それで、お前らはこれからバ、バハルス帝国とやらに戻るのか?」

「ええと、まぁ、そういう事になりますね、はい」

 

 確か、ヘッケランとか言うチームリーダーっぽい奴が、へりくだってる訳じゃないが、かと言ってこちらを刺激しないようにそう答える。そう、へりくだらなくても大丈夫なんだが。別にとって食おうって訳じゃねぇんだし。

 

「大丈夫なのか?その程度の強さで。とっととそこらの草むらでくたばるんじゃないか?」

「あなたが強すぎるだけ……!私達は、それなりに強い……!」

 

 なんか、美少女を怒らせてしまった。ちょっと心配しただけだってのに。しかし、この程度の強さでこの世界じゃ強いほうなのか。かなりチョロいな。

 

「そうか、そりゃ悪かった。そうだな……どうだ、お前ら、俺を雇わないか?」

「はぁ!?あんたみたいな危険な悪魔、雇えるわけないでしょうが!?」

 

 また怒られた。確かイミーナだったか?

 

「落ち着け貧乳」

「ひん……!?」

「俺は現在進行形で情報が欲しい。なら、人が多いところへ潜り込んで情報収集するのがもっとも手っ取り早い。ところが、俺はこの世界に疎い。そんなときにお前らが現れた。俺は思ったね。こいつは天恵だってな」

「勝手なことぬかしてんじゃないわよこの悪魔!」

「いや、見たまま悪魔だからな、しょうがない。お前らにメリットが無いわけじゃないぞ?俺の情報収集が終わるまで、お前らに力を貸してやろう。安心しろ、悪魔は契約を破らないからな」

 

 とにかく、こいつらがなんと言ってもついていくのは、俺の中では確定事項だ。とにかく情報が欲しい。きっと、あいつらならここに来ているはずだ。

 

「とにかく、お前らがなんと言っても俺はついて行くからな。嫌なら実力でねじ伏せな」

「ああっと、少々よろしいでしょうかね?」

 

 なんだっけこいつ?確か、ロバーデイクだっけか?

 

「なんだ?」

「なぜ、そんなに情報を欲しがるのでしょうか?正直、あなたほどの実力があれば、国の一つでも滅ぼしながら情報を入手することも可能だと思いますが」

「まぁ、必要とあればそれくらいはやってのけるがね。そいつをすると、五月蝿い奴がいるんだよ。ようやく和解したんだ、また関係をこじらせるような事は、なるべく避けたい。ああ、情報を欲しがる理由だったっけか。簡単だよ。どっかに俺の仲間が居るかもしれない。そいつらの情報が欲しいんだよ、俺は」

 

 なぜだか確信がある。この世界にはあいつらがいる。モモンガにリュウマ、そして、憎いが憎みきれないあんのたっちの野郎が。だったら、こっちから探し出してやる。

 

「まぁ、そんなわけだが、他になんか質問はあるか?」

「じゃぁ、私から、いい?」

「どうぞ」

「私たちについてくるのは、百歩譲っていいとするけど、私たちのルール、守れるの?」

「ふんっ。当たり前だろうが」

「だって、ヘッケラン。どうする?」

 

 俺の答えに満足したのか、美少女、確か、名前はアルシェだったか?アルシェはチームリーダーのヘッケランに尋ねる。

 

「あー、まぁ、ついてくるんだろう、しかも勝手に。否も応もないじゃないか」

「ふむ、ならば契約完了と言うことで」

 

 そう言って俺はずいぶん毛深くなった手を差し出した。訝しげな表情でそれを見ていたヘッケランだったが、意図に感づいたのか、その手を握り返して苦笑した。俺は、今世紀最大だろうなと思えるどや顔で答えて、改めて心に誓う。絶対に、あいつらを探し出してやるってな。

 

 

 

「そう言えば、あなた、魔法を使えるのよね?どの程度まで使えるのかしら。分かる、アルシェ?」

「ううん。正直、魔力とかが見えないから実力を計れないんだけど、どうしてかな?」

「あん?お前、情報系魔法が使えるのか。まぁ、対情報魔法用の指輪をつけてるからな

分からないだろ」

 

 そう言いながら、俺はビビらせてやろうと思ってその指輪を外してやった。さぁ、喝采せよ!俺のこの魔力を!

 一瞬の間。

 

「おぇぇぇぇぇええええええええ!」

 

 アルシェに吐かれました。泣きたい。

 

 

 

 

 




アルシェに嘔吐させるのは鉄板なり。

ちなみに、これを書き上げるのに十二回ほど書き直しました。
これも全て仕事が悪い。

ではまた次回。

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