The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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前回は申し訳ありませんでした。

大幅に修正されてますので、前回の話を読まれた方は、頭をオールリセットしてお楽しみください。

ご都合主義とかなんとか捏造とかオリジナルスキルとかのオンパレードになってますのでご注意を。





18,異変

 パンドラズ·アクターは、久しぶりに戻ってきた宝物殿を意気揚々と歩いていた。

 モモンガが外の世界へ情報収集とストレス発散のために出掛けることが決まってからと言うもの、会議に出席したり、リュウマに言われるままに希少鉱石やデータクリスタルを持っていったり、鍛冶長と打ち合わせをしたりと忙しい日々だったが、今朝方、モモンガと守護者統括のアルベドから休暇を言い渡された。働きを認められての休暇、との事らしい。嬉しいのは、やはり自らの働きが認められた事であった。

 さて、この与えられた二日間の休日を如何に過ごすか。パンドラズ·アクターは考えた。考えた末に出た答えが、宝物殿の掃除とアイテム整理だった。

 元々、この宝物殿の領域守護者として生み出され、そして創造主であるモモンガ自身がコレクターであったためか、パンドラズ·アクターも、創造主に負けず劣らずマジックアイテムや見知らぬ道具が大好きだった。そんな彼が休日に宝物殿でマジックアイテムの鑑賞と整理、そしてそれを磨きあげることに費やして何が悪い!奇妙にビシッと決まったポーズを決めつつ、パンドラズ·アクターは自分専用のスペースへと身を滑り込ませた。

 革張りのソファーに身を沈め、やたらと大袈裟な動きで足を組み、素早く手近に置いてあった古めかしくも美しい蓄音機に乗っているレコードへと針を落とす。

 流れ出す勇ましくも美しい旋律に、うっとりとした様子で耳を傾けるパンドラズ·アクター。どこに耳があるのか、その剥きたて卵みたいな頭からはさっぱり分からないが。

 

「ふぅむ、やはり良いですなぁ。ナザリック外の方が作った音楽ですが。さすがタブラ様、良い趣味をしていらっしゃる。作者は、誰でしたっけ……そうそう、コタットゥ·ネッコ·ナベシーでしたな」

 

 指をパチンと鳴らし、パンドラは近くにあった古めかしい陶器製のティーポットから紅茶をカップに注ぐ。地味にこれもマジックアイテムだ。無限のティーポットと言うジョークアイテムだが。ちなみに効果は、毎日違った茶葉の紅茶が出てくる。これだけである。

 かっこつけたポーズで紅茶を一口啜り、パンドラは満足したように何度も頷く。

 

「本日はアッサムですな。ふむふむ。しかし、これもナザリックの外の方がお作りになられたのでしたか。素晴らしいですな。制作者は……忘れましたな」

 

 一人でアイテムの解説をしてご満悦になりながらパンドラズ·アクターは、さてどこから手をつけようか。データクリスタルが減ったから、それのチェックも兼ねて磨きあげるのもいい。いや、待て、武器庫の武器を磨きあげ、それを披露する瞬間のために練習をするのもいい。ふむ、考えるだけで胸が膨らみますな。

 この後何をするか、そんなことをワクワクしながら考えていたパンドラズ·アクターは、ふと、宝物殿の天井を見上げた。なにかを感じ取った、そんな気がしたからだ。しかし、彼の視界に写る天井や宝物殿の光景は、特に変わった所など、有りはしなかった。なのに……。

 

(なんでしょうか、この妙な感じは)

 

 口では言い表せないような妙な気分の中、パンドラズ·アクターはソファーから華麗に立ち上がり、靴音高く宝物殿の中をチェックしに歩き出した。

 靴音を響かせ、とりあえずすべての宝物をチェックし終え、パンドラズ·アクターは首を捻る。先程までの妙な感じ、あれはなんと言うか“空気が変わった”と言うのでは無かろうかと思い始めていた。そこまで至れば、この宝物殿の空気が、何となく清浄なものにも感じられる。しかし、果たしてこのナザリック地下大墳墓の中に、神聖な空気を放つような所はあっただろうか。パンドラズ·アクターは思考し、一ヶ所だけそれがあったのを思い出す。

 

(ふうむ、霊廟、ですかねぇ?しかし、あそこには至高の42人の方々の化身があるだけ。そうなれば、もしやその奥にあるワールドアイテムになにかあったのでは?)

 

 自然と足が早くなり、パンドラズ·アクターは霊廟の入り口へと赴く。

 霊廟へと至る廊下にパンドラズ·アクターの靴音のみが響くなか、彼は妙な胸騒ぎを感じていた。実態の掴めぬ不安。それを振り払うように、靴音高く歩を進めると、静謐の空間が彼を出迎えたのだが……。

 

「な、なんですと……!」

 

 周囲を見回した彼は、そこに広がる光景に我が目を疑った。慌てて奥まで駆け抜け、最後にワールドアイテムの確認を済ませたパンドラズ·アクターは、大慌てで霊廟から飛び出し、指輪を起動すると、自らの主にこの異変の報告へと急いだのであった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 カルネ村は、現在急ピッチで復興が進んで、いなかった。

 前回、騎士達に襲撃されたのを切っ掛けとして、村の周囲には頑丈な丸太で組まれた防御柵が設置され、その外側に空堀、一段高い所には先を尖らせた一メートルほどの木の棒が設置されている。ただし、全て一部のみだが。

 とにかく、あの時失われた村人が多すぎたため、どの作業も思うように進んでいないのが現状だ。新村長であるエンリ·エモットは密かに頭を抱えていた。

 無論、リュウマから下賜された槍から戦力は補充できるのだが、如何せん、今欲しいのは労働力である。しかし、労働力が欲しくとも、余所の人間をこの村で養うことは、現在の村の生産能力では非常に難しいと来ている。

 さてどうしたものかと、村長宅=我が家の軒先で腕組みをしてエンリが考えていると、森から大きな影が二つ、巨大な丸太二本を肩に担いで現れた。その二人を見て、エンリが微笑んだ。

 

「リュウマ様、やまいこ様、お疲れさまです!」

「うん、問題ない、エンリ。それと様は要らないよ。特にこっちの芋侍は」

「芋侍とはなんだこら。しかし敬称が要らないのは事実だ、エンリ。普通に呼んでくれ」

 

 二人の気安い調子に、エンリは苦笑しながらとにかく、今、一番困っている人員の不足について相談してみることにした、が。

 相談されたリュウマは、こめかみを押さえながら唸った。正直、内政系は大の苦手だ。食料に関しては、モモンガさんから〈 ダグザの大釜 〉の使用許可と使用可能金貨の必要数は確保してあるから問題ないが、人手に関してはどうにもならない。ナザリックから下僕を連れてくることも考えたが、ただの村にナザリック·オールド·ガーダーは過剰戦力だろうし、死霊系モンスターが闊歩し畑を耕す村とはいかがなものかな、ビジュアル的に、何て事を思ったりもする。要するに、アイデアが出ないのだ。

 反してやまいこは、様々なアイデアを出して頭の中で検分するが、効果的な策が出せないでいた。しかし、一つ試してみたいこともある。故に、やまいこは一つ試してみようと思った。上手くすれば労働力の確保ができるし、そうでなければエンリの経験値稼ぎになるだろうし。もう一つ狙いもある。この世界にはタレントとか言う異能があるらしい。エンリの性格が豹変した理由がそれなら、これでなにか判るかもしれない。

 

「エンリ、もしかしたら労働力が確保できるかもしれない道具があるんだけど、使ってみる気はないかな?」

「え?そ、それが本当ならばありがたいのですが……」

「まぁまぁ、使ってみてよ。なにか問題があったら、僕と芋侍が何とかするからさ」

 

 そう言いながらやまいこが差し出したのはみすぼらしい角笛とゴツゴツした石ころだった。

 

「片方が〈 ゴブリン将軍の角笛 〉。もう片方は〈 ロックゴーレムのプラント 〉って言うマジックアイテムだよ」

「どっちも召喚系のアイテムだな。〈 ゴブリン将軍の角笛 〉は十二体のゴブリンを召喚して、〈 ロックゴーレムのプラント 〉は五体のゴーレムを召喚するものだ」

 

 二人にしてみればゴミ同然のアイテムなのだが、この世界の基準なら破格の効果をもたらすアイテムを前に、エンリは僅かに逡巡した後、角笛に口を当てて息を吹き込んだ。パプーっと言う間抜けな音が村に鳴り響き、静寂。

 何も起こらないことを訝しく思いながら三人が周囲を見回すと森の中からゴブリンが飛び出してきた。エンリが槍を構える中、ゴブリン達がエンリの前に集合し片膝をついた。

 

「お呼びにより参上致しやした!」

「へ~、こうやって召喚されるのか、ずいぶん違うものだね」

「そうだなぁ。ゲームじゃ周囲にポップするだけだったのにな」

 

 呼び出されたゴブリン達がエンリに挨拶をしている前で、リュウマとやまいこはその出現方法にそう評した。レベル的にもっとも高いのがレベル12のゴブリンリーダー、残りは10レベルから8レベル程度だが、この村の護衛兼労働力としては問題ないだろう。

 ゴブリン達の挨拶が終わり、エンリが、村人にゴブリンを引き合わせてくると言い歩き出すと同時、屋根の上から小柄な誰かが飛び降りて来る。その人影は、屋根から軽やかに地面に着地すると、やまいこ、リュウマの順に頭を下げた。

 

「やまいこ様、リュウマ様、ご報告が」

「なんだいシズ?」

「この村に近づく影があります。恐らくバードマン。敵性存在かどうかは不明。いかがしますか?」

 

 簡潔なシズの報告に、二人は首を捻った後、それぞれの得物を取りだし、シズの案内でそのバードマンが飛来する方へと向かうことにした。その後ろを、エンリとゴブリンの集団が、それぞれの武器を握りながら周囲に警戒を呼び掛けつつついて行くのであった。

 

 少し開けた開墾中の土地に出た二人は、我が目を疑った。その土地の中央で、ネムがいた。そして、そのネムに手を伸ばしている光輝くバードマンの姿が。

 おや?あいつは?リュウマがそう思った瞬間、やまいこが血相を変えて飛び出していた。それに気がつくバードマン。それが口を開くよりも早く、やまいこの〈 女教師怒りの鉄拳 〉がそのバードマンを殴り飛ばしていた。顎を上げて垂直に吹き飛ぶバードマン。それを呆れた目で見ながら、リュウマは深々と溜め息をついて、追撃をしようとするやまいこを止めに入るのだった。

 

 やまいこを止めるまでそれなりに時間がかかったが、目の前の人物が誰か分かった瞬間、一応収まってくれた。

 

「いってぇーなぁ。なにするんだよやまいこさんー」

 

 バードマンは、不満たらたらな様子でそう文句を垂れた。

 

「まぁしょうがないだろ。お前、変態紳士だからな」

「うぅわ、ひどっ!リュウマだって似たようなもんだろうが」

「うん、悪かったペロロンチーノ」

「まぁ、回復魔法かけてくれたから大丈夫だけどねー。それでさ、聞きたいんだけど、これ、何事?」

 

 にこやかに、ペロロンチーノは二人にそう聞いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ワーカーチーム《 フォーサイト 》が受けた仕事はオーガ部族の討伐依頼だったはずだ。だが、それは予想以上に困難な任務と化していた。

 

「アルシェ!魔法は温存しておけ!」

「……分かってる……!」

「ロバーデイクも同じくだ!支援もほどほどにしておけ!」

「了解です。イミーナさん、どうですか?」

「四方を一定の距離で囲まれてるわ!」

 

 押しては返すゴブリンの群れに翻弄されながら、それでも彼らは生き延びる道を探してあがいた。

 何度目かのゴブリンの襲撃を打ち払い、フォーサイトの面々が一息ついたとき、それは唐突に起きた。

 森の西側、つまり異種族連合とも呼ぶべき連中の本陣に程近い場所に、天を貫かんばかりの炎の柱が吹き上がったのだ。熱波が森を駆け抜け全員が顔を伏せるなか、地の底から響くような声が全員の耳を打った。

 

「ようやく人がいたな。おい、お前ら。ちょっと話を聞かせろ」

 

 彼らの側まで歩み寄ってきたのは、羊の頭をした……

 

「悪魔……?」

「あん?見れば分かるだろうが。おい、聞いてるのか?俺の質問に……ちっ!まだ生き残りがいるのか!」

 

 忌々しそうに舌打ちをすると、その悪魔は炎の柱がたった方向へ目を向けていた。そこから、奇声を発しながら飛び出してくるのは、大小様々なモンスター。中にはギガントバジリスクの姿もある。

 誰かが、終わった。そう呟くが、それを聞いた悪魔は、そいつに向かってこう言った。

 

「おいおい、世界的災厄の俺がいるんだ。お前らが終わるわけがなかろうが」

 

 そう言って、悪魔は指を一本、その千を越えるモンスターの群れに指を向けた。

 

「世界的災厄の俺に歯向かったことを、後悔するんだな?来たれ!我が五つの災厄の一つ、風の神聖を汚す災厄よ!《 第二災厄·殲滅の竜巻/Second disaster Tornado of annihilation 》!」

 

 力有る言葉が辺りに響き、敵の群れの中心で風が渦巻く。それは瞬く間に巨大な竜巻へと変貌し、範囲内に有る全てを飲み込み粉微塵に磨り潰して行く。悪夢のような光景は数秒で終わったが、それに伴う破壊は異常極まりない。地表のほとんどが抉りとられ、荒涼とした大地が広がる。そこで動くものなど無く、誰も声を出すことも出来なかった。

 そんな中、悪魔は先程までと変わらぬ調子で、フォーサイトの面々に話しかけた。

 

「さて、話の続きをしようか?ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな?俺の名前はウルベルト·アレイン·オードル。世界的災厄だ。よろしく諸君」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 竜王国のとある村。

 ここは現在、地獄の様相を呈していた。

 逃げ惑う人々に背後から襲いかかるのは二足歩行の虎や狼、ライオンであった。その俊敏な動きで、男の首筋に噛みつき、そのまま首を引きちぎる者がいれば、あちらで女を犯しながら食い殺すものがいる。命乞いをする母親を子供の前で八つ裂きにする者がいる。凄惨な光景の中、少女は走る。死から少しでも遠くへ。自らよりも遠くになるように祈りながら。

 しかしながら、祈りなどこの地では意味がなかった。

 獅子のビーストマンが少女の傍らに現れ、その鋭い爪を振り上げた。それを視界におさめ、少女は諦めたように目を閉じた。その爪が降り下ろされるのを待つように。

 だが、いつまで経ってもその時は訪れなかった。

 恐る恐る目を開いた少女の眼前には、風にはためく深紅のマント。陽光を照り返す荘厳な刃がその手にはあり、全身を覆う白銀の鎧。そこには、物語の中から飛び出したような聖なる騎士が立っており、聖騎士の前には、真っ二つに両断されたビーストマンが、時折体を痙攣させながら転がっていた。

 

「大丈夫かい?」

 

 兜に覆われた半面がこちらに向けられて、少女の胸が高鳴った。慌てて首を縦に振ると、聖騎士は力強く頷き、少女を安心させるように優しく、しかし力強く宣言した。

 

「もう大丈夫だ。なぜかって?私がここにいるからさ」

 

 その言葉が終わると同時に聖騎士は駆け出した。近くにいたビーストマンから順に、とてつもない早さで切り捨てていく。少女にとって、そして生き残った者にとって、それは神話の光景だった。誰も敵わなかったあの怪物が、瞬きの間に数を減らして行く。そんな血生臭い光景の中にありながら、聖騎士は返り血を浴びること無く、その身に一度の攻撃を浴びることもなく、十数匹いたビーストマンを数分の間に切り捨ててしまった。

 歓声を上げ始めたのは誰であったか。それはさざ波のごとく広がり、そして怒号のような波となった。

 そんな中にあって、聖騎士は、誰に省みること無く、近場に転がっていた死体へと近づき、その亡骸を拾い上げ、一ヶ所に集め始めた。その作業を見ていた人々は、最初、彼が何を始めたのか分からなかったが、すぐに彼が亡くなった人々を弔おうとしている事が分かると、それを我先にと手伝い始める。

 略式も略式な葬儀が終わり、亡くなった人々の亡骸が燃え行くなか、助けられた少女は聖騎士の側へ歩み寄る。それをいち早く気がついたらしい聖騎士は、少女の方へ顔を向けると首を傾げる。

 色々聞きたいことはあったが、最初に出てきた言葉は、こんなどうでもいいような内容だった。

 

「騎士様、あなたのお名前は?」

 

 それに対する答えは、優しく簡潔な物だった。

 

「私ですか?私の名前は、たっち·みー。ただの、正義の味方ですよ」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「モモンガ様、一大事でございます!」

 

 執務室で、アルベド、ぶくぶく茶釜と共に休憩をとっていたモモンガの元に、血相を変えたパンドラズ·アクターが飛び込んでくる。アルベドが叱責を言葉を飛ばすよりも早く、モモンガが片手で報告を催促すると、少々落ち着きを取り戻したパンドラズ·アクターが一礼をして答えた。

 

「霊廟に配置された化身の内の三体、たっち·みー様、ウルベルト·アレイン·オードル様、ペロロンチーノ様の武器防具ごと消失致しました!」

「……なん……だと……?どう言うことだパンドラズ·アクター!」

 

 怒りの声が上がり、アルベドとパンドラズ·アクターが身を震わせたが、それと同時にモモンガに〈 伝言/メッセージ 〉が繋がった。イライラしながらそれをとると、その内容に、モモンガは耳を疑った。

 

『モモンガさん、やまいこです。ペロロンチーノが合流したから、今からそっちに戻るね』

 

 

 




前回の消した分を読まれた方に陳謝いたします。

まぁ、時々こういうこともやるんで、申し訳ありません。

ではでは次回、です。

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