The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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今回は勢い任せ。

下品な話も多いですのでご注意を。

いや、毎回勢い任せですけどね?





17,冒険者になりたい骨魔王/準備段階·後編

 俺の目の前には、人間への変身を終えた恐怖公とニューロニストが立っている。これは驚愕せざるを得ない結果だった。

 まずは俺の親友(と、勝手に呼んでる)恐怖公。まずはその身長が伸びたのには驚いた。三十センチだった身長が170そこそこにまで伸びた。顔立ちは中東系で顎髭がシャレオツ、オールバックにした黒髪に王冠、彫りが深い顔立ちの中、猛禽類のような鋭い眼光に柔和な笑みを浮かべる口許、どことなく王者の風格だ。鍛え抜かれた褐色の肉体を赤いマントで覆う偉丈夫がそこには立っていた。全裸にマントで。

 

「股間を隠せぇぇぇぇ恐怖公ぉぉぉぉぉぉ!」

「おっと、これは失礼を致しました皆様。粗末なものを見せてしまいまして」

「いえいえ、中々立派なモノをお持ちで……」

 

 なに言っちゃってるのアルベドさん!?

 き、気を取り直して……むしろこっちが驚きである。

 ニューロニスト·ペインキル。その姿は水死体がブクブクと水を吸って膨れ上がったと表現される醜悪なものである。それがなぜこうなった!?その顔は、ちょっと魚が死んだような目をしているが美しく整ったサディスティックな美女の物。肉体的にも、あのアルベドもかくやと言わんばかりのナイスバストを紐のような革のバンドで申し訳程度に隠している。ウエストも、あの肉どこへ言ったんだと言いたくなるような細さ。しかしである。しかし、その申し訳程度の紐革バンドの間からは……。

 

「だからお前も股間を隠せ!見えてんだよ象さんがよぉぉぉぉ!」

「あらん☆失礼、粗末なものを見せてしまったわねん♪でも、モモンガ様にだったら見せても平気よん☆」

「遠慮しておきます」

 

 声はダミ声のままだった。まぁ、ちょっとキーは上がってたけど……。

 

 とりあえず、男性面子の防具で股間が隠せそうなものを二人に手渡し、俺たちはどっと疲れながらも手応えを感じていた。いや、股間を隠せたことにじゃなくてだな。

 

「とりあえず、これで第一段階は完了だなぁ」

「そうだね。これで後はモモンガさんと茶釜さんが人化のスキルを覚えさせればいいんだよね」

「あの、リュウマ様やまいこ様?なぜモモンガ様と茶釜さんが人化を覚えるのですか?」

 

 ん?あれ?実験の詳細を聞いてないのか?

 

「アルベドは、実験の詳細を聞いてないのか?」

「ええ、一応超位魔法の実験をすると聞いていたのですけど……」

「そうそう。見た通り〈 星に願いを/ウィッシュ·アポン·ア·スター 〉の実験だな。これでこの魔法が願い事を叶える魔法だと言うことが分かった。そこで、茶釜さんとモモンガさんにこの魔法をかけて人化のスキルを付与して……」

「……まさか?」

 

 お、これだけで察したのかアルベド。さすが守護者統括だなぁ。

 

「そうなんだよアルベド。そんなわけでな……」

「おのれ茶釜さん!そうはさせるものですか!」

 

 目の前で爆風が吹き荒れ、吹き飛んだ土くれが俺の顔面を殴打した。一体、何が起きたんだ?

 

「モモンガ様ぁぁぁぁぁ~~~ん!私の方がモモンガ様を愛しておりますわぁぁぁぁぁぁ!」

「う、うおおおぉぉぉ、ア、アルベド、ちょ、ちょっと、おい、やめ、いやそこは尾てい骨……!」

「ちょっ!アルベド、モモンさんから離れなさい……!相変わらず力強いな!?マーレ、手伝って!」

「は、はい、ぶくぶく茶釜様!」

 

 向こうで阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されている。具体的に言うなら、アルベドがモモンガさんを背後から押し倒し、恐らく尻の辺りに顔を埋め、そのアルベドの尻を茶釜さんが触手で拘束、ひっぺがそうと奮闘し、そこにマーレが加わった、と言う感じ。

 

「恐怖公、すまないが眷属召喚、お願いできる?」

「よろしいのですかな?ここで召喚してしまって」

「黒い津波になる程度によろしく頼む」

「では、失礼をいたしまして」

 

 恐怖公が錫杖を振り上げる。その姿、まさに王と呼ぶにふさわしい姿であった。足元の影から吹き出すように現れるのが、黒い意思を持った津波と言う名のゴキブリでなければ、もっとかっこよかっただろう。

 何百匹何千匹いるのだろうか?もはや例のあの音が物理的圧力すら伴って蠢き、恐怖公の指示にしたがってモモンガさんご一行に向かって黒い津波が例のあの音を伴って襲いかかった。ちなみにやまいことマーレは、即座に範囲外へ離脱している。さすが。

 

「げっ!」

「ちょっおま……!」

「モモンガ様ペロペロ……ん?」

 

 それぞれの反応は、黒い津波に飲まれて消えていった。合掌。

 

 出現して三人を飲み込んだ黒い眷属の津波は、二枚の完全とは言えないまでも武厚い壁に阻まれた後、モモンガさんの〈 負の爆裂/ネガティブバースト 〉によって吹き飛ばされた。一部生き残ったらしい眷属は、そのまま黒棺へと帰還して待機状態へと移るとの事。ふむ、しかし興味深いなぁ。

 

「恐怖公の眷属は人化してないんだな?」

「左様ですな。このスキルは、我輩以外に効果はない、そう言うことでございましょうな」

「ああ、そう言えば、恐怖公の種族スキルはどうなってるんだ?ニューロニストの方も」

 

 俺の問いかけに、いつの間にか近くの来ていたニューロニスト(ニューハーフ)と恐怖公が、腕を組んで暫し考える。

 

「我輩の蟲人系のスキルが使用不能ですな、リュウマ様」

「こっちもそうねん。ただ、耐性マイナスなんかも打ち消されているみたいですわん」

「総合レベルはどうだ?」

「下がっておりますな。つまり、人化することにより種族レベルそのものが打ち消されている、そう見るべきではありませんかな?」

 

 ふむ、つまり種族レベル分レベルダウンかぁ。俺なら70レベルそこそこに落ちて、モモンガさんは60レベル、茶釜さんでも60レベルそこそこかぁ。HPとかはどうなんかな?ちょっくら失礼して、恐怖公とニューロニストを見切り弐を使って見てみると……おや?意外にもHPやMPなんかは落ちてないな。ステータスは見れないからちょっと分からないけど、どうもそっちも落ちてないみたい。

 

「……ああ、人化の指輪と同じ効果なのか。レベルだけがダウンして、能力値にはほとんど影響がないってやつか」

 

 俺のつけてる人化の指輪は、能力値を10パーセント落として種族スキルを使えなくする代わりに人間種に化けれると言うもの。本来は異形種が入れないような街に入れるようにするための物。

 そんなことを考えていたら、誰かが俺の肩をがっしりと、それこそ指が食い込むほどの強さで掴んできた。背筋を悪寒が駆け抜けるが、すでに時遅し、と言ったところか。

 振り返れば、額に青筋を浮かべ、綺麗なドレスの所々に粘液を付着させたアルベドが立っていた。その後ろで、茶釜さんが触手の先に盾を二枚構え、モモンガさんがマーレから杖を借り受けてブンブンと素振りをしていた。

 

「リュウマ様?少々闘技場の裏でお話ししましょうか?」

 

 アルベドの穏やかな声に、俺が逆らえるわけもなかった。合掌するやまいこ、恐怖公、なぜかマーレのスカートを履いたニューロニストに見送られ、俺は本当に闘技場の裏へ連れていかれた。

 何があったかは語らない。思い出したくもない……。

 

「我は願う。モモンガさんに人化のスキルを付与せよ」

 

 やまいこがそう指輪を掲げて宣誓すると、先程と同じようにモモンガさんに緑色の光が浸透して行き、それで終わりだった。さて、どんな姿になるのかにゃ?

 

「どう?モモンガさん?上手く行った?」

 

 やまいこの問いかけに、モモンガさんは確認するかのように腕を組んでいた。

 

「どうやら、本当に付与されているようだ」

「では、ではモモンガ様ぁ、そのぉ、人化を試してみてはいかがですかぁ?」

「う、うむ。では、人化……!」

 

 そう言った瞬間、モモンガさんの回りを黒いオーラの様なものが吹き上がる。さながら100年くらい前に流行った戦闘力超インフレの某龍玉みたいな感じだ。とは言え、黒いオーラが濃すぎてモモンガさんの姿が一切見えないけどな!

 一分ほど続いて出てたそのオーラが消えると、そこにはモモンガさんが立っていた。そりゃぁそうだがそうじゃない。いわゆる中の人、鈴木悟さんがそこに立っていた。中肉中背、と、言うには少々痩せている。温和そうな優しげな顔つきはリアルの世界その、まま?ん?んん?あ、いや、リアルであったときよりも男前が上がってないか?いや、現実でも、よく見れば男前な顔つきだったんだが、今はなんと言うか見たまんま男前なのだ。造作なんかはほぼ元のままのはずなのに、確実に男前度が上がってるな。

 

「ええと、どうですかね?」

 

 じっと見つめられ続けて、照れたようにモモンガさんが頭を掻いた。次の瞬間。

 モモンガさんが俺達の視界から消えた。

 

「なん……だと……!?」

 

 俺や茶釜さんの視界を掻い潜り、アルベドが超低空タックルでモモンガさんの両足を確保、流れるような動作で小脇に抱え上げると闘技場の外へと駆け出していた。一連の動作は無駄と言う無駄が省かれた最小にして最高の動作であり、近接職でないモモンガさんに防げるようなものではないだろう。アルベド、なんと恐ろしき戦士か!?

 

「って、解説してる場合じゃねぇ!やべぇ、マジでモモンガさんがリア充になっちまう!」

「くっそぉ!アルベド、抜け駆けはしないって誓いあったじゃないか!待てこの野郎!」

 

 俺と茶釜さんは走った。闘技場の入り口の陰からは「や、やめよアルベド!あ、ああ、そこは、ああ!」「くふーっ!モモンガ様ぁ、そんな声を出されたら、私は私はぁぁぁん!」と言う声が聞こえてくる。

 

「手が早いなあいつ!」

「くっそー!アルベドめ!私だってそんな事したいぞ!」

「告白してからにしろ!」

「そ、それはまぁ、近いうちに?」

 

 絶対告白する気がねぇなこいつ!言い合いながら入り口の物陰へ飛び込む俺達。そこで目にしたものは。

 絶世の美女がかなり美形の男子に馬乗りになり、両手を右腕で拘束し、剥き出しの胸板に、その艶かしい舌を這わせ、左腕がズボン?を脱がしにかかっていると言う、なんともあれな状況だった。

 

「た、助けて二人とも!?」

 

 その声よりも早く、俺がアルベドの腰を掴み、茶釜さんがアルベドの全身に触手を絡ませ思いきり引っ張るが、アルベドはその全身筋力でもって抵抗する。だが、無駄無駄無駄ぁ!前衛二人の筋力に敵うわけがなかろうなのだぁ!

 しかし、それでもアルベド諦めない。モモンガさんwith鈴木悟のズボンを握りしめ離さない!こちらも全力で引っ張る。さすが神器級のズボン、破れもしないぜ!

 

「ちょ、ちょっと待ってください!あ、ダメダメ、それ以上引っ張ったら!」

 

 なんかモモンガさんが言ってるが、無視無視。

 

「うおりゃぁぁぁああああ!」

 

 茶釜さんの気合いの雄叫びが響き渡り、ついにアルベドが宙を舞う。

 

「きゃああああぁぁぁぁぁ!」

 

 悲鳴をあげたのは誰だったか……。

 ただ、アルベドと一緒に宙を舞ったモモンガさんのズボンが脱げ、モモンガさんのモモン棒とモモン袋が、女性二人に見られたことだけは記しておこう。合掌。

 

 モモン棒とモモン袋をバッチリ見られたモモンガさんがさめざめと泣いている横で、やまいこがマイペースに茶釜さんに人化のスキルを付与。さすがに防具や服を着てなのは不味いと言うので、とりあえず人化は別のところでやってもらって、恐怖公とニューロニストには先に帰ってもらって、俺達はモモンガさんの部屋へと移動した。

 

 モモンガさんの部屋へ戻った俺達は、まだ落ち込んでるモモンガさんをよそにして、実験の理由をアルベドに説明しておくことにした。

 一通り説明が終わると、アルベドは少々難しい顔をした。

 

「あ、やっぱり承知できない?」

「ええ。少々承知できない案件ですね、茶釜さん」

 

 アルベドがきっぱりとした口調でそう答えた。

 

「もちろん、現地に行って情報収集と言うのは良いと思われますが、やはり守護者の立場からしてみると、容認できる問題ではございません」

「う~む。しかし、モモンガさんたっての希望だし、なんとか叶えてあげたいんだがな」

「それは分かりますが、しかし……」

 

 そこまで言って、アルベドは少し考え込んだ。

 

「では、情報収集のお時間をいただけますか?」

「?アルベド、どうやって情報収集をするんだい?僕たちに教えてくれないかな?」

「実は、デミウルゴスと共に、人間の国に情報収集を仕掛けることを前々から計画していたのですが、それを実行に移そうと思います。計画名は『G計画』分かりやすく噛み砕いて言いますと、恐怖公の眷属を各国にばら蒔き情報を収集しようと言う計画です」

「なるほど。恐怖公の眷属ならどこにでもいるし、怪しまれることはない、か。ん?じゃぁ、モモンガさんが冒険者になる必要性が無くなるんじゃね?」

「いえ、リュウマ様、それは恐らく後々必要になるファクターだと思います。とりあえず、私はデミウルゴスと計画を詰めますので、ここで失礼させていただきます」

 

 そう言うが早いか、アルベドが素早く部屋を出て行こうとする。それに先んじて、俺はアルベドの前に回り込む。

 

「な、なにか?」

「アルベド、いい忘れたことがある。少し耳を貸せ」

 

 俺はアルベドの耳に、そっと囁いた。

 

「モモンガさんのモモン棒は、全力時にはあの二倍ほどになる……!」

「!?まことで、ございますか……!」

 

 その問いに、俺は力強く頷くことで返答とした。俺の頷きを受けて、アルベドは顔を引き締め、部屋から出ていった。ふぅ、アルベドのやつ、今夜はお盛んだろうな。

 何とも言えない達成感に満ち満ちて、俺は三人の方へ向き直り、今後の方針を決めていくのであった。

 

余談

 

「これが天然物の味かぁ……美味すぎる……」

「ほんとだね、モモンさん……ハンバーグ、美味しすぎるよぉぉぉぉ」

 

 食堂で、人化したモモンガさんと茶釜さんが、肉汁溢れるハンバーグを口に運びながら感涙にむせび泣いていた。

 人化して最初にやらせたかった事が、食事をとらせることと、睡眠をとってもらうこと。その間、仕事は僕とリュウマで引き継ぐことになっている。

 二人の嬉しそうな顔を見て、僕は大変満足して、オムライスを口に運んだ。

 

「コンソメスープ、美味しいよモモンさん。食べてみてよ」

「おお、本当ですね茶釜さん」

 

 二人が仲良く出来ているようで何より。

 僕は、少なくとも茶釜さんの味方だよ、ねぇ、かぜっち。

 

 





茶釜さんの容姿については次回にて。

多数の皆さん、お気に入り登録ありがとうございます。

次回も頑張ります。



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