皆のアイドルが出てくるよ。
「あー、やっぱりフレーバーテキストの影響は、そんなに大きくなかったんですか」
僕とリュウマの報告に、モモンガさんが納得したように頷きながら、どこか疲れたような声でそう言った。
ここは円卓の間。僕たち、所謂、至高の42人以外入っちゃいけないって事になってるここに、僕たち三人を召集したモモンガさんは、まずは報告会と言う感じで話を始めていた。
とは言え、実はあんまり報告会で報告するようなことがないのが今の現状。概ね、ナザリックの運営、警戒網、下僕の配置、防衛状況etc. etc. ほぼ全て、優秀な頭脳を持つデミウルゴスとアルベドがこなしてしまっているし、それぞれの守護者に関してみても、それぞれがそれぞれの考えでちゃんと動けてるので、僕たちが出来ることは作戦の立案と細かい調整のみとなっている。
そんな中、唯一といっていい、僕とリュウマがやっていた実験の報告があったので、一応報告しておく。
「下僕の何匹かにフレーバーテキスト付きの武具を装備させて経過を見たんだけど、まぁ、多少の性格の変更みたいな物はあったように見受けられる」
「僕の方も一緒。例えば、このとある腐れゴーレムクラフターが作った『るし★ふぁーソード』なんかは、かなりフレーバーテキストを書き込んであるのに、ほとんど影響がなかったからね」
「なんでやまちゃんがるし★ふぁー作の武器なんか持ってるのか疑問でしょうがないけど、とにかく、影響が大きいものと小さいものがあるってことね」
茶釜さんの言葉に、僕は頷いて肯定をして見せる。それを聞いたモモンガさんは、骨の腕を組んでさらに頭を捻る。なんかもげそうで怖いね、この図。
「陽光聖典の生き残りでも使って実験することも視野に入れてやっていきましょうか。……それでですねぇ、今日は皆さんに少し相談があるんですけど、構いませんか?」
ほい来た。なにか相談事があると思ってたんだ。モモンガさん、あんまり自分の事で僕たちに要求することがない控えめな人だから、こうやって相談されると素直に嬉しくなるなぁ。
僕が頷くよりも早く、茶釜さんが触手を振り上げてる。
「いいよモモンさんー。何でもどーんと言ってみてよ!私が何とかしてあげるから!」
「茶釜さん、ありがとうございます。リュウマさんとやまいこさんも、いいですかね?」
軽く頷く僕の隣の席で、リュウマが片手をあげて返事とした。もうちょっとちゃんとしないと、僕が怒るんだけどね。
「ええとですねぇ……実は、皆さんと冒険をしたいなぁって思いまして」
「おっ、いいねぇ。んじゃぁ、アウラに頼んで一緒に大森林を調査兼冒険でもしてみますか?」
「うんうん、いいねいいね。よぉし、私がモモンさんをばっちりガードしてあげるからねぇ!」
「あ、僕も行くの?うん、たまにはいいかもね」
「ああ、ええと、そうじゃないんですよ皆さん~」
「「「えっ?」」」
詳しく話を聞いてみると、どうも冒険者になりたいらしい。陽光聖典やカルネ村なんかでの情報収集の結果、そう言う職業があるのは分かってたけど、僕の想像だと、あんまり夢の無い職業のような気もするけど。
「やっぱり思うんですよ!支配者たる者、拠点でふんぞり返ってるだけじゃ駄目なんじゃないないかって!もっと外に出て、情報をじかに集めて現場の空気と言うものを知っておかなくちゃいけない、俺はそう思うんですよ!」
「本音を言ってみろ、この骨魔王」
「そろそろかしずかれたり敬われ続けるだけの生活がしんどいです……最近、アルベドやシャルティアが積極的に体に触れてくるし……」
骸骨の顔を手で覆ってさめざめと泣くモモンガさん。ナザリック二大肉食系女子に襲われ続ければ心も折れる、か。しかし、そうなると精神的なお休みの意味も含めて、外に出て冒険をしてもらうのも悪くない考えだと思う。正直睡眠も食事も不要になっているから、精神がどれだけアンデッドに近づいたとは言え、人間性のようなものは失ってないんだからストレスが溜まるはず。溜まったストレスはいつか爆発するから、どっかでガス抜きしてもらわないとね。
「僕は、外に出て人間に交ざって、情報収集も兼ねて冒険者をするのには、賛成してもいいよ」
「やまいこさん……!」
「わ、私も賛成するよぉ!けどなぁ」
「モモンガさん、ひとつ確認なんだけど、誰と冒険者になって冒険するつもり?」
「え?そんなの決まってるじゃないですか、皆さんと……」
そこまで言ってモモンガさんが言葉を止めて、非常にゆっくりとした動作で自分の骨の顔を手で覆った。
「皆が異形種だってこと……忘れてた……」
まぁ、本人たちも時々忘れるからしょうがないとして、茶釜さんがモモンガさんを慰めている間にどうするべきか考えてみよう。
「さぁ、どうするリュウマ」
「どうするったって、なぁ?」
「お供がいた方がいいよね、絶対」
「そいつは絶対にいた方がいい」
ナザリックの下僕達が暴走しないためにも。
「じゃぁ、リュウマは誰が適任だと思う?」
「俺?俺かぁ……出来ることなら人型で人間の町に紛れ込んでもばれないやつがいいよなぁ?そうするとプレアデスの中から一人、領域守護者や階層守護者の中から一人、かねぇ?」
「かなり限定的な人選になるね。出来ることならタンク役が一人欲しい。プレアデスにいたっけ?タンク出来る人」
僕の言葉に、リュウマが首を捻って考え始めた。よくよく考えればこいつも真面目だなぁ。時々だけど。
「……純粋なタンクはいないかねぇ?本当は茶釜さんがいれば万事解決なんだけど、色々と」
茶釜さんは優秀を通り越して異常とまで言われるタンク役、連れていければ旅の安全は万事確保となるんだけど、どうしたもんかなぁ。
二人して悩み始めたところで、僕に天啓が舞い降りる。昨日整理したばかりの無限の背負い袋の中から指輪を一つ取り出してリュウマの前に翳して見せる。
「おー、〈 流れ星の指輪/シューティングスター 〉じゃないか。それがどうした?」
「ある程度フレーバーテキストが効果を現すことがわかった今、これの効果もまた変化してるんじゃないかと、僕は思ってる」
「……願いを叶える事が可能、か。ふむ、ちょっとモモンガさんに相談してみようか」
カクカクシカジカ。
「〈 星に願いを/ウィッシュ·アポン·ア·スター 〉で実験ですか?いったいどんな内容の実験です?」
「そいつは、あれだ……やまいこ、任せる」
すぐに人に丸投げをするリュウマを睨み付けつつ、僕が引き継いで実験の内容を伝える。
簡単に説明してしまうと、人間変身的なスキルを、この指輪で他人に付与できないか、と言うのが僕の考えた実験だった。これさえ出来れば、茶釜さんも守護者で異形種の者も外へ連れ出す事が可能になる、はず。無論、失敗する可能性もあるため無理強いは出来ないこともちゃんと伝えてある。
実験の内容を聞いたモモンガさんは、腕組みをして唸っている。
「どったの、モモンさん」
「え~いえ~、皆と冒険をしたいって言うのは、俺の我が儘なんで、そんなことに貴重な指輪を使わせるのもどうかと思うんですよ」
「俺が思うに、この実験が成功したら、外で活動できる守護者が増えて色々やり易くなるからダメ元でやってみたらどうかと思うんだが」
俺の持ってる〈 流れ星の指輪/シューティングスター 〉も出すから。そう言ってリュウマが指輪を取り出す。その数三つ。それを見たモモンガさんが膝から崩れ落ちて、再び顔を覆ってさめざめと泣き始める。「俺のボーナスはなんだったんだろう?」とブツブツ言ってるのがちょっと怖い。うん、モモンガさん運が無さすぎるだけだと思うよ、僕は。
数分後、精神安定が発動したらしいモモンガさんが立ち上がって、軽く咳払い。なんだか申し訳なさそうな顔のリュウマが〈 流れ星の指輪/シューティングスター 〉をモモンガさんに手渡し、さて、と。
「どこで実験しましょうか?」
それな。むしろ、誰を実験台にするかと言うのが問題だと思うんだけど、と、僕がポロリと漏らすとリュウマが、
「俺に任せろ!いい奴を二人ほど知ってる!」
「誰です?いや、答えろ芋侍」
「黙れリア充魔王ボーン。とにかく、円形闘技場で待っててくれよ。その二人を連れて後から行くから」
言うが早いか、指輪の力で転移するリュウマ。誰かが止める暇も無しだった。なんか、言い返す言葉が嫉妬に満ち満ちていたような気がするけど。モモンガさんも首を捻ってる。
「じゃ、じゃぁ、とりあえず、先に闘技場に向かおうか?」
茶釜さんに促されて、僕たちは一路、闘技場へと転移したのだった。
闘技場に転移し、現在この階層の管理をしているマーレ君と、ちょうどこの階層に用事があってきたと宣う守護者統括ことアルベドと合流し、軽く雑談なんかをしていると、闘技場の入り口からリュウマの声が聞こえてきた。なんかお姉系のダミ声と理知的なイケメンボイスが聞こえてきた。ついでに、なんかカサカサと言う音も。
「うわっ」
「ひえっ」
「あわわっ」l
その人物が姿を表すと同時に、僕たち女組がそんな悲鳴を漏らした。仕方がない、こればっかりは仕方がないんだ。
「おぅ、連れてきたぜよ」
ニコニコと笑いながら、リュウマはその二人を前に押し出してくる。
一人は、凄く分かりやすく言うと、ブクブクと膨れた水死体と言った感じの特別情報収集官ニューロニスト·ペインキルだ。相変わらずのキャットウォークでしゃなしゃなりと歩く様は、中々堂に入ってると思う。いろんな所が揺れるし。
そして、もう一人が大問題だ。物凄く、物凄く分かりやすく説明するなら、体長三十センチの二足歩行で立つ……G。住居最悪、恐怖公だった。
「これはこれは皆様、大変お見苦しい姿をお目にかけております」
「そんなこと無いって恐怖公」
「そうよん。あなたの立派な姿に、皆感嘆の表情を浮かべているだけよん」
ニューロニストとリュウマが、恐怖公の肩に手を置きながら、慰めるように言ってる。リュウマ、お前いつから恐怖公と仲良くなった。
「え、ええと、リュウマ様?この二人を連れてきて、いかがなさるおつもりなのでしょうか?」
「おや?アルベドは聞いてないのか?」
「ええと、何やら実験をなさると言うことですけど?」
「そうそう、んで、実験のために二人に来てもらったと、そう言うわけさ」
リュウマの説明に、ニューロニストと恐怖公が何度も頷いている。なるほど、ことの経過をちゃんと説明されてここに来てるのか。じゃぁ、文句を言う筋合いは無いな。うん、無い。
「えー、あぁ、では二人とも、実験の内容は分かっていると言うことでいいんだな?」
「もちろんでございますわんモモンガ様ぁん」
「心構えはしてきておりますぞ、モモンガ様」
ニューロニストは体をくねらせ、恐怖公は赤いマントをはためかせながら礼をしてそう答えた。
「じゃぁ、うん。二人の覚悟は分かった。では実験を開始したいと思う」
そう言ってモモンガさんが〈 流れ星の指輪 /シューティングスター〉を取り出すと、高くそれを掲げて、闘技場に響き渡る声で唱える。
「我は願う!この二人に人化のスキルを与えよ!」
一瞬、モモンガさんの目の奥の燐光が小さくなり、ついでそれが大きく赤々と燃え上がる。それと同時、恐怖公の体とニューロニストの体が、一瞬だけ緑の光に包まれて、そして何事もなく体の中に吸収されて緑の光は消え去ってしまった。失敗したのか、一瞬、その場で見ていた全員が疑問を抱いたが、突然モモンガさんが喜びの声を上げた。
「成功だ!成功したぞ!いや、凄いなぁこの魔法は!」
「おめでとうございます、モモンガ様!」
「おめでとうございますわん、モモンガ様ぁん」
「おめでとうございます、モモンガ様。さすが至高の方々をおまとめになられているお方ですな」
守護者達が口々に称賛の声をあげるなか、僕らは何が凄いのか分からず、じっとモモンガさんを見ていたんだけど、その視線に気がついたモモンガさんが、気恥ずかしげに咳払いをするとこちらへ向き直り、説明を開始してくれた。出来るなら、もっと早くしてほしかった。
「ええっとですね。〈 星に願いを/ウィッシュ·アポン·ア·スター 〉は問題なく発動し、その効果を発揮しました。いや、凄いですよこれ!まさに、これこそ本当に願いを叶える魔法なんですよ!」
「落ち着けモモンガさん。で?一体全体どういう効果になってるんだ?」
「そのままの意味ですリュウマさん!この魔法は、使用者の願いを、経験点の消費分だけ叶えてしまう魔法になってるんですよ!不可能を可能にする魔法!恐らく、最大まで経験点を消費して願えば大体のことは叶いますね!」
なるほどなるほど。で?
「結局、二人は変身できるようになったの?」
僕の言葉に、ニューロニストと恐怖公は一つ頷くと、その体を蠕動させ始める。そして……。
「えーーーーーー!?」
人間へと変身を終えた二人に、全員から驚きの声が上がったのだった。
続く
少しどころじゃなく長くなりそうだったので分割しました。
申し訳ない。