The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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ちょっぱやおまた!

次回でカルネ村編終了、ニグンさんガンバ!





13,人であること⑤死の神

「それでモモンガさんはどんな作戦であいつらを絡めとるつもりなんだ」

 

 右手に持った青龍偃月刀をまっすぐ相手がいるだろう方向に向けながら聞いた。返ってきた答えは単純だ。

 

「話をしてボコ殴りにした後、パンドラズ·アクターにタブラさんの姿になってもらった後脳味噌を吸わせて情報を得る。この程度のゴミに俺たちが負けると?」

「いや、油断すんなっつったのあんたじゃねぇか」

「……そんなことも、ありました」

「はいはい、二人とも緊張感を持って」

 

 ワチャワチャ会話してる二人に、やまいこからの叱責が飛ぶ。

 

「とにかく、殺さないように、手足の一本でももぎ取って捕縛するで、いいんだよね?」

 

 やまいこの言葉に、モモンガが首を縦に振った。先程から伝言による敵捕縛完了のメッセージが何回か届いているから、恐らく問題なく鏖殺することが可能だ。最初は色々話して情報を収集することも考えたのだが、下手に時間をかけると不審に思ったガゼフが戻ってくることも考えられる。

 ガゼフには生きていてもらわなければならない理由がある。それは、王国と言う国に対するパイプだ。細かろうが何だろうがそこに繋がりがあれば、こちらからの毒や草を送り込むことだって容易になる。無論、多少言葉を交わしたお陰でペットに対する愛着のようなものが無いでもない。だから助ける。

 丘を越え、いよいよ敵の本隊らしき部隊が目に入った。だからと言って、全員が特別緊張することなく歩を進める。

 

「止まれ!」

 

 敵の中で、部隊中央に立つ頬に傷を持つ男が、恫喝するように声を張り上げた。距離にしておおよそ十メートル。

 

「貴様達は何者だ?何のためにここまで来た?」

「初めまして、スレイン法国の皆さん。私はアインズ·ウール·ゴウンに所属する魔法詠唱者モモンガと申します。こちらが我が同胞リュウマ·ヒビキ、こちらがやまいこ、そして私の隣にいるのが我が愛すべき従者、アルベドです」

 

 愛すると言われた瞬間、漆黒の鎧がブルリと震え、中からボソボソと声が漏れ出る。一番近くにいたやまいこが耳を近づけると『ふひっ、あ、愛してる愛してるですって。これは他の面子よりも一歩から二歩リードした証拠よねフフフフフフああモモンガ様私も愛して…………』なんとも言えない気分になった。

 その間にも話は進んでいた。モモンガがあなた達では我々には勝てない、そう言った瞬間、向こう側に殺気のようなものが張り詰めた。しかし、それでも手を出してこないと言うことは、なかなか統制がとれていると見えた。少なくとも特殊部隊と言うのは名ばかりではないと言うことか。

 

「ふむ、無知とは哀れなものだ……と、言いたいところだが確かに、我々の実力は、あまり一般には知られていないようだからな、君が知らなくてもしょうがない。だが、それ以上無礼な口を利けば、その愚かさのつけを払うことになる」

「さて?それはどうでしょう?我々にしてみれば、あなた程度の人間が調子に乗っても、子供が駄々をこねている程度にしか感じられません。特に、その程度の天使を召喚していい気になっているようではね」

「……安い挑発だ」

 

 そう吐き捨てはしたものの、ニグンは言い知れぬ不安を感じていた。この感じは、そう、番外席次〈 絶死絶命 〉の姿を初めて見たときのような不安感。だが、そんなことは無いと、ニグンは首を振って否定した。あんな化け物がひょいひょい居てたまるか、そんな思いからだった。

 

「そうでしょうか?ならばなぜ我々はあなた方の前にこうやって堂々と姿を見せて正面から挑んでいるのでしょうか?答えは簡単です。あなた達ごとき、即座に捻り潰せるからに相違ありませんよ?」

 

 一瞬、風が吹いた。それは大量の死の臭いを含んでいるような気がした。隊員達が一歩下がるが、ニグンはそれを見咎めなかった。自分ですら下がりたくなってしまったのだ、それはしょうがないと言えるだろう。

 

「お分かりいただけたようで何よりです。ですが、我々にも時間がないのだ。簡単に言ってやろう。今すぐ降伏するのであれば生きることができる。もし攻勢に出れば貴様らは惨たらしく、生きていることを不幸に思いながら死ぬことになると知れ!!」

 

 その言葉は死の言葉だった。物理的圧力すら伴って、言葉が陽光聖典全員の心と体を押した。同時に、一歩踏み出したリュウマとやまいこのせいで、ニグンの精神は限界に到達した。

 

「天使達を突撃させよ!近づけさせるな!」

 

 掠れたような悲鳴、否、命令をニグンが発した。

 ニグンの指令を受け、襲いかかる四体の炎の上位天使。

 

「私がやるから、リュウマはその後」

 

 その言葉は、爆音と共に高速で流れた。

 ニグンにしてみれば二メートルを超える女が、一瞬で天使達の前へ出現、その腕に持った巨大で凶悪な棘付きガントレットを持ち上げた、そう思った瞬間、四体の天使が木っ端微塵に吹き飛んでいた。

 戦場を静けさが包む。誰も言葉を発する事ができなかった。

 

「うん、弱いね」

「な、何をした、貴様」

 

 ようやく言葉を絞り出したニグンに、やまいこはケロリとした態度で、なんでもないかのように答えた。

 

「ジャブで殴っただけだよ?ああ、もしかして見えなかった?ごめん、それなら次は手加減するからさ」

「は?はぁ!?」

 

 あり得ない、あり得るはずがない。そう考え、ニグンはもう一度叫ぶ。

 

「もう一度天使を突撃させろ!!今度は倍だ!!」

 

 その言葉に応じて、倍の八体の天使がやまいこに突撃を敢行する。その天使達の間に割り込む影があった。

 

「次は俺、だったな?」

 

 そう言いながらリュウマは、まっすぐ前を向いたまま青龍偃月刀を振るう。縦横無尽に攻めてくる天使の剣を打ち砕きながら、それぞれの首へ冷静に刃を滑り込ませはね飛ばす。あまりにも威力がありすぎたためか、天使は一瞬で光の粒子へと還元され、その場に幻想的な空間を作り出す。

 この一連の動作を見ることが出来たのは、モモンガ一行だけであり、ニグンには霞む何かが天使を消し飛ばしたようにしか見えず、一般の隊員にはやはり、何が起きたのかすら分からない。

 

「な、なんだとぉ!!」

「あ、ありえるかぁ!?」

 

 隊員達が口々に悲鳴を上げ、次々と魔法を繰り出してくる。〈 人間種魅了 〉〈 正義の鉄槌 〉〈 炎の雨 〉〈 石筍の突撃 〉等々。ちなみに精神効果のある魔法は兎も角として、ダメージ魔法に関してはリュウマは回避している。

 

「ふむ、どれも聞き覚えのある魔法ばかりだ。いよいよ知りたいことが山のように増えてきたな」

 

 モモンガがそういっている間に、やまいこが前線へ飛び出し、魔法を真っ向から無効化しながら、次々と召喚される天使を今度こそぶん殴ってるのが辛うじて分かる速度でぶん殴って撃滅していく。その影に隠れて密かにサボるリュウマ。

 

「くっ!監視の権天使よ、行け!」

 

 焦れたニグンが叫ぶと同時に、傍らに控えていた天使が、人間をも容易く打ち砕くメイスを振り上げやまいこに迫る。

 高い金属音、崩壊する天使の体。メイスはやまいこの〈 女教師怒りの鉄拳 〉により防がれ、その隙に飛び出したリュウマがその体を薙ぎはらったのだが、ニグンには何が起きたのか分からず、ただただ呆然とするしかなかった。防御能力に優れ、さらにニグンのタレントにより強化された監視の権天使は、たとえガゼフ·ストロノーフであろうとも一撃で撃滅する等と言う事は不可能な筈だ。つまり、こいつらは……。

 

「!?総員、最高位天使を召喚する!!時間を稼げ!!」

 

 ニグンが取り出した水晶を見て全員の表情が変わる。

 

「魔封じの水晶、だと!?モモンガさん!」

「わからん!少なくともセラフクラスを見ておけ!」

 

 その言葉に、リュウマは舌打ちを一つ、片手を大きく上げ指を二本立てた後、片方の指を曲げて降り下ろした。

 

 この丘から一キロほど離れた森の中に、その人物はいた。可愛らしいメイド服を身に纏い、人形のように整った顔立ち、片目にはいかつい眼帯。腹這い姿勢で長大なライフルを構え、自分達の主の一挙一動を見逃すまいとしているこの人物こそ、プレアデスの一人、シズである。

 そのシズが覗く先で主の一人、リュウマの腕が上がったのを確認、指の動きを見て、即座に目標となるやつの目標となる部分に狙いをつけ、引き金を落とした。結果は見るまでもない。シズは、ゆっくりと必要ないはずの息を吐いた。

 

 ニグンに持つ水晶の輝きが最高潮へ到達しようとしたとき、それは起きた。何かが飛来し、ニグンの腕を吹き飛ばしたのだ。それと同時にやまいことリュウマは走り込み、回りの隊員をそれぞれの手段でなぎ倒し捕縛する。

 一方の腕を吹き飛ばされたニグンは、それでも衝撃から即座に立ち直り、片手で這って自分の千切れた腕、ではなく、その腕が握っている法国の至宝へと近づく。しかし、それを手にするよりも早く、武骨なガントレットに包まれた腕が至宝を拾い上げた。

 

「ふむ?なんだこれは?」

 

 それは、先程モモンガと名乗った魔法詠唱者だ。絶望にうちひしがれながらも、ニグンは魔封じの水晶に向かって手を伸ばすが、その腕はアルベドによって骨が砕けるほど踏みにじられるはめになった。

 

 

「おーい、モモンガさん、終わったよ、そっちはどう?」

 

 モモンガが顔を向けると、やまいこが走ってきていた。向こうではリュウマが手足こそ変な方向に向いているが、一応全員息がある陽光聖典の隊員を縛り上げて、転移門を開いた先にいるシャルティアにそれらを引き渡しているリュウマの姿があった。

 

「問題なく終わったようですね、やまいこさん。ああ、アルベド、そいつは自由にさせて構わないぞ?」

 

 短く返事を返したアルベドを横目に、モモンガは手に持っていた水晶をニグンの眼前に放り捨てた。何をされているか分からないといった表情にニグンに、モモンガはため息を付きながら説明してやることにする。

 

「それに込められているのは〈 威光の主天使 〉だな?そんなものを最高位天使等と、笑わせてくれる」

「なんなんだ、お前らは……私たちをまるで子供の手を捻るように叩き伏せ、最高位天使を馬鹿にするなど、そんな存在、いてはいけないんだ……」

 

 その言葉は、うちひしがれても曲がらない何かを持った人間の言葉だった。仮面を指先で掻き、モモンガは嘆息する。

 

「私は最初言った筈だ。我々と戦えば、死ぬより辛い目にあうことになると。その言葉を無視し挑んできたのは貴様らだからな、自業自得だ」

 

 そう言って、モモンガがニグンの襟首をつかむと同時に、大きく空間が割れる。まるで陶器の壷のように。しかし、それは瞬く間に元に戻り、先程の異様な光景はどこにもない。

 ニグンが困惑する中、モモンガから答えが投じられる。

 

「ふむ、誰かが監視魔法でお前を監視していたらしいな。効果範囲内に私がいたから対情報魔法用の攻性防壁が発動したから大して覗かれてはいないだろう。広範囲を巻き込むような〈 爆裂 〉程度では覗き見を懲りたりしないだろうな。ふむ、次はもっと面白い魔法をセットしておくのも手だな。では遊びはここまでだ」

 

 そう言ってモモンガは転移門の前でニグンを地面に下ろすと、言葉を続ける。

 

「私が何者かと問うたな。その答えだけは教えてやろう」

 

 そう言ってモモンガは仮面に手をかけ、リュウマは体に力を込める。やまいこも何かに集中しているようだ。何が始まるのかと恐れ戦くニグンの前で、リュウマの身長がさらに伸び、肌が黒金のような輝きを持つものに変わり、こめかみから天に伸びる二本の角が生え出てくる。下顎の牙が上に向かって伸び、そこには異形の鬼が立っていた。やまいこの方もさらに背が伸び、全身を包むコートが顔までを覆う。両足は犬や狼のような、それに酷似した形へと変化する。もっとも如実に変化したのは両腕だ。腕そのものが巨大化し、武骨で凶悪なガントレットを保持するのにちょうどいい大きさへと変貌を遂げていた。それが終わった後、モモンガがようやく仮面を取った。

 その顔を見た瞬間、ニグンの胸の中に何かがストンと落ちた。

 

「スルシャーナ……」

「……なんだと?」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 戦いが終わった後の夜の帳が落ちた草原を歩く。やはり夜空は美しく少し気分が高揚した。

 やまいこは先にナザリックへ戻ってしまった。一日一回しか元の姿に戻れない為、村には戻れないと判断したからだ。ついでに、先程のニグンとかいうやつも治療してもらうことにした。

 

「ふぅむ、謎が増えるばかりだな」

「お疲れさまです、モモンガ様」

 

 後ろからついてきていたアルベドが、気遣わしげにそう声をかけてきた。

 

「いやいや、疲れてなどいないさ。私に疲労などと言うバッドステータスは無いからな」

「そうではありますが、妻として夫の身を案じるのは当然ではありませんか?」

「え?」

「もちろん、リュウマ様の言うように一歩下がって夫に尽くすのが妻の勤め、しかし、夫の身を案じて先回りして様々な事をしておくと言うのも妻の勤めだと思うのですがモモンガ様はどう思われます?」

「え?あー?んっんー、アルベドよ、その話は後にしよう。とにかく、今はこれから得られる情報の検分が先だ」

「えー?」

「えー?じゃねぇよ。ちょっと可愛いと思ったじゃないか」

「か、可愛いですかクフー!」

「そうではない、そうではないぞアルベドよ」

 

 夜の草原、二人は仲睦まじく歩いて行く。

 後ろに一人の侍がいるのを忘れて。

 

「お前ら、いい加減にしろよ?」

 

 

 




次回で一巻分が終了します。

結構かかったな……。

お気に入り登録してくれた方々、ありがとうございます。

今後もこんな感じで進みますのよろしくどうぞ。

ー没案ー

 天使が八体突撃をかましてくる。ニヤリとやまいこは口許を歪め、コォォォォォォォォッ!と特殊な呼吸法をし、拳を握りしめ叫ぶ。

「神魔血破弾!!」

 不可視のエネルギーが、天使を内部から吹き飛ばし血煙に変えるのだった。

没理由
知ってる人がほぼいないのと、そんなスキルは無いと思ったから。後、表現が難しい。


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