The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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それぞれの活躍回。

ポロリは無いけど酷いことになってる人がいるよ。

二人のファンにはごめんなさい。


12,人であること④狂気

「なるほど……確かにいるな」

 

 家の陰からルプスレギナに報告された人影をリュウマが窺う。

 見える範囲では三人、見切り参/気配探知を使えばその倍以上。各員が等間隔を保ちながら接近してくる。

 そして、そいつらが全員、横に光輝く翼の生えた者、天使を引き連れている。

 

「なんだっけあいつは……たしか炎の上位天使、か?モモンガさん、どう思う?」

「見た目には間違いないかと思うんですが……なんでユグドラシルのモンスターが?魔法による召喚が同じ?いや、俺達もゲーム内のモンスターを召喚できるんだから……」

 

 同じく覗いていたモモンガがぶつぶつと呟く。その後ろで相手をうかがっているガゼフも相手の強さを計りかね、顎に手を当て悩んでいる。

 知識がないため相手の強さを計りかねるガゼフに、やまいこが見に来るついでとばかりに問いかける。

 

「一体、彼らは何者で、狙いはどこにあるんでしょうかね?この村にはそこまでする価値はないと僕は思うんですが?」

「やまいこ殿だったか?貴女方に心当たりがないとなれば、恐らく私狙いでしょう」

 

 やまいこの視線とガゼフの視線が交錯する。

 

「憎まれてるんですか?戦士長殿は?」

「この立場についている以上誰かから恨まれるのは当然ですが……天使を召喚し、なおかつそれだけの術者を揃えられるとすれば、恐らくスレイン法国でしょう。それもこれだけの特殊任務に従事するのであれば、噂の六色聖典に相違無いはずです」

 

 厄介だと言わんばかりに肩をすくめたガゼフに対して、初めて聞いた単語にやまいこは小首をかしげる。

 

「六色聖典とはなんでしょうか戦士長どの?」

「?……そう言えば皆さま方は外の国からいらっしゃったのでしたね?とは言え、人の噂に上りはすれど実体のつかめない、スレイン法国の謎の特殊部隊の総称です」

 

 スレイン法国、六色聖典、特殊部隊かぁ。やまいこは呟き、モモンガに視線を向けると、モモンガもこっちを見ながら首を縦に振る。その後、仮面を指でカリカリと掻いた後、ぶくぶく茶釜へと伝言を繋げる。

 

『茶釜さん、相手がどういう風に布陣してるか、分かりますか?』

『うん、大丈夫、把握してる。四方を囲むようにそれぞれ四人、召喚された天使がそれぞれ四体、ついでに言えば村の入り口の方から見て丘になってる向こう側に十人ほど。召喚モンスターは大体一緒だけど、一体だけ毛色の違うやつ、おそらく〈 監視の権天使 〉』

『なるほど……茶釜さん、西にいる奴等を茶釜さんとシャルティアで捕縛してください。東にいる奴等はデミウルゴス、南と北にいる奴等は俺たちが何とかします』

『おおっ!?暴れちゃってもいいの!?』

『ええ、監視だけだと飽き飽きでしょう?ああ、そうだ、一応殺さないで下さいね?あ、いや、一人二人は別にいいですけど、貴重な情報源です、生きたまま捕縛してください。あ、腕や足をもぐ分には問題ないですから』

『了解~。周りに潜ませてある僕は?』

『待機で』

 

 十分かからぬうちに準備を済ませ行動を開始すると言って切った茶釜を頼もしく思いながら、モモンガが上げていた視線を下に戻すと、そこにはガゼフが真剣な表情でモモンガをまっすぐ見て立っていた。

 

「どうかなさいましたか戦士長殿?」

 

 一瞬の逡巡後、ガゼフが口を開く。

 

「モモンガ殿、良ければ雇われないか?」

 

 返答はない。ただ、仮面の下から凝視されていると、ガゼフは感じた。故にもう一度口を開こうとガゼフが決心するよりも早く、モモンガが口を開いた。

 

「雇われるつもりはありません。ここは一つ共同戦線を張りませんか?」

「!?よろしいのですか?まだ報酬の話もしておりませんのに」

「それに関しては後ほど。実は四方を囲まれておりまして、この状況を如何にするかと言うことを考えておりました。そこで、私どもが北側の部隊を相手取っている間に、戦士長殿は南の部隊を相手取ってほしいと、そう提案したかったのです」

「ふむ、理由をお聞きしても?」

「南側は森に最も近いのですよ。そちらへ村人を避難させたいのですが、そちらにはそれなりの戦力がいるようです。北側には大した戦力もないようですし、我々が全力で陽動をすればそちらへ戦力が行くこともなくなる、とそう言ったわけです」

「それは……あなた方が危険では?」

「むしろ村人をつれて戦わなければならないあなた方が大変かと思いますよ。我々なら、全滅をさせることは不可能でも撃退することなら可能ですので。それにあなたは戦士長、この国に必要な存在でしょうし、何より、戦士長がそばにいると言うだけで村の人々が安心するでしょう」

 

 だから、我々が危険な役目を行います。

 そこまで言われて、ガゼフは頭が下がる思いで一杯であった。この魔法詠唱者は、その深い叡知にて全てを見通した上で、村人の安全と心の安寧、そしてこの国の未来に関してまでも考えてくださっていた。その思い、考えに平伏する思いだ。

 その横でモモンガは、内心無いはずの心臓が早鐘のように鳴るのを感じて生きた心地がしなかった。いや、死んでるんだけど。正直、途中からかなり強引だなぁとは思っていたし、正直最終的に何を言っているかいまいち分かってなかったのだ。勢いって怖い。そう思ってドキドキしながらガゼフを見ていたら、おもむろに頭を下げられて正直ドキッとした。

 

「モモンガ殿、そこまで考えていただき、まことに感謝する」

「えっ?はっ、いえいえ、え~、そこまで感謝されることでは、その、ありませんよ?」

「いえ、そう言うわけには参りません!この報酬は、いかようにでもおっしゃってください!生きて帰ったならば、必ずお支払いたしますので!」

「は、はぁ。で、では!作戦を説明します」

 

 少々引きながらも、モモンガは悪い気はしないなと思いつつ、時間稼ぎのための作戦説明を始めるのだった。

 

~カルネ村西側~

 

 そこに潜んでいた陽光聖典の兵士は、その瞬間何が起きたのか分からなかった。

 片側に佇んでいる天使が、何らかの攻撃を受けて消滅した。その何らかが全く理解できなかったのだ。

 

「あ~あ、脆いでありんすな~茶釜様」

 

 いつのまにか自分の隣に立っていた絶世の美少女が、心底つまらなそうにそう言っている。肩を掴まれているだけだと言うのに、万力で絞められ、上から巨石でものし掛かっているかのように身動きがとれないでいた。

 

「まぁまぁ、たまの息抜きだと思えばいいんじゃないのシャルちゃん」

 

 少女の言葉にこたえたのは、ピンク色の醜悪な肉塊。その体のあちこちから触手を出し、残り三名の隊員を拘束していた。その細いはずの触手は、鋼で出来ているかのように、暴れる大の大人を拘束してなお緩まない。

 

「あーあ、暴れないでよ、もう。いいや、へし折ろう」

 

 明るく物騒なことを言った瞬間、複数の触手が男たちの口の中に侵入し、声を出すのを防いだ後、まるで枯れ木でもへし折るかのような気安さで鍛えられた両手両足を、決して曲がってはいけない方向へおりまげた。そのまま二、三度足を外側内側へ捻った後、満足げに、その背後にあった黒い穴の中へと放り込んだ。

 

「ん~、やっぱり人間やめちゃったのかな、なんも感じないや」

「茶釜様、こな娘、どういたしんしょ?」

 

 ばれてる!少女の言葉に、彼女は心臓が止まる思いだった。

 ピンクの茶釜と呼ばれている肉塊は、ゆっくりと近づいてきて、彼女の顔に触手を這わせた。ヌルリとした人肌ほどの暖かさの粘液に、ゾクリと背筋に寒気が走り顔をしかめる。

 

「ん~、まぁ一人二人は殺してもいいってモモンさん言ってたからなぁ、どうしよっかなぁ?」

 

 そのグロテスクな見た目に似つかわしくない可愛らしい声がさらに恐怖に拍車をかける。

 

「……こ、……ないで……」

「んー?なんて?」

「殺、さない、で、下、さい。な、なんでも、し、します、から……」

 

 歯の根をカチカチとならす目の前の女に、正直茶釜は興味がなかった。助ける価値はない。だったらどうするかならそれは簡単だ。

 

「……分かったよ、殺さないであげる」

 

 彼女の顔が喜びに染まる。

「シャルティア、殺さないように、連れ帰って好きにしていいよ。最後は下僕にでもすればいいんじゃない?」

「まことでありんすか茶釜様」

「まぁ、弟の作った子だから、妹みたいなものだしね」

「い、妹でありんすか!?で、では、お姉さまと、お呼びしてもよろしいんでありんすか?」

「いいんじゃない?まぁ、シャルは可愛いし、悪い気はしないよね」

 

 悲鳴をあげる女の口に指を突っ込み、兜を剥いで露出した髪を掴んで引きずりながら、二人は和気あいあいと転移門でナザリックへ帰還したのだった。

 

~カルネ村東側~

 

「『ひれ伏し言葉を発するな』」

 

 耳触りがいい声が聞こえたと思った瞬間、体が急に地面にひれ伏し、言葉が一切出せなくなり、陽光聖典の隊員達は困惑した。

 

「ふむ、支配の呪言で支配できると言うことは、対した強さではないと言うことか」

 

 いつのまにそこに立っていたのか、スーツ姿の南方風の男が何かを思案するようにしながらこちらへと歩んできた。

 

「しかし、私が出張ったんだからもう少し抵抗らしい抵抗をしてくれないと、働いていないように見られそうで困りものだ」

 

 世間話でもするかのように、その男はそう言って薄く笑った。それと同時に、その男の後ろにある真っ黒い穴から数人の絶世の美女が出てきて、てきぱきと一人ずつその穴の中へとつれていく。

 その中の一人の美女が、ピタリと動きを止めるのを見た男。

 

「エントマ、どうしたのですか?」

「デミウルゴス様ぁ、私ぃ、お腹がすきましてぇ」

 

 甘えるような声音でそう言った美少女に対し、デミウルゴスと呼ばれた男は笑顔のままうなずいて口を開いた。

 

「そうだね、エントマ。ならば、一人食べることを許可しよう。君が運んでいるその男を、食べても構わないとも。ああ、すまないね、私の支配の呪言のせいで悲鳴は出ないんだ」

「だぁいじょうぶですよぉ、デミウルゴス様ぁ」

 

 蕩けたような声音でそう言って、エントマ·ヴァシリッタ·ゼータは、仮面蟲を剥ぎ取り、本来の顔に戻ると、恐怖に顔を歪ませる男の体の端からむさぼり始めた。

 痛みと恐怖でビクビクと体を跳ねさせる男を見ながら、デミウルゴスは満足げに頷いたのだった。

 

~カルネ村南側~

 

 ガゼフ·ストロノーフは部下達の先頭に立ち剣を抜いた。それに合わせて部下達も思い思いの武器を抜き、背後にいる百数十人の村人を守るように隊列を組んだ。

 頃合いは良し。そう思いながら隣を見るガゼフ。そこには深紅に輝く魔獣に跨がった少女二人がいた。姉のエンリ·エモットはそのまだ幼さの残る顔を凛と引き締め槍を握る。妹、ネムは無邪気に、しかしどこか残酷なイメージを抱かせる表情で燃える子猫数匹を全身にまとわりつかせていた。

 

「エンリ殿、問題はありませんか?」

 

 ガゼフの言葉に、エンリは小さく頷いて笑顔を向けた。

 

「問題ありません戦士長殿。私と妹の事はお気になさらず」

「承知いたした。では、参ろうか!」

 

 そう叫ぶと同時に、二騎は駆け出した。本当はエンリのまたがる炎々羅の方が圧倒的に速いのだが、力を抑えて戦うようにエンリは言われているので力をセーブしている。

 数分走ると森の中から炎の剣を持った天使が飛び込んでくる。その数四体。まず反応したのがエンリの駆る魔獣。左から向かい来る天使を爪の一撃で木っ端微塵に打ち砕き、尻尾の一撃で粉砕すると、動きを止めずにはしりぬける。左から来た天使は、ガゼフが迎撃する。出発前にリュウマから借りた魔法の剣は、国宝とはいかないまでも十分な切れ味で天使を容易く両断し、返す刀でもう一体を袈裟斬りにして走り抜ける。

 

「見えたぞ!」

 

 ガゼフの目には四人の兵士の姿があった。馬の足を緩めぬままガゼフは〈 武技:能力向上 〉のみを使用し、一息に相手の懐に飛び込み、〈 武技:四光連斬 〉を放ち、召喚された天使二体と術者二名を切って捨てた。その隣でエンリの魔獣が天使二体を苦もなく粉微塵に粉砕し、光の粒子となって吹き散る天使の陰から、エンリ自身が槍を構え、突進の勢いのまま陽光聖典の兵士の胸を貫く。そしてもう一人は、

 

「う、うおおぉぉぉぉぉ、来るな来るなぁぁぁぁぁぁ!」

 

 十匹ほどの火焔猫に襲いかかられ、全身に火傷を負いながら転げ回った。しかし追撃は止まらない。いくら猫サイズとは言え、その攻撃はすべて相手を焼く攻撃なのだ。俊敏な動きで手足の末端から徐々に徐々に焼かれ悶える兵士を見ながら、ネムは薄い笑いを浮かべていた。

 そうしてじわじわと動かなくなった頃合いを見計らって、ネムの合図に合わせて火焔猫が炎を吹いた。全身を火だるまにされた兵士は狂ったように暴れまくる。しかし、その動きは、エンリと言う乱入者によって止められた。エンリの突き出す槍が兵士の胸を穿ったのだ。

 不服そうにするネムに、エンリは軽くビンタをした。

 




魔改造姉妹でありました。

今晩中に次をあげたいなぁ、と思っております。

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