少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

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クリスマス

 12月。

 雪の面白う振りたる朝。

 

 ハグリッドがモミの木をのっしのっしと担いで行く姿が見られたりした朝。

 

 寒い、何処までも寒い――冬の朝。

 

 

 

 

「クリスマスに家に帰ってくるなって言われてホグワーツで過ごす可哀想な人ーー? 手ーーあーげーてーー!」

「はーーーーい!」

「ハリー、こんな子に付き合う必要ないわよ」

「そうだぜ。ハリー、コイツの脳の中は純血主義で腐りきってる」

「血を裏切る者と穢れた血のWコンボは黙っていてくれるかしら? というか視界に入らないでもらえるかしら?」

「あなたから来たんでしょう?」

「そう言うなよハーマイオニー。正論なんか右から左さ。コイツは自分の屑の血統しか誇れるものがない、マー髭な奴なんだからさ」

「ところでベスは、家に帰るの?」

「そうよ。叔母さんが珍しくウチでクリスマスを過ごすの。こんなのって本当びっくりだわ! ひとりぼっちじゃないクリスマスなんて2年ぶりだもの!!」

「それは良かったね」

「ううん。今年のクリスマスは家に帰って便器磨きをして費やそうと思ってたのに残念だわ……。ホグワーツの便器も心配。私が居なくなったら誰かちゃんと綺麗に研磨してくれるのかしら……」

 

「あなたそんなことやってたの?」

「マーリンの髭すぎてどこから突っ込んでいいのか分からないけど、ハリー、コレだけはやめとけよ代わりに僕がやるよ、とか言うのだけはやめろよ」

「え? なんで分かったの?」

「……君はどうしてベスに対しては甘いんだよ!?」

「だからベスはそんな悪い子じゃないってば」

 

 ハリー、特に根拠のない自信をかます。

 

 

「あー……ところでベス? 聞いていい?」

「なぁに? 正しいトイレの磨き方?」

「それは今度にするよ。僕が聞きたいのは……ベス。

 

『ニコラス・フラメル』って知らないかい?」

 

 

 ベスは可愛らしくう~ん、と小首をかしげる。

 どこかで聞いたことがある名だ、と思った。

 だが思い出せなかった。

 

 

「ごめんなさい。うんと昔にいた錬金術師みたいな名前だなーとしか思えなかったわ」

 

 

 

「ハイ無能」

「……」

「あー……うん、特に意味はないんだ。でも、闇の魔術に詳しい君なら知ってるんじゃないかなと思って。じゃあ素敵なクリスマスを」

 

「ありがとう、ハリー。でも、叔母が帰ってくるのは結構遅いから……そうね、それまでは幸せな家族とかカップルに雪玉をぶつけたり、マグルの家に爆竹投げ込んだりして時間潰すことにするわね! どうしてクリスマスなんてあるのかしら。滅びればいいのに! じゃあね!」

 

 

 

「……おったまげー……一体何があいつをそうさせるんだよ……?」

「知らないわよ。大方自分に親がいないから幸せそうにクリスマスを満喫している人たちを見て、僻んでいるなじゃいの? 人間としてどうかと思うわ」

「そこんとこ僕たちはニコラス・フラメルと格闘するクリスマスになりそうだけどね」

「聖ニコラウスの日になのにな」

 

 こうして、ベスは。ただホグワーツ中の便器の心配をしながら去っていくのだった。

 実際はやしき下僕妖精軍団INホグワーツが必死こいて磨くのだ。

 やしき下僕妖精にはクリスマス休暇はない、いや、それどころか休暇という概念すらない。ついでにボーナスもなければ給料という考え方すら存在しなかった。

 あと何年かしたらハーマイオニーが騒ぎ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウェールズ。

 

 片田舎。

 

 具体的にどことも言えない場所。

 

 

 

 人里はなれた郊外どころか、ド田舎に――その屋敷はあった。

 レンガ造りの旧い家であり、ぶっちゃけ豪邸っぽく見える。

 地元の人間はまず気味悪がって近づかない、どこかどんよりとした屋敷。さらには時々緑色の不気味な光や、何か人間ならざる者の叫び声まで聞こえてくる始末。

 

 結果、1周回って知る人ぞ知るホラースポット、として最近では観光客が写真を撮りに来るような所が、ベスの家だった。

 

 もちろん、ホラースポットで聖夜を過ごそうとする狂人は、基本的には存在しない。

 

 

 ベスは闇色に染まった空を見上げる。

 曇り――星も月もひとつとしてない、分厚い雲に覆われただけの空。

 ベスはよく目を凝らす。

 そして、見つける。

 

 

 

 一か所だけやけに光っている謎の空間を。

 

 

 やがてそれは実態を伴う。

 

 

 大きさ約13メートル。

 重さ約2トン。

 緑色の美しいドラゴンの姿が現れた。ソレが何であるかをベスは悟る。

 

 

 幻想的な音楽のような声色を持つドラゴン――ウェールズ・グリーンだ。

 

 

「たーだぁーーいーーまーー!! 叔ー母ーーさーーん!」

 

 

 ウェールズグリーンの上からひらり、と一人の人間が降りる。

 何メートルもあるハズの体高から、なんのためらいもなく優雅に降り立ったのは、女性。

 若――――くないのに、若く見えるというマジな魔女だった。

 すらりとした、高い背。メリハリのある体つき。

 大きく胸元の刳ってあるルビー色の服を着ており、長い足はスリットから覗かせている。

 髪は豪奢な金髪、おおきな目は濃い青だった。

 真っ直ぐに通った鼻筋、意志の強さを示すかのようにつり上がった眉。真っ赤な唇の迫力のある美女――それがベスの前に降り立ち。

 

 思いっきり――抱擁した。

 

 

 

「あぁお帰りなさい! マイハニー!! もう雪の妖精さんみたいだわベス! あぁもう可愛い可愛い!ペロペロぺロペロ……」

「叔母さんステイ」

「えぇ~~? なんでよぉ、ベスぅ……もっと叔母さんにペロペロさせてくれたっていいじゃない! その塩対応……私から姉さんを奪ったあのオトコを思い出しちゃうわ……あぁん、叔母さん体が火照ってきたぁ……!」

「うっせ」

「まぁいいわ。ホグワーツの話を聞かせてちょうだい!ベス! もう懐かしいなぁ~~。スリザリンになったんですって? 流石ベスだわ! 緑はさぞあなたの抜けるように白い肌に合うでしょうね!」

「当然」

 

 ベスを抱きしめながらまくしたてるように喋る女――コーデリア・ラドフォードはベスの黒い髪を撫でながらにっこりと、微笑した。

 

 

 

「……きっと、姉さんと義兄さんが見たら、とても誇りに思うわよ」 

 

「……当たり前だわ」

 

 

 ベスは真っ赤になってそっぽを向く。

 顔が赤くなっている理由は決して寒さだけではないことは、分かっていた。

 何となく、この派手な美しさを持つ叔母の顔を直視したくなかったのだ。

 

 

「さ、じゃあ家に入りましょ。あぁ、そこのウェールズ緑は気にする必要はないわ。もう調教済みだもの。全く嫌になっちゃうわよねぇ、こんな年末にウェールズグリーンを何とかしてくださいなんて。私じゃなかったら今頃まっ黒焦げになって聖マンゴ行きよ? ねぇ?」

「はいはい」

「一体どこの誰がこんなもの使うのやら」

 

 ぶつくさ、とつぶやくコーデリアだったが、ベスはその実、叔母の凄さを十分に自覚していた。

 

 コーデリア・ラドフォードはその道では名の知れた、イングランド屈指のドラゴン調教師なのだ。

 使役魔法を得意とし、数々のドラゴンを仕込んで来た名手。

 ただ、玉に瑕なのは、調教するのはメス限定であること。そして少し『やり過ぎる』ことである。

 その証拠に、今でもウェールズ緑は物欲しげな目でコーデリアを見つめていたりした。

 

 

「さぁベス。女子寮のあんな話やこんな話を聞かせてちょうだい。知ってたぁ? ホグワーツには空き部屋が沢山あるのよ~? 創設者の中には話が分かる奴も居たのねぇ。私も学生時代はよくそこで爛れた不健全異性交遊を嗜んだものだわ」

「叔母さん、一緒にしないでクソビッ●が」

「やだその冷たい視線……やっぱりあなたのパパを思い出すわ……はぁ……」

 

 たった二人だけで住むには大きすぎる家に入ると、すっかり温まった部屋の中にはクリスマスツリーが飾られ、食卓には沢山の御馳走がここぞとばかりに、たっぷりと盛られていた。

 けど所詮は英国料理だから人によっては炭の山に見えるかもしれない。

 とりあえず屋敷下僕妖精はハッスルしてた。今この瞬間も、雪を水通り越して水蒸気にする作業に精を出している。尚、休暇と給料という概念はない。

 

 ベスはローストビーフに口を付けながら、はっとして叔母に質問があった、ということを思い出す。

 

 

「ねぇ叔母さん」

「なぁに? あぁ、今年の誕生日プレゼントは便座カバーよ。ホグワーツで使いなさいな」

「わぁいやったー! これずっと欲しかった奴だわありがとう! ……で、叔母さん」

「何」

「あのね、『ニコラス・フラメル』って知らない?」

「あぁ、知ってるわよ? 常識じゃないの」

 

 ベスは目を丸くした。流石は社交界の花形と呼ばれるだけはある。

 逆にコーデリアはやれやれ、といった具合に手を広げた。

 

「あぁもう……あの大賢者ニコラス・フラメルも知らないなんて……! これがゆとり世代というヤツなのね……叔母さん、ちょっとガッカリだわ」

「いいからさっさと吐け」

「まぁいいわ。叔母さんからの社会勉強のひとつ、だと思ってちゃんと覚えておくのよ? 

 いい? ニコラス・フラメルはね……」

 

 ベスは叔母の青い瞳がいつになく真剣な色合いであるということに気付く。

 これは何か大きな真実が飛び出すかもしれない――と思ったベスは、口いっぱいに頬張ったプディングを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全魔法使いロリショタ協会終身名誉顧問よ」

 

 

 

 

 

「しゅ……終身……?」

 

 

「死なないからね、何才まで生きるつもりなのかしらねあの腐れ老害。

 ともあれ、いい? 大賢者ニコラス・フラメルは賢者の石とかスゴイものを開発した凄いお爺ちゃんかもしれないけど、この世界でも有数のロリコンandショタコンなの。その辺で見つけたらすぐに逃げなさい。いい? あの爺から見れば今存命中の人間は殆どロリとショタになるんだから見境ないわ。分かったわね?」

 

「…………?」

 

 

 

 

(……ハリー……一体どうしてそんな変態のこと調べていたの……?)

 

 

 

 

 一方ハリーは鏡とか見てた。

 

 

 


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