少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

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シリアスな禁じられた森最終決戦です。



ブラック家に生まれたんだがもう俺は限界かもしれない

 巨大な緑色の光が木々を薙ぎ倒し、焼け残っていたわずかな生存樹木を蒸発死させていった。

 壮大なる環境破壊。

 この調子ではいずれ『元・禁じられた森』という名の更地、もしくは砂漠になるのも時間の問題かと思われた。

 

 

「見つけたぞ!!」

 

 そんな伐採を一瞬にして行ったのはまるで月の化身か、と見まごう美女……のはずだが、今はどっちかというと鬼人と言ったほうが当たってそうなやはり美人だった。

 

 それもまるで初恋の人に再会したかのような喜びっぷりである。

 

 

「見つけたぞ見つけたぞシリウス・ブラック!!」

 

 

 生き別れの恋人と再会したかのようなハシャギっぷりである。

 

 

「……おじさん!? めっちゃハイだよ!! 昔の恋人なの!?」

「……だ」

「え?」

「……誰?」

「…………」

 

 シリウスおじさんは身に覚えがないようだった。もしかしたら身に覚えが多すぎるからかもしれないという可能性はとりあえず置いておく。

 が、べスのお母さまことオフィーリア全く容赦するつもりはないようだ。

 

「貴様が生きてた証拠さえ抹消してやるよシリウス・ブラ――」

「ママ!」

「……あ、あれ?」

 

 そこでオフィ―リアは初めて自らの愛娘の存在に気づいた。

 

「……えーっと……? べスちゃん?? え? や、やだ嘘。エェーー??」

「ママどうしてこんなところに!? 一応ここ禁じられた森よ!?」

「一応って……ママが学生だったころはモロ禁じられていたハズ……ま、いっか」

「初めましてーー! 娘さんと同じ寮のーー! セオドール・ノットです!」

「あら、やだベスちゃん男の子と夜中に禁じられた森で何してるの~~! もーー!初めましてーーそこ危ないから気を付けてねーーセオドール君ーー」

 

 

(……え? なに……これ……?)

 

 

 べスはただ、困惑していた。

 突然現れた母親、と吸魂鬼の大群に。

 

(ママ? なんで?? ママがどうしてここに……? だって私のママはマグカスのコンビニ強盗やからしてアズカバンに投獄されてたはず……。

 ……だけど、そう、だけど、今年の初めに……脱獄してたわ……)

 

 

 

「うわぁあああああああああっ! や、やめろぉおおおおおおお!」

「ああああああああああっ!」

「やめてくれぇえええええええ! たのむぅううううううううううう!」

 

 

 

「コォー」(見つけたぞシリウス・ブラック!)

「コオォー……」(検挙だーー! お縄だーー!)

「コオォ……」(はっ!? アレはメガネの生徒さん!! 危ないですよ!)

「コォー……」(生徒さんを人質に取るなんて卑劣なやつめ!!)

 

 

(……考えてみれば……おかしかったわ……。

 ママが脱獄したのはシリウス・ブラック脱獄と同次期だった……。

 ……そもそも……ママはなんで脱獄したの……?)

 

 

 

「ああああああああああぁあああッ!」

「おじさん! シリウスおじさん!! くっ……え……エクスペクト――」

「やめてくれ――――頼む! 頼む!! くっ、ああああああああ!」

 

 

 

「コォー……」(くっ! 駄目だ! 男の子に当たってしまう!)

「コォオー……」(ど、どうしよう……)

「コオォー」(はやくたすけてあげないと! 危ないよ!)

「コォオオ……」(でも魂吸っちゃうと生徒さんまで危険になるよ!)

 

 セオドール・ノットはべスの横でぶっ倒れていた。

 

 

「うわぁうつだ……しのう」

 

 そして、マルフォイは必死にスネイプを起こしていた。

 

 

「な、なんか寒気がするフォイ! 先生起きてフォイ!!」

「うーん……アルマジロが……あるまじきアルマジロが…………zzz」

「なんの夢だフォイ!!」

 

 マルフォイは幸福感が失せていくような感覚と戦いながらスネイプを起こす努力を続けていた。

 

 

(考えてみれば……シリウス・ブラックは死喰い人だって思い込んでたわ……。だけど、実際は違った。死喰い人だったのはとっとこペテ公の方よ。今まで私も世間も逆に考えていたんだわ。

 ……だけど……もしかしたら…………。ママは……知っていた?)

 

 

 

「もう……やめ…………ジェームズ……あぁ……リリー……」

「駄目だ!! この人は無罪だ!! 絶対帰って一緒に暮らすんだ! 一緒にクィディッチするんだ! これから一緒に暮らすんだ!! エクスペクト・パトローナム! え、エクスペクト・パトローナム!!」

「……ハリー……、きみ、だけでも……に、にげ……!」

「いやだ! 絶対嫌だ! おじさん!!」

 

 

 

 

 

(……ママは……シリウスが……『死喰い人』じゃないって……知っていた……?)

 

 

(だとしたら……シリウスを追っていた理由って……?)

 

 

 

「コォオー……」(くっ! 白い靄が邪魔で生徒さんを助けに行けない!)

「コォー……」(きっとあいつに操られているんだ!)

「コオォ……」(どうしたら……)

「コォオー…!」(駄目だ! 諦めるな! あの子を救えるのは俺たちだけなんだ!)

「コォーー!」(だから!絶対!諦めちゃいけな――)

 

 

「うるせぇ黙れ! 人が考え事してんだろーが! 少し黙ってろ!!」

 

 

「コォー」(すみません)

「コォー」(ごめんなさい)

「コオォー」(謝ります)

「コォオー」(お辞儀しますぺこり)

 

「そうですね。ちょっといいすぎたわごめんなさいお辞儀しますぺこり。どうぞメガネを殺っちゃってください」

「うつだーーしのうーー」

 

 耳障りなノットの断末魔は無視することにした。

 

 そのディメンターズによる、『お前等の魂いただくよ!』総攻撃が一瞬だけべスの容赦ない罵倒によって静止した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「エクスペクト・パトローナム!!」

 

 ハリーの杖先から、目も眩むほどまぶしい、白い閃光がほとばしった。

 それはぼんやりとした霞ではなく、確かな存在を――形を持った『守護霊』だった。

 そう、あたかも動物の姿をした。

 本物の『有体守護霊』。

 

「……馬……じゃない……もっと小さい……」

「まさか……!」

「これは……鹿……?」

 

 ハリーとシリウスは姿を現した守護霊を――『牡鹿』の姿をしっかり見た。

 

 思わずシリウスはつぶやいた。

 運命の悪戯だろうか、だとしたらトンデモナイサプライズだ。大成功をしている。

 その姿は、まるで。

 

 

「…………プロングス……」

 

 まるで、亡き友が息子を救うためにこの世に再び駆けてきたかのように思えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 という、鹿野郎が突進してバッタバタと吸魂鬼たちを轢殺していく光景をべスは見ていた。

 

「……っ!」

 

 駄目だ、と思った。

 嫌だ、と思った。

 

 なぜだか分からないが、べスはほぼ直観で判断した。

 

 シリウス・ブラックをここで逃してしまうと。

 

 

 

 

 母とまた、離れ離れになってしまう……と。

 

 

 

「やだ……そんなの……」

 

 

 やだ、と思った。

 

 

 だって。

 

 

 

 

「……だって、私……やっとママに会えたのよ! アズカバンの外で!!

 

 13年間で!! 初めてママに外で会えたんだから!!」

 

 

 

 呪文は知ってる。

 発音は知ってる。

 発動条件も、方法も分かっている。

 

 あとは、ただ、自分の力のみ。

 

 

 

 

「エクスペクト・パトローナム!!!!」

 

 

 

 べスの杖先から『守護霊』が放たれる。

 幾筋かの銀色が月光と共に暗く凍りついた湖面を照らした。

 やがて、ソレは形を成した。

 

 

 

 

 

 

 

「はっ! 起きたぞマルフォイ! 状況を説明しろ!」

「先生! さ、さっきルーピン先生がメタモルフォーゼかまして森に帰っていき、で、今吸魂鬼の大群が現れてるんだフォイ!」

「……は? え? ……えー……吸魂鬼の大群か……。

 ……だが、誰か守護霊を作ったように見えるのであるが……?」

「鹿はポッターがやったフォイ! で、今……べ……ラドフォードが!」

「またあの小娘か、本当ロクなことせんな……ん?」

 

 スネイプは目を見張った。

 今しがた出た守護霊は、はっきりと形を成しているように見えたのだ。

 

 

 

「あ……あの守護霊は……!」

 

 白く発光するソレは、百獣の王。

 

 ライオンの姿をしていた。

 

 

「激レアの白い百獣の王フォイ!」

「待て、それだけじゃない……!」

「フォイ?」

 

 吸魂鬼の群れの中にベスのライオン(守護霊)とハリーの鹿(守護霊)が突撃していく。

 鹿の角がただの霞のような吸魂鬼をを引き裂き、切り裂く! 吸魂鬼になすすべは無い。

 ただ、命乞いの言葉もなく一方的に蹂躙され、つぎつぎとジュワァアアアアと音を上げて蒸発し、成仏していくのだった……。

 同時にベスの獅子が吼える。

 吸魂鬼の数体がその場から消し飛んだ。

 

「何!? 咆哮だけで撃破だと!?」

「……先生……」

「バカな……守護霊にそのような力など……」

「フォイ……先生……」

 

 怒りの咆哮をぶっ放すとともに、ベスの獅子の守護霊の毛並みに浮かびあがる何かにスネイプは気づく。

 そう、それは

 

「アレは……タイガーパターン!!」

「……先生」

「まさか、ミックスなのか……!? だがライオンのミックスなど聞いたことが……ハッ!

 まれにライオンのオスとトラのメスとの異種交配が成功するという……ま、まさか!」

「おいスネイプ」

 

 

「アレは――ライガー!!」

 

 

「シレンシオ!!」

「プロテゴ!!」

 

 

 

「おっしゃ。私の守護霊! ハリーの守護霊に攻撃!!」

「くっ、君と戦うしかないのか! させるかぁ! 僕は! シリウスと! 一緒に……帰るんだ!!」

 

 ディメンターを駆逐していた守護霊と守護霊が激突!

 二つの力が激突し、閃光がほとばしり、衝撃が、爆風が吹きすさぶ!

 吹き飛ばされるような力を感じながらもマルフォイはたったひとつの思いを口にした。

 

 

「フォオオオイ!! 守護霊そうやって使うもんじゃねぇから!!!!」

 

 

 

「…………ザコが……」

「あ、ご、ごめんママ!」

「いいのよベスちゃん。……シリウス・ブラックとポッターの倅が……抵抗するか。面白い。……せいぜい足掻いてみせろや……第二陣! 総吶かぁああああああああああん!!」

「うわぁうつだしのう」

「目標目の前!! シリウス・ブラックと小僧を殺れ! アズカバンの誇りに賭けて奴等に絶望の味を教えてやれぇ!!」

「おっしゃ! ママ! 行けーーーーー!」

 

 

「裏切り者に粛清を!!」

 

 

 オフィーリアが杖を振りかざすと、どこから来たのか。

 真っ黒なディメンターの群(第二陣)が招来された。

 大空を覆いつくさんばかりの無数の吸魂鬼たちが既に凍った湖の温度を氷点下まで下げる。

 その合間を縫ってアバダ光線が乱射される。

 だが吸魂鬼たちのせいで視界が不良! よってハリーたちに当てることはできなかった!

 アバダ乱射のせいでシリウスもハリーも動くことは出来ない!  

 

「当たるかそんなへぼアバダ!!」

「吼えるな小僧……。逃げ道を断っただけで十分だ」

「やっちゃえー! ママ! がんばれーー!」

 

 娘からの応援もあって、ワーキングママなオフィーリアは元気いっぱいだ。

 

 

「魂さえも遺さず消え失せろ裏切り者がァ!! 生まれてきたことを後悔するがいい!! 絶望に塗れて死に晒せ!! 貴様の名づけ子を道連れにしてなぁああああああああ!!」

 

 

 

「ベスのカーチャン怖いフォイ……!」

「……」

「チョコッ! 食べずには、いられないッ!」

 

 マルフォイは半泣きになっていた。

 どうやら穏やかに見えた彼女の美貌は怒ると引き立つタイプだったようだ。

 ガチギレした美人は怖かった。

 ノットは死んだ目でチョコレートに頭を突っ込んでいた。

 

 

 

「おじさん! 僕の後ろに!!」

「ハリー! 私はいいから君は逃げ」

「パトローナス! 盾になってくれ!! 頼む!!」

 

「させるかぁ!!」

 

 盾になろうとしたハリーの鹿守護霊に食いつくベスのライガー守護霊。

 だがただでやられる鹿ではない。

 鹿は後方に下がり、加速ッ! その鋭く尖った角で肉食獣を突き殺そうとする!

 それを野生のカンが告げたのか、ライガーは姿勢を低くし受けて立つ……!

 勝つのは鹿の一撃か、それともライガーの爪と牙か。

 

 そんな訳で守護霊は吸魂鬼との盾どころじゃなかった。

 どうやら魔法使いを守るという本来の役割を放棄したらしい。

 ハリーはそんな守護霊に「はいカス、使えねぇ」と軽く舌打ちをした。

 

 

 

「おじさん! しっかりするんだ!!」

「…うっ……は、ハリー……だめだ……私はもうここまで――」

「おじさん! 負けちゃダメだッ! 思い出すんだ!! 今日までの日々を!!」

「今日……までの……?」

 

 ここにきて自分のせいでハリーさえも巻き込んで死に行くという絶望。

 それにより曇っていたシリウスの目に、わずかに光が点る……。

 

「そうだよおじさん! 今までおじさんが舐めてきた辛酸はこんなもんだったのか!?

 おじさんが受けた屈辱は! おじさんが抱いてきた殺意は! 苦悩は!! 憎しみは!!

 こんなもんだったのか! こんな――こんな吸引力の変わらない奴等に負ける程度のもんだったのか!?」

 

「屈辱……憎しみ……!」

 

 はっきりと意思の光が点るシリウスの目。

 それは大犬座の一等星にも負けないばかりの強い輝きがあった。

 ハリーは叫ぶ。

 コレが、自分とシリウスが生き残れるたったひとつの冴えたやり方なのだと確信して。

 

 

 

 

「アンタが13年間もアズカバンで蓄積していた怨念は!! こんな奴等に吸い付くされる程度の力かッ!?」

 

 

「……否……断じて! 否!!」

 

 

 シリウスは立ち上がる。

 

 

「思い出したよハリー! 今まですまなかったな!!」

「そうだよ! おじさん!!」

 

 シリウス・ブラック、完全復活。

 

 

 そう、吸魂鬼が吸い取るモノ――それは人間が持つ『幸せな気持ち』や『生きるためのプラスのエネルギー』である。喜びや希望、幸せだったときの思い出を糧にして、生きる闇の生き物なのである。

 だが、彼らにも決して奪うことが――吸い取ることが、できないものがある。

 

 

 『負の感情』は、吸いとることができないのだ。

 

 

 苦しみ、怒り、怨念、絶望。その全てを吸魂鬼は吸い取ることができない。

 よって、人間の側に取り残されることになる。

 そう、つまり。

 

 幸福や希望を奪われた人間には憎悪と怒りが残り……そして、それは心の奥深い場所に澱のように蓄積されていくのだ……!

 

 

 

 

 

 

「僕の人生最悪の記憶が……母さんの声が聞こえるんだ……父さんが僕を守る声が聞こえるんだ!! そして!! ソレを奪うアイツの声が! 聞こえるんだ!!

 

 あぁそうだよ毎回思ってたよ……悲しいよ、苦しいよ。だけどそれ以上にはっきり分かるんだ……」

 

「そう……ずっと思い出していた……! あの時を! あの時の記憶を!! あの時――私が! オレがアイツを野放しにしなければと!! ずっと!! 

 あの時お前を殺していればと!! 13年間思っていた!!」

 

「奪えるものなら奪ってみろ」

「お前等に分かるか、いや、分かるものか」

 

 

「焼け付くような怒りが」

「焦げ付くような憎しみが」

 

 

「「アイツを殺すと決めた殺意が!!」」

 

 

 

 という、規格外の怨念に当てられた吸魂鬼たちは、自分達の吸引力が圧倒的にさがっていくことが分かった。

 

 

「コォー」(オヴェェエエエエエ!)

「コォー……」(くっ、これほどとは……オェ゛ェエエエ!)

「コォー……」(だめだしぬーーケパケパケパー)

「コォーーー……」(一番こわいのは人間…はっきりわかんだね。しんだ!)

 

 シリウスとハリーの汚すぎる邪念を吸い込んだ吸魂鬼たちが次々に食あたりにあたりまくって安らかに成仏!

 守護霊なんかいらなかった!

 人には絶望に打ち勝つ力。

 そんな確かな強い思いがあるのかもしれない……とベスはおもった。

 それが必ずしも良い物とは限らないというだけで。

 

 

「ってそんな攻略法があってたマルかフォイ!!!!」

 

 

「だが事実だ……マジかよ……ねーわ……」

 

「クヒヒッ……フヒッ……! チョコ……お゛い゛し゛い゛!!」

 

 

 さっきから一心不乱にチョコレートを貪り食っていたノットがもう限界かもしれない……と思うスネイプであった。

 

 

 

 

 

「チッ、雑魚共が……大方死んだか……」

 

 オフィーリアが淡々と言った。

 

「ママ大丈夫ーー? やばいーーー??」

「大丈夫よベスちゃん。そのままもうちょっと頑張って守護霊出してて!」

「分かったーー!」

 

 と、一応娘とコミニュケーションを終えると、オフィーリアは杖を構えるのだった。

 

 

「あとは突っ込むだけだぁああああああああああああ!!」

 

 

 

「シリウス!」

「パトローナス!! ハリーにダイレクトアタックよ!!」

「くっ……!」

「ママのところには行かせないんだから!」

 

 

 大の男相手に近接格闘を挑むことにしたらしい。

 相手は大のオッサンといえど脱獄からの逃亡生活でやつれ切ってるから行けそうだよねーという、軽い考えでの特攻であった。

 

 

「ボンバーダ・マキシマ!!」

「プロテゴ!! 貴様! 何故私を狙う!」

「セクタムセンプラ!! 貴様が知る必要はない!」

「プロテゴ!! ストゥーピファイ!!」

「ディフェ――……」

「セクタム――……」

 

「「プリぺンド!!!!」」

 

 

 シリウスは「何かこの女と戦い方の思考似てるなー」と思った。

 二人とも『ゼロ距離射撃呪文をぶっ放す』主義者だった。

 その華奢で繊細な外見からは予想できないくらいの脳筋族の戦術である。

 だが不思議と嫌悪感はない。

 

「ディフェンド!」

「セクタムセンプラ!」

 

 同時に放った切り裂き呪文がシリウスの肩、オフィーリアの腕を掠め、切り裂く。

 鮮血が滴り落ちるが、エピスキーを施している暇はない。

 シリウスは犬並みの嗅覚で肌がこげるような異臭を感じた。

 どうやら戦っていた女が自分の傷口を焼いているのだと気づく。

 その並みならぬ意思の力を感じたシリウスは、傲岸に不遜に笑うのだった。

 命の取り合いをするのに不足はない、と確信したのだから。

 

 

 

 

 

 

「……フォ……フォイ……」

 

「見ておけマルフォイ……」

 

「……」

 

「コレが……魔法使いの決闘だ……」

 

 

 いや、そんなことより色々突っ込むべきことがあるだろ。とマルフォイは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーモスマキシマ!!」

「アクシオ! コンフリンゴ!」

 

 

 シリウスのルーモス目くらましを、近くにあった木を粉砕して光を遮断。

 粉砕した木片に対してオフィーリアは呪文を放つ。

 

「……」

 

 

 

 

「インセンディオ!!」

「アグアメンティ!」

 

 瞬間的に発火した木片にシリウスが水をぶっかける。

 反対呪文による相殺で高温の水蒸気が発生。

 そして一瞬のスキが生じる。

 

 

「……」

 

 

 お互い相手を見ることが――できない。

 

 

 

 

「「クルーシオォオオオオオオ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にするフォイ! この――アズカバンの囚人共!!!!」

 

 

 

 殺し合いすんならアズカバンでやってろよ!!

 

 ……と、マルフォイは、心底、本当に、こころのそこから……叫ぶのだった。

 

 

 

 

「チョ……コ……チョコガ……チョコ、足リナイ……モット…! モット……!」

 

 急性チョコレート中毒にハマったノットが禁断症状でヤバい状態になっていた。

 今更だが片親な彼は色々家庭に問題があり、吸魂鬼の影響をかなり受けやすい繊細なガラス十代な少年だったらしい。

 スネイプは「このままじゃコイツ死ぬんじゃなかろうか」と不安になり、とうとう最終手段に出ることにした。

 

 

「……これは不可抗力なのだ……こうするしかないのだ。そ、そうノットを救うためには――!」

「せ、先生!? 何を!? 何をやらかそうとしてるんだフォイ!?」

「許せ、ノット!」

「の、ノットー!?」

「あ?」

 

 スネイプの杖先が、チョコを求めて、四足歩行するノットへと向けられ……。

 

 

 

 

 

「インペリオ!!」

 

 

 服従の呪文がノットに直撃!

 

 服従の呪文! それは『禁じられた呪文』のひとつ! なんでも相手を言いなりにするという解禁されたら一番横行しそうな汎用性の高すぎる呪文!

 だが今回はその効果は全く問題ない!

 なぜならスネイプは副作用である方の効果を狙ったのだから。

 そう。

 

 服従の呪文は。

 

 かけられている間。

 

 

 

 脳内麻薬がドッバドバ出るため、とてつもない『幸福感』に包まれるのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幸福ですぅうううううううううううう!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ノットォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸せな気分になったノットはそのままアズカバンの脱獄犯共とその子供たち、

 ついでに吸魂鬼の死骸の山に突進!

 

 さらに感極まったノットはハイになり、

 

 

 

 

 ルーピンの脱狼薬を入れていた『ゴブレッド』を

 

 

 

 

 

 

「あ」

「あ」

「の、ノットォオオオオオ!!」

 

 

 

 

 

 

「我が人生に一片の悔いなしぃいいいいいいいい!!」

 

 

 

 

 凍った湖へと叩きつけるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆ぜる湖面。

 

 即死するゴブレッドにされていた尻尾爆発スクリュート。

 

 爆発の衝撃により、氷が――砕けて、散る。

 

 

 

 そして。

 

 

 いくつもの怨嗟の声を巻き込みながら――ボッチャアアン!という、盛大な水音が、荒廃しきった『禁じられた森』を響くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 





次回:アズカバン最終回


今トランプ語録を必死に漁っています

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