少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

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魔法薬の先生ェ…

 ホグワーツの階段はじっとしていない。

 

 尚、コレを設計したのは創設者たる絶世の才女、ロウェナ・レイブンクローその人であり本来動くべきでない階段を動かすあたりさぞ意地きたな……ユニークなユーモアをもつ女性であったことが窺い知れる。

 そのためホグワーツにはこの時期毎年恒例の行事が見られた。

 

 

「1年生ー! 1年生ー! 早く渡れ!! 渡るんだぁあああ!!」

「全員渡ったか!?」

「待って!ダフネが来てない!!」

「ふぇ……ふぇぇええん……皆ぁ……待ってよぉぉ……!」

「ダフネーー! 早くーーー!」

「駄目だ……もう……階段が……!」

「そんな……このままじゃ……ダフネが遅刻しちゃう……!」

「ふぇぇ……」

 

 

 階段の上にたった一人で取り残されるスリザリンローブの美少女。

 見捨てるべきか、それとも助けるべきか……と迷うスリザリンの1年生集団。

 スリザリン生は『初日から無遅刻』点を得るために、とりあえずホグワーツの地理に慣れるまで全員で集団行動という作戦を監督生のジェマの指揮の元でとっていた。

 

 だが、このままではせっかく積み上げてきた『初日無遅刻』が崩れ落ちる。

 

 ソレを阻止したのは――1年生の誘導に当たっていた。

 

 

 クィディッチのキャプテン――マーカス・フリントだった。

 

「くっ……おおおおおおおおおっ! 来いぃいいい! 『スリザリン代表』ぉおおおおお!!」

「「「おおおおおおおおお!!」」」

 

 スリザリン代表チームの行動は素早かった。

 全員がその場で――スクラムを組み始めたのだ!!

 それは人間吊り橋。

 離れた階段が―――今、繋がる。

 

 

「早く!! 渡るんだぁあああ!」

「長くは持たない!!」

「行け! 1年生!! 俺たちの屍を超えていけぇえええ!!」

 

 コレは――渡れる!

 

 そう確信した少女が先輩男子を踏みつけながら歩く。

 

 

「うぉおお……」

「美少女に……踏まれ……」

「ぎゃああああ! 腕がー!俺の腕がーー!」

「デリックぅううううう!」

 

 暴れ玉を司るビーターの腕が再起不能になるレベルで死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 地下室。

 今から魔法薬の授業が行われようとしていた。

 一緒に受講するのはグリフィンドール。宿敵と言うべき奴らだった。

 

 

 

 

 

 

「ふむ……。スリザリン生は遅刻なし、か。初日だというのに全員揃って無遅刻無欠席とはすばらしい。スリザリンに20点! ……だがグリフィンドールは数名見当たらないようだな? 実に嘆かわしい、グリフィンドールから5点減点」

 

 

 

「マジか!」

「初日からかっ飛ばしますなぁスネイプ寮監www」

「…………露骨すぎて草も生えない」

 

 

 グリフィンドールから圧倒的なブーイングが起こった。

 スネイプガン無視。

 

 

 

「黙れ。この授業では杖を振り回すようなバカげたことはやらん。魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

 

 スネイプが話し始めた。

 まるで呟くような話し方なのに、誰も聞き逃さなかった。

 ――ひとりを除いては。

 

 

「zzz……」

「おい、ラドフォード……! 起きろ……!」

 

 

「沸々と沸く巨釜……ゆらゆらと立ち上る湯気……人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力」

 

 

「無理。ポエムマジで無理……zzz……」

「ふぉい」

 

 

「吾輩が教えるのは名声を瓶詰にし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法であるーー……ポッター!!」

 

 

 スネイプが大演説とはなんの脈絡もなくハリーを名指しした。

 

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」

「ざっくばらんな質問だ。ワカリマセン」

「……『有名』なだけではどうにもならんらしい。ポッターもうひとつ聞こう、モンクスフードとウルフスベーンの違いは何だね?」

「言い方」

「ナメているのかね」

「ワカリマセン」

 

「……はっ、『英雄』が……良い様だな? ではポッター。

 ベゾアール石とは何だ? どこを探せばあるのか? 答えろポッター」

「知りません。何かさっきからハーマイオニーが手を上げているので彼女の方に質問してみたらどうです?」

「今の物言いが気に喰わなかったのでグリフィンドール5点減点」

「うっわ最悪だこの教師」

「黙れ! 問いに対しまともな解答すら用意できないウスノロが教師に立て付くなどと立派な減点対象だ」

 

 

「ポッターうぜぇけどこれは正論」

「スネイプ先生の器が知れますねぇwww」

「…………小さ……」

 

 スリザリンからもハリーの肩を持つモノがあらわれた!

 これはゆゆしき事態。

 スネイプは更にスリザリンに得点を与えるべく――コレを解答できそうな生徒を探す。

 

 まずは、魔法族家庭で教育を受けてきただろうドラコ・マルフォイ、賢いと評判のセオドール・ノット。

 ここはマルフォイにしておこう、と金髪を探した時。

 

 

 ……マルフォイの横で爆睡する、美しい少女を見つける。

 

 

「…………え?」

 

「おきろラドフォードおきろラドフォード起きるんだぁああああ!!」

 

「ふぉい? ……ポエム終わり? あ、終わってる」

 

「……そんな…………いや……だが…………『どっち』だ……?」

 

 

「やだ寮監私の顔見て何か言ってるんだけど。なにこれ私が可愛いから?」

「そんな訳あるとおもってるのか!?」

「パパ譲りの顔が美形じゃないわけないでしょいい加減にしてよ。で、何ですかスネイプ先生」

「……あ、ああ、ではラドフォード……? 答えてみろ」

「質問の内容を一切聞いていませんでしたのでもう一回」

「こ、この不遜……この傲岸……! いいかラドフォード!!」

 

 スネイプがもう一回全部質問した。

 

 

 

「把握した。

 

 アスフォデルとニガヨモギはそれだけじゃ何とも言えませんけど多分『生ける屍の水薬』かと。多分な。

 で、モンクスフードとウルフスベーンは同じ。トリカブトの別名。ちなみにトリカブトとモンクスフードの語源はほぼ同じ。極東の島国かグレートブリテンかの違いってだけだわ。別名アコナイト。喰ったら心室細動で死ぬので注意。ベゾアール石は解毒薬でヤギの胃を掻っ捌けば出てきますおわり」

 

「素晴らしい。どこぞの怠惰で傲慢なグリフィンドール生とは違う実に勤勉でスリザリン。素晴らしいのでスリザリンに5て……」

 

 

 

「そう……つまり」

 

 

「ど、どうしたラドフォード……? もういいぞそれ以上喋らなくていいぞ」

 

 

「つまり……ベゾアール石は……『胆石』だったのよ!!」

 

 

 

「……」

 

 

 

 スネイプ絶句。

 

 所属寮スリザリンで、思ったより勤勉だったため一時期上がった評価が

 いま一瞬でスッと下がった。

 

 

 

 

 

 

「何だって!? ベゾアール石って……胆石だったのかい!?」

「きっとそうよハリー! だってだってヤギの胃の中からイキナリ魔法の石が出て来るなんて生物的に有り得ないじゃないの!」

「分からないぜ無から有を生成したのかもよ。魔法って大体そんなもんじゃないか」

 

 赤毛が介入。

 

「いや……ラドフォード……もう黙りなさい。よくやったからもう黙りなさい」

「だからそうよ……きっと胆石なんだわ!! ヤギは胃の中で胆石を作ることが出来るのよ! だってヤギだもの!!」

「ベスの中ではヤギって万能なんだね」

「君が正解だと思うんならそうなんだろうな、君の中ではな」

「じゃ何よ、尿路結石?」

「ベス、ヤギって胃の中で尿路結石まで作れるのかい?」

「はははっ、万能すぎてマーリンの髭も生えないよ」

 

「あなた達いい加減にしなさいよ!! ベゾアール石は何かの臓器が収縮したものよ!! 石なわけないでしょう!!」

「そうだグレンジャー! よく止めた! グリフィンドールに1点!!」

「ありがとうございます!」

「えー違うんですかスネイプ先生ー」

「吾輩の見込み違いだったようだ畜生が。ラドフォードは喋るな! マルフォイ、その娘を見張って居ろ!!」

「え、えぇ!? 僕がですか!?」

「最早貴様しかおらん!!」

「ふぉ!?!?」

 

 

「良かったなドラコ」

「お似合いカップルですなwwwひゅーひゅーww」

「…………リア充尻尾爆発スクリュート……」

 

 

 マルフォイが満更でもなさそうな面と化したとき、ハリーが反撃に出る。

 

「あー……ところで先生? 先生さっきおっしゃいましたよね?」

「何だポッター。グリフィンドール1点減点」

「モンクスフードとウルフスベーンの違いは何かとおっしゃりましたよねスネイプ先生? だけど結局答えは『同じ物』だったわけですよねスネイプ先生? それって何ですかー? 問題として成立していないんじゃないですかー? 『違い』を聞かれたのに『同じ』だったわけですから違いなんかありません、てことになるじゃないですかあぁこれは問題として成立していませんねだってスネイプ先生は『違い』を聞いていたんですから僕は何も答えられないや!」

「……」

「まぁ、ハリーは実は何気に正解引き当ててたんだけどね」

「マジでかスネイプ最悪だな。つまりソレって最初っから……間違った答えを言わせて減点することが目的だったってことじゃない!」

「……」

「教師ってそうゆうことしていいのかなー今のは良くないと思います僕」

「好き好んで寮を減点していくなんてほんとうにスネイプ先生ってばマー髭な教師の鏡だよな」

「世の中の不条理というものをよく教育してくださるいい先生です。それこそが誠に学校で学ぶべきものだと思います。あとはカスとの付き合い方とかモラハラしてくるクソ野郎の躱し方とか、かしら?」

「ベスの言う通りだよ!!」

「悲報:魔法薬の授業クズとの付き合い方の処世術だった」

「この授業で点を貰えば貰う程人間として大切な何かがすり減っていくんだわ」

 

「グ、ググググ…………グリフィンドール10点減……」

 

「あら? 減点するのグリフィンドールだけなんですかスネイプ先生?? 私所属寮スリザリンなんですけど」

 

「……」

 

 

 そしてスネイプは。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの忌まわしい記憶が……! あの忌まわしい過去が……! あ、あいつらがあいつらがまた現れるなんて時空をさかのぼって奴らがまた降臨してくるとはああクソ……吾輩は……吾輩は……僕は……!」

 

「……あ、ちょっと言い過ぎたみたいだ」

「何とかしろよハリー」

「あんたならできる」

「えー……あのー……スネイプ先生……? 大丈夫ですか?」

 

 ハリーが本当に心配しているような目でスネイプを見つめた。

 

 

 

 

「クソ……クソぉ……全部あいつなのに全部あいつなのに目がぁ……目がぁぁぁ! うわぁあああああああああああリリぃいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 

 

 

「あ、スネイプ先生が地下牢を破壊して逃げてった!!」

「魔法薬の授業は教師不在のためここで終了です」

「お疲れさんしたー」

「あなた達なんて失礼なことしてるのよ!! スネイプ先生、泣いてたでしょう!?!?」

「ラドフォード来い!! こっちに!! 来い!! 僕が道理というものを分からせてやる!!!!」

「ドラコ、落ち着く、机、立っちゃ、いけない」

「ドラコ……机ヲコワスノ……ヨクナイ……」

 

「初日からこれとは」

「以降の授業が楽しみすぎる件について」

「…………寮監()」

 

 

 そんな感じでホグワーツ1日目の授業は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、ハグリッド遊びに来たよ」

「ようこそハリー、まぁくつろいでくれや」

「ようスコラン野郎。遊びに来てやったわよ」

「帰れ」

「どうもロン・ウィーズリーです」

「ウィーズリー家の子か、またか。お前さんの双子の兄貴を追い出すのに俺は人生の半分を費やしちょるわ。その前のチャーリーはいい奴だったが、ドラゴンに関しては狂いまくって本当大変だった! マジで大変だった! まともなのは長男と三男ぐらいなもんだわ!」

「兄さんたちがハグリッドさんに大変ご迷惑をおかけしたようで大変申し訳ありませんでしたこれつまらないものですがどうぞ。食べられる草です」

「お前さんはこっちの奴は多少マシだな。5ミリくらいな」

「あら、それって何と比較してかしら?」

「お前」

「死ね」

 

 その後死ぬほど固いロックケーキとかいう異物を食わされた。

 

「うわ不味い。うちのしもべ妖精の方がよっぽどマトモなものを作るわよ」

「しもべ妖精?」

「叔母さんお料理苦手なの。だからしもべ妖精のティニーがゴハンを作ってくれたの。でも結局は英国料理だから炭と大差ないんだけどね」

「ははっ、ブルジョワの会話は聞いてるだけで虫唾が奔るね! いいスパイスさ! ロックケーキの味に深みが出るや!」

「黙って食ったらはよ帰れや」

 

 その後ハリーがスネイプの授業のことを愚痴った。

 大方スネイプうぜぇという内容だった。

 

「気にすんなハリー、スネイプは大抵の生徒は嫌いだ。そりゃ清らかかつ甘酸っぱい青き春を謳歌している若者に対する嫉妬と憎悪だ。お前さんも大人になればわかる」

「え? そうなの?」

「ねぇハグリッド。どうしてそこまで詳しく分析できるの?」

「刺すぞ」

「でも、ハグリッド。なんかアイツ……僕のことを本気で憎んでいるみたいだったんだ」

「馬鹿な、なんで憎まなきゃならん?」

「ねぇ……ハグリッド……僕の目を見て……」

「パチこいてテキトーなこと言って誤魔化すクソ大人が多すぎて何よりだわホグワーツ。ここマトモな奴は居ないのね」

「あははははっ! 君もね」

 

 実に薄汚い楽しいおしゃべりと共に繰り広げられるお茶会にともされる既に紅茶は冷え切っていた。

 まるで彼らの心の有様をそのまま物語っているかのようだった。

 ハリーはそこでティーポットカバーの下から1枚の紙きれを発見する。それは『日刊預言者新聞』の切り抜きだった。

 

 

 

『グリンゴッツ侵入される。

 

 あの狂気の沙汰としか思えない防犯システムを取っているグリンゴッツに強盗侵入。

 多分闇の魔法使いor魔女の仕業でしょう。そんな狂ったことをやるのは闇の魔法使いしかいないからです。闇の魔法使いはこの世のクズです、見かけたら即座に闇払いにアバダしてもらいましょう。

 尚、子鬼のグリップフルックさんは

 「荒らされた金庫は空だった。何が入っているかは言わない」などと意味の分からない供述しており今後の捜査が期待されます』

 

 

 

「ハグリッド! これ、僕の誕生日だ! 僕たちがあそこに居る間に起きたのかもしれないよ!」

「ねーよ」

「ねぇハグリッド! 私の『お辞儀基金』は大丈夫かしら!?」

「知らねーよ」

「僕からは特にいうことはないけど、ハグリッドがパチこいてるってことだけはハリーに伝えとくよ」

「お前さんは間違っておらんがもう帰れ」

 

 ハグリッドの心折のせいでポケットにロックケーキとかいう劇物を押し込められた3人はまたしても胃袋にモノを満たすためだけの夕食に遅れないように城に向かって走っていった。

 帰り際にハリーは考えた。

 

 金庫には何があったのだろう。

 スネイプについて、ハグリッドは何を知っているのだろう、と。

 

 

 ついでにベスも考えた。

 

 私のお辞儀基金本当に大丈夫か、と。

 闇の魔法使いが狙うグリンゴッツの金庫とは一体なにがあったのか――そしてそれは今、どこにあるのか。

 

 

 ロンも考えた。

 

 今度ベスに何か奢ってもらおうと。

 

 

 

 

 


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