少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

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ホグワーツ・エクスプレス

 

 ベスは死ぬほどご機嫌だった。

 

 

 日刊預言な新聞は何か魔法省随一の金欠エース赤毛一家が宝くじ当選でエジプトに行った、というニュースが新聞に載っていたが。

 

 

 マグルの新聞の国際欄にはアメリカ大統領のクリントンが糞頑張って中東戦争がやっと平和的に解決しそうだ、とかイスラエルと仲良くするエジプト大統領がイスラム原理主義者に裏切者認定されたのでエジプト国内で外国人観光客を狙ったテロが勃発しまくっているとか。

 そのせいで観光客がビビって来ないのでエジプトの経済に大打撃だとかその辺の不景気かつ血みどろな話は一切スルーで。

 

 中東戦争もイスラエル問題も全ての諸悪の根源は誰のせいなのかそこんとこ一切言わない辺り、英国紳士たちの三枚舌は今日も健在であるらしい。

 そう、非は認めなければ存在しないのだ。

 

 

 

 とりあえず今年もホグワーツ特急のトイレを不法占拠しようとしたベスだったが、別に会いたくもない金髪ヒョロガリ野郎を発見した。

 

 

「あらフォイカス。ごきげんよう。私は今超気分いいから出会って即アバダはしないでおいてあげるわ」

 

「……」

 

 マルフォイはポカーンと口を大きく開けていた。

 

 

「髪切ったのね。前のオールバックはどこいったのよ。私、アレ結構気に入っていたのだけど?」

 

「……や、やぁ……ラ、ラドフォード。……君も――随分雰囲気が変わったな……」

 

「お年頃ってやつね。でもこの髪、パパ譲りっぽいのよ? さぁ存分に讃えなさい」

 

「う……うん、凄く似合ってると思うフォイ……」

 

「え……? そ、そう……? 可愛い、かしら……?」

 

「そ、そうだ! むしろ前より君らしくて優雅で伝統的で凄く純血っぽくて素敵だよ!!」

 

「…………ありがとう……」

 

「フォオオオオオオイ!!」

 

 マルフォイが吠えた。

 

 と、同時に急にガラっと開くコンパートメント扉。

 そこから、いつもの眼鏡赤毛栗毛の三人組が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「るっせーな殺すぞフォイカス」

「ストゥーピファイ!!」

「プロテゴ!!」

「シレンシオ!!」

「エクスペリアームズ!!」

「ナメクジくらえ!!」

「ううぉおおお! ロコモーターそこのトランク!! システム・アペーリオ!!」

「トランクでナメクジを受け止めたですって……!?」

「燃やせ! ハーマイオニー!!」

「ラカーナム――!」

「シレンシオぉおおおおお!!」

「やぁ、ベス! 1年ぶりだね! 雰囲気変わった? 凄く綺麗だよ」

「あらハリー! 久しぶりね! あなたも背が伸びたわね!」

「何だかご機嫌だね、ベス」

「ふふ、やっぱり分かる? あのね! ハリー! 実はね私のママがアズカバン脱獄したのよ!」

「あの新聞に書いてあったコンビニ強盗ってやっぱりベスのママだったんだ! 凄いね!」

「あともう一人シリウス・ブラックとかいう凄い死喰い人が脱獄したらしいけどそんなことスルーでいいわよね!」

「良かったね! 何かそのせいで今年ロンのパパに釘を刺されたり、ホグワーツにアズカバンの看守が派遣されるらしいけど別に大した問題じゃないよね!」

 

『緊急アナウンスです。急停止します』

 

 

 突如として入ったアナウンスの後、汽車が急停止。

 何の前触れもなく、汽車内部に灯っていた灯りが全て消えうせた。

 汽車内の気温が軽く10度は一気に下がる。

 窓ガラスが軋むような音がした。

 見れば、窓一面に霜が降りている――まるで真冬が突如として訪れたかのように、ピキピキと凍っていくようだった。

 常識では有り得ない光景に、ハリーとハーマイオニーは驚愕する。

 魔法族生まれの魔法族育ちのロンですら、恐怖を隠し切れないようだった。

 

 暗がりの中、数人の生徒がルーモスを唱えていることが分かる。

 

 だが。

 

 

 

 灯したハズの灯りは、かすかな悲鳴と共に、ひとつ、ひとつ、と消えていくのが廊下にいるベスには確認できた。

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだフォイ? 何が起こって――」

「何だろう……凄く嫌な感じがする……」

「ねえそこのオッサン起こそうよ!」

「なんか来たっぽい」

 

 

 

 

 摩擦力や空気抵抗など存在しないかのように――地面の上を滑り『それ』は現れる。

 

 

 

 恐怖からの使者。

 絶望の体現者。

 マントを着た長い影がそこに浮遊するかのように立ちふさがっていた。

 水の中で腐り果てた亡者のような腕、灰白色に濁り、腐臭を放ち、悪夢の先へと手招く指先が幼い魔法使いたちへと向けられる。

 それは安穏と過ごしてきたハズの彼らの原始的な嫌悪を誘い、得体のしれない甘美な狂乱へと誘い、暗く安らかなる絶望の冥府へ沈み込ませるような恐怖を教え諭すようであった。

 

 

 ハリーは目の前が真っ暗になるのを感じた。

 何も見えない――どこか安心するような暗闇が眼窩を満たす。

 耳から冷水が流れ込み、下へ下へと――沈んでいく。

 

 

 

「コォオーー……」(こんにちわ吸魂鬼です。巡回と挨拶に来ました)

「あ、どうも、お疲れ様です」

 

 

 

 

「うわああああああああ!!」

「は、ハリー!! しっかりしてハリー!!」

「ハリー! どうしたんだハリー!! うっ、なんだこの寒気は……!」

「フォ……?」

 

 

 

「コォオー……」(いえいえw今年ホグワーツに派遣されましたので生徒の皆さん宜しくお願いします)

「こちらこそ、お辞儀しますぺこり」

「コォー」(素晴らしいお辞儀ですね。お辞儀します)

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「ハリー!! どうしましょう! 冷たくなってるわ!!」

「起きろハリー! しっかりするんだ!!」

「……」

 

 

 

 

 

「コォオー……」(魔法界の未来を担う皆さんの安全の為にも頑張ってシリウス・ブラックを捕まえますね!)

「応援してます! 頑張ってください!」

「コォー……」(ありがとうございますwではいい旅を~)

 

 

 

 

 

 

「」

「「ハリィイイイイイイ!!」」

「……もう何も突っ込まないフォイ」

 

 

 痙攣しながらハリーがぶっ倒れたところで、そこでズタボロ布に塗れて爆睡していたオッサンが目を覚ます。

 

「おはようございます。ルーピンです。あれ? 俺のトランクどこいった?」

 

 

「……」(あ、察した)

「フォイ……」(ヤベエ)

 

 ベスは何故か知っていた消失呪文を唱えた。

 ルーピンのトランクは永遠にこの世から消え失せた。

 

 

「まいっか。どうもルーピンです。今年の闇の魔術に対する防衛術の教師になりました。ぶっちゃけ二度とホグワーツに戻りたくなかったんだけどハロワ行っても仕事ないので仕方なく来ました。昨日まで住所不定無職ですが何か」

 

「(今年の教師は元ニートじゃないの……)宜しくお願いしますお辞儀しますぺこり」

「(まだ去年の詐欺師の方がマトモだったっフォイ……)宜しくお願いします」

 

「本音と建て前の使い方が上手だねキミたち、さてはスリザリンかい?」

 

「大当たりです素晴らしいです。ところで何か獣臭いですね先生。人外ですか?」

 

「夜は狼ですねってよく言われます」

 

 

 

 

「やべえ、こいつ相当危ないフォイ!」

 

 驚愕のマルフォイ。

 そんなフォイカスを放置し、ルーピンは意味ありげにズボンをごそごそと探った。

 

 

「ところでお嬢さん……コイツをどう思う?」

「……すごく……おおきい……です……」

「さぁ……口を開けて……」

「え……でもいい匂い……」

 

 

 

「何やってんだフォイ!! 出るとこ出るぞ!!」

 

 

 具体的に言うとウィゼンガモットとか。

 

 

 

「言い忘れていたね。ディメンターにはよく効くんだよ。黒光りするチョコが」

「フォイ!?」

「よっしゃ、コイツをくたばってるハリーの口に突っ込むぞ。穢れた&裏切りのブラッディーズ抑えてなさい」

「強制開口」

「首固定よし、いつでもいけます」

「「バッチコーイ」」

「……ふぉいお前ら……」

「いやはや愉快だねぇ……先生思わず回春しそうだよ……ふぅ」

「お前もう黙ってろフォイ」

 

 

 

 

 

「暴れんな……暴れんなよ……!」

 

「ん、ぐぅぁああああああああああああっ!!」

 

「ハリーしっかり飲む込んだ!!」

 

「ハリー! あなたの為なのよ!!」

 

 

 

 

 

「駄目だこいつら早くなんとかしないフォイ……あああ! そこのウィーズリーの双子!! ちょっとこっちに!! はやく!! こっちにーーー!!」

 

 

「何だよマルフォイ」

「やぁフォイカ……フ、フレッド!! ヤベエぞ!! 僕たちのシーカーが死にかかってる!!」

「これ歴史に残そう。ちょっとコリン呼んでくる」

「じゃあお前呼んで来い。ハリー!! 今助けるぞーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 今年のハリーの受難はまだはじまったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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