少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

31 / 51


一応上げるだけ上げとくアズカバン編導入話






アズカバンの囚人共編
昔の話と新聞紙


 

 祖母だと言う人にベスが出会ったのは、4歳の頃だった。

 

 

 一番いい服を着せられ、革靴をはかせれ、ついでに頭に大きな三角帽子を被せられていた。

 

 もう少しベスが大人だったのなら叔母の沈んだ顔に気付いただろう。

 だがあまりにも幼かったベスは何もわからず、ただ言われるがままに叔母の後をついていくだけだった。

 

 

 

 祖母だと紹介された老女は、ひどく痩せた老婆だった。

 何となく枯れ木っぽいババア。コーデリアは、にこりともせずに老婆に向かって冷たい声色で告げる。普段誰に対しても愛想がいいコーデリアらしからぬ態度に、流石のベスも違和感を感じていた。 

 ベスがぺこり、と子供らしくお辞儀をする。

 

 この子がベスです、あなたの孫です。

 

 彼女はそれだけ告げ、とコーデリアはベスに向かってお婆様とお話していらっしゃい、と言うだけだった。

 当然、ベスは嫌だった。見ず知らずのババアと会話などしたくはない。

 だがコーデリアは聞く耳を持たない。すたすたと部屋から出ていってしまった。

 

 祖母であるらしい老女はただベスの顔をじっと見つめているだけだった。

 観察すれば白薔薇のように高貴で気品のある顔立ちであることに気付く。だが、その唇から漏れたのはひどく疲れたような――それでいて、何もかも枯れ果て、乾いたような。

 温もりのない言葉だった。

 

 

 

 

「お前はあの子ではありません――――あの子とは少しも似ていません」

 

 

 

 

 

 気の遠くなるほど長い時間の中で、言葉を交わしたそれだけだった。

 頭をまるで殴られたかのようなショックがベスを襲った。

 

 確かにベスは母親とは似ていない。

 あの透けるような美しい金髪も、澄み切った泉のような青い瞳も、優し気な顔立ちすらもベスに受け継がれることはなかった。

 きっと祖母だという女性は金髪を望んだのだろう、と幼いベスは思った。母親や叔母のような、光り輝く金色の髪を。もしくは、青い目を。

 

 だが、祖母だというのならば。

 もっと認めてくれてもよかったのではないだろうか。

 確かに、漆黒の髪はよく居る色だし、平均よりも青く見える目は灰色がうっすら混じってしまっている。

 

 だが、こんなつまらない黒髪も、出来損ないの青灰の目も。

 血がつながった孫だ、少しくらい、少しくらい。

 誉めてくれてもよかったのではないだろうか。

 

 その日、ベスは下を向きながら言葉少なく傍らのコーデリアへとこぼした。

 

 

 あの人嫌、あのお婆さん嫌い。

 

 

 ベスにとって初めて会った祖母は、魔法族の子供向けの絵本に出てくる悪いマグルの老婆そのものだった。

 マグルは魔法族を『はくがい』する酷い人達なのだ。だからきっと、魔女である孫のことを『はくがい』するのだ。

 ベスはコーデリアに言った。もう二度と会いたくないと。

 

「……そう言わないで、付き合ってあげなさい」

 

 自分はさっさとトンズラかましたクセに、あんまりにも身勝手な叔母だった。

 

「……アレはアレで、哀れな女なのよ」

 

 

 ベスは何が哀れなのか少しも分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 その1年後、また老婆と出会う機会があった。

 ベスは嫌だったが、帰りに一口食べるごとに味が変わる、40味アイスクリームを買ってくれるというコーデリアの言葉にホイホイつられて嫌々行くことになった。(尚どうせ味が変わった所で英国製なのだからお察し)

 少し背の伸びたベスは、新しくあつらえた服を着こみ、革靴を伸ばし、行くことになった。

 髪はまたガタガタ言われると嫌だったので一つに結っていくことにした。コーデリアが魔法を使って髪を三つ編みにし、くるくるとうなじの場所でまとめ、髪飾りをつけてくれた。

 

 祖母は1年前よりも、よりやつれていた。

 立つことも敵わず、椅子に座ったままだった。それでも背筋をしゃんと伸ばすだけの意地はあったのだろう、相変わらず誇り高そうな婆だった。

 だから、ベスはお辞儀をすることにした。

 『我がお辞儀』に書いてあったことだ――人に対しては礼儀正しく、堂々と優雅にお辞儀をするのだ。そうしなければならないのだ。老婆はツン、と澄ました口調だった。

 

 

 

 

「お前はあの子ではありません。少しも、あの子とは似ていません」

 

 

 

 

「あっそ」

 

 

 ベスはもう、『祖母』には何も期待しなかった。

 

 

「エリザベスと言いましたね」

 

「はい」

 

 この婆が自分の名前を憶えていたことに、ベスは少しだけ驚いた。

 祖母は壁を見つめながら厳しい声で言った。

 

 

「ひどい名前です。エリザベスだなんて、平凡で、魔法使いらしくない名です。純血の娘だというのに」

 

 

 ベスは案の定嫌な気持ち満々で家路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 その次に祖母に会うように言われたのは、また1年後だった。

 コーデリアに会いに行く言われたベスは今度こそ嫌だ、と言った。

 

「やだ、会いたくない。あの婆ベスにひどいことばっかり言うんだもん。会いたくない」

 

 コーデリアは会いに行くわよ、とだけ繰り返した。

 

「あの人嫌い。やだ、会いたくない。ベスはあんな人とお話したくない」

「……ベス」

「ベスが会いたいのはママなの、ママがいいの。あのお婆さんじゃないの。あのお婆さんはママのママなのに優しいママにはちっとも似てない。ベスに酷いことばっかり言う。

 ベスもうやだ。あんな人やだ」

「…………ベス、あなた何を言って……?」

 

 コーデリアは何かに初めて気づいたような表情だった。

 嫌だ嫌だとだだをこねるベスを宥めながら、コーデリアは一言だけ優し気に――でも悲し気に囁く。

 

 

「これで最後だから。今日で最後よ、もう連れていったりしないわ……だから、もう一度だけ会ってあげて。それならできるでしょう?」

「……」

「アイスと便座カタログ買ってあげるから」

 

 

 ベスはやっぱりアイスに釣られた。あと便座カタログ。

 一番いい服を着て、今度は髪を下ろしていくことにした。どうせあの婆は何もかもが気に入らないのだ。最初は容貌、次は名前。ベスはもう何を言われても気にしないと決めていた。

 

 

 祖母はベッドに横たわっていた。

 ひどく痩せていて、本当に朽ち果てる冬の倒木のようだった。

 この人はもう駄目だ、とベスは直感的に悟る。

 今までとは異なる雰囲気の老女は、どこか纏っていた威厳が薄くなったような気がした。

 老女がゆっくりと目を開けると、ベスは我に返り、礼儀正しく堂々と優雅にお辞儀する。

 その様を見た老女の口からはいつもと同じ言葉が出てきた。

 だが、婆は微笑んでいた。

 

 

 

「まったく……お前はあの子と本当に似ていませんね

 

 

 

 私の息子とは」

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 今更ながらにベスは気づいた。

 この祖母は今までずっと母親の母親だと思っていたのだ。

 だから母親と似ていない自分をなじったのだ――そして、自分の娘の人生を台無しにした子供の存在を疎んでいたのだ……と、思い込んで来たのだ。

 だが、違った。

 此処に居るのは――顔も見たことのない、ベスの父親の母だった。

 物心ついてから居ないのが当たり前であり、写真や絵すらひとつもなく……聞かされるのはコーデリアからの本当かパチか盛ってんのかよくわからないアテにならねーカス情報だけだった。

 

 ベスは、改めて『祖母』の顔をまじまじと見つめた。

 

 

 そのやや吊りあがった目の形や、以前は黒かっただろう髪は――母親や叔母、というよりはベスに似ているように思えた。

 

 

 

 

「素晴らしいお辞儀です、エリザベス」

 

 

 

「……うん」

 

 

 

 

「あの子は……私の息子は、ついぞ人に頭を下げることがありませんでした。そうすれば変わったかもしれない人生があったかもしれないのに……。お辞儀なんか、絶対にしない子でした。

 

 だからあなたはお辞儀なさい――――そうできるあなたの方が、ずっとずっと正しいのでしょう」

 

 

 

 

「………………うん」

 

 

 

 

 もう一度だけ顔をよく見せて下さい、と祖母は言った。

 しわくちゃの、今にもぽっきりと折れてしまいそうな手がベスの頬を包んだ。

 祖母は湿った声で、薄らと涙すら浮かべてこう言った。

 

 

 

「……やはりあの子とはあまり似ていませんね。女の子だからでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………嗚呼、私にそっくりです」

 

 

 

 

 

 大嫌いなハズの『祖母』だった。

 会えば酷いことばかり言う婆だった。

 ……なのに。

 

 

 その時ばかりは、ベスは嫌な気持ちがしなかった。

 

 

 

 

 『祖母』だという女性の訃報が届いたのは、その2か月後だった。

 ベスは今でもはっきりと覚えている。

 

 初めて、お辞儀を誉めてくれた人のことを。

 

 そして。

 

 

 

 自分のよく似た――――愛情を伝えるのが、どうしようもなく下手だった、祖母の顔を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言う感じのことがあったような気がするけど、ベスは13歳になっていた。

 恐らく思春期に突入したらしいベスの顔は大人びたものに徐々に変わってきており、残念なのは真っ直ぐだった黒髪が僅かにウェーブがかかっているようになっていたことだった。どうやら神は母親から金髪はくれなかったが、毛量の遺伝だけはくれたらしい。と呪っていると。

 叔母に

 

「あら、髪質がお父さんにそっくりになってきたわね~~やっぱり血の力ね~~血の力は凄いわね~~」

 

 

 と、言われてむしろ上機嫌になったりした。

 

 

 学校再開まであと数日。

 夏休みの前半を遊び倒し、大量に出された課題を無計画に猛烈な勢いで終わらせるとベスは新聞を広げた。

 

 ニュースは様々だ、定期的に文字が浮かび上がっては別の記事に代わってしまうから早く読まないといけない。

 国際欄ではブラジルでストリートチルドレンがぶっ殺されていたりとか、アメリカで世界貿易センター爆破事件の追悼式をやったとか、ソ連崩壊のあおりを喰らった東欧諸国がガチでヤバいけどぶっちゃけイギリスは関係ないよねーとか書いてあった。

 続いて国内欄に目を通す。

 あんまりおもしろそうな記事はなかった。

 可燃ごみにするか、とベスが新聞を折りたたんだ時――周りの記事を蹴散らして叫ぶ男の写真が浮かび上がってきた。最後まで抵抗していたファイアボルトの広告が消え去る。

 

 

 

 

 

『アズカバン脱獄! 

 

 あの狂人だらけのアズカバン要塞監獄で多分一番ヤバいシリウス・ブラックが脱獄!

 この間からグリンゴッツ破りだとかアズカバン脱獄とか一体魔法界のセキュリティーはどうなってるんだろうね! ザルだね!!

 相当イカレてるキ×ガイを世に放ったっぽい魔法大臣は必死に「とにかく落ち着いて行動してください」とか言い訳してたね!! もう辞任が秒読みだね!!

 目が合った瞬間にアバダを打ってきたらきっとその人はブラックさんでしょう。

 

 

 

 

 あと、コンビニ強盗も脱獄されたよ、本当何やってたんだろうねアズカバン看守は!』

 

 

 

 

 

 ベスは一読。

 

 理解できなくてもう一読。

 

 さらにコレが夢でないことを確かめる為もう一読した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、叔母さん!! 叔母さん!! 大変よ!!」

 

「何よベス? どうしたの?」

 

 

「ママ!! ママが!! ママ!!!!」

 

「姉さんはアズカバンでしょ、どうしちゃったのよべス? マミーシック?? あらやだ私困ったわ……」

 

 

 

 

 

 

「ママが!! 脱獄したーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

「あら、流石姉さん。良かったじゃないベス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホグワーツ三年目の、足音は。

 

 

 すぐそこまで近づいてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







とりあえず出しました。

が、

コレを読んでいる水晶玉をお持ちの方々はもう見通している通り。


ウンバボ族は、アズカバンを探しに行きます。



その間停滞がちになっているもう一個の小説をそろそろ進めようと思ってます(宣伝)











次の更新は、人種や国籍、宗教の異なる人々が戦いを辞める頃あたりになると思います。

そうゆう訳なのでマッタリお待ちくださいーー


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。