「おや、ここに居たのかの、ギルデロイ」
ロックハートの目の先には、信じられない人物が居た。
アルバス・ダンブルドア。
ホグワーツの校長――先ほど逃亡したはずの白鬚爺だった。
「なぜ……あなたが……ここに……?」
ダンブルドアは言った。
「それはかくかくしかじかじゃ。何やかんやあってワシはホグワーツに戻ってきた!」
「……」
「ところで……おぬしはなぜ、ここに居るのじゃ?」
「……」
ロックハートは上を見あげた。
「……考えたのです。もし……もし、私が……もし私が『あの時』レイブンクローではなく、グリフィンドールに入っていたら――或は、スリザリンに入って居たらと」
「……」
「もしかしたら、他の人生があったのかもしれない。他の――本物の、英雄になれた――そんな人生が。あったのかもしれない、と」
やはりダンブルドアは全てを見通していた。
彼がロックハートの事務所を訪れた時、思わずひやり、としたのだ。
自分の罪を断罪しにきたのか、と
だが違った。ダンブルドアはただ、ホグワーツの教員にならないかと誘いに来ただけだった。
ロックハートはそれに飛びついた。
それが――こんな事態をひきおこすとも、知らずに。
「ギルデロイ、残念ながらそれは、ない」
「……あなたに何が分かると言うんです、先生」
「『今のまま』のお主が人生を何万回やり直そうとスリザリンにもグリフィンドールにも決して入れぬよ。良くてハッフルパフじゃろうて」
「……そんな……はずが……!」
逆上したロックハートは怒鳴り声を上げる。
「私は!! 私はただ! 英雄になりたかった!! 誰かに認めてほしかった!! 注目されたかった! 称賛されたかっただけなんだ!! 英雄になって――有名になれば……そうでなければ!
この世界で私のことなんか誰も見てはくれないから!!」
「……そうかの」
「あなたに分かるハズがないのです校長先生。ホグワーツでは主席、いつでも天才と褒め称えられ、常に注目され――何も言われずとも魔法大臣にと推薦されるほどの人物!!
あなたに――あなたの様な偉大な人間に! 私のような凡人のちっぽけな望みも欲望も何一つ伝わる訳がないのです!!」
「……ならば、なぜ、今動こうとしない?」
「……」
ダンブルドアの口調はあくまで柔らかい。
まるで、生徒を教え諭す――教師のような口調だった。
何も責めてはいない――にも関わらず、人の心を追い詰めていくような何かがあった。
「英雄になりたいのじゃろう? ならば杖を取るがよい」
「……あんな化け物に私が敵う訳はないんですよ……」
「化け物? はて? 物はどんな物であれ、きちんとそのものの名で呼ばねばならぬよ。敵は化け物ではなくスリザリンの継承者じゃ。その名は『バジリスク』目を見ただけで対象を恐怖で殺し、牙には毒を持つ。大きさは……まぁこの城よりかはいくらか小さかろう」
「……」
「ギルデロイ、コレはワシからお主に与える――最後のチャンスじゃよ。
英雄になりたいのならば、成るがよい。そこのレディもじゃ……やり残したことがあるのならば、それを成してくるがよい」
「……」
『……』
「人の運命を決めるのは『帽子』ではない――――そのもの自身の意志の力に他ならぬよ。良くも悪くも。
世界を変えるのは……いつだって、何者かの『意志』の力じゃ。
それだけは誰もが平等に持っておる。
生きる者も死んだ者も、人間も、それ以外の何かも――――皆同じじゃよ」
●
「生徒のピンチに」
「かけつける」
「「颯爽としたイケメン」」
ジニーとベスは杖の先にルーモスを灯す。
「「キャーーーーー! ロックハート先生カッコイーーーーーー!!」」
「HAHAHAHAHA! ストゥーピファイ♪」
「「キャーーーーっ! ロックハート先生才色兼備ーーーーっ!!」」
「HAHAHAHAHAHA! おっと危ないですよーー! プロテゴ♪」
「「きゃぁああああああああああああああっ!」」
「そろそろ殺していいアイツ?」
「駄目だロン、イザという時の盾が無くなるだろ耐えろ」
「シュ――――!!」(うぉおおおおお! 引かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!!)
バジリスクは意識が朦朧としていた。
実際、もう限界はとっくに超えている。
だが、
「シュ―――!!」(主よ……! あなたの――私は――あなたの―――!)
己の限界を越え、たとえこの身が砂塵と成り果てようとも。
「シュ――……」(行かせるものか、生きて帰すものか)
成し遂げたい思いがあった。
「シュ――……」(ここは―――この場所は―――!)
たったひとつの、意志があった。
「シュ――――!!」(サラザール・スリザリンのものだ!! 永久に!!)
「ほほう、何やら強烈な意志を感じますね!! それがこのバジリスクをここまでやらせているのでしょう! 全く……あぁ、本当……怖いな」
「「ロックハート先生頑張ってーーーーーーっ!!」」
「お任せなさいお嬢さんたち…………決めたんですよ、私はね――僕は!」
ロックハートの目に輝きが灯った。
それは、以前よりいくつか若やいで――いや、幼い日の少年のようだった。
「決めたんだ! 一度だけでも! 立ち向かってみせると!!」
「「ロックハート先生教師の鏡ーーーーーーーっ!!!!」」
「HAHAHAHAHAHA! えぇ、やはり悪くないモノですね! 英雄というものは!!」
「うるさいロックハート! さっきから失神呪文を何度も掛けてるのに……なんでアイツ全然倒れないんだ!!」
「……」
「なぁハリー! 君はパーセルマウスだからアイツの言っていることが分かるだろ!? なんでか分からないかい!?」
苦し紛れのロンの悲痛な声に、ハリーがやりきれない、という表情を浮かべていた。
眼鏡の奥――深い緑色の瞳が、そっと閉じられる。
「……分かるよ……分かる。でも……負ける訳にはいかないんだ。……許すわけにはいかないんだ」
「じゃ、じゃあ説得するとかできないかな!?」
「…………無理だよ、ロン。ぼくが何を言っても――バジリスクには届かない。
……多分、『自称継承者』だったリドルの言葉も、本当は届いていなかったんだ。当たり前だ……。
だって、あいつは――」
バジリスクの尻尾攻撃が天井を突き破る。
メチャクチャな攻撃により破壊された天井の破片が降り注ぐ。
ベスやハリー、ロックハートはすぐに盾の呪文でそれを防いだ。
バジリスクだけが石片を受けて傷つく。
だが、もはや構わなかった。
どれだけ自分の身が削れようとも。
「……あいつは、ずっとずっと――――守っているんだ。
千年前の、スリザリンとの約束を」
「……千年前のだって……? どんだけ昔の話だよ! おったまげのマー髭だよ!!」
「さっきから何度も何度も主と呼んでいる。それはきっとサラザール・スリザリンのことだ。
初めから無意味だったんだ――継承者の存在すら、バジリスクにはどうでも良かったんだ。だって……。
バジリスクにとって……この部屋は…………サラザール・スリザリンの最後の領地なんだ!!」
「……」
「それを守り通す意志――それがバジリスクを千年も縛っている!!
あんな姿になっても!! まだ! 守ろうとしている!!」
「つまり――あいつが今立っているのは――」
「そうだ、ロン」
「「精神力!!」」
ハリーとロンの言及通り、バジリスクはまさに今精神の力だけで生きていた。
「……」
ベスは黙考する。
バジリスクは本来ならばもう死んでいる――ハズ。
なのにまだ生きている。それは強靭な意志の力が成せる技。
ならば。
その意志を消してしまおう、と。
「ロックハート先生!! 『忘却呪文』はできますか!?」
「えぇ! ミス・ラドフォード! 忘却呪文は得意中の得意ですよ!!」
「……なら、先生! 力を貸してください!!」
「はい! かまいませんよ!」
「何をする気だレイシスト!?」
「うるさい赤毛。ハリー! 組分け帽子を貸して!! 今から――あの蛇の千年分の記憶に潜ってやるわ!
そんであの蛇をここに縛り付けている『決意』を忘れさせる!
……もう突破方法は……それしかない!」
「……ベス?」
「その帽子は生徒の頭の中覗いて資質とか見抜くんでしょ!!
だったら絶対『開心術』もしくは精神感応系の魔法を使っているわ!! だから開心できるはず!」
「……分かった! ロン、ジニー、力を貸して!」
「「合点承知!」」
ロンとジニー、ハリーが一斉に光線を放った。
一か所を抉られたバジリスクの身体がかしぐ。
頭の位置が――十分、魔法ならば狙えるレベルの場所まで下がってくる。
「ウィンガーディアム・レビオーサ!!」
帽子が浮き、バジリスクの頭上へと落下した。
その瞬間を狙ってベスが呪文を放つ。
「レジリメンス!!」
開心術が無事発動。
ベスは頭の中に、何かが流れ込んでくるのを感じた。
すんません、切ります。
やっぱ無理だった。
秘密の部屋編!! 今度こそ後残り2話!!