少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

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スリザリンの怪物

 ホグワーツ西塔5階。

 

『……本当は分かっていた』

 

 灰色のレディはほぼ独り言のように空を眺めながらつぶやいた。

 

 

『あの子が――ずっと、ずっと――――『彼』の遺志を果たそうとしているのだと』

 

「……」

 

『私には……分かっていた…………ハズだった』

 

 

「……はぁ……」

 

 

『でも、私は……。何も……出来なかった』

 

 

「……」

 

 

『私は……私……には……逃げた私には……』

 

 

 

 もう、何もする資格はないと、思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは目をどうにかしよう」

「そこの不死鳥さんを使うのはどうですか」

「素晴らしいですそうしましょう」

「行け!! フェニックス!」

「ピィ~~」(特攻かよ……)

 

 

 フェニックスことダンブルドアのフォークスは、ばさっと飛び上がった。

 そしてバジリスクの目をぶっ潰すことにした。

 バジリスクの直視の魔眼と目が合う。

 

「ピィーー」(KOEEEEE! 蛇KOEEEEE!)

 

 フェニックスは死にました。

 が、フェニックスは不死鳥。死んでも灰の中から何度でも蘇る。

 故に死ねなかった。

 何度も死に、蘇生し、死んでは蘇り、恐怖で心臓発作おこしては生命の火がまた宿るという状態になっていた。

 結果。

 

 

 火だるまになった鳥が何度も何度もアタックするというダイナミック特攻が発生。

 

 

「シュ――――!!」(目がぁ! 目がぁあああ!)

「ピィー」(もっと熱くなれよぉおおおおお!)

 

 バジリスクの目ん玉が死にました。

 リドルが悔し紛れに何かホザキやがります。

 

 

『……バジリスクの目は潰されたが、まだ音と臭いでお前らが分かるぞ』

 

 

「……ふーん、音ね……」

「どうしたんだハリー!? 何か秘策でもあるのか?」

「フォークス! そのまま飛び回っているんだ!! ベス!」

 

 ハリーは蛇にピット器官があると思っていた。

 だからフォークスがその辺飛び回っていると目障りで仕方がないと思い込んでいた。

 

 尚、実際バジリスクにそんなもんはない。ないったらない。

 

「何ですかハリーさん」

「君のペットを使う時が来たよ!! ロン、かくかくしかじか」

「……それしかないか……分かったよ!!」

 

 

 ロンとハリーはほぼ同じくして走り出す。

 ロンはバジリスク右側、ハリーは左側に向かって分岐。

 さらにそこから尻尾側と胴体に分かれる。

 

「シュ――」(マスター!! どちらを狙えばいい!?)

『シュ―――』(ポッターだ! ポッターを狙え!! お前の右!!)

「シュ――」(了解した!)

 

 バジリスクはハリーにむかって尻尾攻撃をかまそうとする!

 だが尻尾側にはロンが居た。

 

「うおおお! この純血フェチの蛇野郎! ナメクジ食らえ!!」

 

 ロンの口から恐るべき数のナメクジが発射される!

 ナメクジ弾幕をもろに浴びた尻尾が重さ増す、さらに、そのナメクジは何と。

 

 ハグリッド特製、肉食ナメクジであった。

 

 無数のナメクジたちに肉を食いちぎられたバジリスクが痛みでのたうち回る。

 バランスを崩した蛇の頭上の石柱を狙うベス。

 

「レダクト!」

 

「やった! ウィンガーディアム・レビオーサ! ロコモーター!!」

 

 今度はハリーからの弾幕攻撃。

 レダクトで破砕した石片を一旦宙に浮かせ、さらに加速させる。

 ただの投石攻撃だが体のバランスを失ったバジリスクを転倒させるには十分だった。

 バジリスクの巨体がゆっくりと傾げ引き倒される。

 

 

「ロコモーター! ブルーピー!!」

「コッケェエエエエ!!」

 

 進撃の鶏。

 

「シュ―」(何ぃ!?)

『……は? ……え?』

 

 ブルーピーが蛇の頭の上にすっぽりと覆いかぶさる。

 そしてコケッと鳴く。ついでに自慢の爪で潰した目玉を攻撃しはじめた。

 バジリスクはまだ体勢を立て直すことが出来ない。

 

 

『な……んだと……!』

「そう、リドル――流石のお前も分かっているようだな!」

 

 ハリーはリドルへ杖をつきつける。

 

「確かに! バジリスクは視線だけで人を殺し! スゲエ毒を持っているかもしれない! だけど弱点だってちゃんとあるんだ!! ハーマイオニーが調べてくれた!!」

『弱……点……。ま、まさか……!』

「そうよ! その子……雄よ!!」

『バジリスクの弱点……鶏……雄鶏の……時をつくる声……!!』

「コケー」(時報です)

 

 ブルーピーコックは蛇の頭上にトコトコと上がる。

 そして大きく息を吸ったかと思うと。

 

 声の限りに――叫んで見せた。

 

 

 

 

 

 

「コッケコッコーーーーーー!!」

 

「シュ―――――!」(ヴァアオオオオオオオオ!!)

 

「コケッコッコーーーーーー!!」

 

『ば、バジリスクぅううう!』

 

 

 

 効果はばつぐんだ。

 

 鶏が時を告げる声を聴いたバジリスクは何か遺伝子とかそうゆう本能的なレベルで逃げださなくてはならないような衝動にかられた。わけのわからん不条理は魔法生物としてこの世に生を受けた以上どうしようもない生理的現象だった。

 自分にとって致命となる攻撃を頭上で繰り広げられるバジリスク。

 万事休すと思われたその時。

 

 

 

 

 

 バジリスクはサラザール・スリザリン像に突撃して自らの頭を打ち付けた。

 

 

 

 真白の羽毛が舞う。ブルーピーコックと言う名の鶏は、一矢報いて死にました。

 ただの鶏であったが、バジリスクにとっては核弾頭並の威力を持ち得た鶏だった。

 

 

「あああ! ブルーピー……」

「良い鶏だった……君は、多分此処に居る誰よりも……勇者だった」

「勇者ニワトリに敬礼!」

『バジリスクぅううう!』

「ピィイーー……」(この短時間に1蛇2鳥キル……俺不死鳥で良かったわ……動物愛護法なんてなかったんや……)

 

 

 もくもくと上がる砂塵の中。

 それがぞすり、と首をあげた。

 

 

「!?」

「!?」

「そんな……!」

『お……おお?』

「ピィーー!」(マジか)

 

 そこには。

 

 目を潰され、尻尾を食い荒らされ、胴体に穴をあけ、更には頭から血を流しつつも、尚。

 

 

 向かってくる――バジリスクの姿があった。

 

 

 

 

「「「……」」」

 

「シュ―――」(まだ……だ……! まだ……終わらん!)

 

『ば、バジリスクぅうううううう!!』

 

 

 これで死んでねーのかよ……とベス、ハリー、ロンは思った。

 

『シュ―――シュ――!』(いいぞバジリスク! さぁ殺せ! この目の前の奴らを殺るんだ!)

 

「シュ――」(多くの英霊たちが……無駄死にでなかったことの……証の為に……!)

 

 バジリスクはキャラがブレてきていた。

 

『シュ――!』(ちがうそっちじゃない! おい! 聞いているのかバジリスク!)

 

「シュ―……」(我が主よ……俺は……。……私は……)

 

 

 

 

 

「……しゅーーー……」(……私は……あなたの……)

 

 

 

 

 

 

「……なんだ様子が変だ」

「リドルの声が聞こえていないみたいだわ」

「……まさか」

 

 三人は悟る。

 

 バジリスクはさっき、スリザリン像にむかって体当たりすることで――自分の内耳を破壊し、聴覚を殺すことによりその弱点を封印したのであった。

 ちなみに蛇に鼓膜は存在しない。その為ダイレクトに内耳を破壊したのだ。

 

「ど、どうしよう……鶏も死んだし……作戦が木っ端みじんのレダクトだ!」

「終わった、しんだーはい終了ーー」

「待って二人とも!諦めるには……まだ早いっ!!」

 

 すっかり目が死んだロンとベスに向かってハリーは叫ぶ。

 その眼鏡はらんらんと輝きを放っていた。

 そろそろ気づく。

 

 あ、多分コイツ本気で殺る気だなー……と。

 

 

 

「いいかい!? 今のバジリスクは目と耳――つまり、五感のうち二つがもう駄目なんだ!」

「そうですね」

「改めてみると凄い状態です。何故まだ蛇さんが戦おうとするのか甚だ疑問です」

 

「だからロン、ベスこう考えるんだよ!!

 

 

 

 

 あと残り三つ……五感全部ぶっ壊せば僕たちの勝ちなんじゃないか?」

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

(コイツ……前から思ってたけどコイツ……)

 

 

(よくもそんな酷いことを思いつくわよね……)

 

 

 

 

 

((だめだこのシリアルキラー……はやく何とかしないと……!))

 

 

 

 

 

 やはりロクなことではなかった。

 

 

 

「よし! 次は味覚と嗅覚を叩くぞ! 僕がアイツの口に突撃するから二人は何とかして動きを止めて!!」

「えー……」

「ハリー! 待って! そもそもどうやって味覚と嗅覚を破壊するつもりなの!?」

「つか本当に味覚は壊す必要あんの」

 

 

 非常に個性的な料理を食するという才能をお持ちのグレートブリテン島に住まう人種が何かほざきやがった。人間は初期不良というものを実はなかなか意識できない生物なのかもしれない。

 

 

 

「何とかなる! 来い! 組分け帽子」

「帽子の出番だやったーーーー!」

 

 組分け帽子を持ったハリーはバジリスク目がけて突進していく。

 上からは石片だのなんだのが色々振ってくるがハリーには当たらない! 

 

「ああああ! もう! 合わせなさいよ腐っても純血貧乏6男!!」

「分かったよサラブレッドレイシスト!!」

 

 ロンとベスは杖を構えた。

 それは、授業ではやったことはないものの――先輩たちの死闘で幾度も見せつけられてきた呪文だった。

 

「「ステューピファイ!!」」

 

 やや麻痺させるには弱い、子供だましの細い赤色光は二本空を切る。

 ベスのはかつて目玉の在った場所に、ロンのは尻尾の傷口にそれが当たった。

 本来ならばたった12歳の放った光線、バジリスクなどという怪物を麻痺させるには到底不可能な代物だろう。

 

 だが。

 

 目も見えず、耳を自ら破壊した――無音と暗闇の中をさまようバジリスクを動揺させるのには十分だった。

 

 

 痛みからか衝撃からか、大きく開いた咢に――。

 

 

 ハリーが、腕を、突き入れる。

 

 

 

 

「うぉおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 ハリーが危険を冒してまでブッ込んだもの、それは。

 

 

 

 

 組分け帽子だった。

 

 

 

 

「なんで!?」

「そこはもっと杖でアバダするとか方法があったんじゃないかなぁ!」

「何で? 僕は五感を破壊するって言ったんだよ?」

 

 いや、そんなもんで破壊できるわけねーだろ……。と赤毛と黒髪は思った。

 

 

 ……が。

 

 

 

 

「シュ――――」(うわああああ! くさっ、臭いぃいいいいい!)

 

「え」

「は」

『 』

 

 

 

「シュ――――!」(う、うぉおおおおお! こここここれはーーーーッ!)

 

 

 

 

「そうさ……僕たちにとっては見慣れた組分け帽だ……! だけど!!

 

 

 パイプの中からですら! 人間の『血』さえ嗅ぎ分ける――バジリスクの超嗅覚なら!

 もしくはこの3人から個人が特定できるほど鋭敏な嗅覚を持つバジリスクには! よく効くハズなんだ!!

 

 

 

 1000年分の生徒が被った帽子に染み込んだ臭いが!!」

 

 

 

 

「手段選んでなさすぎ、今帽子はテメーをグリフィンドールに入れたコトをクソ後悔しているぞゲス眼鏡が」

 

 

「シュ―――――!!」(臭ぇえええええええ!! ヴォエエエエエエ!)

 

 

『……こんな……こんなんで……スリザリンの脅威が…………』

 

 

 

 

 自称スリザリンの継承者()は片手で目頭を押さえていた。

 

 

 

 

 

 スリザリンの脅威はばたーんとぶっ倒れました。

 その衝撃で顎が挟まり、ハリーの腕にバジリスクの牙が突き刺さる。ハリーは毒を喰らった。

 不死鳥色々悲しくなり涙を流す。

 スニッチで近眼のくせに動体視力だけは異様に鍛えたハリーはソレを見逃すハズもなく、零れ落ちる涙の雫をキャッチ。毒は無効化された。

 

 

 

 

 

 

「さて、と。じゃあ次はお前かリドル」

 

『そうだな……一対一だハリー・ポッター、決着をつk――』

 

「何を言ってるんだ? こっちは3人だ。ついでに不死鳥も居る――さて、トム選ばせてやる。ジニーを返してサッパリ死ぬか、それとも最後まで抵抗してなぶり殺しにするか……どっちがいい?」

 

『……はははっ、面白い! この僕に勝てると思っているのかお前た≪トム……ねぇトム……≫ なんだ邪魔するな本当やめてください!!』

 

「今なんか女の子の声混じったわ」

「ジニーだ! ジニーが戦ってるんだ! 頑張れ! ジニー!!」

 

 ロンの必死に呼びかけで、ジニーが目を覚ました。

 

 

「ジニー!!」

「え? あ、あれ? ロン? ハリー……? あ、あれ? 私……」

『うわあああああああああああああ!』

「ジニー良かった、気が付いたんだね」

「でも……でも……ハリー……! あなたケガしているわ……!」

「ジニーいいんだ、僕は大丈夫だから」

「でも……やだ……ごめんなさいハリー……わたし……わたし……そんなつもりじゃ……!」

『ああああああああああああああああああ!!』(断末魔)

「ジニー、君は悪くない、操られていただけなんだ。もう全て終わるよ。大丈夫……僕の目を見て……」

「ハリー……私……私……!」

「君は、操られて、いた、だけ、なんだ」

「私は、アヤツラレテ、イタ……」

「ハリー君僕の妹に何しているんだい?」

「これは……! 流れが……変わるわ……!」

「お前も何言ってんだ」

 

 

 

 

 

 

「リドル! お前の負けだ!!」

 

「ワタシハ操ラレテ居タダケナンダ……。リドル死ネ!!」

 

 

 

 

 

「ジニー! しっかりするんだジニー! 目の焦点が合っていないよ!! ハリー!!」

「やりやがった……やりやがったよコイツ……」

「これで悪い奴は死んだし解決だね! さぁ皆帰ろう!」

 

  

 ハリーが何事もなかったように笑顔を浮かべて、皆を先導し、踵を返そうとした。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 大きく、水音が――跳ねる。

 

 

 

 

 

「シュ――――……! シュ――……!」(まだ……だ! まだ終わってない……!)

 

 

 

「え!?」

「うそだろ……」

「マジか」

 

 

 

 

「シュ―……! シュ―………!」(主との……『約束』は……まだ……!!)

 

 

 

 

 

 バジリスクが。

 

 

 

 

 

 

 

 起き上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こうなったらもう、一騎打ちだ。コイツが死ぬまで……刻むしかない!!」

「こんな奴に僕たちの魔法なんかきくのかよ!!」

「……私のせいだ……全部私の……」

 

 頭をかかえるジニーを兄であるロンが助け起こしていた。

 今から1年生と2年生の魔法使い4人で呪文を乱発する。

 だが、誰もが分かっていた。結末は二つしかないのだ。

 

 

 

 バジリスクが力尽きて倒れるか。

 

 唱える呪文が尽きて――全員死ぬか。

 

 

 

「……」

 

 

 

 その中で。

 

 

 ベスは、ひとつだけ生き残れるかもしれない可能性を見ていた。

 

 

 だが、それには力が足りなかった。

 

 

 知識も。呪文も。なにもかもが。

 

 

 大口を開け、最早瀕死の体力で迫りくるバジリスクは今までの攻撃よりもより気迫があった。

 最早バジリスク自身も生き残ろうとはしていないのだろう、だが、まるで

 

 『命よりも大事な何か』を守り抜こう―――もしくは、押し通そうとしている節すらあった。

 

 盾の呪文を合わせようと3人が杖を構えたその瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「HAHAHAHAHA! プ・ロ・テ・ゴ!!」

 

 

 

 

 ガツン、とバジリスクの牙を跳ね返す程の『盾』が生成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 成人男性の声。

 カツン、カツンと靴音が高く、石天井に反響し、幾重にもなって響き渡る。

 

 現れたのは、明るい色のローブと。

 

 真珠色の歯を見せたチャーミングスマイル。

 

 その歯がいつもより少し、震えているようにも見えた。

 

 

 

 

「……さ、さぁさぁ皆さん! こ、ここは……下がっていなさい!! 闇の魔術に対する防衛術の時間ですよ!!

 講師はこの私! マーリン勲章勲三等、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、大英帝国勲章、そしてチャーミングスマイル賞五回連続受賞な!!」

 

 

 背後にはゴーストが2人ついてきていた。

 顔なじみになった眼鏡の女生徒と。

 ハリーたちには廊下ですれ違ったことがある程度の、レイブンクローの女性ゴーストだった。

 

 

 

「ギルデロイ! ロックハートがお相手しますよ!!」

 

 

 

 

 




秘密の部屋編、あと2話!


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