少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

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秘密の部屋

「ベス、僕たちはハーマイオニーの遺言からある真実に辿り着いたんだ。秘密の部屋の怪物、その正体は『バジリスク』だったんだよ!」

「瞳術の使い手か、殺すの難しいな」

「何でも直死の魔眼持ちだって」

「でも誰も死んでない。不思議。と思ったらどいつも直接目を見てないんだ。

 第一犠牲者、猫はマートルが溢れさせたトイレの汚水。第二の犠牲者一年ズは大きな姿見の前でくたばってた。

 第三の犠牲者パパラッチはカメラを通して、第四の犠牲者ブルジョワは地縛霊越し、首があんのかないのかよく分からん霊は2回は死ねない。そしてハーマイオニーとクリアウォーターは鏡を持っていたんだ! 直接目を見ない様に!」

 

 ハリーの超ダイジェストと解説。

 

「マジでか……でもそんな這いずり回る奴目立つんじゃない? 透明マントでも持ってるのかしら?」

「……」(……僕ベスに透明マントのコト言ったっけ……?)

「……」(おい、ハリー感づかれてるぞ)

「どうしたのよ二人共」

 

「その答えはパイプだよ! 奴はパイプを伝って移動していたんだ! だから僕にだけ声が聞こえたんだ! そう――パーセルマウス、蛇の言葉が分かるから!!」

 

「成程。で、なんでこのトイレに関係あるのよ?」

 

「マルフォイからの情報で。前に『マグル生まれ』の女の子がひとり犠牲になったらしい。

 もし……もし、だよ? その子がまだここに居るとしたら――どう思う?」

 

「ミイラ」

 

「そうじゃないよ。ひょっとしたら……ゴーストになってるかもしれないだろ」

 

「せやな……あ」

 

「そうゆう訳だからマートル。素直に知ってること洗いざらい喋ってくれるかい?」

 

 ハリーの眼鏡が光っていた。

 マートルはふわり、と空中に漂いそっぽを向く。

 

 

 

 

 

 

『……嫌よ』

 

「……」

「頼むよマートル!! 僕の妹の命がかかってるんだよ!!」

 

 

『……今更何よ!! 今まで――アンタ達、今の今まで! 私の死因なんか聞いたことなかったじゃないの!! ただの一度だって!! なのに今? 何? 秘密の部屋の怪物? バジリスク?? 知らないわよそんなの!!』

 

「マートルお願い」

「マートル、ねぇ、ハリーに……」

 

『い、いくらベスの頼みでも……聞かないんだからね!!』

 

 マートルは若干動揺していた。

 もう少し揺さぶりをかければ、マートルは心を拓いてくれるかもしれない。

 そう思ったらしいハリーは、仕方ない、と言ってベスに眼鏡を渡した。

 

「ちょっと持ってて」

「お、おう……」

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ハリーは。

 

 

 

「マートル、頼むよ」

 

 

 

 ハリーがまるで心の底から謝る様に。

 相手への敬意と、尊敬、まるで積み重ねてきたホグワーツの1000年の歴史に対してするかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう。

 

 

 

 

 

 それは。

 

 

 

 

 

 見る者全てに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 微笑むような

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完璧な――――お辞儀だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『心が……洗われるような……お辞儀でした。話します』

 

 

 

 

 

「おっしゃ」

「チョロいな本当」

 

 

(コイツ……去年のクィレル戦よりも……お辞儀レベルがアップしているわ……!!)

 

 

 やっぱりハリーは油断できない、と評価を改めるベスだった。

 

 

 

『オリーブ・ホーンビーに眼鏡のことボロクソいわれて泣いてたの。ここで』

「分かるわ、トイレは聖域だものね」

「永久に黙ってろよ便所レイシスト」

「シレンシオ!!」

「プロテゴ!!」

 

 

 

『そしてたら訳わかんねえ声がしたの……でも分かったわ。男子の声だって、だから怒鳴りつけてやろうと思ったのよ……。

 

 この変態!! 通報するわよクソ野郎!! トイレ盗撮なんか良いご趣味ねこの人間のクズが死に晒せ!!

 

 って、ディフィンドしようと思ったの……』

 

 

「どの道トイレで人死に不回避だったんじゃね……?」

 

『うるさいわね! そこのセルドーラみたいな赤毛男!! 私悪くないわよ! ……で、死んだの。その辺にへんな金の玉が2個あったわはい私の人生終了』

 

 マートルは洗い場の方を指さした。

 ハリーは蛇口をよく観察する。

 古びてはいたものの、それは。まさに名の通り蛇の頭によく似た装飾が施されていた。

 

「シューーー」(開け)

 

 蛇口が白く光り回り始める。

 手洗い台が沈み込み、中に大人一人なら通れそうな穴が出現した。

 息を呑むような光景の中、ハリーとロンは確信する。

 間違いない、これが秘密の部屋だ――と。

 

 

「おお、何か凄そう! 隠しトイレね!!」

「……そうだね。うん」

「ヒャッハーイ!! 突入します!!」

「あー……ベスー? 安全確認先にした方がいいんじゃ……」

「もう手遅れさ、ハリー。あいつの頭の中もな」

 

 

 

 

「うわあああああああああああああ!! 摩擦が! 摩擦が!! あつっ! あつぅううううう!!」

「コッケコッコー!!」

 

「HAHAHAHAHAHA! 素晴らしいですねミス・ラドフォード!! ではもう私は要りませんねーー! じゃあ君たち幸運を☆ それではさらばっ!」

 

 しゅばっとロックハートは姿を消した。

 

 

 

「……あいつ……」

「いいよ、ロン。肉盾が減っただけだから。さっさと行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ははははっ! そうです! そうですよ!!」

 

 ロックハートは音速で走る。

 

「何も私が戦う事はないのですよ、えぇ! この私ロックハートが戦う必要などないのです!」

 

 ロックハートは風を超える。

 

 

「そう……私が……私……が………。…………僕が……」

 

 トイレを出て回廊にまで曲がる。

 目指した場所は自分の部屋だったハズだった。

 

 だが、足は、自然に。

 

 

「……あ、あれ? ここは」

 

 

 かつて過ごした場所――西の塔の5階に向かっていた。

 

 そこでは、ひとりの女性が――女性のゴーストが。

 天井を見上げて、佇んでいた。

 

 

 

『……』

 

「……あなたは……」

 

 

 その様子は――――ひどく、悲しげに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリーとロン、ベスは薄暗い部屋をルーモスで照らしながら進む。

 しばらくすると、そこに赤毛の少女が横たわっていることに気付くだろう。

 真っ赤な赤毛の1年生の少女。

 あぁ、そうか。この子が妹なのか、とベスは理解する。

 

 

「ジニー!!」

 

 妹の横たわる姿を見たロンは取り乱しながら真っ直ぐに駆け寄った。

 まだ他人、と言う分だけ冷静さが残っているらしい、ハリーは周囲を警戒しながらロンの後に続く。

 

「ジニー、目を開けてくれ! あぁどうしよう……ハリー! ジニーの体……」

「駄目だロン、気絶してる。だけどケガはないみたい」

「で、でもハリー……! ジニーの体……つ、冷たいんだ! す、すごく!!」

「多分この水のせいだ……ロン、早くジニーを引き上げて! ベス! 君はバジリスクを警戒して――」

「イケメン発見」

「ベス! イケメンじゃないくてバジリクスだよ! ただ、目を見ちゃダメだから気を付けるんだ!!」

「目と目が合ったこの瞬間の奇跡……あれ? スリザリンの制服着てるけどこんなヤツ居たっけ?」

 

 

『……む、無駄だ、その子は目覚めない……』

 

 

 喋ったーー! とばかりに口をあんぐりと開けるベスとロン。

 背の高い、黒髪の青年だった。

 ベスの言った通りに胸元にはスリザリン証である蛇の紋章をつけている。すぐ傍の柱にもたれかかり、やっとの思いで立っているという状態でこちらの様子を伺っている。

 その顔に見覚えのあるハリーがいち早く気づいた。

 

 

 

「君は……トム――トム・リドル」

「え? トム・リドルだって……!? そんな……有り得ないよ!!」

「なんでよ」

「だ、だってトム・リドルって……50年も前の人物じゃないか!!」

「は? 何言ってんだお前」

「ベス。ロンの言ってることは本当なんだ……トム・リドルは50年前に秘密の部屋の化け物を倒したっていう功績でホグワーツ特別功労賞を受賞してるんだよ」

「だって僕は罰則でコイツの盾を一晩中磨いてたんだから!!」

「……じゃ孫?」

「君さっき言っただろ?『こんなヤツ居たっけ』って」

「言いました。見覚えありません。したがってコイツは現世外の人間です」

 

 よく見ると薄気味悪いぼんやりとした光がトム・リドルの周りを漂っていた。

 

「君はゴースト?」

 

 ハリーが問うと、トムという名の正体不明の青年は息も絶え絶えと言った感じで答えた。

 

『……記憶……だよ……ごじゅうねんかん日記の中のあ……った…』ハァハァ

「トム! 手を貸して! バジリスクが居るんだ!!」

『……呼ばれるまでは来ないよ』

 

 ロンは苛立った声で凄んだ。

 

「トム!! いい加減にしろよ! ココから出てジニーを助けないといけないんだよ!!」

「……待って、ロン」

「話が見えねえ……」

 

 ひとりだけ全く話について来れないベス。

 

 トムは艶やかに笑った。

 

 

『残念だがソレは出来ないよ……ジニーが弱れば弱る程、僕は強くなる』

「……は?」

『そうだ……! そ、そうだ! やっと……やっとの思いでコイツを乗っ取ったんだ!! 死ぬかと思った……!い、今この瞬間も体を返せとこの魔女がこの魔女がこの魔女が!! ゴファ!!』

「何だか苦しそうだわ。血とか吐いたわ」

「何言ってるんだこいつ……?」

「よし、じゃ、二人共。帰ろっか」

「「ジニーを背負って帰ります」」

 

 

 

 

『って待て!! 話を聞け!!』

 

 

「いや……だって……」

「いい加減にしろハンサム。僕たちは妹を助けないといけないんだよ!! 全く! 顔が良い奴にはロクな奴がいないな!! お前とかロックハートとか便所女とか!」

「インセンディオ!!」

「アグアメンティ!!」

 

 

『秘密の部屋を開けたのはジニー・ウィーズリーだ!!』

 

 

「は……?」

 

 ロンは驚きのあまり真っ白になっていた。

 

「そんな訳……そんな訳があるか!! ジニーは……ジニーは兄さんたちのせいで気が強いところもあるけど……ジニーは……僕の妹は!! 優しい子だ!! そんな訳があるか!!」

 

『いいや、彼女だ! 秘密の部屋を開けたのも、怪物を解き放ったのも! 『スクイブの猫』や『穢れた血』にバジリスクをけしかけたのも彼女だ!!』

 

「黙れ!! ジニーがそんなことをするわけない!!」

「……あぁ、そうだ。ジニーがそんな酷いこと出来る訳ない……。

 

 

 

 

 

 だから……やったとしたらお前だ。トム・リドル」

 

 

「え? 何でそうなるのよハリー?」

 

「ベス、信じられないかもしれないけど聞いてくれ。僕の目を見て……。

 いいかい? このトムは五十年間『日記』の中に居た残留思念みたいなものなんだ。それが何やかんやあってジニーを乗っ取った。多分精神感応か何かの魔法だよ。感応現象なんだ」

 

「はぁ……」

 

「だから、ジニーの身体を精神操作して『乗っ取った』つまりジニーは……自分の意志とは関係なく! 無理やり操られて!! あんなことやこんなことをされていたってことなんだ!!」

 

 

「マジかよ最悪だな……、女の敵め。死ね!」

 

 

「さて、と。小便はすませたか? 神様にお祈りは? 秘密の部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする準備はOK?」

 

 

 

 

『(やべーなコイツら……どうゆう精神構造してんだ……)』

 

 

 

 

 トム・リドルは冷汗をかく。

 ムカついたから殺すという超理論が理解できなかった。

 それよりも、もっと突っ込むべきところがある。

 

 

 

 

 

『……ま、待てお前ら!! お前たちは何か勘違いをしている!! ぶっちゃけ穢れた血をぶっ殺しまくってたのは僕じゃな――』

 

≪ねぇ……トム……?≫

 

『うっ……なんだこの声は……!!』

 

«約束したよね……? ハリー来たら替わるって……替わってくれるって……ねぇハリー居るわよねぇ……? ねぇトム…………ねぇ、トム……トム……トム……≫

 

『や、やめろ!! 今は僕のターンだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういいよ、分かった。

 

 つまり、お前は僕たちの敵なんだな? 秘密の部屋を開いたのはお前だな? だったら」

 

 

 ハリーは眼鏡を反射させながら口元を愉悦の形へと湾曲させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前を殺せば、ジニーは助かる。秘密の部屋も閉じる。ジニーもホグワーツも両方一気に救える。一石二鳥だ。なら戦おうか――自称! スリザリンの継承者()様!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンが少しだけ迷ってから杖をトムへとつきつけた。

 

 

 

 

「……お前がどんな奴かは知らない。でも……ジニーを助ける為だ! ここでお前をぶっ殺す!!」

 

 

 

 

『ふん……馬鹿な下級生だ。いいさ、僕の狙いはハリー・ポッターだ。お前達は生かしておいてやっても良かったんだが……歯向かうなら仕方ない。

 そこの君はどうする? 見た所スリザリンの学生だろう? 同じ寮だ……創設者の手で葬られたくはないだろう? 大人しく見ているなら命まではとらn――』

 

 

「シレンシオ!!」

 

 

『×』

 

 

 

「確かにそこの赤毛一家は伝統的な由緒正しい純血の一族のくせに、『穢れた血』とつるむ様な『血を裏切る者』達よ」

 

 

『……?』

 

 

 

 

「だけどね。少なくともこのロクでもないド底辺赤毛は……妹を助ける為にってここまで来た!! 私の持論じゃ純血主義とは即ち自らの父祖の歴史を誇ること!! 

名も残らない、だが確かに生きた先祖たちの血を受け継ぐこと!!

 

 つまり血族と家族の絆を守ることよ!! じゃなきゃ魔法族なんか身内同士の殺し合いで滅びるでしょうが!! このアンポンタンのトンチンカンが!!」

 

 

 

『……』

 

 

 

「あんたは純血社会に目障りな『穢れた血』だけぶっ殺していれば良かったのよ。純血の子を狙った時点で、アンタが『スリザリンの継承者』であることは既に破綻している!!」

 

 

 

 

 

『……ほぅ……いかにもスリザリンらしい、純血主義でありながら――――この僕を、否定するか。バカな小娘だ』

 

 

 

「上等よ、アンタに本物の純血主義を教育してあげる!!」

「お前の居場所は学校じゃない、大英博物館直葬だ」

「さっさと蛇を呼べよおっせーんだよカス。自殺もできない遺物共が、ここで引導を渡してやる!!」

 

 

 

 

 ハリーたちの声を聴いたリドルは、口を大きく歪めて凶悪な笑みを作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ならば良かろう、若き愚かしき『勇者』たちよ!! 『純血の意志』に立ち向かってくるがいい!!

 

 

 

 千年の歴史が相手をしてやろう!! 

 

 

 

 お前ら全員! 死に場所は此処だぁあああああ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リドルがシューシューと蛇語を使って石像に唱えると、ずるり、と巨大な『何か』が姿を現す。

 

 その巨躯を見て、3人は判断するだろう。

 

 

 これこそが『蛇の王』――――バジリスク、だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シューーー。シュ―――」(西暦は変わった……)

 

 

 

 

「シュ――シュシュシューーー」(ひとつの時代が終わり、俺たちの時代は終わった)

 

 

 

 

 

「シュ――― シュシューーー」(だが俺にはまだ、やらなければならない事が残っている)

 

 

 

 

 

「シュ――――シュシューーー」(非魔法族の血、それを魔法界から抹消する事)

 

 

 

 

 

「シュ―――」(それが、俺に残された最後のミッション)

 

 

 

 

 

 

 

 

 『蛇の王』がログインしました。

 

 

 

 

「ピィイイ~~~ン!!」(イヤッホォオオオオウ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックス&帽子がログインしました。

 

 

 

 

 




うぅ…ストックが。。。

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