少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

24 / 51
クリスマスとポリジュース

「クリスマス期間なのにホグワーツに残る可哀想な人手ーーーーあーーーーげーーーてーーー!」

「フォーーイ!」

「マジかよフォイカスwww」

「お前ん家www今www魔法省のガサ入れだってなwww」

「ルシウス・マルフォイも遂に年貢の納め時か。よーし、今から公開処刑のチケット抑えとくぞー」

「何なんだよお前らフォイ!! 父上は今ちょっと大変なだけだフォイ! だから今年はホグワーツで過ごすだけなんだフォイ!!」

「あっそ」

「遠吠え乙ですwww」

「然り、追い詰められた時こそ人の真の能力は問われん。今は雌伏の時なるぞフォイカス。武士は黙して時を待つのみ」

「じゃあね~ドラコ君~~。冥途のお土産用意しとくね~~」

 

 

 

「「「「こんなクソ学校さっさと出ていきます」」」」

 

 

 

 スリザリン寮、残ったのは。

 2年生ではマルフォイ。そして。

 

「ドラコ、元気、出す」

「親父キット大丈夫ダヨ」

 

「……お前らぁ……!」

 

 

 言葉はイマイチ通じないが何気に忠実なクラッブとゴイル。

 

 

 

 

 そして、大広間でシャンデリアと化しているノットだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お帰りなさいませお嬢様!!」

 

 帰ってくるなりベスを出迎えたのは、キーキー声の下僕妖精のティニ―だった。

 

「さっそく料理がご用意していらっしゃいます! ティニ―がご用意なさいました!! 誉めて!」

「イイコイイコ」

「コーデリア様もいらっしゃいますよ!」

「マジかよ。今年も居やがるのかあの叔母……」

 

 雪を落とし、服を着替え、食堂に行くと。

 

 良い年齢こいてミニのスカート。赤地の布と白いボンボンでサンタクロースの際どいコスプレをした叔母、コーデリアの姿があった。

 だが、元々派手な顔立ち、スタイル抜群。豪奢な金髪に赤い帽子はアホかと言うくらい似合っている。

 

 

「メリー! クリスマーース!! ベス!!」

 

「メリクリ叔母さん……今年もフィーバーしてるのね」

 

「そうなのよ! 昨日は私のトナカイになりたいという殿方が列を成したんだけれどね~!」

 

「死んだ叔父さんに不義理すぎると思うわ」

 

「いいのよ! 遺産と家名目当ての老い先短い爺に一瞬の夢を見せてあげたのだから」

 

「ザビニの母ちゃんみてぇなことしてるぜコイツ」

 

 生命保険でがっぽり、という生き方をしていた女がココにも一人居た。

 毎年同じなクリスマスのメニューを眺めながら、ベスはもくもくとソレを口に運ぶ。

 美味しくはない。

 でも、食べても死なない。

 腹も下さないし、臓器が溶けることもない。

 

 

 その事実を確認すると――不思議と目から涙がぽろぽろと零れ落ちるのだった。

 

 

 

「うっ……うぅっ……」

 

「お嬢様どうなされましたー!」

「あ、あらベス一体どうしちゃったのよぉ……? やだもう……ティニ―の料理がおいしすぎて?」

「違うの……違うの……! 食べても……大丈夫なお料理って……こんなに……こんなに……!」

「はい?」

「何言ってんだこいつ」

 

 ベスは泣きながら久しぶりの安全な食事を終えると、

 

 聞きたかった謎を叔母に尋ねてみることにした。

 屋敷下僕の入れてくれた紅茶を飲みながら暖炉の前でくつろいでいる叔母に問う。

 

 

「ねぇ、叔母さん。『魔女狩り』って何?」

「あら? 知らないの?」

「知らね」

「あらー……最近は……やらないのかしらねぇ……? 魔法省の教育指導要領改訂のせいかしらーー? ゆとり世代って怖いわーー」

「いいから吐け」

「もう……ベス。女の子は急かしちゃダメよぉ?」

 

 

 コーデリアはソーサーにカップをカチャリ、と置いた。

 

 

 

「昔昔……具体的に言うと15世紀ぐらい。マグルのカス共が『人狩いこうぜ!』とか言い出したことがきっかけでした。何でかは良く分からん。けどそれ以前も迫害っぽいあったらしいし、単純にキモイからじゃない?

 魔女裁判はことあるごとに続けられ、戦争勃発だーペスト流行だー宗教対立だーがある度に、『じゃあ取りあえず魔法族殺すか』って感じでありました。

 

 

 まぁ趣旨は今と大して変わらないわ。『自分以外は全て敵、だから敵をぶっ殺せ』的な発想ね」

 

 

「……歴史は……繰り返されるのね……」

「そうよ、何時の時代も巡り巡って繰り返されるのよ」

 

 ベスは今のホグワーツを思い浮かべた。

 

 

「とは言っても……魔法界に全く打撃がなかった訳じゃないわ。いくつか親マグル寄りだった純血の一族がそれで密告されていくつも滅びた」

 

「は? 何言ってるのよ叔母さん。いくら血を裏切るカスとはいえ……伝統的にして英邁なる純血の誇り高き魔法族がマグル共に……引けをとる訳ないでしょう?」

 

「ベス。いいこと? 覚えておきなさいな。油をまいて就寝中に屋敷に火をつける。攫って監禁して杖を取り上げて自白するまで拷問のフルコース。食事にこっそり毒を盛る。子供を人質に同族を裏切らせて粛清させ、その子供を洗脳して刺客として魔女狩り専門の魔法使いとして育成する……その気になれば、本気で頭を使えば、方法なんていくらでもあるわ」

 

 

「マジかよやっぱマグルってカスだな」

 

「……」

 

 コーデリアは話を続行。

 

 

「そんな感じで中には永遠にい失われてしまった『血統魔法』もあるわ。私の若い頃なんかは結構そうゆうこと勉強したし、雑誌や本にもそうゆう話がよく載っていたものだけれど……」

 

「血統魔法って何」

 

「あぁ、ベスにはまだ言ってなかったっけ。

 あなたの大好きな『純血主義』を支える一つの支柱ともいうべきモノよ。血統魔法というのは『ある一族』の血に宿る魔法だと思ってくれればいいわ。

 血液型みたいなものよ。A型とA型が結婚すれば子供は高確率でA型でしょう?」

 

「Oもあるけど」

 

「そうね。この場合はA型が正解で血統魔法が出てくる、けどO型はカスね。出てこない。こんな感じよ。その『血統魔法』を保存するためという考え方があって、それが『純血主義』を支えている一因になるの。そこには人間らしい愛情もなければ純血を守ることへの誇りもない、あるのはただ、種の保存という義務感と綿密に計算された遺伝子的な合理主義だけよ」

 

「人間とは何だったのか」

 

「永久に謎だわ。血統魔法には『七変化』とか『パーセルマウス』とかあるわね。ちなみに、ウチの家も、『魔法生物使役』系の血統魔法を持っているのよ? 私も私の母も祖母も、ぶっちゃけ一族皆あったらしいわ。私は偶々派手なドラゴン使役」

 

「……ねぇ、それ、ママも?」

 

 コーデリアの指先がびくっと震える。

 常に優雅な叔母らしくない、僅かな動揺を察したベスは顔を曇らせる。

 やがて、一息入れたコーデリアは、柔和な微笑を浮かべた。

 

「……えぇ、姉さんも持ってたわ。とても凄いのをね。ベスはまだ子供だから何時出るか分からないけど……。きっと大丈夫よ。

 だって……姉さんと彼の……二人の子なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 ホグワーツ、マートルのトイレ。

 

 

「それじゃあ、始めたいと思います。第一回ポリジュースヤク試飲大会です」

「「わーーーーーー!」」パチパチパチパチ

「僕はクラッブ汁です」

「僕はゴイルエキスです。ところでハーマイオニー? 君のは誰なんだい? まさかあのスリザリンの便所娘スーパーレイシストでもあるクズのサラブレッドかい?」

「あんなクズに化ける位なら腹掻っ捌いて死ぬわ」

「だからベスはそんなに悪い子じゃないよ。少なくともマルフォイよっかマシだと思う」

『それ以上私の親友の悪口言ったら赤毛と栗毛、テメーら三途の川クルージングに直葬するわよ、純血万歳』

「「黙ります」」

 

「で、本当に誰なんだい?」

「ノット」

 

「…………は?」

 

 

「セオドール・ノット、決闘大会で戦った時ローブに髪の毛がついてたのよ」

 

 

「……」

「……」

 

 ハリーと、ロンは思った。

 

 

(嘘だ! あんな超絶火力バトル……爆発と炎迸る屋内キャンプファイヤーで髪の毛なんかつくわけねーだろ……! このアマ、ボンバーヘッドなのは髪型だけじゃないのか? 脳までボンバーなのか?)

 

(人間の髪は150度で変熱、250度で炭化する……! 確実に燃え尽きる……! だめだ! このままじゃハーマイオニーが! 炭人形になる!!)

 

 

(つかアイツは今大広間の照明だろ!! そんなんアホのマルフォイだって気づくわ!!)

 

 

 

「いいから飲むわよ」

 

「あ」

「あ」

 

 

 ハーマイオニーは飲むとすぐに個室に駆け込み、便器を破壊した。

 ガッシャァアアン! という音が響き渡る。

 

 

「クラッブです」

「ゴイルです」

「私行けそうにないわ。二人で行っといて」

「「ですよねーー!」」

「分かった。じゃ行くぞ」

 

 

 

 

「なぁフォイカス。君スリザリンの継承者って誰か知らないのかい?」

「だから知らないって! 前穢れた血が一匹死んだってコトしか知らないフォイ。というかどうしたお前ら? 今日はよく喋るな……」

「はいカスwww帰ります」

「死ね無能! 帰ります」

「クラッブ!? ゴイル!? どうしたんだフォイ!?」

 

 

 

 

「聞いてきました。マルフォイじゃありません」

「ハーマイオニー? もう終わったよー僕たちの冒険もここで終わりだよーーハーマイオ……」

 

 

 

 ハーマイオニーが入ったハズの個室の上には、何故かスポットライトが存在していた。

 その上にはふわふわと漂うマートル。

 

 だが、そのマートルにはいつもの嘆きっぷりはない。

 むしろ輝いている。眼鏡も今だけは星型眼鏡だ。

 マイクを握りしめたマートルが大音量で叫ぶ。

 

 

 

『レディースエーンジェントルメーーン!』

「お、おう」

「なんだこれ」

 

 

 かつてないほど、ハイテンションだったりした。

 

 

 

『祝! 第一回ホグワーツ仮装大賞~~!』

 

 パフパフハッフルパフー! という音響。

 今回どこからか駆けつけたのか、シャンデリアと化したハズのトロールも石天井をぶっ壊し、大広間横のトイレから参加してきたようだ。いつになく亀甲縛りの結び目もキレキレである。

 ぱちぱちと、なんのためらいもない拍手を送っていやがった。

 

 

 

『魔法学校の威信をかけて、変幻自在の能力を操り、生徒たちが様々なモノに仮装するというこのガチ企画。ある者は日ごろより変身術を磨き、またあるものは薬品をひと月掛けて煮込む。

 その努力の結晶が今、実る時。各自奮闘を期待しましょう!』

 

 

 

「何この振り……」

「嫌な予感がががが」

 

『えー……それでは拍手でお出迎え下さいーー』

 

 マートルの声と共に、扉が開いた。

 

 

 

 

 

『エントリー! ナンバーー! ワン!! 

 ポリジュース薬で猫に変身! ニャーマイオニーー・グレンジャーーさんでーーーーーす!!』

 

 

 

 

 

「どうも、ニャーマイオニーです」

 

「は!?」

「……」

 

「あの毛……猫の毛だったの……。しかも……」

 

「あ、ああ僕もそれ思った……」

「み、みみ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ミセス・ノリス!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーマイオニーの顔面は。

 石になったはずの猫。

 

 ミセス・ノリスにクリソツだった――――。

 

 

「リアル猫ちゃんですにゃー。もう……これでロックハート先生に襲撃かましますにゃー」

「やめるんだハーミャイオニー!!」

 

 

『ご覧下さい! 実に精巧です! ご覧ください審査員の初代シャンデリア=トロールさん! 尻尾まで完全にコピーするというこの完成度! これはポイントが高い!』

 

『ゴアァーーーー!』(毛玉も吐くと言う特別仕様ですよ、まったく芸が細かいことですね!)

 

 

『これは一般審査員にも審査して頂きましょう!! みーーーなぁさぁああああーーーん! ホグワーツにお残りのみーーーなーーーさーーーん!! 世にも珍しい猫面娘ですよーーーーー!! ヒャハアアアアアア!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。スリザリンの談話室。

 

 水槽越しに一人イカを眺めていたマルフォイは、衝撃を目にする。

 

「フォイ……?」

 

 渦巻く水流。

 まるで水中トルネードの如く、何かが形成されつつあるのをマルフォイは感じた。

 数秒後。

 

 

 

「ミセス・ノリスゥウウウウウウウウウウウウ!!」

 

 

「フォオオオオオオオオオオオオオオイ!?」

 

 

 

 逆巻く水柱を上げながら凄まじい勢いでホグワーツのてっぺんのさらに上、空中にまで達する人影。

 暗く冷たい湖の底から、それは大地を蹴り上げ。

 再浮上を成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「管理人フィルチ」さんは蘇りました。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。