少女はお辞儀することにした   作:ウンバボ族の強襲

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とある魔法界の禁書棚

 じめっとした部屋だった。

 

 蛇の絡み合う彫刻を施した柱。中央には無限に流れる清らかな水流。

 緑を基調とした部屋であり、地下にあるため夏は涼しく、冬は暖かいという過ごしやすい場所。

 

 そもそも地下にあるという時点で子供たちには大好評だった。

 

 今日もわいわいがやがやと授業が続く。

 

 だが、教師である男が語り出すと、その場はしん、と静まりかえった。

 

 

「古来、魔法使いがまだ『表』の世界に干渉していた時分、『魔法生物』は時には魔法族側の武器――『兵器』として使われることも多くあった。その多くは魔法界と断絶することを王家が決めた機に歴史から葬りさられたが……諸君たちも知っての通りだ。多くは『昔話』や『英雄伝説』または『神話』として語り継がれている。分かる者は居るか?」

 

 金髪の少女が手を上げる。

 

「はーーい! どらごんーー! おかぁさまがいってたーー!」

「正解だ。他にも知っている者は?」

「えーっと……サラマンダー?」

「天馬ーー!」

「サラマンダーは軍用として非常に有用だ、だが意外なことに軍計ではなく、主に後方支援の方で使用されることの方が多かった。火を起こしたいときや灯りが欲しい時などだ。また、その血は非常に強力な回復薬を合成できる。生き血でも効果がある。天馬系は系統が多いが……空中機動力に魔法戦士が足されれば強い騎士となっただろう。あとは『死』を見たことがある者しか見えぬ馬セスト――」

 

 そこまで言って男は、はっと何かに気付く。

 慌てて取ってつけて、説明を強制終了させた。

 

「……ともかく、魔法生物の軍用利用は古来から存在したと理解してほしい」

「「「そーですね!」」」

「無論これらは許されることではない。故に諸君らに期待するのはこれらの事を二度と――」

 

 その時。

 

 バキバキバキィと何かを食い破る音が響いた。

 

 

「……」

「……」

 

 

 

 男も、生徒たちも察する。

 

 

「退避ーーーーーーーー! 全員退避ーーーーーーーー!!」

「「「うわあああああ!!」」」

 

 急に石壁を粉砕し、ぬるっと巨体が現れた。

 

 

 

 

 

『シューーー! シューーーー!』(お腹減ったーー!)

 

 

 

 

 

「皆! 目を見るなーー! 死ぬぞーーーー!」「アイマスク装着! アイマスク装着!」「どうしてもって時は水を通して間接的に見るんだーー!」

 

『シュ――――っ!』(ファ●チキ食べたいーーーー!)

 

「KOEEEEE!! 蛇KOEEEEEEE!」「あーーー! 先生!! 先生!」

「どっかその辺にヤク転がってるから持って来い!!」

 

『シューーーーーーーーーーー!』(ファ●チキーーーー!)

 

「分かった落ち着け!! よし、よーしよしよしよしファ●チキだぞよーしよしよし……」ナデナデ

 

『シュ―――――!』(ウマァーーーー!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アグレッシブにハッスルパフですわ!」

「おかぁさまーー? せんせーなんでおくちしゅーしゅーいってるのーー?」

「見てはなりません。アレは頭がちょっとアレな人なのです。水を通して間接的に見るのです」

「言ってろ貴様等」

『シュ―――?』(粛清かーーー?)

 

 

 

 さらに上から全く意味のない大爆発。

 

 

 

「ハーッハハハハハァ! 呼ばれて飛び出て騎士道ーーーーーッ!! 俺様降臨!! 俺様爆誕!!

 どっかの馬鹿がまーた城にデカ蛇をけしかけたんだってーーーー!? 成敗しにきたぞぅーーー!」

「呼んでおらん!! 帰れ!! 貴様の元居た冥府に帰れ!!」

「うるせーーー根暗蛇ヤローーーー! 巣穴にこもってクサクサしやがってーー! マジで暗れーなこの陰険ヒッキーwww」

「その自慢のクソ赤毛燃やし尽くされたいか歌馬鹿が」

「今日もホグワーツは深刻な平常運転ですわ!」

「おなかへった」

「娘がぐずってるので帰ります」

「あぁ、それなら今、台所に丁度スコーン(炭)を焼きましたわ。皆様で食べましょう! 蛇さんにもスコーンですわ」

『シュ――――? シュ―――?』(なんだそれ食えんのーーー? うまいのーー?)

『シュー……シュシュ』(私にも分からぬ……食ってみれば?)

 

 

 

 

 

 今でも思い出す。

 

 

 

 あの懐かしくも、温かい――――幸せだった頃の記憶を。

 

 

 

 今でも鮮明に覚えている。

 

 

 

 

 もう二度と帰らぬ――永久に失われてしまった時間を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禁書棚。

 

 ロックハート様に許可をもらったベスは闇の魔術の研究の為悪用せん、とベスは書庫を漁りまくっていた。

 色々な本が沢山あった。

 人間の皮で出来てんじゃねコレみたいな本とか、毒液が滴っている本とか。スープの夢とか訳わからん本とか。

 その中でベスは何か数冊おかしなものが有ることに気付く。

 

 かなり古びた本や、いかにも紙が貴重だった昔の本らしくいかにも重そうでかつ分厚い豪華な本。あるいは魔術が込められている感満載の本たちの中に、『普通』の本が紛れ込んでいるのだ。 

 そう、まるで。

 

 マグルが読むような全く無害で、字も挿絵も踊らないような本が。

 

 

 

『エディンバラ魔女裁判記録』

『中世魔法族狩りの歴史』

『英国カトリック:異端審問記録 1556年 ロンドン』

 

 

 

 

 

「……なんだこれ?」

 

 ベスは異端審問とは何か知らなかった。

 そもそも何でこんなものが『禁書』扱いされているのか分からなかった。

 本を開ければ何か分かるか、と思いページをめくる。

 

 そこには、動く絵も、浮き上がっては消える文字も無かった。

 

 ただ。

 

 

 古びたインクと古典でよく使われる装飾文字でおびただしい量の人命とその末路がぎっちりと記載されてあっただけだった。

 

 

 

 フィントリーのアグネス――15歳――魔女

 グラスゴーのエマ――6歳――魔女

 グラスゴーのトマス――10歳――魔女(この場合は男性だが便宜上魔女記載)

 エイドリーのカリス――22歳――尋問中に不慮の事故の為死亡。

 

 

 

 

「……は?」

 

 ベスには意味が分からなかった。

 

 

 これが『何』であるのかも。

 何故このようなモノが『ホグワーツ』にあるのかも。

 

 

 そして、それが『禁書』として扱われ――生徒の目に触れないのかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ね……死ね……みんな死ねばいいんだわ……穢れた血は皆死ねばいいんだわ……」

 

『お、落ち着くんだ……ココの所君少しペースが早すぎやしないかい? 焦ってはいけないと思うよ!』

 

「穢れた血なんか皆消えちゃえ……。皆消せばいいんだわ……ねぇそうでしょう?

 

 

 ねぇ、ねぇそうなんでしょう?? 私が『穢れた血』を全部ぶっ殺せばハリーは私のこと誉めてくれるんでしょう? ハリーは私のこと好きになってくれるんでしょうねぇそうなんでしょうねぇトムそうでしょう!!??」

 

 

『……お、おう……』

 

「じゃあいいんだわこれで……。

 

 さて、と。次はハーマイオニー噛むか。あそこ結構頭回るから後半残しておいて殴り合うのキツそうだし、それにそろそろ継承者と秘密の部屋の怪物ロックオンしそうだしね。

 ハリーがパーセルマウスだってことは、いいミスリードになったから皆そっちの方勘違いしてハリーを継承者認定しているけど賢い人は違うって分かる。

 で、ハーマイオニーは更に賢いから『気づく』。だからここ抜かないと。でも……問題は噛めるかどうか」

 

 

『少し雑すぎじゃないかい!? そこでそんな標的に間近な場所狙うのは危険すぎると思うんだけど!! 思うんだけど!! というか君ペース早すぎるんだけど!!』

 

 

「インセンディ――」

 

 

『完璧な采配です素晴らしいです君こそけいしょうしゃだよー! 継承者様ばんざーーい(白目)』

 

 

「ねぇ、トム……この間やってあげた……あぶり出しが効いてないのかなぁ? それともお水に浸けてあげた方が楽しかったぁぁあ? うふふふふふ。うふふふふふふふふふwww

 ねぇトム……次やったら私言ったよね? あなたのページを一寸刻みにゆっくり、ゆっくり時間をかけてきざんであげるって言ったよね?? 聞いてなかった……?」

 

 

『やめて(怯え)』

 

 

 

「じゃ黙ってて。でもクリスマス期間は噛めないから、やるんだったら明けてからだよね! かーえろっ♪

 

 ……あー穢れた血うぜーー。隕石とか落っこちてきて地殻津波とかおきて全滅しないかなーー」

 

 

 

『……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぜ……なぜ……こんなことに……こんな……こんな……っ!』

 

 

 

 

 

『僕は……僕は……』

 

 

 

 

 

 

『子供をあやし付けるつもりで……トンデモナイ奴を…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『覚醒させてしまったのかもしれない………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お腹痛い……』

 

 






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