オーバーロード ワン・モア・デイ   作:0kcal

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Instability

 アインズはやって来たエイトエッジ・アサシンの部隊に、村の周辺に別行動の騎士たちを発見したら報告を、ただし数名ほどの少人数であれば捕縛しておけと指示をだす。

 

「はっ、承知いたしました」

 

 おそらく隊長格のエイトエッジ・アサシンなのだろう。一体が一歩前に出てこちらに礼をすると、頭をわずかに横に動かし――そのまま部隊を率いて出立した。

 

(さて……)

 

 アインズは、先程エイトエッジ・アサシンが頭をわずかに動かした先にある黒い塊を見て、どうしたものかと思い悩む。一見“黒曜石の突撃甲虫(オブシダント・アサルトビートル)”が威嚇しているようにも見えるそれは、土下座したまま動かないアルベドである。先程の隊長エイトエッジ・アサシンは当然気づいて一瞥したのだろうが、スルースキルを発動させることにしたのか全く触れずに出立した。よく出来ている、いっそ名前でも付けるか。

 

 ちなみに“黒曜石の突撃甲虫”は、ヘルヘイムのある洞窟ダンジョンにしか生息しないマイナーなモンスターだ。黒曜石の名を冠する魔法や装備の強化が可能なデータクリスタルという、非常にニッチなアイテムをドロップする。珍しい特性がありマイナー故そのことを知らなかったアインズ達はひどい目にあったのだが……まあそれは今思い出すことでもない。

 

 約束した手前、早急にカルネ村に向かわなければならないが、座り込んで泣いているアルベドを置いていく訳にもいかない。そこでアインズはエモット姉妹に先程のデス・ナイトは自分の使役モンスターであることとアルベドが自分の従者であることを伝え、姉妹を攻撃したのが誤解であるが、と前置きした上で詫びた後、アルベドを立ち上がらせ「黙るのだアルベド、ここを離れるぞ」と耳打ちし、沈黙したアルベドの手を引いて行動を促した。その後はとぼとぼと後をついてくるのを確認しつつ、カルネ村まであと少しの場所に来たわけなのだが……

 

(ここまで来たら、突然土下座して“モモンガ様のお慈悲をもって私の首をお刎ね下さい”だもの)

 

 本当はもっと長く何かを言っていたのだが、フルフェイスの兜をかぶって泣きながら喋っていたため、最後のその部分しか聞き取れなかった。無論、アインズにその言葉を聞き届ける気はない。

 

 自分がエモット姉妹を守ったことで、アルベドは保護対象を攻撃というミスをしたと思ってるのかもしれないが、それは段取りが狂って焦ってあの場を離れ、アルベドに情報を渡さなかったアインズが全部悪い。そもそもアルベドが、自分の開いた転移門から出てくることを思い出すだけでも防げた事故だ。

 

 しかしどう声をかけていいのか咄嗟に言葉が出ず困っていたところ、エイトエッジ・アサシンの部隊が到着したことで冷静さを取り戻したわけだが……と考えたところでアインズの頭にある場面が思い浮かんだ。この流れで進めてみよう。

 

「アルベド、頭を上げよ」

 

 僅かにピクン!と動いたが、やはりアルベドはその体勢を保持したままだ。アインズはアルベドに近づき、膝をついて肩に手を置きもう一度声をかける。

 

「……アルベドよ、頭を上げてくれぬか?」

 

 肩に手を置かれたことで、アルベドがようやく顔を上げる、と言ってもフルフェイスの兜をかぶっているためその表情を見ることはできない。

 

「ぼっぼぼんがざばぁ……」

 

 おそらくモモンガ様と言ったのだろうが未だ泣いていたのか、全く発音できていない。兜の隙間から液体……粘液が垂れているがかまわず、アインズは言葉をつづける。

 

「アルベド、先程の件は私の失態だ……些か不測の事態があったとはいえ、お前に情報を伝達することもせず転移門より離れて行動してしまった。全ては私の責。お前が気に病むようなことは何もない」

「ぞんな!モモンガ様に責など微塵もございません、わっ私が己の狭い見識で行動し………もっモモンガ様の創造なされたシモベに愚かにもこっ攻撃を……」

 

 え?そこ?とアインズは虚を突かれたが、この頃のアルベドを含むナザリックのほとんどの面々は、人間をゴミ虫とすら思っていなかったことを再認識する。前回の終盤では人間であっても、それなりの利用方法や価値があり人格を認めているように守護者達も変化していたため、失念していたようだ。

 

(己の記憶に残っていることは、細かい――くだらないことまで対策をとっていたというのに……糞、いまだに前回との認識ずれが修正できてないとはな)

 

「しっ……しかも私のせいでモモンガ様がム、下等生物にしゃっ謝罪されるなどと!……お願いいたします。私に存在する価値はありません、慈悲をもって断罪を……」

 

 アインズが自分の思考に意識を持っていかれていた間にも、アルベドの告解は続いている。自分の予想と謝罪内容はずいぶん違うが、先程考えた流れどおりに言葉を進めることにする。

 

「アルベド」

 

 なるべく重々しい口調でアルベドの名を呼ぶとはっ、とした雰囲気でアルベドがこちらを見た。

 

「ナザリック大墳墓の主、お前達の支配者たるこの私がお前に罪も責もないと、そう言ったのだ。アルベド、私の言葉ではお前の涙を止めることは出来ぬのか?」

 

「そんなことはございません!……勿体なき、本当に勿体なきお言葉です。ですが、モモンガ様のシモベを攻撃したという事は至高の御身に弓を引いたも同じ。そう思うと私はっ……」

 

 やはりか。アインズが先ほど思い出したのはシャルティアの一件。いくら自分が許すと言っても、失態を演じたと思っている守護者達は、自責をやめることはないのだ。ならばこう言うしかない。

 

「……ならばアルベドよ、お前に罰を与える。だがそれは今ではない」

 

 アルベドの眼をまっすぐに見て、肩に乗った手に力を籠め、少し引き寄せる。

 

「アルベド、状況を顧みるのだ。今、我々ナザリックは危急存亡の事態のただ中にある。この状況で、守護者統括であるお前をこんなことで――たとえお前が私のシモベでなく、私自身に傷を与えたのだとしても失うわけにはいかぬ。ナザリックには、私にはお前が必要なのだ。わかるな」

 

「……」

 

 アルベドが沈黙する。ひっくひっくという泣き声その他異音も聞こえなくなったので、平静を取り戻したのだと思うが……これはもう一押しが必要なのだろうか。

 

「私が……モモンガ様に……」

 

「そうだアルベド。私には、お前が、必要だ」

 

 言葉を切って、強調して話しかけると、アルベドの眼に光がともる。フルフェイスの兜越しに光が見えるのを、そう表現していいならではあるが。それを見て、アインズはアルベドが立ち直ったかな?と考え姿勢を正す。程なく何かを呟きつつアルベドも立ち上がり、アインズに礼をとった。

 

「醜態をさらしました。守護者統括としてあるまじき振舞、沙汰があるまでは職務の遂行によって汚名を雪がせていただきます」

 

 アインズはその言葉を聞き、自身のミスによって起こった不測の事態の収拾が出来たことで胸をなでおろす。その安堵の雰囲気がアルベドにも伝わったのか礼を解いた。兜によって見えないが、今は守護者統括として仕事をしているときの顔になっているだろう。

 

「さて……ではアインズ・ウール・ゴウンが悪逆非道のならず者から、無辜の民を救いに行くとしようか」

 

 アインズがカルネ村に向かって歩を進めようと踵を返したところで、角笛の音が村から聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「お前たちの内2人を残して……そうだな、お前とお前は動くな……二度とこの周辺に近づくな、さもなくば貴様たちの故郷に死を撒くと飼い主に伝えろ……ゆけ」

 

「はひぃ!わかりました!」

 

 ゆけ、と言われた生き残った騎士たちは命が助かった喜びを顔に浮かべたあと、一目散に走りだした。残された2人は今にも死にそうな顔をしているが知ったことではない。万が一、逃げだしたところを殺してしまわぬように2人の頭を掴むようデス・ナイトの命令を変更する。

 

(お前たちの方がおそらくはラッキーなんだぞ?今回はガゼフとある程度関係を強めないといけないし、手土産は多い方がいいだろうからな)

 

 前回逃がした騎士を今回2人残したのは、これからやってくるであろうガゼフ・ストロノーフに引き渡すためである。そして逃がした者どもは1~2人を残して捕縛するように指示は出してある、それに比べれば彼らは幸運であろう。前回と違い命令を殺せではなく逃がすな、にしたことで倍以上残っているからこそとれた手段だ。

 

 前回、ガゼフとは残念ながらああいった形で決別することになった。後々そしてここに来る前も考えていたが、やはり敗因は関係性の希薄さだったのではないかとアインズは考えたのだ。いくら命を救われたとはいえ、半年以上一回も会うことのなかった相手、しかも戦場で敵同士の脅迫めいた状況で“部下になって”といわれてYESと返答できるだろうか?答えは否であろう。

 自身の知識にもあった筈なのに、ヘッドハンティングの手順というものをすっ飛ばしすぎた。親交を深め、相手の現状の不満点や目指す目標をリサーチ、そして雇用条件であれ今後の展望であれ、相手にとって有益かつ魅力ある条件を提示し勧誘するのが基本。それまでの人材勧誘が拍子抜けするほど上手く行ってたがために、やや安易に考えていた部分があったことは否定できない。

 

(なので、まずはステップ1)

 

 まずは親交を深めるための手をうっていくことにする。ガゼフは村々の襲撃が法国の仕業であると看破していたし装備も持ち帰っていたから、今回生きている騎士を渡したところで王国の結論は変らないだろう。だがガゼフの手柄として考えた場合、大きく上昇するのは間違いない。こちらが売れる恩の量はそれに伴って上昇するだろう。前回騎士を全員逃がしたことで、村人から不満がでたこともある。アインズはこちらを呆然と見ている村人たちに向き直り、声をかける。

 

 

「さて、あなた方はもう安全だ、私はアインズ・ウール・ゴウン。通りがかった森で姉妹が暴漢に襲われていたのを助けたところ、この村も救ってほしいと依頼された魔法詠唱者だ……ところで、報酬はいかほど頂けるのかな?」

 

 

 騎士はデス・ナイトが頭を握った状態で武装解除及び拘束を施した。ただ、このままでは復讐心で村人が袋叩きにして殺しかねないので――人の心が失われかけていてもそれぐらいはわかる――村で拘留して役人に突き出すことを提案する。そうすれば村にもなにか役人から褒賞のようなものがもらえるかもしれないし、事件の原因が判明することで事件の再発が防げるかもしれないという説明を聞いて、少なくとも村長や大部分の村人は納得したようだ。拘留が長期になれば村人の誰かが何かのきっかけで復讐を行うかもしれないが、ガゼフがこの村を去るまでなら流石に持つであろう。

 

「デス・ナイト、そいつらを押さえておけ……逃げようとしたら潰してかまわん」

 

 ことさら聞こえるようにデス・ナイトに指示を出してから、村長たちの家であらためて自分が森の中で襲われていた姉妹に出会った事、村が襲われていると助けを求められたこと、自分は北の地で研究を続けていた永き時を経た魔法詠唱者で、現代の情勢に疎い為いろいろと教えてほしい事など前回同様の事を伝え、協力を求める。ただちょっと違うのは

 

「それでは報酬は銀貨50枚分と……残りは頂く情報、村の方々が私に関することを外部に話さない事、最後に私がこの村に居を構える、といっても実際に住むわけではありませんが……許可を頂けるということでよろしいでしょうか」

 

「ゴウン様はこの村の恩人でございます。お断りする筈がございません。この騒ぎで空き屋になる家もありますでしょうし、ご提供させていただきます。しかし、なぜ貴方様ほどの方がこんな、私が言うのもなんですが何もない村に?」

 

 まあ、そう思うよなあ、とアインズはあらかじめ用意しておいた答えを返す。

 

「先程お話しした通り私はここより北の地で研究を行っております、そして多少距離はあるとはいえこの村が一番近い人里です……今後自分が知らぬ街で旅をするにしても、そこで知己を作るにしても、何かを運んでもらうにしても連絡先としてこの村を使わせて頂く方が良いと思ったのですよ」

 

「なるほど……わかりました。村の恩人にご説明を求めて申し訳ありません」

 

「いえいえ」

 

 これもガゼフ関連の一手である。前回、自分は旅の魔法詠唱者と名乗りこの村もすぐに後にすると言ったために、彼は前回王都に来れば歓迎し出来る限りの御礼をすると言っていた。しかし結局王都には冒険者モモンとしてしか立ち寄れず、アインズとしてガゼフに会うことはなかったため、接点が無かった。

 

 だが自分がこの村を窓口にすると話せば、相互にアプローチがとりやすいだろうと考えたのだ。どうせカルネ村は今後ンフィーリア・リィジーを招きいれ、ナザリックの出張所と言ってもいい程様々な手を入れていた場所。自分と連絡をとるための窓口にするにはまさにうってつけと言える。念のため貨幣価値などの確認も行い、ついでに少々のお願い事をしつつも予定通りの手順を終えたアインズは葬儀にいく村長と共に家を出た。

 

 村人が葬儀を行ってるのを眺めてる間に、アルベドがこの村周辺は完全に包囲したことを伝えてきたので、それに伴い新たな指示をいくつか出していると村長がこちらにやってくるのが見えた。

 

「ゴウン様、やはり空き屋がいくつかでましたので案内いたします、お好きな場所をお使いください」

 

「わかりました」

 

 村長に連れられ、アルベドを引き連れて村の中を歩く。村の中は正に襲撃を受けた集落といった有様で死体は片づけられていたものの、地面や建物に血の跡が残る。蹴破られた扉や壊された窓がまた痛々しい。村長に案内された空き屋は多少損傷があるものの充分に住居として使用可能なものだったが、ある考えがあったアインズは適当に理由をつけて1つ2つと断っていく。やがてエモット家の近くまで来たところで村長に話しかけた。

 

「私が助けた姉妹の両親は亡くなられたと聞きましたが、彼女たちはどうなるのでしょうか」

 

「……生き残った村人は皆助け合って生きていかねばなりません、村の一員として必要な事をしてもらうでしょうな」

 

 すぐに返答がなかったことと、村長の言葉の曖昧な内容にアインズは自分の予想が正しかったと知る。あの角笛によってゴブリンを召喚したから、あの姉妹は村に置いてもらえていたのだろう。アインズは前回この世界にも奴隷制度があること、奴隷になる者の経緯を知った時にエモット姉妹の事がふと浮かんだのだ。もしゴブリンを呼び出さなければあの姉妹は王国……は奴隷制度を表向き廃止しているから、帝国などに売られていた可能性すらある。何もせずとも自分が村に居を構えると言った事、あの角笛がある限りは大丈夫だと思うが、念のため補強しておくこととしよう。

 

「こちらの家も空き屋になります、あとその向かいの家で最後でございます」

 

 村長がエモット家の隣の家と、更にその向かいに当たる家を示す。アインズは考えるそぶりを見せた後で口を開いた。

 

「先ほどお話しした通り、私は村に実際に住むわけではありません。下手をすれば年に数回立ち寄るだけとなるかも知れない。となれば私がいない間、家は誰かに管理をしてもらわなければならないでしょうな」

 

「それは……」

 

 村長はアインズの言いたいことをすぐに察したようだ。

 

「管理をして頂くわけですから、管理費として報酬はお支払いする事になるでしょう。村長、適当な誰かに管理をして頂けるようお願いできますか?」

 

「はい……ゴウン様、ありがとうございます」

 

 これでよし。村長とて生き残った姉妹をそのように扱うことは避けたいはずだが、村長という責任ある立場だと苦渋の決断をする必要もあると覚悟をしていたのだろう。ほぼ杞憂ではあるのだが村長には、いやアインズ以外の世界の誰にもそうとはわからないのだ。また、この3日間でさんざん身をもって知ったことではあるが、やはり自分では前回をなぞっていると思って行動していても、記憶の欠落――これは忘れているという意味だが――や修正の影響でやはり起こる出来事にズレが生じている。自分の関わった部分では、更に修正を加えて念を入れる必要がある。ところで、この村長の名は何と言ったか。

 

「では、こちらの家を使わせていただくことにしましょう。中を見ても?」

 

 エモット家の隣の家ではなく、その向かいの家を指定する。確かルプスレギナからのなぜか鼻息の荒かった報告では、この隣の家はバレアレ家予定地。それで何かが変わることもないだろうが、それこそ念のためだ。内見の許可をもらったあと、村長が他の用事のために去っていったのを見て、アインズは建物の中に入る。

 

「ふむ、まあ血の跡もないしきれいなものだな」

 

 ぐるり、と中を見回す。村長の家をワンランク落としたような印象の家だ。厳しい開拓村の家とあって調度品はなく、実用品も最低限しかないようだが実際に住むわけではない以上、気にすることでもない。アインズが地下倉庫の入り口を確認していたところで、立ち直ってから今まで必要最低限の事しか発言せず黙々と後をついてきていたアルベドから声をかけられる。

 

「モモンガ様、ご質問をお許しください……先程からモモンガ様はム……人間達にアインズ・ウール・ゴウンと名乗ってらっしゃいますが、如何なる意図を持っての事なのでしょうか」

 

 アルベドに発言の許可をしぐさで与え、内容を聞いたアインズは自身が再びアルベドに情報を与え損ねたことに気が付く。ムシケラを人間達と言い直しているのは村人に聞かれた場合面倒なことになるので、先程墓地で人間のいる場所では人間を下等生物と呼ぶなと指示したからだが、やはり思考や認識の死角というのはそこかしこに転がっているものらしい。

 

「まずは勝手にギルドの名を名乗ったことを詫びよう……私は今後アインズ・ウール・ゴウンと名乗ることにした。ある目的を達成するまではな」

 

 その瞬間剣呑な光が兜の隙間から漏れ出たが、戦士職をとっていないアインズは気が付かない。

 

「アインズ・ウール・ゴウン様」

 

「アインズでよいぞ、アルベド」

 

 くふっと兜から感情の乗った音がする。今度はアインズは気が付き、前回の記憶がざらっと流れ出た。即座にこの後の展開を修正する。

 

「今後はナザリック全ての者より、アインズ・ウール・ゴウン、アインズと呼んでもらうこととする、これは私直々に皆を集めて発表することにしよう」

 

「……はい、アインズ様。もう一つご質問をして宜しいでしょうか」

 

 アインズは再び先を促すしぐさをする。しかし、先程と違ってアルベドが先を話そうとしない。手を口元に当て、なにか呟きつつ逡巡しているような空気を感じる。

 

「?……アルベド、質問とは何だ」

 

「は……はい、あの……その」

 

 アルベドが再び逡巡するような言動と態度をとったことに、アインズは苛立ちを感じた。が、その感情は続く質問によって吹き飛ばされる。

 

「あっアインズ様にとって、あの人間のこむしゅめ共は何なのでしょうか!!」

 

「はぁ?」

 

 アルベドが何を聞きたいのかよくわからないが、アインズは自分なりに質問の内容を検討して返答する。

 

「先ほどの件であれば村人に私が徳の高い……ちょっと違うか、情が厚く慈悲深い存在というのを印象付けるために行った事なのだが」

 

「そういう意味ではありません!」

 

「はひっ……ゴホン、ならばどういう意味なのだアルベド、わかるように説明せよ」

 

 アルベドの迫力にはひっ、といいつつアインズは輝いた。光ったため冷静さを即座に取り戻したアインズは、至極当然のことを問う。

 

「あの小娘共は、アインズ様にとって特別な存在なのでしょうか!その……対象として!」

 

「おいおいおい、まてまてまて」

 

 ようやくアルベドの言いたい事を吞み込めたアインズは、自身の潔白を証明するためにゆっくりとした口調で話しかける。こういう誤解を解くときに早口になってはいけない。

 

「いいか、よく聞くのだアルベド。あの姉妹はどうみても子供だ。しかもネムの方はどう見ても、アウラやマーレよりも年下だろう。そういう対象にはならん」

 

「……名前を!名前を憶えられてらっしゃるじゃないでしゅかあぁ!」

 

「あ」

 

 アインズは自分が豪快に地雷を踏みぬいたことを理解した。

 

 この後は理詰めで説得を試みたが「ですが!ペロロンチーノ様も日ごろ幼女最高!と!」とか「私は聞きました!タブラ・スマラグディナ様がかつて王族は10歳前後で結婚していたと!」とおもにギルドメンバーのせいで説得は難航した。

 最終的には「そんなことはあり得ぬ、これは我が名に懸けて真実だ」と場所が場所であるし説得を諦めて強引に上位者として黙らせたが、明らかに納得せずにいるのがまるわかりだったし、ぶつぶつと声が漏れ出てくるのがちょっと怖かった。カルネ村に来る前のあの殊勝な態度は何だったのだろう。

 

 また外に出たところで帰宅していたエンリと出会い、この家を使うこととなったと伝えた時にもエンリがなぜかネムをこちらからかばうような位置に立ったり、ちらちらとネムを時折見つつ、しっかりと手を握っているのに気が付いてがっつり疲れたりしたのだが、まあそれはどうでもいい話。

 

 アルベドがその間、ずっと黙っていたのもおそらくはどうでもいい話。




多数のご感想、お気に入り登録及び誤字報告ありがとうございます。修正もできてると思います。今後ともよろしくお願いいたします。厳しいご意見も頂いておりますが、それも糧として頑張りたいと思います。

ついたよカルネ村、そして次回ようやくガゼフさん。こんなに物語の進行が遅くていいのでしょうか。


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