鉄板屋『龍驤』プロトタイプ   作:モチセ

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もしもし、ウチです。完成したんか? はよ郵送してーな。
……息抜き延長ォオ!? 完成日時不明やってェエッェェ!?
そ、そんな、ウチは綺麗サッパリいなくなる宣言したんや!
戻るなんてかっこ悪いことできるわけないやろォォォ!!





05

「なんでや……」

 

 潮の香りが漂い、海の波音以外何も聞こえない場所。都会の喧騒もない素敵で静かな場所。

 簡単に言うと、海の上。

 

「なんでウチが海の上で営業せなアカンねやああああ!!」

「ウッセーリュッチ、サカナガ逃ゲル」

 

 鉄板屋『龍驤』。本日は海上で営業しています。

 

 

 

 

 

 

 発端は6時間前。レ級によるものだった。

 

「リュッチー、タライクベタラ」

「何言ってるか分からん」

「鱈ダヨ鱈、鱈釣リ行クカラツイテキテ」

「なんでウチなんや」

「ダッテ水陸両用屋台アルヤンカ」

「何で知ってるんや」

「ワレアオバ」

 

 鎮守府の近くに来ている焼き鳥屋台『せやかて』の店主が実は深海棲艦、しかもレ級であることを知っているのはウチと青葉くらい。電や空母はまだ気づいてないようや。

 そもそも青葉は、ウチから聞いた話を元に自分で調べてたどり着いただけで、ウチからもらすようなことはしない。した日には鎮守府が大混乱や。スリルあってたまんねぇとレ級は言うが、艦娘から見たら大迷惑や。

 

「ネーネーイーデショー? ジジィイネェカラ暇ナンダヨー」

「何があったんや」

「ギックリ」

「あぁ、そらしゃーないわ」

 

 ここで仕方ない、ついていってやるかと思ってしまったのが始まりかもしれない。

 後先考えず行動するもんやないな。

 

 

 

 

 

 

「で、ウチはここで営業してなんの旨みがあるんや」

「アタイノ仲間ガ来ル」

「旨みやないわ!」

「ソンナ! ワシトリュッチノナカダロウ!?」

「仲関係ないわ!」

「マーマーイイ奴等ダカラ大丈夫ダッテ」

 

 屋台の隣に隣接している漁船でレ級が鱈釣りをしている。

 今の時期は脂が乗ったのが釣れるらしく、稼ぎ時はいまだとか。ウチも好きやでこの時期。まぁ、夏以外やったら何でも好きなんやけど。

 

「釣れる?」

「マァマァ」

「そか」

 

 客が来るまで待つ以外やることないんやけど。ウチなにしたらええんや? そもそも海上で沖に出てるっちゅうのにこの屋台全然揺れんな。どうなってるんやろ。

 

 

 

「あれー、龍驤さん!」

 

 どこからかウチを呼ぶ声がする。が、海上には屋台と漁船だけ。他には何もいない。

 そもそも声がくぐもっている。と言うことは海の中か。

 

「お、その声は」

 

 ざばぁと海の中から顔を出したのはスク水の上にセーラーを来た少女。桃色の髪の毛を持つ鎮守府最強の潜水艦の艦娘。

 

「海の中からこんにちはー! ゴーヤだよ!」

 

 潜水艦伊58。またの名をソロオリョール略して「ソリョクルの達人」。

 

「ゴーヤじゃないの!?」

「いや、ゴーヤよりもオリョールのイメージはな」

「ひどいでち!」

 

 

 

 

 

 

 伊58。

 オリョールのやり過ぎで鎮守府よりもオリョールにいる時間が長くなってしまった潜水艦。まだ鎮守府が小さかった頃から資材を支えてきた影の功労者。

 あまりにも周りともレベルの差が大きいため、今も1人で延々とオリョールに生き続ける(誤字にあらず)。ウチが引退する1年前、バシー、オリョールに任意で出撃できる権利を貰った。それ以降、提督がもういい、休めッといっても休み(オリョールへ旅行)といった感じに出撃し続ける。

 ブラックとかではなく、本人はとても楽しい様子である。自慢できることは「この鎮守府はゴーヤが育てたでち」と誰にでも言えること。

 

 屋台にはゴーヤ、釣りをやめたレ級が席についている。

 

「珍しいね、龍驤さんが海上で営業するなんて」

「ウチも考えてなかったからね」

「アタシガヒッパッテキタ」

「そうなのでちか。えっと」

「レッチャント呼ビナ」

「了解でち。れっちゃんはなんでここに?」

「鱈」

「鱈って何でち」

「今時期ノ白身魚。捌キタテヲフライニスルト幸セニナレル。トイウコトデリュッチ」

「油は持ってへんで」

「残念ダッタナ、材料ト道具ハ全部アル。観念シナ」

「どうやって捌くんや」

「捌クノハ俺ノ包丁(スタンド)ダ!」

「スタンドやないやろ」

「モチノロンヨ」

「もしかしてこのために呼んだんか?」

「セヤナー」

「ゴーヤも食べてみたいでち!」

「捌イテクルカラ待ットレ」

 

 レ級から油なべと油を受け取り、屋台の鉄板と交換する。

 変形機構取り付けてあるらしいから揚げやすいように配置を変更してみる。なんかウチが想像するだけでガションガションいうとか。

 まぁ気づいたのは海上に浮かばせるときやったんだけど。屋台がウチの想像通りに変形した時点でな。

 

「すごいでち」

 

 気づいたときには既に変形を終え、揚げ物を作りやすい環境に変化していた。

 

「あとはレきゅ……れっちゃんを待つだけやな」

「そうだね! 楽しみでち!」

 

 

 

 

 

 

「……鉄板屋やないわ」

「イマサラ?」

 

 揚げたフライをつまみつつぼやく。

 今日の鉄板屋は鉄板料理ではなく、揚げ物を提供していた。

 

「次からはやらんからな」

「ナンデー?」

「鉄板屋やから鉄板料理のみや」

「お堅いことはいいから飲むでち」

「リュッチジョッキデー」

「ちょっち待ってなー」

 

 


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