鉄板屋『龍驤』プロトタイプ   作:モチセ

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 鎮守府の皆が異動して2日経った。

 残ったのは青葉と明石、それに伊58。一応ウチも、って感じやろか? 正式な所属にはなってへんみたいやけども。

 当時の様子は……そうやな、出発前に電ちゃんとか加賀とかその辺の常連が挨拶ついでにいろいろ買ってったで。ついでにタネのレシピも渡しておいた。放置しとったら赤城あたりが確実にしでかしそうやからな。

 最後に提督が来た。島風のツケ分を払いに来たらしいわ。ぱっと見でも諭吉さんが何人かおるんやけど。ウチはここまで食われてたんか。

 

「義手は大丈夫かね?」

「全然問題あらへんよ」

「本当にすまない」

「ええよええよ、不慮の事故やったんやから」

「しかし引退せざるを得ない状況を作ったのは私だ」

「それはあっちの勝手や。キミならまだしも、ウチが考える必要ないわ」

 

 ウチと明石と提督だけの秘密……まぁ青葉も掴んでそうやけど。本当の引退理由はウチの特別扱いにある。義手の存在だ。

 本来、四肢を欠損した艦娘は解体処分される。そもそも欠損自体が稀なケースではあるが、前例自体は今までにある。本来はウチもその道を通り、この場にいないはずなんやけど、それを勝手につなぎ止めたのは提督。感謝しとるで。

 でも、それを良く思わない連中もいるわけや。解体処分が常識やからな。一時期、提督がトチ狂ったんじゃないかって話もあった。

 そんなこんなで元凶と化したウチは鎮守府にいるわけにはいかんくてな。これが真実。他の理由は嘘ではないが、建前ってやつやな。明石はこれを知った上でどうにか復帰させようとしてたみたいやけどな。

 

「それはそうと明石がウチの店作るみたいやで。暇が出来たら顔出しや。歓迎したる」

「タダとは言わんのだな」

「10割引くらいはしたるで」

「それではタダと一緒ではないか」

「まぁ頑張ってや」

「言われなくても」

 

 

 

 

 そして現在。

 2日で建ってしまった鉄板屋「龍驤」本舗内にて。ウチ、青葉、伊58と、この鎮守府に残った面子が集合していた。明石はなんか用事があるらしい。

 

「では現場に復帰してくれるんですね?」

「訓練の面倒を見るだけや。戦場には立たんで」

「龍驤さんどっちに住むんですか?」

「こっちに住むわ。そんな市場と距離離れてへんしな。そや、引っ越し手伝い頼むわ」

「たいしょー! ビールひとつ頼むでち!」

「ちょっち待ってな」

「真っ昼間から飲むんですかゴーヤさん」

「夜にいけばいいでち」

「夜って……」

「あとゴーヤのことは新しい提督にはしばらく黙ってて欲しいでち。好きなタイミングでオリョクルにいけなくなっちゃう」

「夜な夜な勝手に増える資材」

「倉庫に入れずに明石に全部丸投げするよ」

「そこは資材倉庫にいれましょうよ」

「そういえば新提督はいつ頃来るんや」

 

 それを訊いた青葉がいきなり顔を青くさせた。何か重要な事を忘れていたのだろうか。

 

「あ、あの、皆さんに一つお伝えし忘れていたことがありまして」

「言ってみ」

「あ、はい、えっと、新提督ですが……」

「ちょっち落ち着け」

 

 目に見えて焦りだした青葉を落ち着かせつつ、青葉の言葉を待った。

 ようやく青葉が焦りを押さえ、口を開くと同時────

 

 

 

「おじゃましまーす」

「おじゃましまーす」

「おじゃましまーす」

「おじゃましまーす」

 

 鉄板屋『龍驤』の入口である引き戸をガラガラ鳴らしながら。

 四人の黒髪の艦娘が入ってきた。

 

「私は軽巡洋艦の北上様だよー」

 

 1人目は熊……球磨型軽巡洋艦の北上。

 

「私は重雷装巡洋艦の北上様だよー」

 

 2人目は……北上がさらに魚雷を搭載し、重雷装巡洋艦と化した北上改。

 

「同じく重雷装巡洋艦の北上様だよー」

 

 3人目は服の色が白くなった重雷装巡洋艦北上改二。

 そして4人目はどことなく最初の北上に似ていて────

 

 

 

「はじめまして、ボブです」

「誰やねん!」

 

 

 

 

 

 数分後。

 

「ボブですよボブ、ボブ宇都……じゃないボブ栃木です」

「対して変わらへんがな」

「土地が広くなっています」

「そういう問題やないんや」

 

 ちなみにトリプル北上様は鎮守府へと先へ向かったようだ。明石が来なかったのはこれやったんかな。

 それはそうと、今度着任してきた──なぜか北上の格好で──提督が残った。つまり客。ウチが相手しなきゃいけない。声から判断するに女性だろう。それにしても声と口調は似ていないとはいえ、姿形は本当に似ている。艤装つけてない状態で並ばれると本当に分からない。

 ゴーヤはいつの間にかいなくなっていた。たぶんオリョールに逃げたんだろう。流石オリョールの達人、出発するときはいつも唐突。

 青葉もどこかへ消えていた。たぶん店内のどこかに隠れているんだろう。お前らいつの間に逃げたんや。

 

「それにしても着任早々『鉄板の龍』に会えるなんて思っても見ませんでした」

「初めて聞いたわそれ」

「引き寄せられざるを得ないんですよ。作品的に考えて」

「それこの作品やないから、ウチら一切関係ないから」

「『竜田の龍』こと天龍さんがおっしゃっていました」

「龍田やないんかい」

「龍驤ちゃんはワシの獲物、と」

「ウチはアイツに何かした覚えないんやけど」

「庇ってくれた仲間であり、同じ龍を背負う物として打倒しなきゃいけない敵であり、組織を継ぐためにも倒さなければならない伝説であると」

「なんやもうアイツ混ざりすぎてどうしようもない状態になっとるやないか」

「あぁ、あと私の本名はボブじゃないです」

「そんなことだろうとは思っとったわ」

「いやぁ、先方の所の緑髪の艦娘さんがおっしゃっていてね」

「アイツか」

「こう切り出せばあの人は反応するはずだって」

 

 確かに反応せざるを得ない。

 まんまと引っかかってしまったウチは注文されたお好み焼きを焼き始めた。

 

「それにしても新任の提督が北上を3人も」

「あぁ、北上さんのうち2人は他の鎮守府から借りてきました」

「はぁ!?」

「正確には北上改と北上改二ですね」

「いや、ちょっとキミなにしてんねん」

「非番の所をわざわざ来ていただきました」

「なんでウチ驚かすためだけに引っ張ってくるんや」

「明石さんと夕張さんが提案したのを先方の提督が通したみたいです。あとはそのコネでちょちょっと」

「なにやってくれとんねんあのドアホ!!」

「ああ、ここでの発言は他言無用ともおっしゃってました」

「ウチの発言まで想定済みなんか」

「本音は隠さないって言ってましたからね」

「そんなことないで」

「本当に重要じゃない、が頭につきますけどね」

 

 なんかもう相手のペースまんまや。そういう意味では最初っから負けてたんやけどな。

 

「一応言っておきますけど私は龍驤さんドッキリ計画に関しては何も関与してませんからね」

「実行はしたけどな」

「ええ」

「開き直んなや」

 

 

 

 

 

 

 あの後、新提督はお好み焼きを食べてから鎮守府へ向かった。それと入れ替わるように北上2人がやってきて焼きそばを食べていった…………あれ、焼きそば注文されたの今回初やないか? 粉物しか頭になかったわ、反省やな。

 そういや新提督の名前聞きそびれた。もういいやボブ提督で。北上提督の方が……いや、ややこしい。後で改めて名前を聞くとしよう。

 

 そんなこんなで今日も鉄板屋は続く。

 





次回の投稿は確実に3月越えるで。

感想評価ホンマおおきに。

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