英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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5話

ヴォルデモートが復活の機会を狙っているからと言って、来るものは来るものである。ホグワーツ魔法魔術学校に、学期末の試験がやって来た。

実技も心配な部分があるが、問題は筆記試験である。問題を英語で回答を記入することもさながら、問題を読み違えてしまっては元も子もない。オーシャンは毎日の睡眠時間を削り、試験勉強に加えて英語の勉強にも力を入れていた。

 

試験まで一週間となった日の事、昼食の席で元気の無い様子のハリーを見て、オーシャンは「ハリー、どうしたの?」と声をかけた。ハリーが応じる。「え、何?」

「何となく、元気が無さそうに見えるけど」

オーシャンがそう言ったのを聞いて、ハリーは思いきって何か言いたそうに口を開きかけた。が、その声は突然入ってきたネビルによって遮られた。

 

「ハリー、それって、試験恐怖症だよ。僕もなんだ。試験の最中に頭が真っ白になる夢ばっかり見ちゃって、毎晩うなされちゃってるよ」

ハリーは喉の奥で曖昧な音を出した。昼食を終えたネビルが席を立って次のクラスに向かうと、ハリーはオーシャンに耳打ちした。

 

「実は、あの森の中であったことが、しょっちゅう夢に出てくるんだ…。おかげで夜、まともに眠れないよ…」

禁じられた森の中で遭遇した、ユニコーンの血を啜る謎の影…。その恐怖を共有しているのは、ハリーとオーシャンだけだった。

 

オーシャンはハッと息を飲むと、少し考えて一枚の紙を取りだしハリーに与えた。

「これは?」ハリーが聞く。

「これは「破魔の札」。日本の呪術師が作ったやつは抜群の効果をもたらしてくれるんだけど、私が作ったものだから、気休め程度の効果しか無いと思うわ。でも、無いよりは多分マシなはず。毎晩寝る前に、枕の下に入れなさい」

ハリーが破魔の札を両手で受けとってキョトンとしていると、オーシャンは微笑んで、次のクラスに向かって行った。

 

 

 

 

 

試験の最終日。オーシャン達の最後の試験は、変身術の実技だった。木のクローゼットを狼に変えるという試験だったのだが、オーシャンの狼は毛が一切生えていない、木の質感を残した狼になってしまった。狼の形が取れてはいるが、もしかしたらこれは落第ものかもしれない、と思いつつ、オーシャンは試験会場を後にした。

 

何はともあれ、これで試験は全て終わった。オーシャンが昼食前に散歩をしようと外にでると、日向ぼっこをしている湖の大イカの足を、赤毛の双子とリー・ジョーダンがくすぐって遊んでいた。

オーシャンが木陰に座ってその姿を眺めていると、左の方から早口に会話しながら近づいてくる声が聞こえた。ふとそちらに顔を向けてみると、酷く焦っている様子のハリー、ロン、ハーマイオニーの三人組だった。

オーシャンの目が先頭のハリーと合うと、ハリーが駆け足で近づいて来た。

 

「ハリー、そんなに急いで…。どうしたの?」

オーシャンが聞くと、ハリーは肩で息をしながら、早口で言った。

「Ms.ウエノ…大変だ…スネイプがフラッフィーを出し抜く方法を見つけてしまった…ダンブルドアの所に行かなくちゃ…」

 

 

オーシャンがハリー達と城に戻って、玄関ホールで出会ったマクゴナガル先生にダンブルドア校長にお目にかかりたい次第を伝えると、校長は魔法省からの緊急の連絡を受けて出掛けたとの事だった。

 

ハリーが「「石」が誰かに盗まれようとしている」と言うと、マクゴナガル先生は驚きはしたが、「磐石の守りであるから心配の必要はありません」と言った。

その直後、嫌に上機嫌なスネイプ先生に行き合った。

三人はスネイプへの疑いを強めた様で、夜に四階のフラッフィーの部屋に入る覚悟を決めた様だった。

 

「オーシャン、今夜貴女だけは残った方が良いと思うわ」

ハーマイオニーがそう言うので、ハリーとロンが顔を上げた。ロンは信じられないという顔をしている。唯一の頼りになる上級生なのに、何で彼女を残していくんだ!?と。

 

オーシャンはハーマイオニーの考えを見抜いた。

「ハリーの透明マントは一枚しかない。それに代わる手段として、夜中に見つからずにふくろう小屋までたどり着けるのは、私の隠れ蓑術だけ。そう言うことね、ハーマイオニー?」

 

ハーマイオニーはロンの兄達にどこか似ている笑いかたをした。

「そういうこと。何とかダンブルドア先生にふくろう便を送ってみて。今送るのは危険だわ。スネイプと、マクゴナガル先生にまで怪しまれてしまっているもの」

オーシャンも笑って頷いた。ロンが呆れた声を出す。「君たちのその顔、何か企んでいる時のフレッドとジョージにそっくりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜、寮を出ようとすると、四人の前にネビルが立ちふさがった。

「これ以上グリフィンドールの点を減らさせる訳にはいかない!」

テコでも四人を通す気がないネビルを前に、ロンはオーシャンに「どうにかしてよ」と言った。上級生にかかられたら、無事ではすまないと思ったのだろう。ネビルがビクッとしつつ、オーシャンに向かってファイティングポーズをとった。

 

しかしオーシャンは動く気がない。

「私がここにいるのは「石」を守る為であって、ロングボトムに危害を加えるためでは無いわ。ロングボトムは貴方達を止めようとしているのよ。貴方達も、誠意を持って応えて上げなさい」

 

結局、ネビルは哀れにもハーマイオニーの魔法で石にされて、四人は寮塔を後にした。その場で三人は「マント」をかぶり、四階へ向かう。「Ms.ウエノ、頼んだよ」と、何もない空間からハリーの声が聞こえた後は、三人の気配は遠ざかって行った。オーシャンは「隠れ蓑術」でふくろう小屋を目指す。

 

 

何事もなくふくろう小屋で手紙を出したオーシャンはしかし、そのまま寮塔には戻らなかった。三人には言っていなかったが、初めから、手紙を出した後で三人を追いかける気だったのだ。オーシャンはその足で四階を目指した。

 

フラッフィーの眠らせ方は、昼間にハリーが教えてくれた。オーシャンはなるべく音を立てずに三頭犬のいる部屋へ忍び込んだ。後ろ手でドアを閉めた途端、フラッフィーが唸りで出迎える。

オーシャンは落ち着いてローブのポケットに入れていた篠笛を出すと、口元に当てた。笛の奏でた旋律を聴いて、三頭犬は瞬く間に眠ってしまった。

 

音楽が途切れない様に片手で同じ旋律を繰り返しながら、フラッフィーが守っていた、床の跳ね扉を開けた。中は暗く、何処に続いているか皆目検討もつかなかったが、後輩達の顔を思い浮かべつつ、オーシャンは身を躍らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何か柔らかい物に軟着陸して、立ち上がって先に進もうとすると、足首からゆっくりと何かが這い上がってきて、オーシャンに絡み付いた。オーシャンは突然の事にビックリしつつも、どうやらそれが「悪魔の罠」であるらしい事に気づいた。「悪魔の罠」の弱点は記憶によれば火。しかしオーシャンは、ホグワーツでの火を興す呪文を知らない。

 

「…あ~…」

火を興す呪文は一年生で習うらしいが、オーシャンはその時まだ日本にいた。日本でも初等教育で火炎呪文は習っている。それを使うしか逃れる術は無い。人の腕程もある太さの蔦が次々と絡まってくる中、オーシャンは何とか杖を出して、頭上で三角を描きながら、日本術式を唱えた。

 

「燃えよ!竜の息吹!」

 

オーシャンが描いた杖の軌跡が「悪魔の罠」に降り、結果的にちょっとした火災が起きてしまった。オーシャンはローブの裾を焦がしつつ「悪魔の罠」から抜け出し、次の部屋へと続くドアに手をかけながら、赤々と燃えている「罠」を振り返った。

 

「…ちょっとまずっちゃったかしら」

 

しかし鎮火作業などしている暇はない。しばらくしたら燃え尽きる事を祈りつつ、オーシャンは扉を潜ったのだった。

 

 

次の部屋は、羽根の生えた鍵が無数に飛んでいた。箒と扉があるから、箒に乗って扉に合う鍵を捕まえ、通って見せろというのだろう。しばらく鍵を観察していると、あれかな、と思うものを見つけた。左右の羽根が折れ曲がって酷く不格好な飛び方をしている。

問題があるとすれば、果たしてオーシャンの飛行技術で

それを捕まえられるのか、ということだけだった。

 

「……いけるかしら…?」

一人ごちるオーシャンが覚悟を決めて、箒に跨がる。「飛べ」と念じると、箒は天井に向かって急上昇した!

頭を守って、咄嗟に迫りくる天井に片手をついたオーシャンだったが、その手のひらに何か金属の感触がすることに気づいて、見てみると目的の鍵がオーシャンの手のひらでピクピクと、まるで痙攣を起こしている様だった。

 

「…ごめんなさいね」

自分はクィディッチ選手ではないし、飛行技術が下手でも今後の人生死ぬ訳ではないと、自分の飛行技術の拙さをそれほど関心を向けなかったオーシャンだったが、今初めて、もっと飛行の練習をしとくんだったと後悔した。

 

箒から降りて鍵を開けると、次の部屋には巨大なチェス盤があった。そして横には、死体のように塁塁と積み上がっている駒達。その近くに、傷ついて横たわったロンと、彼を抱えるハーマイオニーの姿があった。

 

「ハーマイオニー!ロン!」

オーシャンが叫んで近づくと、ハーマイオニーが肩を震わせた。

「オーシャン!ふくろう便はどうしたの…!?」

「大丈夫、ちゃんと飛ばしてからここに来たわ。…ロンは大丈夫なの?」

オーシャンはハーマイオニーに抱えられているロンを見た。気絶している様だが、呼吸はしっかりとしている。

 

ハーマイオニーを安心させるように、オーシャンは彼女の肩に手を添えた。

「ロンと貴女は大丈夫そうね…。ハリーはこの先ね?私はあの子を追いかけるわ。貴女達は、ゆっくり戻りなさい」

ハーマイオニーは首を振った。

 

「この先には行けないわ、オーシャン。魔法の炎が道を遮ってしまっている」

しかし、オーシャンは立ち上がった。

「大丈夫。ハリーだけを行かせはしないわ」

そしてハーマイオニーと気絶したロンを残して次の扉を開けると、すでに二体のトロールが床に伸びていた。

 

「あら。これ、あの子達がやった…訳無いわよね。だとしたら本当に…」

本当に、彼らの推理通りスネイプが「石」を盗みだそうとしているのだろうか。

疑念を胸にオーシャンが次の扉を開けると、中には豪々と、炎が燃え盛っていた。魔法による、紫の炎だった。

 

「ハーマイオニーが言っていたのは、これね…。もしもの時のために持ってきて、良かったわ」

言うとオーシャンは、ローブの袖口から「破魔の札」を取り出した。先日ハリーに与えたような偽物ではなく、日本から持ってきたたった一枚の本物であり、呪術師である彼女の父が作ったものだった。

 

「お父様、持たせてくれてありがとう」

オーシャンは右手の人差し指と中指で挟むようにして札を持ち、言いながら一つ、目礼をした。

そして燃え盛る炎を睨み付けると、札で炎を斬る様に、下から上へ静かに振り上げた。

 

途端、紫の炎が道を作る様に割れ、その後ろにあった黒い炎まで次なる扉への道を開けたではないか。

オーシャンがその道を渡り終えると、札は独りでに燃えて散ってしまった。

オーシャンは、次の扉に手をかけた。

 

 

 




賢者の石編佳境になります。
正義感は無いけど、三人が心配でここまできちゃったオーシャンさん。
ヴォルテモートとの対決は、果たして…?


あれよあれよという間にUA 1400越え、お気に入り24件、感想・評価2件ありがとうございます!

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