ある朝、グリフィンドールの点数が150点も減っていたらしい。
「…はぁ。」
オーシャンは自寮の点数が一夜で消失したという一大事件の顛末を聞いているにも関わらず、口から間抜けな音を出した。
憤りながら事の顛末を話してくれたのは、アンジェリーナだ。話によれば、ハリー・ポッターとその仲間の一年生が、深夜に寮を抜け出して探険していたのが原因らしい。
「150点よ、150点!今年こそは寮杯を取り返せると思ってたのに…!よりにもよってハリーが!」
アンジェリーナの声を聞きながら、オーシャンはぼんやりと、「あぁ、それでグリフィンドール生の雰囲気が殺伐としているのね…」と思った。
しかし、アンジェリーナには悪いが、オーシャンは寮杯の行方などに元々興味は無かったので、何でみんながそんなに怒るのかと首を傾げた。それを言うと、アンジェリーナは「だって、寮杯だよ!?」とよくわからない事を言うのだが、
「確かクィディッチでは、シーカーがスニッチを取れば150点だったわよね?この間のハッフルパフ戦で、ハリーがスニッチを取れなかった様なものよ。そんなに大したことじゃないわ」
オーシャンの言葉を聞いて、アンジェリーナはきょとんとする。その後腕組みして考え込んでしまった。「あれ?、そう考えると…でも…」と、口から漏れている。混乱させてしまった様だ。
オーシャンは笑って、次のクラスで使う教科書を開いたのだった。
ある日、オーシャンはハーマイオニーから、今夜の勉強は見てあげられないと宣言された。今夜の勉強とは、もちろん英語の授業の事だ。ハーマイオニーはほぼ毎日、オーシャンの英語力の向上のために教鞭をとっていた。
「それは構わないけど、どうしたの?」
何の気なしにオーシャンが理由を聞くと、今夜十一時から処罰なのだという。夜の十一時とは、随分遅い時間の処罰だな、と、オーシャンは違和感を抱いた。
ところで、日本の魔術学校では、初等教育で魔術だけではなく錬金術から忍術まで、広く浅く基本を教えている。
オーシャンは忍術の授業で、隠れ蓑術と遷し身の術は得意中の得意だったのである。
そんなわけで、可愛い後輩が遅い時間から処罰を受けると聞いて心配したオーシャンは、得意の隠れ蓑術で処罰に向かう彼らの後を尾行したのだった。
すると彼らが玄関ホールにいたフィルチに出迎えられ、何と城を出て行くではないか。オーシャンは更に後を尾けた。
するとハグリッドの小屋の前で一行は止まり、これから禁じられた森に入ると言うのだから、オーシャンは隠れながら面食らってしまった。
フィルチだけが城へ向かって去っていくのを見届けて、オーシャンはハリー達の前に姿を現した。
「ハグリッド。私も行って良いかしら?」
突然現れたオーシャンに、全員が目を丸くする。声を上げたのはハグリッドだ。
「オーシャン、こんな時間に何しとる!しかもこんなところで!」
「それは、この子達にも言えるんじゃない?」
オーシャンは、ハリーから順に、ハーマイオニー、ネビル・ロングボトム、ドラコ・マルフォイへと視線を移した。
ハグリッドはしょぼくれた声を出した。
「仕方ない…処罰なんだから、仕方ないんじゃ…」
「何故、貴方がそんなに落ち込んでいるのよ?」
「今回の事は俺のせいだ…みーんな俺が悪い…」
肩を落としたハグリッドを見て、埒が明かないといった調子でオーシャンは口を開いた。
「とにかく。この子達が森に入らなければいけないのなら、私もついていくわ。心配ですもの」
「ダメだ!ならん、ならん!」ハグリッドは声を荒げた。
「お前さんがここにいるだけでも十分問題なのに、森に入るとなったらただじゃすまされんわい!」
「でも、この子達は行くのでしょう?」
数瞬のにらみ合いの末、軍配はオーシャンに上がった。ハグリッドは項垂れて、「どうなっても知らんからな…ついてこい…」と言って歩き出した。みんながそれに続いてぞろぞろと歩きだす。
今日の目的は、森の中で傷ついたユニコーンを見つけ、保護、もしくは楽にしてあげるのだと言うことだった。二手に分かれて捜索を行うと言うことだった。
ドラコ・マルフォイとネビル・ロングボトムとファング、ハリーとハーマイオニーとハグリッドとオーシャンの二手に組が別れたが、それをオーシャンが制した。
「ハグリッドがついているならハリーとハーマイオニーは安心だわ。私はロングボトム達とこちらの道を探すわね」
オーシャンの申し出にハグリッドは一瞬心配そうな顔をしたが、一年生二人とファングだけより、上級生のオーシャンがついていた方が安心だと判断したらしい。何かあったら光を打ち上げて知らせる事を約束して、オーシャンは二人と一匹を引き連れて森の中に分け入っていった。
しばらく一行は無言で歩いたが、怯えているネビルが気の毒になり、オーシャンは口を開いた。
「ロングボトム、大丈夫?手を繋ぎましょうか?」
ネビルは、「だっ、大丈夫…」と震えつつも、オーシャンが差し出した手をぎゅっと握った。
それを見てドラコ・マルフォイは鼻で笑った。
「ふんっ。ロングボトム、良かったな。洞穴暮らしに慣れてる日本人がいて。いっそお前も日本で暮らしてみたらどうだ」
「何を無駄口叩いているの。貴方もよ」
言って、オーシャンはマルフォイの手を有無を言わさず握った。マルフォイが悲鳴を上げる。
「野蛮人が僕に触るな!汚らわしい!」
するとオーシャンの手を振りほどこうとしたマルフォイが、バランスを崩して泥濘に派手に倒れ込んだ。
オーシャンは「だから言ったでしょう」とクスクス笑った。
後はユニコーンの捜索所の騒ぎではなかった。
オーシャンが気になるものを見つけて二人の下級生から目を離した隙に、マルフォイがネビルにいたずらをして、ネビルが杖で赤い光を打ち上げて、ハグリッドがやって来る騒ぎになった。一旦、三人と一匹は、ハグリッドについていき、ハリーとハーマイオニーと合流した。
ハグリッドはカンカンに怒っている。
「ようし、組分けを替えよう。ネビルとハーマイオニーは俺と、ハリーとそこのバカもんとオーシャンは、ファングと一緒にそっちの道を行ってくれ」
再度二手に別れて歩いた。すると、三十分も歩いた頃に、目的のものに行き着いた。
ハリーもマルフォイを立ち止まらせて、呟いた。「見て…」
ユニコーンの屍だった。
オーシャンが近づこうとすると、森の中で何かが動いた。黒いローブ姿がぼんやりと浮かび上がり、ユニコーンにするすると近づいて覆い被さると、その血を啜り始めた。
「ぎゃあああ!!」
オーシャンの背後でマルフォイが叫び、振り返るとマルフォイもファングも、今来た道を駆け戻って行った。
謎の影がこちらに気づき、するすると近づいてきた。オーシャンは杖を抜き、ハリーを謎の影から庇う。ハリーがよろよろと倒れかかった時、二人の頭上を飛び越えて、ケンタウルスが現れた。
ケンタウルスが後足で立って威嚇すると、影は消えていった。
「Are you OK?」とケンタウルスが聞いた。オーシャンは「ええ、ありがとう…」と辛うじて返事をする。ケンタウルスが眉を潜めた。
オーシャンはハリーに駆け寄って、「ハリー、大丈夫?」と聞くが返事は無い。助け起こそうとして、彼から訝しげな瞳で見つめられている事に気づき、オーシャンはやっと、言葉が通じてないという事に気づくのだった。
ケンタウルスのフィレンツェは、背中にハリーとオーシャンを乗せてハグリッドの所へ連れていってくれた。
道中徐々に精神が落ち着いてきたのか、オーシャンにもフィレンツェの言葉が少し理解できた。
「ポッター君、学校に何が隠されているか、君は知っているかい?」
フィレンツェに聞かれて、ハリーが「「賢者の石」…!」と呟いた。オーシャンも声には出さずに、やはりそうだったのかと合点する。
「でも一体誰が…」と不思議がっているハリーに、フィレンツェが言った。
「力を取り戻すために、機会を窺っていたのは、誰ですか?」
ハリーがハッとした。オーシャンにも心当たりはある。
海を隔てた遠い危険だと思っていた。倒されたのではなかったのか。オーシャンのすぐ隣にいる、一人の男の子に。
ハグリッド達と合流すると、フィレンツェは再び森に消えた。みんなが城へ戻り、グリフィンドールの談話室でオーシャンはハリー、ロン、ハーマイオニーと話し込んだ。
「ヴォルデモートが復活を狙っているとしたら、間違いなく、賢者の石には手を出すでしょうね…。誰も石を盗み出さない様に、一層注意が必要だわ」
オーシャンが言ったのをきいて、ロンが目を見張った。
「あの人の名前を言った!」
オーシャンは肩を竦める。
「まぁ、言い方は悪いけど、今世紀最大の闇の魔法使いも日本から見れば、所詮海の向こうの他人事、って感じだったからね…。日本人は、みんな割りと名前言うわよ?」
ロンとハーマイオニーが、驚いているような、呆れているような声を出した。
「…えぇ~…?」
「…日本って神秘の国ね…」
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