英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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46話

 ついに三校対抗試合の第一の課題を明後日に控えたの朝食の席で、ハリーは第一の課題が何なのかを知ってしまった事を、ハーマイオニーとオーシャンに報せた。ハーマイオニーは息を飲んで両手で口を覆い、オーシャンの手からはフォークが落ちた。

 「ドラゴンと戦うだなんて…貴方じゃなくても、学生には早すぎるわよ!?」「シーッ!」

 第一の課題をカンニングしてしまったと誰かに知られたら、これをハリーに見せてくれたハグリッドが大変な事になる。だから、誰にも言わないで、とハリーは二人に念を押した。

 「当然、誰にも言わないけど…ハリー、大丈夫なの?」心配そうな顔をするハーマイオニーに対し、ハリーは懸命に取り繕った表情で頷いて見せたが、心中穏やかでない事はオーシャンにはお見通しであった。

 

 しかし、本人が頑張るというのだから、それ以上は何も言わないでおこう。

 「ところで、ブラックの方はどうだったの?昨日はちゃんと会えた?」

 「ああ、うん」

 話題を変えたオーシャンに少しだけほっとした表情を見せたハリーは、昨日、談話室でブラックが教えてくれた事を二人にも話した。カルカロフが『死喰い人』だった事。行方不明の魔法省役人、バーサ・ジョーキンスの最後の足跡が、ヴォルデモートと一致する事。ヴォルデモートが試合が開催される事を知ってしまった可能性がある事。

 

 「じゃあ、『例のあの人』は試合に罠を仕掛けるために、カルカロフを寄越したっていうの?」

 「わからないよ」

 ハリーがシリウスに聞いたのと同じ質問が、ハーマイオニーから出た。名付け親と同じ様に、ハリーは答える。

 オーシャンは話半分に聞いていた。今さっき振り払ったはずの心配事が、また頭にもたれかかって来たのだ。

 ハリーがドラゴンと対峙するまでに残されている時間は少ない。それまでに、彼にしっかりとした対策が出来ればいいが。

 試合の安全対策はきちんと施されているとの事だが、それでも不測の事態は起こりうる。何かあった時の為に、自分も対策をしておかねば。

 

 

 

 あっという間に一日が過ぎ、当日の午前中が過ぎた。

 グラウンド-普段はクィディッチピッチが建つ所に競技場が建設され、瞬く間に観客席が三校の生徒で埋まった。審査員席には各校の校長達と、ルード・バグマンとクラウチ氏がいた。

 ハリーはハーマイオニーとオーシャンの二人と別れ、選手用のテントに行ってしまった。何故か、彼よりハーマイオニーの方が自信満々な顔をしている事に、オーシャンは気づいた。

 「可笑しいわ。貴女ったら、ハリーより自信たっぷり」

 観客席を上へ上がりながらオーシャンが言うと、前を歩いていたハーマイオニーがニッコリと笑った。「当たり前でしょう?ハリーならきっとやってくれるもの」

 

 「ここからなら、よく見えそうね」

 ハーマイオニーがそう言って選んだ席の隣には、むっつりと腕を組んでいるロンがいた。オーシャンがフフッと笑うと、ロンが視線をこちらに向けた。ジロリ、と睨み上げる様な視線に、思わずオーシャンは頭でも撫でてやろうか、と思ったくらいだ。

 

 和気あいあいと試合開始を待つ生徒達に囲まれて、三人は試合が始まるのをただひたすら無言で待った。しばらくしてピッチにバグマンが出てくる。

 「レディース・アンド・ジェントルマン!ここに百年の時を超えて、栄光の試合が蘇ります!」

 「そういえばあの人って、クィディッチワールドカップの時も司会をしてたわね…」

 楽しそうに声を張り上げるバグマンを見ながら、オーシャンは一人呟いた。

 「お仕事って事以上に、多分、こういう事が好きなのね…」

 

 「早速参りましょう!第一の課題、一人目の挑戦者は…セドリック・ディゴリー!」

 拍手と歓声に出迎えられて、セドリックが選手用テントから出てきた。拍手に応えてその場で手を振りながら、誰かを探している。一瞬、オーシャンは彼と目が合った様な気がした。

 

 「さあ、ディゴリーのお相手は、スウェーデン・ショート‐スナウト種です!」

 バグマンがスウェーデン・ショート‐スナウト種ドラゴンの情報を説明している間に、ズシン、ズシン、と重い足音を響かせてドラゴンが出てきた。首輪と鎖で繋がれており、鎖を何人かの魔法使いが持っている。

 「それでは、試合開始!」

 ピーッ、とホイッスルの音がして、ドラゴンが解き放たれた。バグマンが実況を始める。「さあ、ディゴリー選手。この試練をどう潜り抜けるのか-!?」

 ドラゴンの後ろには、金の卵が置かれている。ドラゴンを出し抜いて卵を獲得出来るか、それが第一の課題だった。卵獲得までにかかった時間や、どんな魔法を使ったか、怪我をする事無くどれだけ華麗に課題をクリアするかが、審査員の得点の判断基準になる。

 

 ドラゴンに睨まれたセドリックは一瞬怯んだ様に見えたが、杖を岩に向けて構えた。変身呪文がかかった岩がたちまち、立派なラブラドール・レトリーバーに姿を変えた。

 「うわぁ、もっふもふ!」

 見事な毛並みに、オーシャンはため息を漏らす。オーシャンが犬を最後に触ったのは、去年の事だ。それも、動物に変化した人間であって、厳密には犬ではない。久しぶりにあのもふもふ感触を味わうのに、変身術もきちんと勉強しよう、と思った。完全なる自給自足。セルフもふもふ。

 

 バグマンの声が、これは見事な変身だ、とかなんとか言っていた。犬があちらの方向へ走り出したのを見たドラゴンがそちらに首を伸ばしたので、そちらを追いかけるかに思われた。その隙をつき、セドリックが金の卵に向かって駆けだした。しかし急に動いたセドリックが、再びドラゴンの気を引いてしまった様だ。

 ドラゴンが標的をセドリックに変えたその時、セドリックの手が金の卵を捕らえた。瞬間、ドラゴンの口から炎が吐き出される。

 

 「危ないっ-」

 ハーマイオニーもロンも、思わず叫んでいた。間一髪炎を躱したセドリックだったが、ローブの右足が焼け焦げる。しかし両手には、しっかりと金の卵を抱えていた。

 わっと観衆が沸いた。試合終了のホイッスルが鳴り響き、待機していたドラゴン使い達は、ドラゴンに向かって一斉に失神呪文を放った。分厚い表皮を呪文が貫き、ドラゴンはたちまち失神してしまった。

 

 「見事に金の卵を取りました、ディゴリー選手!」

 割れんばかりの拍手と歓声に贈られながら、セドリックは先生に連れられて、マダム・ポンフリーの手当てを受けに行ってしまった。

 セドリックに拍手を贈りながら、ハーマイオニーが興奮していった。「本当に凄い!ドラゴンと一対一で対決する勇気だけでも凄いのに、卵を獲っちゃうなんて!」

 

 ドラゴンが競技場の外に運び出され、セドリックの点数が発表された後、再びバグマンの声が響いた。

 「お待たせいたしました!第一の課題、二番目の選手。ダームストラング魔法学校の生徒にして、ブルガリアクィディッチチームのシーカー!ビクトール・クラム!」

 

 クラムの相手は中国火の玉種という種類のドラゴンだった。

 彼は火の玉種に臆する事無く、冷静にドラゴンの目を狙った。目くらまし術なのか、目つぶしなのかは判別がつかなかったが、呪文は抜群に効いて、クラムはセドリックのタイムより速く金の卵を獲得する事に成功した。

 

 「三人目です!ボーバトン、Ms.デラクール!」

 フラーが相手にするドラゴンは、ウェールズ・グリーン種だった。試合開始のホイッスルが鳴るや否や、フラーは杖を取り出して聞いた事の無い呪文を叫んだ。呪文が効いて、ドラゴンが目をうとうとさせ始める。

 「おーっと、これは魅惑の呪文!てきめんに効いた様だ-」

 バグマンの実況が飛ぶ中、ロンが上ずった声で呟いた。「ねぇ、これ、まずくないか?」

 

 前列に座っていた生徒から、混乱が伝播してきた。フラフラしていたドラゴンの頭が意識を失い、力なくこちらの方向にもたれてくるのだ。

 バグマンの焦った声が響いた。「-これは、何という事!」

 生徒達が立ち上がり、こちらに逃げてくるのとは反対に、オーシャンはそちらに向かって走り出しながら杖を抜いた。ドラゴンの頭に容赦なく向け、叫ぶ。

 「墜ちよ、裁きの大槌!」

 目に見えない力がドラゴンの頭にドン、とぶつかり、その体がのけ反った。途端に、うとうとと眠りかけていたドラゴンの目が覚める。ぎろりとオーシャンを睨んだグリーン種が、大きく口を開いた。

 

 ドラゴンの口から炎が吐き出された瞬間、オーシャンは杖で三角を描く。「燃えよ、竜の息吹!」

 杖から噴き出した炎が盾となり、ドラゴンは一瞬怯んで炎を吐き出した口を閉じた。その一瞬を、オーシャンは見逃さない。観客席の前には競技場を囲む様にして、一区画に一つずつ、大きな水瓶が置いてあった。

 「アグアメンティ、水遁の術!」

 杖から生み出した水で水瓶の水を操って、競技場と観客席を隔てる水壁を立てる。この夏に編み出した、魔術と忍法の合わせ技だった。

 「凍てつけ、白雪の舞!」

 矢継ぎ早にオーシャンの呪文が飛んだ。杖で突かれた水壁がたちまち凍り付き、ドラゴンの姿が見えなくなる。

 

 観客席の後ろの方に逃げた生徒達の口から、「おぉ…うおぉ…」と、声が漏れて次第にどよめきとなる。氷に閉ざされた競技場から、試合終了のホイッスルと、拡声されたバグマンの声が聞こえてきた。

 「-あ…やりました、デラクール選手、金の卵を獲りました!」

 ロンが静かに呟いたのが聞こえた。「…全然、見えなかった」

 

 

 競技場の氷壁を取り除くのには、少しの時間を要した。その間オーシャンはマクゴナガル先生に呼ばれて、三人の校長とその他審査員達の前に立っていた。

 カルカロフ校長が疑わしそうに口を開く。「して、今のを本当に君がやったのかね」

 「はぁ…。一応」

 カルカロフ校長の質問に、オーシャンは曖昧に答えた。「あれはどこの呪文かね?」続けて聞いたカルカロフ校長に、ダンブルドア校長が柔和な顔で答えた。

 「イゴールには言っていなかったかの?ウミは日本からの留学生での。たまにこうして日本の術で-」校長は、溶かしている最中の氷壁を目で示した。

 「-少々やんちゃをするのが、玉に瑕なんじゃがの」

 

 校長の物言いは少々気にかかるが、カルカロフ校長とマダム・マクシームはどこか感心している様だった。

 「こんな事ができーるのに、何故ダンブルドア、隠しーていたーのですか?」

 マダムがダンブルドア校長に聞いた。オーシャンが答える。「私はゴブレットに名前を入れていませんので」

 「これは驚いた。これほどの芸当ができるというのに」カルカロフ校長だ。バグマンが追随した。「こんな芸当が出来たら、間違いなくこの課題は満点だろうに!」

 

 「ありがとうございます。でも、試合に勝つことには興味がありませんから」

 オーシャンがいつもの調子で返したのを見て、ダンブルドア校長は満足げに笑った。

 




マダムの喋り(ボーバトン生の喋り)が、難しすぎる。
音を伸ばすところの加減がわからなくなって、一言なのに何回も書き直しました(笑)

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