英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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20話

 

 あれよあれよという間にハリーは魔法省大臣、コーネリウス・ファッジに捕まってしまった。オーシャンはハリーにこの夏何があったのかは全く知らないが、ハリーの顔色から察するに喜ばしい出会いではない様だ。

 コーネリウス・ファッジは、ハリーと腰を落ち着けて話ができる部屋を「漏れ鍋」店主のトムに用意させた。ハリーがそこに通されるので、オーシャンは何食わぬ顔でハリーと大臣の後ろに着いていったが、敷居を跨ごうとした所で振り向いた大臣に止められてしまった。

 

 「おっと、君。Ms.―…あー、すまないが、ハリーと二人きりで話がしたいんだが…というか、君は?何故私たちについてくる?」

 オーシャンは何食わぬ顔で言った。

 「申し遅れました。わたくし、ホグワーツ魔法魔術学校の第五学年になるオーシャン・ウェーンと申します。私もハリーと二人きりで話がしたいのですが」

 部屋の中から、ハリーが大臣に申し出た。

 「お願いします。オーシャンも一緒に中に入れてください」

 

 片や慇懃な態度の女の子と、片や生き残った男の子。大臣はハリーがそこまで言うのならと、かなり渋々にではあったが、オーシャンの事も部屋の中に招き入れた。

 

 コーネリウス・ファッジとハリーは向かい合って椅子に腰掛け、コーネリウス・ファッジは二人が初めて会うように自己紹介をした。ハリーが知っている口ぶりだったからすっかり面識のあるものだとオーシャンは思っていたが、ハリーが一方的に大臣の顔を知っていただけだったらしい。

 

 コーネリウス・ファッジは、ハリーのおかげで大変な騒ぎとなったと言った。叔父、叔母の家から逃げ出したのだという。オーシャンは面食らってしまった。

 「逃げ出した?ハリー、一体どうしたというの?」

 オーシャンが言うと、ハリーは肩を竦めて縮こまった。コーネリウス・ファッジは続けた。「Ms.マージョリー・ダーズリーの不幸な風船事故は、我々の手で処理済みだ」

 「風船事故?」オーシャンがファッジの話を遮って言ったが、ファッジは無視した。「クランペットはどうだね、ハリー?」

 

 オーシャンがここ数年の英国生活で味を覚えた甘めの軽食パンを、ファッジはハリーにすすめた。しかしハリーもオーシャンも、手はつけなかった。

 ハリーは青白い顔をして食欲は無さそうだし、オーシャンはクランペットより今はカレーパンが食べたかった。

 

 オーシャンはさっぱり話についていけないが、とりあえず「終わった事故」の話であるらしい事は察する事が出来た。想像するに、ハリーが何らかのアクシデントで非魔法族である親戚の家で魔法を使ってしまい、「未成年魔法使いの制限事項令」を破ってしまった、というところだろうか。

 それなら、ハリーの若干不審な態度も納得できる。「未成年魔法使いの制限事項令」を破って逃亡中に、魔法省のトップである大臣が直々にお出まししては、肝も潰れるというものだ。

 

 ファッジは、ハリーの叔父と叔母は今回の事故に非常に腹を立てているが、ハリーがクリスマスとイースターをホグワーツで過ごすのなら、来年の夏にまたハリーを迎える用意があると説明した。

 対してハリーは、毎年クリスマスとイースターは必ずホグワーツで過ごしていると主張した。言われるまでも無い事である。

 

 ハリーは今か今かと自分の処分が言い渡されるのを待っていると、ファッジはついにハリーの処分を言い渡した。

 「残る問題は、学校が始まるまでの二週間を君がどこで過ごすかということなんだが、私はここ「漏れ鍋」に部屋をとるのがいいと思うが…」

 「ちょっと待ってください!僕の処分はどうなりますか!?」 

 ファッジの意見はハリー本人によって遮られた。「未成年魔法使いの制限事項令」を堂々と破っておきながら、処罰が無いというのはどういう事だ?

 

 ファッジはハリーに向かって優しい笑みを浮かべ、今日起こった様なちっちゃな事故で、魔法使いの監獄・アズカバンに入れる様な事はしないよ、と言った。しかしハリーは食い下がる。去年の夏、屋敷しもべ妖精のドビーが魔法を使った時には、公式勧告を受けた、と。

 

 ファッジ大臣は多少狼狽えた様に見えたが、「君は退学になりたいわけではないだろう?ならば、何をつべこべ言う必要があるのかね?」と言ってこの論争を終わらせた。

 

 その後大臣は、ハリーが泊まれる空き部屋があるか店主のトムに確認しに部屋を出た。室内にはハリーとオーシャンの二人きりだ。部屋に沈黙が訪れる。

 先に口を開いたのは、オーシャンだった。

 「貴方、何でまた非魔法族の前で魔法を使ってしまったの?」

 

 ハリーは詳しくは省いたが、ざっとしたあらすじをオーシャンに聞かせた。親戚のマージ叔母さんに、自分の亡くなった両親の事を有ること無いこと(全て無いことだったが)言われて自制心が利かず、マージ叔母さんを風船にしてしまったという。

 それを聞いて、一つオーシャンの謎が解けた。あの時オーシャンのからすにぶつかったのは、マージ叔母さんだったのだ。

 オーシャンがそれが原因で墜落したと伝えると、ハリーは申し訳なさそうな顔をしたが、オーシャンが「むしろ、よくあんな高度まで上がったものね。ハリー、貴方、風船を作るの上手いんじゃない?」と言うと初めて笑顔を見せてくれた。

 

 やがて、大臣がトムを従えて戻ってきて、ハリーに十一号室が空いていると伝えた。

 「私の分の部屋も空いているかしら?」

 オーシャンは何気なく聞いたが、トムは「残念ながら」と首を振って答える。

 

 ファッジが暇を告げて帰ろうとした時、ハリーは引き留めて質問した。「シリウス・ブラックはまだ捕まらないのですか?」

 ファッジは、魔法省の全力を挙げて行方を追っていると、まるで使い古された記者会見のコメントの様な事を言った。

 ハリーが次いで、ホグズミードの訪問許可証にサインしてくれないかと言うと、これは却下された。

 「私は残念ながら、君の保護者ではない」と、尤もな言い分だったが、その後にポロリと口から出た言葉が、オーシャンは妙に気になった。「君は行かない方がいいと思うが…」

 

 ファッジが部屋を出ていった後、トムはハリーを十一号室に案内すると申し出た。

 「あ、はい。でも、オーシャンは…」

 「仕方ないわね。では、夜明けまで店の方で休ませて貰えるかしら?今からフレッドとジョージに連絡をとって、何とか「隠れ穴」にお世話になりに…」

 「ロン達みんな、エジプトに行ってるよ。あと一週間は帰ってこないんじゃないかな」

 「ではハーマイオニーなら…」

 「フランスだって」

 「…所で、ハリー。何故私がこんな中途半端な時期に日本から戻ってきたのか、知りたくない?寝物語に聞かせてあげるわ」

 「添い寝する気!?」

 

 そして何とか、オーシャンは今宵の宿を確保した。ハリーの部屋の隅っこも隅っこに、店主のトムが椅子を二つくっつけた簡易ベッドを作ってくれたのだった。


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