英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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12話

 ハッフルパフの女子生徒が襲われた事を受け、校内はにわかに騒がしくなった。どこから仕入れたのか、うさんくさい魔除けやお守りなどの護身用のグッズが、生徒達の間で取引され始めた。

 

 「オーシャン、いつも怪しげな呪文を紙に書き付けてるだろ?」授業中、出し抜けにフレッドがそう言って来た。

 「怪しげな呪文とは失礼ね。怪しくない、ちゃんとした呪文よ」

 「破魔の札」の事を言われているのだと分かって、オーシャンはつっけんどんに返答する。そこに、反対隣からジョージも加わった。

 「怪しかろうが無かろうが実際どっちでもいいんだけどさ。…なあ、あれを今回の騒ぎで怖がってる連中に売り出してみようぜ」

 

 オーシャンが眉を潜めてジョージを見た。

 「何故?」

 双子は口々に言う。「だって日本の「お札」だぜ?」「効くか効かないかはおいといてさ、絶対売れると思うんだ。俺たちが窓口になるから」

 「効かない様な物を、お金をとって売り付けるというの?」

 「いや、お前の作るものが効かないって言ってる訳じゃないけどさ…」

 「残念ね、その通りよ。父が作った本物ならともかく、私が作ったものだったら、せいぜい悪夢を見なくなるとか、その程度の効果よ。秘密の部屋の「怪物」に襲われなくなるのは、到底無理な話だわね」

 

 「こらこら君たち。何を話していたのかな?」

 顔を上げると、ロックハート先生が三人を見下ろしていた。先日の「自分で自分を骨抜き事件」から完全復活したロックハート先生の、闇の魔術に対する防衛術の時間だった。

 

 フレッドが先生を巻き込んで「商談」を続けようとすると、頼んでもいないのにロックハート先生が語り出した。

 「護符の作り方の事だったら何でも聞いてくれたまえ。今までいくつ作ったか分からないくらいだよ。当時護符を渡した人たちからは、今でもお礼の手紙が来るね」

 「では、ロックハート先生に頼んではどう?フレッド、ジョージ?私の作る札よりきっとよく効くわよ」

 オーシャンが言うと、ロックハート先生はたじろいだ。「いや、残念だけど、私は忙しいからね…」と逃げようとする先生に対して、オーシャンは追い討ちをかけた。

 「まさか、教え子達が危険な状況に立たせられているというのに、忙しいを理由にお逃げにはなりませんよね、先生?」

 

 オーシャンに言われた先生だったが、とにかく授業中に私語は慎む様にとかなんとかモゴモゴ言って、踵を返して授業に戻ってしまった。

 「お前、ロックハートに対してなんていうか、明け透けになったよな」ジョージが言うと、オーシャンはニッコリ笑って首を振った。

 

 「私、あの人に歯に衣着せない事にしたから」

 

 ロックハート先生がハリーの腕の骨を抜こうとした一件以来、オーシャンはロックハート先生を敵視していた。今までは苦手意識だけだったが、ハリーに危険な術を使おうとした事によって、彼女の中でロックハート先生の警戒レベルは、格段に上がっていた。

 「あの人って、自伝に本当の事を書いているのかしらね?」

 ロックハート先生の講釈を右から左へ聞き流して、オーシャンは呟いた。相変わらずオーシャンは英語がからっきしなので、ロックハート先生の自伝を読む時はフレッド・ジョージやハーマイオニーに手伝ってもらっている。

 双子は肩を竦めることで応えた。

 

 

 

 後輩3人組は今朝から「嘆きのマートル」のトイレに籠りっきりで、ポリジュース薬と格闘している。三人が行こうとしているのが危険な道だというのは分かっている。それを止めるのではなく、見守り、本当に危険な時にだけ手を貸すのが、上級生としてのあり方かな、とオーシャンは思っていた。

 しかしさすがに、二角獣の角と毒ツルヘビの皮をスネイプ先生の戸棚からくすねる事までやってのけたと聞いた時は、少々肝を冷やしたが。

 

 「随分危ない橋を渡るのね。一刻の猶予も無いって感じじゃない?」

 そうハリー達に聞いたのは、夕食が終わり、談話室に向かう途中だった。後輩たち三人は、薬作りに直接参加していないオーシャンにもときどきこうして進捗を報告してくる。

 

 「昨日の夜、ドビーが僕のところに来たんだ。秘密の部屋は、前にも開けられた事があるんだって」

 「そう、ドビーが言ったの?」

 「直接的にそう言った訳じゃないけど。それで、ロンとハーマイオニーと話し合って、今すぐ取りかかろうって決めたんだ」

 クリスマス休暇に学校に残る生徒の中に、マルフォイの名前があったらしい。それで一層マルフォイへの疑いを深めているという訳だった。

 

 「秘密の部屋が過去にも開けられた事があるという事は、その時にも生徒が襲われたのかしら?」

 そのオーシャンの一言に、ハーマイオニーがハッとした。

 「以前にも開けられた事があるのなら、そうよね。その観点から調べてみるのもいいかもしれないわ」

 そして、一度開けられた扉が一旦閉ざされたその理由も、気になるところだ。

 

 次の週、玄関ホールの掲示板の前に生徒が群がっていた。

 「どうしたの?」

 掲示板に近づいたオーシャンだったが、その英語力はみんなが話題にしている掲示の見出しを読むだけで精一杯だった。本文はゆっくり一人で時間をかけて読めば理解できるだろうが、この騒がしい状態では難しい。

 見出しにはこうある。

 「…ドゥエリングクラブ?」

 「デュエリングクラブ。決闘クラブですって」

 惜しかった。

 

 後ろから教えてくれたのはハーマイオニーだ。惜しい、と思ったオーシャンの考えを見透かしている目で、こちらを見ている。全然惜しくないわよ。

 「普段使わない言葉だからスペルは教えてないけどね…」

 呆れた顔のハーマイオニーの隣にはいつもの通り、ハリーとロンがいた。二人とも苦笑している。

 

 「一体誰が教えてくれるのかな?」ロンが期待に胸を膨らませている中、ハリーが呟いた。

 「誰でもいいさ。アイツでなければ…」

 むしろこんな浮わついた企画はソイツしかあり得ないだろうな、とオーシャンは思った。

 

 夜の八時、大勢の生徒がクラブに参加する中に、オーシャンもいた。

 ハリーとオーシャンの予感が的中しているなら、可愛い後輩三人(ついでに悪戯好きな双子)を守るのは自分しかいないからだ。「ヤツ」なら決闘の真似事で血を見せるかもしれない。

 

 果たして期待している生徒が待っている中で、颯爽と壇上に現れたのはギルデロイ・ロックハート先生だった。

 

 「皆さん、こんにちは。最近物騒な事件が多い中、校長からありがたくもお許しをいただき、この決闘クラブを開催致しました」

 オーシャンはハリーとロンをチラリ見た。二人とも、この上ないしかめっ面だった。

 

 「本当はスネイプ先生に助手を頼みたかったのですが、先生はお忙しいという事で辞退されましてね…。代わりに、我こそはという方はいませんか?」

 これ幸いにと、オーシャンは真っ先に手を上げた。ロックハート先生を見張るなら、助手という立場は一番やり易い。被害も最小限に食い止められる。

 手を上げたオーシャンに、ハリー達はびっくりしていた。ロックハート先生の顔が一瞬ひきつった。

 「ーおや、留学生さんのお出ましですね。では、お願いしましょう」

 ロックハート先生は手を差しのべたが、オーシャンは会釈を返すと、自力で壇上に上がった。

 「ご指導よろしくお願いします。ロックハート先生」

 

 「エクスペリアームス!」

 壇上で実際の決闘の作法通りに、模範演技が行われた。先生が唱えた魔法で、オーシャンの構えた杖はその手から吹き飛ばされてしまった。武装解除の呪文だ。

 ロックハート先生は何処と無く嬉しそうに見えた。それはそうだろう。この間、オーシャンの日本術式で呪文を跳ね返されたばかりだ。

 

 「おやおや、失礼。Ms.ウエノはまだ反対呪文を知りませんでしたね。一方的な決闘になってしまった。失礼したね」

 ニコニコしながら言う先生に、オーシャンは杖を拾いながら答えた。

 「お見事です、先生。日本には武装解除なんて生易しい呪文は無いので、初めて体験できて感動致しました」

 

 日本術式には、最初から相手の武器を排除する魔法は無い。日本での決闘は、斬るか斬られるか。然らずんば死あるのみ。

 

 良い感じにロックハート先生の顔が青ざめたところで、生徒を二人組にさせて、相手の武装を解除する練習をした。ハリーとロンは組になったが、なんとハーマイオニーはスリザリンのミリセント・ブルストロードと組んでいた。

 

 三つ数えた合図で、相手に武装解除をかけるように、とロックハート先生は言った。しかし、やはり思い通りに行かない。一部の生徒は、武装解除ではなく思い思いの呪文を相手にかけている混迷ぶりだ。

 ロックハート先生が、強制終了呪文を使おうとしたので、オーシャンはそれより早く呪文を唱えた。

 「フィニート・インカンターテム!」

 全ての生徒の呪文を終わらせるのには、効果が足りず、オーシャンはこの呪文を三回ほどかけなければならなかった。

 

 それでも、ロックハート先生に呪文を使われるよりはずっと安心である。オーシャン以外の生徒が被害を被ったら最悪オーシャンがロックハート先生をどうにかしなくてはならなくなるかもしれない。(具体例は出さないでおくが。)

 

 因みに、ホグワーツ式の呪文の中でオーシャンが一番得意としているのが、この呪文だった。

呪文の発音が上手くないオーシャンの魔法が何か良からぬ事態を引き起こしそうになっても、自分で収集がつけられるようにと覚えて使っていたら、結構上手くなってしまった。やはり何事も、実践が大事である。

 

 生徒達の混迷が終わったところで、呪文の防ぎかたを先に教えるということになった。それが賢明だ。防御と攻撃は紙一重。防御あっての攻撃である。

 ロックハート先生のご指名で、ハリーとドラコ・マルフォイが壇上に上がった。ロックハート先生がハリーに防御の仕方を教えている。オーシャンは、ハリーを睨んでほくそ笑んでいるマルフォイに話しかけた。

 

 「貴方、意地悪そうな顔してるわよ。何を企んでるのか知らないけど、もっとポーカーフェイスの練習をした方がいいんじゃない?」

 マルフォイはジロリとオーシャンを一瞥して、顔を背けた。

 

 ロックハート先生が「ハリー、私の言った通りにやるんだよ!」と言って揚々とハリーを戦場へ送り出した。ハリーが振り向く。「えっ?杖を落とすんですか?」

 ハリーの質問が聞こえなかった先生が、始めの号令をかける。真っ先に杖を振り上げたのはマルフォイだった。

 

 「サーペン・ソーティア!」

 マルフォイが振り上げた杖の先から真っ黒い蛇が姿を現して、二人の間の空間にドスンと落ちた。

 周りの生徒は悲鳴を上げた。蛇が鎌首をもたげたのを見て、ハリーが身構えた。

 しかしそこに、気の抜ける様な声でロックハート先生が割って入ってきた。

 

 「ハリー、私に、任せたまえ」

 前に出てそうハリーにウインクしたロックハート先生は、蛇に向かって杖を振り回した。すると、バーンと大きな音を立てて蛇が宙を飛んだ後、また床に落ちてきた。床に叩きつけられた蛇は再び鎌首をもたげ、シャーシャーと不機嫌な声を出した。近くにいたハッフルパフ生の男子に、今にも飛びかからんとしている。

 

 その時、ハリーが不意に蛇の方へ一歩進み出た。「手を出すな、去れ!」

 すると蛇はハリーに従順に従い、その場に身を伏せてとぐろを巻いた。ハリーがハッフルパフ生に向かって微笑むと、そのハッフルパフ生は恐怖と怒りが入り雑じった表情を見せて言った。

 「いったい、何の悪ふざけをしているっていうんだ?」

 

 今にも襲われようとしていた所をハリーに助けられたというのに、ハリーが蛇を彼にけしかけようとしたと勘違いしている。その状況に「なんで分からないのかしら」と首を傾げつつ、オーシャンはとぐろを巻いてじっとしている蛇に歩みよってしゃがみこみ、友達に語りかける様に声をかけた。

 「ごめんなさいね。、乱暴なことして。もう帰って大丈夫よ。さようなら」

 

 オーシャンが言うと、蛇は二度頷く様な仕草を見せて、ポンと音を立てて消えてしまった。

 大広間全体が息を飲み、ハリーさえも驚いている中、オーシャンは立ち上がって言った。

 「実は私も蛇使い検定一級持ってるから、対話くらいは出来るわよ」

 







因みに、ヴォル様は蛇使い検定で言うと十段です。

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