英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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11話

 クィディッチシーズンが到来した。第一戦は、グリフィンドールとスリザリンだ。当日の朝、グリフィンドールのクィディッチ選手はみんな口数も少なく、緊張した面持ちだ。

 「どうしたの?今日は何だか皆、別人みたいじゃない?」

 オーシャンが言うと、フレッドが「当たり前だろ」と怒ったような表情で言った。「あんな奴らに、負けてたまるか」

 

 スリザリンは、新たなチームのシーカーにドラコ・マルフォイを入れていた。ハリー達が許せないのは、マルフォイの父親がスリザリンチームの全員に、世界最高の競技用箒であるニンバス2001を買い与えた事だった。まるで我が息子のために、金でチーム丸ごと買った様だ。

 

 試合開始の十一時が近づくと、学校中が競技場に移動を始めた。ハリー達選手は競技場に併設されている更衣室へ入っていき、オーシャンはハーマイオニーとロンと一緒に席を見つけに言った。

 三人がいい席を見つけて落ち着くと少しして、選手達がピッチに入場した。スリザリンは全員、ぴかぴかの箒を持っていた。

 審判のマダム・フーチが試合開始のホイッスルを高らかに鳴らす。重い雲が垂れ込めた空に、選手達が次々と舞い上がって行った。

 

 スリザリンの選手達は、世界最速の箒の力を見せつけて軽やかに翔んでいる。敵チェイサーの猛攻を、ウッドが必死に防いでいるが、それでも防ぎきれない様子だ。グリフィンドールチームのチェイサーのパスワークも、ニンバス2001の加速の前では手も足も出ない。グリフィンドールの防戦一方だった。

 その内、雨が降りだした。皆が傘を差したので、観客席には色とりどりの花が咲いた。

 

 「あれ?ハリーと兄貴達はどうしたんだ?」

 ロンが異変に気づいた。オーシャンとハーマイオニーも三人の姿を探すと、ハリーとウィーズリーの双子は、ウッド達の六メートル程上空にいた。

 一つのブラッジャーがハリーを追いかけている。双子のどちらかがスリザリンチーム目掛けて打ち返した。しかし、ブラッジャーはすぐに方向転換してハリーの所へ戻っていく。

 

 「何よ、あれ!?何であのブラッジャー、ハリーを狙っているの!?」

 ハーマイオニーが悲鳴に似た声を出した。あのブラッジャーがハリーを狙っているので、双子は試合に戻ることが出来ないという状況らしい。

 「またブラッジャーに魔法でもかけられているのかしら?」オーシャンは言って、立ち上がった。あのブラッジャーがハリーを殺そうとしているのであれば、多少の試合妨害だとしても助けなければいけない。

 しかし、オーシャンが印を切ろうとした所で、ウッドがマダム・フーチにタイムアウトを要求した。

 

 地上にグリフィンドールチームが集まり、雨が強くなる中、何事か話し合っていた。

 ハリーが殺人ブラッジャーに狙われているのだ。ここは試合を中止させるのが最も正しい判断のはず。だというのに、十分のタイムアウトの後、グリフィンドールチームは再び曇天へと舞い上がった。

 

 再び空へと戻った選手団を見て、オーシャンは絶句した。

 「何で試合の中止を申し出ないのかしら?ハリーが危険な状況なのに」

 ロンが豪雨に負けない声で、オーシャンに言った。

 「今ここで没収試合になるより、多少の危険を省みないでスニッチを捕る事を選んだんだよ、多分。今回、ウッドはハリーに、死んでもスニッチを捕れって言ってたみたいだし」

 

 ロンの言葉を聞いて、オーシャンは嘆息した。

 「ウッドは、一回死んでみてからそういうことを口にするべきだわ」

 

 フレッドとジョージの二人は、ハリーの側を離れて試合に戻っていた。ハリーは一人上空で、スニッチを捜しながらブラッジャーの猛攻を避け続けている。

 ハリーの様子をマルフォイが面白がって、からかっていた様に見えた。それに気を取られた一瞬で、ついにブラッジャーがハリーの腕を捉えた。

 

 「あぁ!もう…!」後輩の腕が折れたであろう瞬間を見たオーシャンは、杖を抜きつつ立ち上がった。その後輩が落ちるように急降下したので、ブラッジャーもそれを追いかける。

 追撃はさせるかと、オーシャンはブラッジャーに杖を向けて、殺意を持って唱えた。

 

 「爆ぜよ!灰塵となせ!」

 

 ハリーがスニッチを掴んだのと、その上空でブラッジャーが爆発したのはほぼ同時だった。ブラッジャーは粉々の火の粉となって、ピッチに倒れたハリーに降り注いだ。

 グリフィンドールが沸いた。実況のリー・ジョーダンがグリフィンドールの勝利を叫んで、試合は終了した。

オーシャンはロンやハーマイオニーと一緒に、ハリーの元へ駆け降りた。

 

 大勢の生徒に囲まれて、ハリーが横たわっていた。傍らには、白い歯を輝かせたロックハート先生がいる。

 「お願い、やめて…。医務室へ行かせて下さい…」と懇願している様子のハリーに、先生は不安を掻き立てる笑顔を向けていた。

 「大丈夫だ、ハリー。自分の言っている事が分かっていないのだ」

 

 倒れているハリーをファインダーに収めて、カシャッとシャッターを切っているコリンの肩に、オーシャンは手を添えた。

 「クリービー、貴方は骨折して倒れている所を写真に撮られたら、どんな気持ちがするかしら?」

 ハッとして振り返ったコリン・クリービーを押し退けて、オーシャンは前に出た。今まさにハリーの折れた腕に、ロックハート先生の杖が降り下ろされる所だった。

間一髪、オーシャンが唱える。

 

 「呪いよ、彼の者へ還れ!鏡の呪法!」

 一瞬、ハリーとロックハート先生の間に鏡が張られた様だった。ロックハート先生が唱えた魔法は、跳ね返される。「うわぁぁぁ!」

 情けない悲鳴を上げた先生の杖腕が、だらんと力なく垂れ下がった。ハリーは目を白黒させた。

 

 まるでゴム手袋の様になってしまった先生の腕に驚いたふりをして、オーシャンはわざとらしい声を出した。

 「失礼致しました、ロックハート先生!練習中の、呪いをそのまま跳ね返す呪文が当たってしまって…。それにしても、ロックハート先生は誰かの骨を抜いてしまうおつもりだったのですか?」

 

 ロックハート先生は、前に出てきたオーシャンに無理やり笑顔を作って見せた。オーシャンはハリーを立たせて言った。

 「さあ、ハリー。保健室へ行きましょう。先生も一緒にいかがです?」

 

 

 

 

 

 

 

 医務室へロックハート先生を置いてきて、ハリー達とオーシャンは談話室へ戻った。ハリーの骨折はものの十分で治ったが、ロックハート先生は入院しなければいけないらしい。マダム・ポンフリーがロックハート先生に「一から骨を生やすのですから、今夜は痛いですよ。覚悟してくださいね」と言って、ロックハート先生が青ざめたのを見て、ハーマイオニー以外が笑った。

 

 「おかわいそうに、ロックハート先生。オーシャン、いくらなんでもやりすぎだったわよ」

 寮への帰り道でハーマイオニーがそう言ったので、オーシャンはいつも通り柔らかく、だけどどこか冷ややかな笑顔を見せた。

 「では、ハリーの腕があのままペシャンコにされてた方が良かったかしら?」

 ロンはその言葉にニヤニヤしたが、ハーマイオニーはそれでもまだ納得がいかない様だ。二人が険悪になることを恐れたハリーが、突然話題を変えた。

 

 「オーシャンのあの魔法、スゴかったね!呪いを跳ね返しちゃう魔法があるなんて、僕知らなかった!」

 ハリーの言葉にオーシャンは「大したことないのよ」と笑い、あの呪文が出来上がった経緯について密かに思いを馳せた。

 

 実は「鏡の呪文」は、オーシャン自身が父親に手伝ってもらって作り上げた魔法だった。元はと言えば、幼い頃に近所に住んでる悪ガキどもがふざけて飛ばしてくる火花を跳ね返す為の、いわゆる「バリア」だったのだ。

 しかし火花を跳ね返せば返す程、悪ガキ達は調子にノって更に火花を飛ばしてくるものだから、その内面倒くさくなって使わなくなってしまったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、グリフィンドール塔のハリーの部屋に、ドビーという屋敷しもべ妖精が現れた。

 時を同じくして、医務室にハッフルパフの女子生徒が石化した状態で運び込まれた。トロフィー室の前でダンブルドア校長によって発見された彼女は、手に綺麗な花籠を携えていたそうだ。

 自分の見舞いに来ようとしたせいでファンの一人が襲われたというのに、次の日腕が再生しきったロックハート先生はケロッとしていた。それどころか、襲われたのが自分ではなかった事に、心底安堵した様子だった。

 

 

 






「鏡の呪法」はまじないにするか呪いにするか悩みました。
しかし、まじないにして印を使うと、悪魔の実の能力者みたいな感じになってしまうので、結局ボツにしました笑
もちろん他の真面目な理由もありますが。

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