百合夫婦でもいいじゃない!!
ちょっとだけ甘いお話です
【いい夫婦の日】
今日は11月22日
俗に言う『いい夫婦の日』である
ではそんな日に我らがセリ雪が何をしているのかをご覧いただこう
―――場所は某所、居酒屋一本木
仕事が早めに終わったセリカと雪那は『せっかくだから少しだけ飲んでいこう』という雪那の提案をセリカが断れずに付き合う形となってこの店にやってきていた
今日は引越しの手伝いを請け負った為体はすっかり疲れ切っていた
が、そういう時ほど飲む酒は美味く感じる……というのが雪那の持論である
なので入って早々駆け付け三杯と言わんばかりに雪那は日本酒を徳利で3本開けていた
これでも酔わないのだから本当にザルと言った方がいいのかもしれない
対するセリカはあまり酒は得意ではない(飲めない訳では無いがすぐに酩酊してしまうため避けている)のでウーロン茶で雪那に付き合っていた
万が一二人とも酔ったら帰りが大変になるだろうという考えがあって……なのだが
「お前はずっと茶ばかりだな。つまらなくないのか?」
「雪那が飲んでる姿を見てるだけでも充分飲んでる気分を味わえてますよ」
と、時たま酒を勧めてくるので上手ーくそれをかわしていかなければならないのが面倒ではあった
「しかしまぁ2人がこの町に来てからもう何年だろうねぇ 早いもんだよ」
と、言ってきたのはこの店の女将である
名は名瀬 文代(なぜ ふみよ)
まだ齢30弱といったところなのに1人でこの居酒屋を切り盛りする敏腕女将である
そもそもこの居酒屋はこの町でも数少ない飲み屋でそこそこ繁盛しているとのこと
雪那とセリカは時たま夕食を食べたり飲みに来たりしている
「まぁな……気がつけば早いものだ」
「最初は何でも屋を開く!なんて言われて皆ビックリしたもんだよ 今じゃアンタ達無しじゃ生活が回らないくらいこの町の一部になっちまってるしねぇ」
「それは恐縮です……あ、文代さん。アボカドの漬けください……ほら雪那も何か食べて。ツマミ無しで飲んだら体に悪いっていつも言ってるでしょう」
雪那は癖なのかツマミがなくてもどんどん酒を飲む
それが原因で翌日二日酔いにもなったりするのでセリカは気を回しているわけだ
「あいよ……あぁそうだ。今日は何の日だか知ってるかい?」
「今日、ですか?」
大したことが思いつかないセリカにふふふーと文代は笑って
「今日は11月22日、いい夫婦の日だってさ『お二人さん』」
と悪戯っぽく言ってきた
「なっ!!私たちはだな!夫婦とかではなく!」
と雪那が反発すると
「いやー僕としては夫婦と呼ばれるのは満更じゃないというか……この場合どっちが奥さんなんでしょうね?」
とセリカが茶化す
やはりこの2人
根本からしていいコンビなのである
「まぁボクとしては雪那かお嫁さんの方が……」
「何を言うか。お前の方がよっぽど女らしいだろう」
「それはまぁ……認めますけどね」
確かに女らしさ、という点ではセリカに軍配が上がってしまう
元より根が真っ直ぐな雪那は男よりも男らしくなってしまってる感が強い
逆にセリカは元より『家』では誰よりも美しく気高く女らしく生きろと育てられた為、一人称こそ『 ボク』でありながらその立ち振る舞いは誰よりも女らしく見える
「じゃあ雪那ちゃんが旦那でセリカちゃんが奥さんかぁ……いいじゃないの仲良しで。はーあ、アタシも旦那さん欲しいなぁー」
「昔居たんじゃありませんか」
「あんなん旦那のうちに入らないって……はい、漬けアボカドお待ち」
すい、と二人の前に漬けアボカドが差し出される
色艶ともに良い漬かり具合なのが見て取れる
さっそく2人は箸を取った
「いただきます」
「いただきまーす……やっぱりここの漬けアボカドは最高ですねぇ……」
………………
その後2人はある程度飲み食いして店を出た
その帰路のことである
ふと、セリカが歩みを止めた
「雪那」
「なんだセリカ」
「ボク、貴女に会えて良かったです」
急になんだ、と雪那が言うと
ちょっとね、とセリカは笑い
「あの日、あの時貴女に会って、あの日、あの時貴女に再会して、ボクはずっと幸せでしたよ」
「まるで、もう終わりみたいな言い方だな?」
そう、雪那が言うとセリカはまた笑って
「いいえ、これからも続くんです ずっと、ずーっと!」
と、今日一番の笑顔を見せた
雪那はそれを見て、どこか満足そうに頷き
「そうだな」
とだけ返し、セリカの手を握ると再び歩き出したのだった
End