PS3が楽し過ぎるのがいけないんや……
―――眠れない
虫も眠る丑三つ時、といった午前2時過ぎにセリカはベッドで悩んでいた
『事』を済ませたら雪那はさっさと寝てしまった……というより寝落ちてしまったと言う方が正しいかもしれない
思えば今日は雪那に朝からやたらと力仕事をさせてしまった
仕事を選べる身分では無いが受ける仕事の裁量くらいはしっかりしなければなと反省した
その疲れもあるのか雪那はぐっすり夢の中である
そもそも雪那は寝付きが良い方で寝る気になればどこででもすぐに寝れる方だ セリカはどちらかというと慣れた枕とベッドでないと寝られないタイプだ
なのでたまにこういう不眠じみた事が起きると手持ち無沙汰になってしまうのだ
明日の仕事の再確認でもするか……と、ベッドから抜け出そうと思うと何かが自分のパジャマに引っかかっていることに気がつく
雪那の手である
普段はあんなに気丈に振舞っている彼女でも何かに掴まっていないと安心して寝れないのか……そう思うとなんだか可笑しくなってきてセリカはフフフ、と小さく笑った
とりあえず、とセリカは雪那の指を一本一本丁寧に解いていく
起こさないように慎重にだ
それが終わるとセリカはゆっくりと寝室を出てリビングへと向かう
あくまでも雪那を起こさないように静かにだ
………………
とりあえずコーヒーを煎れてきた
本当は味なんか分からないけどとりあえず飲む時は濃いめの火傷しそうなくらいに熱いブラックとセリカは決めている
テレビをつけてみるもこの時間にやっているのはつまらない三文芝居にも劣るバラエティーばかりだ
見ていてもつまらないので早々に電源を落とした
秋の夜長、とはよく言ったもので実際夜明けまでがとても長く感じる
こんなに長いと考え事等をするにはうってつけである、とセリカは思った
ふと思い返してみればここ数年で色々あったものだ
本家に嫌気が差して逃げ出し、逃げた先で連れ戻しに来た追手である幼なじみの雪那に再会し、二人で逃げる事を選び、そのまま誰も自分たちを知らない土地に逃げ込みそのままその地で便利屋を開き、それもそこそこ食うに困らない程度には繁盛し、今に至る
雪那が追ってきた時は本当に困ったものだ
何しろ如月家は水無月家に仕える一族だ
その命に逆らうのは何よりも重い罪
だけど自分達は家に縛られるよりも自由に生きることを望んだ
だからセリカと雪那はこうして一緒にいる
本当にしがらみを抜けられたのかどうかは分からないけど、こうして二人で静かに暮らせるのなら
こうして何にも縛られることなく自由に生きられるのなら
家を出て良かったと、心から思う
そんなことを考えていながらコーヒーを継ぎ足し継ぎ足し飲んでいたら時刻はもう5時を過ぎていた
セリカはこのまま、起きていようと思った
………………
「おはよう……朝弱いお前が早起きしているとはな」
寝室から出てきた雪那はあくびをしながら声をかけてきた
「珍しく早く起きたんですよ ……1杯いかがです?」
すっ、とコーヒーを雪那に勧めるセリカ
その顔は、少しだけ、晴れやかだった
End