君とボクと   作:律@ひきにーと

4 / 33
【37°Cの恋人】

 

雪那が、風邪を、ひきました

 

「大丈夫ですか雪那?」

 

恐る恐る声をかけると雪那は少し熱のこもった声で答えてくる

 

「大丈夫では、無いな。まさか私が風邪をひくとは少々油断が過ぎたか」

 

「というより最近の気候のせいでしょうね。暑かったり寒かったりと節操ありませんでしたから」

 

そう。最近は異常気象とも取れるレベルで寒暖差が起きていた。

前日より5度寒かったり暑かったりという気温が長く続いたのだ。これでは流石に普段から気を付けていても不意なことで体調を崩してしまうだろう。

 

「そもそも雪那は基礎体温低いんですからちょっとの熱でも大ダメージですねぇ……」

 

「仕方ないだろう……昔からこうなんだ」

 

そう、雪那の基礎体温は35~34°C程度。今の体温は37°Cだがそれでも十分すぎる発熱なのだ

 

「なにか欲しいものとかありますか?して欲しいことでも構いませんが」

 

流石にこの状態の雪那にいつもの調子でいたずらするわけにもいかず、今回は真面目に看護することを決めたセリカ

 

「今は欲しいものは無いが……そうだな、少し離れていてくれないか」

 

雪那はそういうとすこし申し訳なさそうに

 

「お前にまで移すのは悪い」

 

と続けた

 

「分かりました。僕はリビングにいるんで何かあったら呼んでくださいね?」

 

そう言うと、セリカは寝室から静かに出ていった

 

それを見た雪那は少し安堵し、それと同時に少し寂しさを覚えた

風邪のせいだろう 心が弱くなっている そう感じた

 

思えば何かある度に隣にいたのはセリカだった気がする

そう、どんな時も

 

だからこそだろうか、こういう時ほど彼女のぬくもりが恋しくなる

自分で追い出しておきながら都合のいい話だとは思うが

 

「……いかんな 今は」

 

それこそ風邪を移して共倒れではたまったものではない

雪那は寝て体力の回復に務めることにした

 

一方その頃セリカはというと

 

「とりあえず1通り薬とかはありますけど、後は風邪をひいた病人に必要なものって……」

 

そこでふと思いついた。

それを実行するべく早速キッチンへと向かうセリカ

 

思えばこうして風邪をひいた雪那を看病するのはものすごく久しぶりだ。普段から病気も怪我も全くの無縁な雪那だけに

 

「だからこそこういう時ほど甘えてもらいたいんですけどねぇ……」

 

そんな事を言っている合間に目当てのものが完成した

早速雪那の待つ寝室へと持っていく

 

「雪那、起きてますか?」

 

「あぁ」

 

どうやら寝られなかったようだ

雪那は上半身を起こすとコホッと少し咳き込んだ

 

「暑くてな……うまく寝られん」

 

「なら丁度いいものがありますよ」

 

そう言ってセリカが持ってきたのは皿に盛られたすり下ろされたりんごだった

しかし、ただりんごをすりおろしたものではなくかき氷と混ぜてあるというひと手間が加えられた一品だ

仮に呼ぶならりんご氷と言ったところか

 

「これなら体が冷えるでしょう」

 

「あぁ、すまないな」

 

そういうとセリカはスプーンでりんご氷をひと掬いし

 

「はい、口開けてください雪那」

 

雪那は反抗する体力もないのか少しため息をついた後に素直に口を開けた

 

セリカに食べさせてもらいりんご氷を口に入れる

口の中にりんごの甘すっぱさと氷の冷たさが広がっていく

素直に美味と思える

 

「美味しいですか?」

 

ニコニコと問いかけてくるセリカ

 

「あぁ、だが次は自分で食べられる」

 

しかしセリカは譲らず

 

「ダメですよ?病人なんですからもっと甘えないと。それに」

 

「それに?」

 

「こういう機会でないと貴女にこんなに世話を焼くことはありませんからね。幸せです」

 

セリカは心底嬉しそうに笑った

雪那は仕方が無いので今回だけだぞ、とセリカの看病に見を任せることにしたのだった

 

END

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。