「ねぇ雪那」
一日の業務を終え、やっと一息ついた
そんな感じで2人でソファーでコーヒーを飲んでいた時、セリカが声をかけた
雪那は飲みかけのコーヒーをテーブルに置くと、少し面倒くさそうに、なんだ、と聞き返す
こういう時のセリカの言う言葉は大体面倒くさいものと相場が決まっていたからだ
「キスしていいですか?」
やっぱり(雪那的に)面倒くさいものだった
よりによってこの疲れてる時になんだと雪那は思った
「いやだって一日お仕事頑張りましたしーその分雪那分が足りないというか」
「なんだそのワケのわからない成分は。私を栄養源にするな」
疲れてるからだろうか、セリカがワケのわからない事を言い出した
「えー……実際栄養貰ってるようなものでしょう。雪那が仕事でいない時の僕なんて栄養足りなくて本当ぐんにゃりしてますよ」
「そのまま萎びていけばいいのにな」
「軽く酷い事言われてません?」
まぁセリカが萎びるか萎びないかは別として
「なんでキスなんだ」
「人間は栄養を口から補給するものです。つまり雪那分を補給するにはマウスツーマウスしかないということです」
何故かキリッとした顔で言い切るセリカ
本当に疲れているのだろうか もしかしたらコイツ余力あるんじゃないだろうか……と疑いにかかる雪那
そんな雪那の気持ちを知ってか知らずか雪那の肩にしなだれ掛かるように寄りかかってくるセリカ
「ほらー早くしないと僕萎びちゃいますよ?」
「萎びればいいだろう」
「嫁から愛を感じられませーん……」
「誰が嫁だ誰が」
そこでふと思いついたことがあるので雪那は聞いてみることにした
「そもそもお前、そんなにキスが好きなのか?」
日頃暮らしている時にいつも何かしらのことでキスを求められる
おはようのキス、いってらっしゃいのキス、ただいまのキス、夜寝る前のキス、etc.etc.
とにかくことある事にキスしている気がする
そんなにキスばかりして嫌にならないのか……雪那自身は嫌ではないというかまんざらではないと言った感じだが、と考えた自分が嫌になり頭を降ってその思考を振り払う
「そりゃあ雪那が好きですからキスしたくなりますよ」
「またそういうことを素面で言う」
「本気ですよ?」
じっとこちらを見つめてくるセリカ
その緋色の深い瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚える
「だからってキスしてはやらんぞ」
「えー……じゃあ実力行使で」
そう言うとセリカはガバッと雪那を一気に押し倒してその身に覆い被さる
こういう時の身のこなしは上手いのだセリカは
知らぬ間に両手まで押さえつけられていて逃げようがない
真上からまっすぐに見つめられる、目を逸らすことすら許されない感じがした
しょうがない、と雪那は一息嘆息すると
「好きにしろ」
「はい、好きにします」
どうやら残業の方が長くなりそうだ、と思った雪那の唇にセリカが重なった
End