雪那は猫のようだ、とセリカは思っている
気まぐれに甘えてきては、すぐ突き放してくる
そしてまた甘えてくる
この態度は一緒に暮らし始めて何年経っても変わらないし、本人も多分変えられないのだと思う
一度染み付いた習慣を変えることが難しいのと同じように、人との距離感もそう簡単に変えられるものではない
きっとこれが雪那にとってのセリカに対しての適切な距離感なのだと、セリカは理解していた
だからこそ、雪那が甘えてきた時は全力で構い倒すし、離れた時は深追いせずに見守る
しかしそんな距離感が寂しく感じる時が、無いわけでもない
いつも何ともない風に振舞っていても心の奥底では淀んでいくものなのだと
ここ数年で知らされたのも事実である
今日はそんなセリカ流の雪那の構い方の1日のお話
「雪那ー」
「なんだ」
セリカの呼びかけに答える雪那の声はどこか不機嫌そうで
セリカは「これは何かあったな」と察した
「どうかしましたか?」
「いや……本家から手紙がな」
「あぁ、お義父さまから……」
「その通りだ」
不機嫌になる、ということは相当苦言でもあったのか、とセリカは思い雪那の目の前にあった手紙をさっと取って読んでみる
雪那が「あっ」とか「読むな馬鹿」とか言っているが無視
手紙一つで不機嫌になるほどなのだから相当な事が……と思い読み進めるととある文面に目が止まる
「えーっと……『早く孫の顔が見たい その辺は考えるつもりは無いのか』」
「だから読むなと言ったんだ!」
あー……とセリカは納得
科学の進歩した現在、同性同士で子供を産むことは不可能ではなくなっている
もちろんそれに関する偏見などもとうの昔に消え去っている
それ故に恋人と二人で暮らしている雪那に対して親がそういうのは当然の帰結であり……
「それで不機嫌だったと」
「だから読むなと言ったんだ……」
頭痛でもするのかと額を押さえる雪那
セリカはニコニコしながら言う
「まぁボクもお祖母様からいろいろ言われてはいましたが……」
「言われていたのか……」
言われていた
「ひ孫の顔はいつ見れるのかしら?」とか「結婚式には呼んで頂戴」とかやたらウキウキとした表情が浮かぶ
もちろんセリカとしてもそこら辺を考えていなかった訳では無い
いつかは……と考えていてそれのタイミングが今まで無かっただけだ
「なんなら作っちゃいます?子供」
「なっ!?」
みるみるうちに真っ赤に染まる雪那の顔
そんな雪那の顔が面白くて畳み掛けるように続けるセリカ
「まぁボクも子供はいつか作らなきゃなぁと考えてましたし両家からこんなに望まれているならそれに応えるのはボク達の役目でしょうし」
「あー……その……うん……」
すっかり黙りこくってしまう雪那
その姿を見てセリカは少し残念そうに
「いらないんですか?子供」
すると雪那はガバッと顔を上げて真っ赤な顔のまま
「そんなことない!!私だってお前の子供なら幾らでも産んで……そもそも子供自体はいつかは作らなきゃならんと考えていたし機会がなくって言い出せなくってそもそもお前はいつも二人で入れれば満足だとか言うから私は……それが、言い出せなく、って」
と言いかけたところで雪那の口が止まる
「なるほどー それが雪那の本心ってわけですね」
「いやっ ちが、ちがわ……ないけど」
ぷしゅーっと蒸気でも出るんじゃないかというくらい真っ赤に染まる雪那
セリカはそんな雪那の姿がいとおしくてたまらなくなってしまう
いつも、デレる時は唐突なのだ、雪那は
「まぁ、子供のことは後で考えましょう そんな急に答えを出すようなことではないですしね」
「あ、あぁ……そうだな」
「そ・れ・よ・り」
セリカは雪那をぎゅっと抱きしめ、その耳元で囁く
「せっかくですし、します?赤ちゃん作る、れ・ん・し・ゅ・う・♪」
「ば、馬鹿!」
雪那はばっと抱きつく腕を振り払う
「あらあらフラれちゃいましたか」
「いや、そういうわけじゃなくて、こういう流れで言われたら誰だって恥ずかし」
「そういう顔が見たいからこういうタイミングで言ったんですが?」
「阿呆が!」
そんな雪那の頬に手を添えて、セリカは甘い声で問いかける
「嫌?」
「嫌……じゃ、ない」
「よろしい」
そう言うとセリカは雪那をソファーに優しく押し倒した
End