君とボクと   作:律@ひきにーと

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【 キスも上手くなったから 】

「雪那、キス上手くなりましたよね」

 

もう何度目か分からない口づけの後にセリカがそう言った

雪那はかぁっと頬を赤らめそれを必死に否定する

 

「いや、普通だろう!そもそもあんなに毎日何度もしてれば自然と上手くも……」

 

そこまで言ったあたりで真赤になってうつむく雪那

セリカはそんな雪那がたまらなく愛おしく思えてそっと抱き寄せた

 

「上手くなる分には問題ないんですよ それをボクだけに向けてくれればいいですし」

 

「そんなの……私にはお前しか」

 

そう言いかけたところで雪那の唇にセリカの指が置かれる

 

「分かってますよ 再確認しただけです」

 

確認したくなるのは何故か

この人が自分を想ってくれている気持ちを疑うことなんかないのに

 

何故かたまにこうやって試すようなことをしてしまう

 

不安だからだろうか

同性だから

 

そんなことは問題にならないともう何とも確認しているはずなのに

 

あぁ、自分は不安なのでは無い

ただ確かめたいだけなのだ

 

今あるこの幸せが、本当に現実なのかと

 

地獄のようだった『家』での仕打ち

それでも耐えられたのは彼女が側にいたから

 

家を飛び出した後に彼女が追いかけてきてくれた時は安心感を覚えた

 

そしてそのまま2人で逃げる道を選んでくれた時は未来が開けたと思ったものだ

 

そのまま2人を誰も知らない街にやって来て、2人で開業して、二人で暮らしている

 

これ以上の幸せがあるだろうか

 

そしてこの幸せがもし幻だったとしたら

 

自分はきっと立ち直れない

 

だからこそ確認するのだ

 

彼女とのつながりを

 

「雪那の気持ちはちゃんと伝わってますよ ちょっと、いじわるしたくなっただけです」

 

「お前はいつもそうだな」

 

雪那は肩をすくめてみせる

セリカはその姿を見てクスクスと笑い

 

「僕は怖がりですから ちゃんと確認しないと、怖いんですよ」

 

そう言って笑うセリカの顔に、少しだけ影が見えた

それを雪那が見逃すはずもなく、雪那はセリカの頭をぽんぽんと優しく叩いた

 

「何するんです」

 

「なに、寂しがりが寂しそうな顔をするものだからな 慰めてやろうとな」

 

「別に僕は寂しくなんか……」

 

「顔は口ほどにものを言うものだぞ」

 

そう言われるとセリカははははと力無く笑い

 

「バレちゃいますか」

 

「当たり前だ お前とどれほど付き合ってると思う」

 

雪那はさも当たり前のように言ってのける

 

「じゃあこういう時はどうすればいいかも?」

 

「こう、だろう?」

 

雪那はセリカの頭を掴むとぐい、と引き寄せてそのままキスをした

 

キスするだけでなく、舌も絡め、合わせ、唾液も交わす

 

言葉よりも伝わることはあるのだと、そう語るかのような情熱的なキス

 

少しして口を離すと、二人の間に唾液の橋が名残惜しそうにかかる

 

片時も離れていたくない、そんな気がして

 

「……上手くなりすぎのも考えものですね」

 

「うるさい」

 

ふたりはそのまま重なった


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