君とボクと   作:律@ひきにーと

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【 不味くても笑って美味しいなんて絶対言わない 】

「……よし!」

 

時刻は午前2時、普段ならとっくにベッドに入っている時間だが雪那はキッチンに立っていた

 

今日は2月14日

そう、バレンタインデーだ

 

去年まではあまりこういう洋菓子を作るのが得意ではなかった雪那は市販品を買ってセリカに渡していたのだが、今年は一念発起して手作りの品を渡そうと思ったのだ

 

そして何の偶然なのか、それはいとも簡単に完成してしまった

 

「(あっけなさすぎる……まさかしくじったか……?)」

 

そんな筈はない、とレシピ本を見返して材料や工程を見直す

しかし間違ったところは一切見当たらなかった

つまり

 

「(これで完成……なんだ、意外と簡単じゃないか)」

 

雪那が作ったのは生チョコ

比較的難易度が低いものだった

 

しかしそれでも初めて作ったのに成功するとは、雪那の手腕がいいのかそれとも偶然か

 

とりあえずこれはセリカにバレないようにと冷蔵庫の奥の方へと押しやる

これで一安心

 

寝室に戻ると、なんの違和感も感じずにすやすやと眠るセリカの姿

抱き着いて寝ていたのだからそれが離れた時くらい違和感を感じて目が覚めてもいいものを

 

まぁ今日はそれが好都合か……

と、ベッドに戻る雪那

 

その時セリカの口の端がわずかに歪んだ気がした

 

 

翌日

 

 

一日の業務を終え、家へと帰ってきた2人

とりあえずは着替えて、ゆっくりしよう……というところに雪那がなにやら落ち着かない様子

 

セリカはそんな雪那の様子を見て何かあったのかと聞くが、雪那は何でもないと答える

 

セリカはふふっと笑い

「そういえば今日はバレンタインでしたね」

 

と、何の前振りもなく言ってきた

雪那はドキッとしたがそれをおくびにも出さずに

 

「あぁ、そうだったな」

 

と答える

あくまでも動揺を顔には出さず平成を装っておく

 

「じゃあ冷蔵庫に入ってるチョコは僕宛ってことでいいですよね?」

 

と、何の迷いもなく核心を突いてくる

 

「なんで自分宛だと分かるんだ」

 

「だって雪那がボク以外にチョコあげるなんて考えられないじゃないですか」

 

「ぐっ……」

 

当たり前である

セリカが雪那が一番であるように雪那にとってもセリカが一番

渡す相手など初めから決まってて当然なのだから

 

「仕方ないな……ほら」

 

雪那は冷蔵庫からチョコの入った箱を取り出すとセリカにすっと差し出した

 

「いやー愛する人からチョコがもらえるなんてボクは幸せだなぁ」

 

「うるさい、いいから食え」

 

「はいはい」

 

セリカの茶化したセリフすら恥ずかしくて雪那は早く食べるように急かす

 

セリカは慣れた手つきで箱をを開けると生チョコをひとつまみして口へと放り込む

 

「いやー嬉しいですねぇ」

 

ニコニコとした心からの笑顔 とても満足しているようだ

しかし……?

 

「おい」

 

「なんです?」

 

「美味いのか不味いのかどっちだ?」

 

セリカは味に関しては何も言っていない

ただニコニコとはしているだけである

 

つまり……

 

「まさか……」

 

と思い雪那は自分の作ったチョコを口へと入れると

 

「うっ……苦いなこれは……」

 

そう、苦かった

 

どうやら雪那は調理用チョコに砂糖が入ってないのに気付かず砂糖を入れ忘れたらしく相当ビターなチョコに仕上がっていたのだ

 

なのにセリカのこの笑顔

 

「……お前は何があっても文句を言わんな」

 

「そりゃあ愛する人が丹精込めて作ってくれたものにケチをつけるなんてナンセンスですよ」

 

といいもう一口

 

「はぁ……慣れないことはするものじゃないな」

 

「いえ、その気持ちだけでもとてもありがたいですしうれしいですよ?」

 

するとセリカは手を伸ばすと雪那の顎を持ち上げて

 

「なのでお返しは用意してありますから、期待しててくださいね?」

 

と、優しく微笑んだ

 

その笑顔だけでなんだか胸がいっぱいになってしまった雪那はその手を振り払うことすら忘れて

 

「わかった……」

 

と、ただ俯くばかりなのだった

 

happy Valentine!!


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