君とボクと   作:律@ひきにーと

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【 そういう目で見ていいですか 】

風呂上がり、一日の物事が終わって一番くつろげる時間

そんな時間は雪那とて例外ではなく

 

「ふぅ……」

 

髪をバスタオルで拭きながらリビングでくつろいでいた

見ているのは何の面白みもないテレビのバライティ番組

 

この際内容はどうでも良く、暇を潰せさえすればいいのだということだ

 

なぜ暇を潰すのかといえば、今はセリカが風呂に入っているからだ

 

普段から一緒にいて、普段からほぼ常に会話して過ごしているのでセリカのいない時間は持て余し気味になる雪那だった

 

一緒に入ってしまえば、と思うだろうが……

 

「(正直、私には目の毒すぎる)」

 

そう、普段『事』に及ぶ時は部屋を薄暗くしているのではっきりとお互いの体を見ることはないので風呂場のようなしっかりと照らされた下で見るセリカの肢体は、正直直視できないくらい雪那には恥ずかしかったのだ

 

「(……とはいえ、やはり慣れなければならないのか)」

 

そう、もう一段階踏み込んでみるのもいいのではないか?

これからは部屋も明るくしてはっきりとお互いを見れるようにして……と考えたあたりで雪那は頭を振ってその考えを払拭する

 

まるでそれでは

 

「(私がセリカの……をはっきり見たいようではないか!)」

 

要はそういうことなのだがそこは堅物大和撫子な雪那

そういう不埒な考えが許せないのか

 

「(しかしお互いを信頼してるならこそだな……あぁ私は何を考えているんだ……)」

 

悶々と考えは巡る

巡り廻って一周して再び雪那にその事実を突きつける

不埒な考えをしていた自分のことを

 

「(あぁもう……とりあえず落ち着くか……)」

 

とりあえず頭を冷やすために台所に水を取りに行くことにした

 

台所に向かう途中にふと考えが浮かぶ

 

「(悩むのも馬鹿馬鹿しい はっきり言えばいい 何を悩む必要がある 私達は)」

 

その先を考えたところでかぁっと顔が熱くなるのを感じた

何度聞いても言われても考えても思っても、恋人という響きに慣れない自分に恥ずかしさを感じる

 

「(しっかりしろ……私達は恋人なんだ そしてその相手をしっかり目で見たいということは何もおかしくはない)」

 

水を飲んで頭を冷やすつもりが余計に考えが回ってきてクラクラしてくる

 

そこに

 

「せ、つ、な」

 

「ひぁぅ!?」

 

背後から、耳元に当たる吐息と声

 

素っ頓狂な声を出してしまう雪那

 

振り向けば風呂から上がってきたセリカがそこにいた

 

「な、なんだ……もう上がったのか」

 

「はい、いいお湯でした……ところで雪那」

 

「なんだ」

 

セリカは雪那の頬に手を当てる

まだ熱気を帯びたすこし湿った手は雪那の頬に吸い付く

 

そのまま愛おしむように少し撫でると

 

「何か、考えてましたね?しかもボクのこと」

 

と、見事ズバリと核心を突いてきた

 

「な、なんで知ってる」

 

セリカはクスッと笑うとそのまま頬を撫で続け

 

「上気した頬、飲んでるのはお水、大方エッチな事考えてそれを振り払うためにお水飲んで頭冷やそうとしたんでしょう」

 

「ぐっ……」

 

大当たり

セリカには何もかもお見通しなのか、と雪那は肩を落とす

 

「素直に言った方がスムーズに進むと思いますよ?」

 

セリカは頬を撫でる手を下へ、雪那の鎖骨のあたりへと這わせる

 

「さて、何考えてたんですか?」

 

鎖骨の形を確かめる様になぞられる手先に、雪那はぞくぞくするような感覚を覚えながらもその手をやんわりと振り払って

 

「……後で言う」

 

「えー……今聞かせてくださいよー」

 

食い下がるセリカ

しかし雪那はこのまま相手のペースに乗せられてはダメだと思い口を噤む

 

するとセリカはニヤッと笑う

 

「まぁ雪那がボクのことをそういう目で見てるのが分かっただけでも僕は嬉しいですけどね」

 

「そういう目ってなんだ……」

 

「エッチな意味で♪」

 

「くぅ……」

 

当たっているだけに言い返せない

 

「まぁそれは後で聞かせてもらいますよ……ゆっくりね」

 

「わかったよ……笑うなよ」

 

「笑いませんって」

 

そう言いながらリビングに戻る雪那の足取りは重く、対照的にセリカは軽く見えた

 

End

 


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