君とボクと   作:律@ひきにーと

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【 薬指に愛を灯して 】

ジングルベールジングルベール鈴が……

と、町中で歌が鳴り響く

 

そう、今日は12月25日

クリスマスの日だ

 

皆が皆浮かれ騒ぐこの日、セリカと雪那は商店街に買い物に出ていた

目的は勿論ケーキとチキンである

 

なんだかんだ言って雪那が西洋の催し物であるクリスマスもしっかり祝うようになったのは毎年それを話題に出し強引に誘うセリカのせいだったりする

 

雪那自身あまり催し事には疎くてつい無視してしまうこともあったのだが、セリカと一緒に暮らすようになってからというもの何かと催し事の度に誘われ仕方なく付き合う……という形が出来上がってしまっていた

 

だが、今年の雪那は違った

 

「(そうだ 今年は違うぞ)」

 

そう、今年は

 

「(今年はちゃんとプレゼントを用意したのだからな!)」

 

そう、毎年毎年クリスマスのプレゼントは雪那が貰ってからセリカにお返しに買っていたのだが今年は先にプレゼントを買っておいたのだ

 

それも……

 

「(これならセリカも驚くだろう)」

 

ペアリングである

あの貴金属に疎い雪那がペアリングを買ってきたのである

 

この事実だけでもセリカは大いに驚くに違いない

 

「(だが問題は……)」

 

いつ渡すか、である

 

理想的なのは食事の後などにスマートに渡すことだが意外とタイミングが掴めないかもしれない

 

ならば……

 

「(いっそ外で渡してしまえ……と思ったわけだが)」

 

持ってきてしまったのである、指輪を

しかしこれがまたタイミングが掴みにくい

 

どこかで休憩した時に渡せばいいのだろうけど今回に限ってそんな仕草が全くないのだ

むしろこのまま家に帰ってしまうかもしれない

 

しかしそれではまたタイミングを逃してしまうかもしれない

いつ渡す?今でしょ?

等と葛藤していると、唐突にセリカが顔を覗き込んできた

 

「雪那?どこか具合でも悪いんですか?」

 

「あ、いや……そんなことはないぞ 元気だ、うん」

 

「そうですか……いやー何か思い悩んでるなーと思いまして」

 

図星を突かれた

が、かろうじてそれを表情に出さなかった雪那はうまくそれをかわす

 

「そういえば買い物はこれで全部か?」

 

「そうですね これで全部です ただ……」

 

「ただ?」

 

と、聞き返す雪那にセリカはクスッと笑い

 

「せっかくだから大通りのクリスマスツリー、見ていきましょうよ」

 

「(チャンスだ!?)」

 

と、雪那は思った

 

クリスマスにクリスマスツリーの下で指輪を渡す、最高のシチュエーションではないか、と

むしろこの機会に渡さずいつ渡すのかとも思った

 

セリカの言葉に雪那はうなずき

 

「あぁ、お前が見たいなら寄っていこう」

 

と、返した

 

そして歩き出す2人

雪那は頭の中で何度も何度も予行演習をしていた

 

ツリーの下で、浪漫ある台詞と共に指輪を渡す

可能ならその場で指にはめてやるのが実にロマンティックというやつではないのか

 

普段から色々と無理をさせているのだからそれを労う台詞などと一緒に渡すべきか

いやせっかくのクリスマスなのだから愛の言葉とともに……等と考えているうちに大通りに着いた

 

目の前には見事に大きなクリスマスツリー

実に見事にイルミネーションされていて綺麗にきらびやかに周囲を彩っている

クリスマスの夜に見るには実に浪漫溢れるものだろう

 

「キレイですねーやっぱり」

 

「あぁ、そうだな」

 

イルミネーションを見て、楽しそうに微笑むセリカ

その横顔を見て雪那は覚悟を決める

 

渡すなら今しかない

 

「セリカ」

 

「はい?」

 

雪那はセリカの左手を取ると、ポケットから取り出した指輪を嵌めようとして……

 

嵌らない

 

「えっ」

 

嵌らないのだ

 

「そんな馬鹿な……」

 

どうやらサイズを間違えて買ってしまったようで雪那は愕然とする

 

一方セリカはというと

 

「雪那、もう片方貸してください」

 

「は?」

 

「いいから、早く」

 

言われるがままにもう片方の指輪をセリカに渡す雪那

 

セリカはニッコリと笑い

 

「渡す方を間違えましたね?」

 

と、自身の左手の薬指に指輪を嵌めて見せた

 

そう

 

雪那は指輪を自分が嵌める方とセリカが嵌める方を逆にしてしまっていたのだ

 

実はセリカの方が指は太くて雪那の指は細い

これは豆知識

 

なので嵌らなくて当然、である

 

雪那はガックリと肩を落とした

 

「せっかく黙って買ったのに……渡す時にこんなことに……私という奴は……」

 

「あはははは! まぁいいじゃないですか」

 

と言うとセリカはもう片方の指輪を、雪那の左手の薬指にそっと嵌めた

 

「雪那が何かしようとしてくれた気持ちだけでも嬉しいですし、雪那が考えて買ってくれたんだなってのも伝わりますよ この指輪のデザイン、ボクが好きそうですもんね」

 

指輪は特に飾りのないシンプルなデザインのシルバーリングだった

セリカはアクセサリーはあまり凝ったデザインは好まない

その好みを把握してでの選択である

 

「嬉しいんですよ?貴女がボクのことを考えてプレゼントをくれた事が」

 

「だが土壇場でドジを踏んでしまっては格好がつかんよ」

 

「格好なんてどうでもいいんですよ……ほら」

 

雪那の左手に自身の左手を重ね、セリカは優しく笑う

 

「お互い、似合ってます?」

 

雪那はその笑顔を見たら、自分の失敗とか何もかもがどうでもよくなって同じように笑い

 

「あぁ、とっても良く似合うさ 私が選んだものだからな」

 

と言った

 

「大事にしますよ、これ」

 

「シルバーは手入れが面倒だからな 大事にしなければならん」

 

「もー そういうことじゃないですよ」

 

と、2人は手を繋ぎ家路に付いた

 

左手の薬指には銀の指輪

美しくも儚い

二人の愛の証

 

End

 


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