「うーん……」
「何悩んでるんですか雪那」
仕事も終わり家でゆっくりしている、そんな時に雑誌とにらめっこしながらうんうん唸る雪那が心配になってセリカは声をかけた
すると雪那ははぁ……と溜息を吐いた
なにか悩み事か……と思い雪那の持っている雑誌のページをチラッと見るとこんな文字が目に入った
「高級包丁泉白雅 究極の切れ味をアナタに……」
つまり雪那はおそらく
「これを買おうかどうか悩んでいた、と」
「そうなんだ」
雪那は本当に超が付くほどの刃物フェチだ
1日1回必ず愛刀である霊刀『雪風』の手入れは欠かさないし、包丁やナイフは少しでも切れ味が落ちようものなら自身の手で研ぎ上げる
時々刃物を見て悦に浸っている姿をみるとこの人本当アブナイ人なんじゃないだろうか、と思ってしまう時もある
それくらい雪那は刃物類にはご執心で、それを集めるのが彼女の趣味で生きがいと言えるのだが……
「なんで悩んでたんです?いつもならすぐ買っちゃうじゃないですか」
「それが、値段が、な」
どれどれ、と雪那の指さす白雅・桜花折という包丁の値段を見てみると……
「千、万……十九万!?包丁一本にこんな値段するんですか!?」
セリカには全く理解出来ない額だった
包丁なんて切れればいいしそれ単体の価値なんて最低限それなりのものであればいいだろうというものだ
なのだがこの包丁、一本で198000円というべらぼうなお値段が付いている
説明文を読んでみるとどうやら本物の料理人が使う為のものとして作られるもので、大量生産品の包丁とは違い職人が一本一本手作りしているとのことだ
なるほどそれならこの値段もうなずける、と考えたあたりで大分雪那に毒されてるなと思ったセリカ
「要するにお値段が高くて手が届かない、と」
「うむ、7割は出せるが残りがな……しかもこの包丁は期間限定完全受注生産品なんだ 今を逃したら二度と買えん」
この値段の7割も溜め込んでいたのか……と感心するセリカ
まぁ毎月毎月困らない程度にはお小遣いを渡しているのでこういう時のために貯めていていたのだろう
しかし今回これが出たのは完全に予想外だったようで出費が追いつかない、というわけである
「それにこれは万能包丁だ こういう職人のもので万能包丁が出るのは珍しい」
「あぁ、確かに職人さんが作る物ってちゃんと用途が分かれてるものを作りますよね」
「かなりの貴重品だ それを逃すのは……だが金が……」
ふたたびうーんうーんと悩み始める雪那
その姿が面白くてもう少し悩む姿を見ていたい気もしたが、気の毒なのでセリカは助け舟を出すことにした
「なら、残りは僕が出しましょうか」
「いや、それは……」
「ただし!条件があります!」
まぁ、タダというわけにはいかないだろうと思った雪那はその条件とやらを聞いてみた
「その包丁でボクに美味しいご飯を作ってください♪」
「そんなことでいいのか」
何だそんなことか……と思った雪那だったが更に!とセリカが出してきた条件は
「裸エプロンで♪」
「は、裸エプロン?」
こういう事に疎い雪那はつい聞き返してしまった
まぁ言葉からどんなものなのかはだいたい想像はついたのだが
そしてそれを聞いて頭の中をぐるぐると考えが巡る
恥ずかしい
しかし包丁は欲しい
しかし恥ずかしい
しかし包丁は―――
雪那が下した決断は……
後日
「雪那、届きましたよ」
「本当か!」
セリカの渡してきた荷物を手に取ると早速と封を切る
すると桐の箱に丁寧に納められた包丁が姿を現した
顔が鏡のようにはっきりと映り込むほど磨きあげられた刀身、まるでそれは銀色の芸術……
そんな素晴らしい逸品にほう……とため息の漏れる雪那
その後ろでセリカはニコニコと笑っていた
「約束、忘れてませんよね?」
ビクッとする雪那
「も、勿論だ」
雪那の羞恥の料理はここから始まるのだった……
End
せっちゃんの裸エプロン料理姿は各自で脳内保管してください……
私にはここまでが限界です……げふっ