君とボクと   作:律@ひきにーと

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【はいそうです好きです】

いつもと変わらない昼下がり

お互いリビングでくつろいでいる最中に雪那がおもむろに言った

 

「なぁセリカ」

 

「なんです雪那?デートのお誘いならダメですよ 今日は家でくつろぐと言ったのは貴女なんですから」

 

「いや、そうじゃなくてだな。少し見てもらいたいものがあってだな」

 

見てもらいたいものがある

雪那がそんなことを言うのはとても珍しい

セリカは聞き返した

 

「あー それは僕が興味ありそうなものですか?」

 

「あると思うぞ……多分」

 

ちょっと自信なさげに雪那が答える

実際問題こういう時に自分が興味無いものを見せられてもあまりうまく反応できないものだ

 

以前も新しい包丁を買った、すごく良く切れるし刃が非常に美しいだのと刃物フェチ?の雪那らしい喜び方をされ、それに共感を求められるのはセリカ的には少々、いやかなりキツかった

 

なので今回はあらかじめ予防線を張っておいたのだ

 

「ちょっと待っていろ。すぐ用意してくる」

 

そういうと雪那は寝室へと引っ込んでしまった

セリカは仕方が無いので待つことにしたのだった

 

~十数分後~

 

「出来たぞ 入ってこい」

 

少し脳内で今夜はどう雪那と過ごそうか、などと考えていたらあっという間に時が経っていた

雪那からの呼び声に現実に戻されたセリカははっとなり、寝室へと足を伸ばした

 

ドアを開け、中に入るとそこには

 

「どうだ……?浴衣を新調したんだ」

 

浴衣姿の雪那がいた

着ている浴衣は白を基調にしたもので蝶の模様が黒で描かれていた

雪那らしい落ち着いたイメージのものになっている

 

「好きだろう?浴衣はお前にウケがいいからな」

 

「はいそうです好きです大好きです」

 

もちろんセリカは即答した

普段から古き良き大和撫子を体現したような雪那には浴衣が本当に似合うのだとセリカは思っている

 

実際浴衣はよく似合っていた

浴衣に着られることなく見事に着こなしている

落ち着いた浴衣のイメージとクールな雪那の組み合わせは実によく合っている

 

その姿をよく目に焼き付けようとじっくりと眺めていると、雪那が少し口ごもりながら

 

「ただな、問題がある」

 

と言ってきた

 

問題とは何だろうか

セリカは聞き返した

 

「問題とは?」

 

すると雪那は恥ずかしそうに、

 

「脱げないんだ、自分1人だと」

 

とだけ言った

 

「いつもお前が脱がすだろう。だから私は自分での脱ぎ方などとうに忘れてしまってだな、その」

 

「みなまで言わないでくださいよ」

 

そういうとセリカは雪那を実にスムーズな動作でベッドに押し倒した

 

余程勇気を出したのだろう

よく見れば恥ずかしさからだろうか、雪那の耳は真っ赤に染まっており頬もそれに準じている

 

そもそも浴衣を見せるなら今でなくてもいい

それこそ夕暮れ時に着て見せればいいだけのことだ

 

要は不器用な雪那なりの構って欲しいというアピールだったのだ

セリカとしてはそれを無下にするわけにはいかない

 

さて、どうしてくれようか……と考えるセリカの耳元で雪那がこう言った

 

「こういうのが好きなんだろう?」

 

セリカは勿論、と頷き

 

「はいそうです好きです 貴女のことが」

 

End

 

 

 

 

 

 

 

 


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