IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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8話

「ん……?」

物音に目を覚ますと見慣れない天井が見えた。……あぁ、そういえばシャルロット・デュノアの家に泊めてもらったんだった……。流石に背中が痛い。

 

『ご、ごめんなさい……うるさかったですか?』

首だけを回して声の方を見ると、エプロンを来た彼女が立っていた。手にはフライ返しを持っている。朝食の用意をしていたらしい。その物音でダイニングで寝ていた俺が目を覚ましてしまったと。

 

『いや……おはよう……』

 

申し訳なさそうな彼女に挨拶を返しながら、隣に寝ているであろう森本さんの方に目をやる。だが、そこには既に彼の姿は無かった。

 

「おはようございます、秀人さん」

 

すぐ近くから声が聞こえてきた。

 

「おはようございます……」

「先に朝ごはん頂いてます。『デュノアさん、これ凄く美味しいですね!』」

『あ、ありがとうございます……』

 

日本語で俺に話しかけながら、フランス語でシャルロットに声を掛ける森本さん。昨日に引き続いてシャルロットはもじもじと照れたように身体の前で両手を弄っている。

折角なら俺も起こして一緒にご馳走になほうよ……森本さん。そういえば彼がポンコツなのは昨日の段階で嫌というほど認識していた。諦めるしかないか……。

 

俺も起きるか。大きく伸びをするとポキポキと骨がなる音がした。フローリングの上で寝るなんて何年ぶりだろうか。前世ならしょっちゅうやっていたが、畳に慣れてしまった今では身体中が悲鳴を上げているのが分かる。

 

『だ、大丈夫……?』

『あぁ……悪いんだけど、俺にも何か食べる物ある?』

『う、うん……貴方の分の朝ごはんも作ったけど……』

『そうか、ありがとう。掛かった分のお金は後で森本さんにでも請求してくれ』

 

「えっ!?」とハムを咥えた森本さんが驚いた表情を俺に向けてくる。違うから。経費として計上してってことだから。だからそんな心配そうな顔で俺の方を見てこないでください。

俺は森本さんのポンコツ加減に頭を抱えたくなりながら、席につく。食卓の上にはパンとハムエッグと簡単なサラダが並んでいた。

 

「いただきます」

フォークを使って食事を摂る。和食でない朝ごはんも久しぶりだ。うん、美味しい。シャルロットはもう食べたのかな。

黙々と食事を口を運んでいると、森本さんが口を開いた。

 

『秀人さん、今日はどうされますか?』

『えーっと、とりあえずデュノアさんが契約書を書き終わるのを待って……』

『あの……もう書き終わりました』

『えっ?』

 

そう言って彼女は一旦自分の部屋に戻ると、紙の束を抱えて戻ってきた。受け取ってみると、数十枚に及ぶ契約書の全てに丁寧な字でサインがしてあった。彼女の方をチラッと見ると僅かに目元に隈が出来ていた。1晩で仕上げたのか。その真面目さは敬意に値する。ただ……。

 

『姓が違う。これでは契約が効力を発揮できない』

 

一通り目を通した俺はそう言って、彼女に契約書を突き返した。そう、サイン欄には『シャルロット・リシャール』と母方の姓が使われてあったのだ。『シャルロット』なんてヨーロッパではありふれた名前であり、苗字が違えば全くの別人が該当してしまうことになる。そもそも本当の苗字を昨日教え、それからも彼女を呼ぶときはフルネームか苗字だったのに、何故『デュノア』を使わないのか。俺は彼女を睨みつける。すると、僅かにたじろぎながらも、彼女は俺の方を見つめ返してきた。

 

『まだ私が『デュノア』であるという説明をして頂いていません』

『……説明すればフルネームを書くのか?』

 

こくん、と彼女が頷く。それなら、これ以上揉めるより説明した方が早い。

そう判断した俺は、原作によって知っていた情報に加え、紺野重工の情報部が手に入れた詳しい経緯を掻い摘んで彼女に説明した。

具体的には、シャルロットの母親とデュノア社長が15年程前に愛人関係にあったこと。だが、シャルロットを妊娠したことによりその関係がこじれ、手切れ金と共に社長が一方的に関係を解消したこと。以来シャルロットの母親は現在の場所に引越し、1人で彼女を育ててきたことを時系列に沿って説明した。

 

『そんな……』

 

話を聞いたシャルロットは俯いて両手を握りしめている。確かに13歳の少女が知るにはいささか重すぎる内容だろう。だが、いつか知る事実。原作では母親が死んでしまった後という最悪のタイミングてその事実を知ることになるのだ。それに比べれば、昨日初めてあった知らない外国人の子どもに教えられた方がまだマシじゃないだろうか。……マシだよね?

 

『……貴方はどうしてそのことを知ってるんですか?』

シャルロットから尤もな質問が飛んでくる。

 

『あぁ、実はデュノア社からIS開発に関するデータを入手しようと思ってな。フランスに紺野重工の支社を作って情報を集めてたんだ。デュノア社長と君との関係はその過程で知った』

 

半分本当で半分嘘だ。確かにフランスにある紺野重工業の支社はデュノア社に関する情報を今も集めているし、少し前まではシャルロットとその母親に関する情報も調べてもらっていた。

だがその前段階。なぜそもそも世界中に複数あるIS開発企業の中でデュノア社からデータを得ることを選んだのか。それについての答えにはなっていないし、そのことは答えられない。『原作から得た知識を元に君に目をつけたんだ!』なんて言えば頭が可笑しいと思われて終いだろうし。

 

『そう……ですか』

 

だが、彼女は俺の答えである程度の納得をしてくれたようだ。

 

『お母さんが元気になれば1度ゆっくり話してみればいい。恐らく俺の話したこととさほど食い違ってないはずだ』

『……はい。あの……契約書を』

 

小さく頷くシャルロットに再び契約書を渡すと、彼女は自分の部屋へと戻っていった。契約書の中身に目を通す必要はないから、さほど時間はかからないはずだ。

 

さて……どうするかな。冷たくなってしまったハムを咥えながら俺はこれからのことについて思案する。そんな俺を見て、ずっと黙って話を聞いていた森本さんが口を開いた。

 

「あの、秀人さん」

「……?なんですか?」

「一旦フランスの支社に行ってきてもいいですか?デュノアさんのお母さんの入院手続きや他の必要な書類を取ってきます」

「あぁ、そうですね。お願いします」

 

すっかりシャルロットの母親のことを失念していた。病院に運んで終わりではない。原作では確か今から半年後くらいに死んでしまうほど重い病気にかかってしまうのだ。キチンとした検査をすれば今の段階でも癌か何かの兆候が見つかるはずだ。

 

俺は森本さんにその辺りの手続きを一任することにした。

 

「何か他に取ってくる物はありますか?」

「えっと……パソコンとプリンタと、日本と仕事のやり取りを出来る物を持ってきてもらえますか?ここ、電波きますよね?」

「……えぇ、大丈夫でしょう。心配なら無線機器も持ってきますね」

「お願いします」

 

森本さんはテキパキと自分の分の荷物をまとめると、自室でサインをしているだろうシャルロットに一言声を掛け、出ていってしまった。

窓から森本さんの姿が見えなくなり、俺も残っていた朝食をかきこむ。俺もこれからまだまだすることがある。シャルロット・デュノアにもテストパイロットになる為の準備をしてもらわなければならない。IS学園に通うために日本語、文化作法、IS工学……etc。学んで貰うことも沢山ある。

 

一ヶ月でどれだけ教えられるかな……。

 

俺はフランスでの残りの日々を思い描きつつ、シャルロット・デュノアが契約書を持って部屋から出てくるのを待った。

 

 


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